「第二列島線」への進出を妨げる“岩”を中国は放っておかない
絵空事ではない!「沖ノ鳥島爆破計画」の不気味
http://news.nifty.com/cs/magazine/detail/sapio-20100607-01/1.htm
沖ノ鳥島爆破計画それを「あり得ない」と片付けることは簡単だ。しかし、近年の中国の太平洋進出戦略を注意深く分析してみると、あながち絵空事とは言い切れない。
4月10日、ミサイル駆逐艦2隻と潜水艦2隻を含む計10隻からなる中国海軍の艦隊が沖縄本島と宮古島の間の公海上を東シナ海から太平洋に向けて通過、その後、同艦隊は沖ノ鳥島を一周した。しかもこの2日前にはこの艦隊から飛び立ったヘリが30mの低空で、護衛艦「すずなみ」に90mまで異常接近した。さらに13日には駆逐艦が哨戒飛行中の海上自衛隊のP3C哨戒機に対して、速射砲の照準を合わせるなど露骨な威嚇行動をとった。
今回の中国艦隊の威圧的な振る舞いは、この海域におけるプレゼンスの誇示を目的としていると思われる。
中国は我が国が主張している、沖ノ鳥島周辺のEEZ(排他的経済水域)を認めないと主張している。沖ノ鳥島は珊瑚礁内にある極めて小さな「島」である。我が国はその周囲に半径200カイリのEEZを設定している。だが、中国は沖ノ鳥島を日本の領土とは認めるが「島」ではなく「岩」であるとしている。よって、EEZは設定出来ないとしている。このEEZが、中国が太平洋に進出するために極めて大きな障害となっているためだ。
中国は海洋の防衛に際して、「第一列島線」および「第二列島線」を設定している。「第一列島線」は日本列島から、沖縄、中華民国、フィリピン、ボルネオ島に至るもので、「第二列島線」は伊豆諸島を起点に、小笠原諸島、グアム、サイパン、パプアニューギニアに至るラインである。これまで中国は2010年までに「第一列島線」以内の防備を固め、2020年までに「第二列島線」以内のエリアの防備を固めるとしてきた。沖ノ鳥島の周辺海域は中国の言う「第一列島線」と「第二列島線」の中間に位置している。今回のような規模の中国艦隊が「第一列島線」を越えるのは前例がない。今回の行動は、「第二列島線」内部のこの海域は自国の勢力圏内であるという北京政府の意思表示ととれる。
沖ノ鳥島は風化などによって削られ、満潮時に海面下に没すると「島」として認められなくなる。となれば日本の国土面積(約38万km2)を上回るEEZが失われる。このため政府は88年から島の周囲に消波ブロックとコンクリート護岸工事を行なってきた。また島の上をチタン合金の金網で覆うなどして保護している。
もし沖ノ鳥島がなければこの広大な海域は公海となるため、中国海軍は自由に行動できる。無論、海底調査も自由に行なえ、この海域の詳細な海図を作成することが出来るようになる。そうなれば特に潜水艦の行動の自由は飛躍的に拡大する。それは中国が推進する「第二列島線」以内の防衛力強化に大変有利になる。
一番確実なのは水上戦闘艦の「艦砲射撃」
仮に沖ノ鳥島を中国が爆破してしまえば、それが可能となる。少なくともそのような理屈が成り立つ。その場合、水上戦闘艦による艦砲射撃、潜水艦で特殊部隊を運んでの爆破、中距離弾道ミサイル東風21(DF︲21C)のような通常弾頭を搭載したミサイルを使っての攻撃、といったいくつかの手段が考えられる。
一番確実なのは艦砲射撃だが、水上艦艇の行動は捕捉が容易であり、我が国の哨戒機などが撮影した映像が世界に配信され、国際社会の非難を招くことは必至である。対艦ミサイルや巡航ミサイルは弾頭がこの種の目標には適していないので、島の確実な破壊は難しい。特殊部隊が上陸して密かに破壊すれば「下手人」が特定されにくいが、潜水艦といえども海自や米海軍の監視を完全にすり抜けるのは至難の業だ。もっとも漁船に偽装した船で接近するという手段もある。弾道ミサイル発射の場合は発射場所を突き止められるが、着弾までには10分もかからず、これを迎撃することは事実上不可能だ。また発射現場が撮影されることはまずないため国際世論に与えるインパクトも小さく、「やった者勝ち」になる可能性は高い。ただ、東風21のCEP(Circular Error Probability、半数命中半径)は40m程度と見られているので精密誘導兵器のような命中精度は得られない。このため、かなりの数のミサイルを撃つ必要がある。しかも命中する確証はないので、攻撃しても島の破壊が出来なかったとなると、中国のメンツは丸つぶれになる。
これらのシナリオは決して荒唐無稽なものではない。中国経済は現在は好調のように見えるが、その実態は上げ底でかなり危うい。近い将来経済が破綻する可能性は小さくない。そのような状態に陥った場合、外に敵を求めて愛国心を煽り、これを求心力として国内をまとめようとするのは独裁国家の常套手段である。
同様に尖閣諸島の占領も想定される。この場合いきなり人民解放軍が上陸せずに、当局の意を受けた「民間人の有志」が上陸し、中国領であることを主張する。そこに自国民保護の名目で警察や武装警察が上陸してくる。それを海軍が空母を含む多数の艦艇を派遣しプレゼンスを誇示することによって、我が国の軍事行動を抑制する。そしてなし崩し的に占領が続く。
近い将来、財政赤字とテロとの戦いで消耗した米国の国力は低下していくだろう。米国国内に厭戦感が蔓延し、アジアでのプレゼンスは弱まる。となると米国のコミットメントは期待できない。米国世論は、自らの権利を積極的に防衛しない日本が中国の不法行為を招いても、それは自業自得であり、「たかが」小島ごときに、自国の将兵の血を流して回復すべき価値はないと判断するだろう。竹島がそのようにして奪取されたが、政府は傍観しているだけという実例もある。だから、このようなケースでは米国の介入もあまり当てにできない。
日本政府の弱腰が中国の冒険主義を誘発
中国は20世紀末から毎年2桁の軍事費増大を行なっている。実際の軍事費はその2~3倍であろうというのが専門家の一致した見方である。
米国は中国の最大の輸出市場であり、我が国もまた有数の輸出先だけに留まらず、生産財や中間財の分野では最大の輸出先である。戦争になれば海上封鎖によって中国はエネルギーの輸入も工業製品の輸出も出来なくなる。何よりも外国の投資があっという間に引き揚げ、中国の経済は壊滅するだろう。またそうなればチベットやウイグルなど少数民族自治区で独立運動も起こり得る。中国政府がそのようなリスクをとるとは思えない。だが、国内をまとめるための、愛国心発揚のための大規模な国境紛争は十分に起こる可能性がある。
我が国の中国に対する態度も問題だ。我が国は長年にわたって中国艦船の領海及びEEZ内に於ける測量などの不法行為に対して「おやめください」と“お願い”するだけで、拿捕などの断固たる処置をとらず、事実上放置、あるいは黙認してきた。
04年には中国の漢級潜水艦が潜航したまま石垣島と多良間島間の日本領海を侵犯した。このとき海上警備行動が発令されたが、自衛隊(というよりも日本政府)は国際法で許されているにもかかわらず、警告攻撃を行なって潜水艦を浮上させることをしなかった。
しかも、防衛省はその後このようなケースに備えて、モールス信号を発して敵側に“お願い”できる特殊な爆雷をわざわざ技術研究本部の予算を使って開発している。このような態度は中国に対して、主権侵害を黙認するというメッセージを与えている。このような政府の態度こそが、中国の領土的な冒険主義を誘発する最大の原因となっているのかもしれない。
対抗策としては自衛隊の増強よりもむしろ、中国の仮想敵たるインドに対するODAの強化による経済支援が有効だろう。中印両国は近年インド洋でも軍拡競争を行なっている。特に道路、港湾、鉄道、空港などのインフラ整備に集中すべきだ。これらのインフラは軍事的にも利用可能であり、インドの軍事力の強化になる。インドはODAの分だけ軍事費を拡大することも可能である。
しかもこれらのインフラ整備はインドに進出している我が国の企業にとっても大きなメリットになる。かつては中国も同様にして軍事力を拡大してきたのだから文句は言えないはずだ。
(SAPIO 2010年5月26日号掲載)
絵空事ではない!「沖ノ鳥島爆破計画」の不気味
http://news.nifty.com/cs/magazine/detail/sapio-20100607-01/1.htm
沖ノ鳥島爆破計画それを「あり得ない」と片付けることは簡単だ。しかし、近年の中国の太平洋進出戦略を注意深く分析してみると、あながち絵空事とは言い切れない。
4月10日、ミサイル駆逐艦2隻と潜水艦2隻を含む計10隻からなる中国海軍の艦隊が沖縄本島と宮古島の間の公海上を東シナ海から太平洋に向けて通過、その後、同艦隊は沖ノ鳥島を一周した。しかもこの2日前にはこの艦隊から飛び立ったヘリが30mの低空で、護衛艦「すずなみ」に90mまで異常接近した。さらに13日には駆逐艦が哨戒飛行中の海上自衛隊のP3C哨戒機に対して、速射砲の照準を合わせるなど露骨な威嚇行動をとった。
今回の中国艦隊の威圧的な振る舞いは、この海域におけるプレゼンスの誇示を目的としていると思われる。
中国は我が国が主張している、沖ノ鳥島周辺のEEZ(排他的経済水域)を認めないと主張している。沖ノ鳥島は珊瑚礁内にある極めて小さな「島」である。我が国はその周囲に半径200カイリのEEZを設定している。だが、中国は沖ノ鳥島を日本の領土とは認めるが「島」ではなく「岩」であるとしている。よって、EEZは設定出来ないとしている。このEEZが、中国が太平洋に進出するために極めて大きな障害となっているためだ。
中国は海洋の防衛に際して、「第一列島線」および「第二列島線」を設定している。「第一列島線」は日本列島から、沖縄、中華民国、フィリピン、ボルネオ島に至るもので、「第二列島線」は伊豆諸島を起点に、小笠原諸島、グアム、サイパン、パプアニューギニアに至るラインである。これまで中国は2010年までに「第一列島線」以内の防備を固め、2020年までに「第二列島線」以内のエリアの防備を固めるとしてきた。沖ノ鳥島の周辺海域は中国の言う「第一列島線」と「第二列島線」の中間に位置している。今回のような規模の中国艦隊が「第一列島線」を越えるのは前例がない。今回の行動は、「第二列島線」内部のこの海域は自国の勢力圏内であるという北京政府の意思表示ととれる。
沖ノ鳥島は風化などによって削られ、満潮時に海面下に没すると「島」として認められなくなる。となれば日本の国土面積(約38万km2)を上回るEEZが失われる。このため政府は88年から島の周囲に消波ブロックとコンクリート護岸工事を行なってきた。また島の上をチタン合金の金網で覆うなどして保護している。
もし沖ノ鳥島がなければこの広大な海域は公海となるため、中国海軍は自由に行動できる。無論、海底調査も自由に行なえ、この海域の詳細な海図を作成することが出来るようになる。そうなれば特に潜水艦の行動の自由は飛躍的に拡大する。それは中国が推進する「第二列島線」以内の防衛力強化に大変有利になる。
一番確実なのは水上戦闘艦の「艦砲射撃」
仮に沖ノ鳥島を中国が爆破してしまえば、それが可能となる。少なくともそのような理屈が成り立つ。その場合、水上戦闘艦による艦砲射撃、潜水艦で特殊部隊を運んでの爆破、中距離弾道ミサイル東風21(DF︲21C)のような通常弾頭を搭載したミサイルを使っての攻撃、といったいくつかの手段が考えられる。
一番確実なのは艦砲射撃だが、水上艦艇の行動は捕捉が容易であり、我が国の哨戒機などが撮影した映像が世界に配信され、国際社会の非難を招くことは必至である。対艦ミサイルや巡航ミサイルは弾頭がこの種の目標には適していないので、島の確実な破壊は難しい。特殊部隊が上陸して密かに破壊すれば「下手人」が特定されにくいが、潜水艦といえども海自や米海軍の監視を完全にすり抜けるのは至難の業だ。もっとも漁船に偽装した船で接近するという手段もある。弾道ミサイル発射の場合は発射場所を突き止められるが、着弾までには10分もかからず、これを迎撃することは事実上不可能だ。また発射現場が撮影されることはまずないため国際世論に与えるインパクトも小さく、「やった者勝ち」になる可能性は高い。ただ、東風21のCEP(Circular Error Probability、半数命中半径)は40m程度と見られているので精密誘導兵器のような命中精度は得られない。このため、かなりの数のミサイルを撃つ必要がある。しかも命中する確証はないので、攻撃しても島の破壊が出来なかったとなると、中国のメンツは丸つぶれになる。
これらのシナリオは決して荒唐無稽なものではない。中国経済は現在は好調のように見えるが、その実態は上げ底でかなり危うい。近い将来経済が破綻する可能性は小さくない。そのような状態に陥った場合、外に敵を求めて愛国心を煽り、これを求心力として国内をまとめようとするのは独裁国家の常套手段である。
同様に尖閣諸島の占領も想定される。この場合いきなり人民解放軍が上陸せずに、当局の意を受けた「民間人の有志」が上陸し、中国領であることを主張する。そこに自国民保護の名目で警察や武装警察が上陸してくる。それを海軍が空母を含む多数の艦艇を派遣しプレゼンスを誇示することによって、我が国の軍事行動を抑制する。そしてなし崩し的に占領が続く。
近い将来、財政赤字とテロとの戦いで消耗した米国の国力は低下していくだろう。米国国内に厭戦感が蔓延し、アジアでのプレゼンスは弱まる。となると米国のコミットメントは期待できない。米国世論は、自らの権利を積極的に防衛しない日本が中国の不法行為を招いても、それは自業自得であり、「たかが」小島ごときに、自国の将兵の血を流して回復すべき価値はないと判断するだろう。竹島がそのようにして奪取されたが、政府は傍観しているだけという実例もある。だから、このようなケースでは米国の介入もあまり当てにできない。
日本政府の弱腰が中国の冒険主義を誘発
中国は20世紀末から毎年2桁の軍事費増大を行なっている。実際の軍事費はその2~3倍であろうというのが専門家の一致した見方である。
米国は中国の最大の輸出市場であり、我が国もまた有数の輸出先だけに留まらず、生産財や中間財の分野では最大の輸出先である。戦争になれば海上封鎖によって中国はエネルギーの輸入も工業製品の輸出も出来なくなる。何よりも外国の投資があっという間に引き揚げ、中国の経済は壊滅するだろう。またそうなればチベットやウイグルなど少数民族自治区で独立運動も起こり得る。中国政府がそのようなリスクをとるとは思えない。だが、国内をまとめるための、愛国心発揚のための大規模な国境紛争は十分に起こる可能性がある。
我が国の中国に対する態度も問題だ。我が国は長年にわたって中国艦船の領海及びEEZ内に於ける測量などの不法行為に対して「おやめください」と“お願い”するだけで、拿捕などの断固たる処置をとらず、事実上放置、あるいは黙認してきた。
04年には中国の漢級潜水艦が潜航したまま石垣島と多良間島間の日本領海を侵犯した。このとき海上警備行動が発令されたが、自衛隊(というよりも日本政府)は国際法で許されているにもかかわらず、警告攻撃を行なって潜水艦を浮上させることをしなかった。
しかも、防衛省はその後このようなケースに備えて、モールス信号を発して敵側に“お願い”できる特殊な爆雷をわざわざ技術研究本部の予算を使って開発している。このような態度は中国に対して、主権侵害を黙認するというメッセージを与えている。このような政府の態度こそが、中国の領土的な冒険主義を誘発する最大の原因となっているのかもしれない。
対抗策としては自衛隊の増強よりもむしろ、中国の仮想敵たるインドに対するODAの強化による経済支援が有効だろう。中印両国は近年インド洋でも軍拡競争を行なっている。特に道路、港湾、鉄道、空港などのインフラ整備に集中すべきだ。これらのインフラは軍事的にも利用可能であり、インドの軍事力の強化になる。インドはODAの分だけ軍事費を拡大することも可能である。
しかもこれらのインフラ整備はインドに進出している我が国の企業にとっても大きなメリットになる。かつては中国も同様にして軍事力を拡大してきたのだから文句は言えないはずだ。
(SAPIO 2010年5月26日号掲載)