おととい(7月20日)の夜、NHK大阪放送局制作のテレビ番組「かんさい熱視線 なぜ真実がわからない~大津市中学生自殺問題~」に、私はゲスト(コメンテーター)として出演しました。はじめてのテレビの生放送番組への出演、とても緊張しました。この番組出演の裏話的なことは別のブログに書いたので、ここではこれ以上書きません。
それより、私は「あなたたち首長や教育行政の責任者は、まったく、見当違いのことばかり議論しているのではないのか?」と思うことが、この大津市で起きた悲しい出来事を前に多々見られますので、今日はそのことを指摘しておきます。
まず、この嘉田滋賀県知事の「教委設置自治体判断で」という記事から。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120719-00000030-kyt-l25
はっきりといいます。教育委員会を公選制にしようが、従来のまま首長の任命・議会の同意というシステムにしようが、地方教育行政を首長の下に置くシステムをとろうが、そういうことは、今回の大津の一件とは何も関係がない。
起きてほしくはないけれども、学校で子どもが亡くなる事態は今後も起きることかと思う。その子どもが亡くなる事態が生じたときに、学校及び教育行政がきちんと事実究明を行い、遺族に謝罪とともに経過の説明をする。そういうシステムをどのように確立するかという問題が今、このたびの大津の一件では問われているのです。
教育委員会を公選にすれば、あるいは、首長が直接、教育行政を担えば、学校や教育行政の「事実隠し」がなくなるなんて保障、どこにあるんですかね??? たとえば、武田さち子さんが書かれた『保育事故を繰り返さないために』(あけび書房、2010年)によりますと、首長部局の下にある公立保育所で事故が起きて、子どもが亡くなった場合にも、やっぱり「責任を回避するために事実調査をしない、調査した内容を被害者に伝えない、責任を否定する、というものが多くあります」(p.93)とのことです。これなどを読むと、今のまま被害者遺族への説明やその前提となる原因究明のシステムが確立されないまま、首長が今後、教育行政を担ったとしても、やはり従来の対応と同じことになりかねないのではないか、とすら思えてなりません。
「こういうことを言う前に、もっとまじめに被害者遺族の思いに誠実に向き合い、原因究明や遺族への説明のシステムを滋賀県及び大津市として確立すべきでは?? どさくさにまぎれて、教育行政のリストラ策を提案するのだけはやめてほしい」と、先の嘉田知事の発言に関する記事を見て思いました。
次に、大阪府教委の陰山英男教育委員長の次のコメントですが。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120720/lcl12072014520002-n1.htm
この陰山教育委員長のコメント、なんとか深刻ないじめ自殺事案が起きる前に、できるだけ被害を受けている子どもを守りたい、いじめている子どもと引き離したい、だから出席停止措置を・・・・という、そういう心情に発しているコメントであることは、私も理解しています。
ですが、「深刻な自殺事案が起きる前に」やるべきことをいくら論じたとしても、今回の大津の一件で見られたような学校・教育行政の深刻な事案発生後の対応の諸問題、たとえばきちんと調査をしないとか、遺族側への説明が不十分とかいったような問題は、一向に解決しません。大阪府教委として、深刻な事案の発生後どのように遺族に誠実に向き合い、事実経過を把握し原因を究明していくシステムをつくるのか。そこを本来、教育委員長として問題提起すべきだったのではないでしょうか。
ちなみに、文科省はこれまでに何度も学校での子どもの問題行動への対応に関して、出席停止措置の積極的な適用を各地の学校・教育行政に求めてきました。特にこの十年近くは、その傾向は強かったように思います。また、陰山英男氏が委員としてかかわっていた「教育再生会議」の第一次報告(2007年1月)でも、出席停止措置の活用は提案されていました。にもかかわらず、今回の大津の一件のようなことが起きたわけです。そのことについて、文科省や陰山氏など教育再生会議に関わった人々はどのように考えるのでしょうか。出席停止措置の運用のあり方を含め、この何年かの「いじめ」防止策の中身の検討作業も必要ではないのかな・・・と、率直に思いました。
あと、「教育再生会議」の第一次報告には、「学校は、いじめが起こった原因・背景を調査・検証し、是正を行う」という項目があります。これなどは積極的に活用すれば、いじめ自殺の遺族側が求めるような事実経過の説明、その前提となる原因究明の作業を行うシステムづくりにつながるはずなのですが、「どうして今まで、文科省や各地の教育行政などは、そのシステムづくりをやってこなかったの?」と思いますね。
私が思うに、これまでの「いじめ」防止策ではなぜ今回の大津の一件のようなケースが防ぎきれなかったのか。そのことを検証するためにも、「なぜこの子どもが追いつめられて、亡くなってしまったのか?」ということを、学校・教育行政が外部の有識者などの力を借りながら、徹底的に検証していく。その結果を、遺族へ、さらには社会的に発信していく。その上で、これまでの防止策を見直し、よりよいものへと充実させていく。亡くなった子どものまわりにいた子どもたちに対しても、おとなたちが起きた悲しい出来事をふまえて、誠実に変わっていこうとしている姿を見せていく。そういうことが、これからの「いじめ」防止のとりくみとして必要不可欠なことなのではないか、と思っています。だから、陰山教育委員長の気持ちもわからなくもないのですが、従来通りの防止策を強化するだけしか提案できないのであれば、「それって、どうなの? もう少しほかのことを考えてもいいのでは??」と思ってしまいました。
最後に、「これって、どうなの?」と疑問に思った首長の提案、それを紹介しておきます。
http://www.asahi.com/kansai/news/OSK201207200035.html
橋下市長が大阪市議会で、「IT端末のボタンを押せば簡単に先生や教育委員会にSOSが伝わるような、匿名の情報提供の環境づくりを考えるべきだ」という趣旨のことを述べたとか。
「匿名での電話相談」ならまだしも、その電話をかけてきた子どもと相談対応にあたるスタッフとのやりとりのなかで、いじめの被害にあった子どもをサポートして、適切に対処することが可能かと思います。実際、チャイルドラインなどの子どもの電話相談ではそのような対応をしているでしょう。
しかし、電子メールで来るのか、掲示板みたいなところに書き込むのかわかりませんが、ある程度の継続性をもって対処できるような「ネット空間での相談システム」ならさておき、単にSOSを伝えるだけの「情報提供」のシステムをつくって、どうするんですかね?? その匿名での発信をキャッチした教育行政などの担当者も、対応に苦慮するだけだと思うのですが・・・・。
おそらく、すでにインターネットを活用した相談システムをとっている団体などでも、きっと単発での対応というより、返信をていねいに出したりしながら、なんとかその被害にあっている子どもと継続的な関係をつくろうとしているのではないでしょうか・・・・。
「もう少し、子どもが匿名で相談できるシステムの設置などを提案するのなら、事前にしっかり、これまでの相談機関ではどういう対応をしているのか、情報を集めてから言えばいいのに」と、率直に思いました。
今日のところは、このあたりにて失礼します。