前世紀の話だが、港区の高輪に「Mac CAMERA」があった時代の話。平日の昼間にMacに行くと、時間を持て余したカメラ好きのオヤジのたまり場だった。医者や大学教授や写真家など、そこそこ自由な時間と金が使える人達が多く、何となく顔見知という関係だった。ある医者は往診の帰りに必ず立ち寄りライカの掘り出し物を見つけると、その場で鼻血が出るという特異体質の人も客だった。店側も心得ていて掘り出し物がある日に彼が来ると鼻血が出る場所がわかっているので、Macの佐藤さんはテッシュの箱を持ち後ろから付いて回っていた。
オヤジ達が古いレンズを見る時の仕草は決まっている、まず眼鏡を額に上げるか外す事から始まる(近視の場合)。次にレンズのリアキャップを外し井戸の底を見るように覗き込む。そして、額にシワをよせレンズを持った手でレンズの角度を変え舐め回すように見入る。次は、レンズを天井に向け室内の光にかざし先ほどと同じようにレンズを覗き込むのだ。そして、最後にヘリコイドと絞りリングを回転させ品定めを終えるのだ。この時の表情は、女が宝石を見る雰囲気とよく似ている。その後、店の人とカメラやレンズ談義が始まるのだ。当時もそうだが、そのレンズの最高峰は、今も初期のホロゴンだろう。あのビー玉のようなレンズは、ほとんど宝石に近い。
トップの写真を見て、古いレンズをピン外しで撮影しているとわかる人は、間違いなく銀塩時代からカメラに詳しい人と思ってよい。
上のレンズは、Meyer Trioplan 100mm f2.8だ。とても上品で軟らかい描写をするレンズで、このブルーとバイオレットの中間のようなコーティングを見ているとレンズの中に引き込まれそうになる。開放付近の滲むような描写は大好きだ。
これらを撮影したレンズは、フォクトレンダーのノクトンクラシック40mmf1.4のモノコート。今世紀に入って設計されたこのレンズも素晴らしい。
RICOH GXR A12MOUNT Nokton classic40mm f1.4 M用接写リング使用