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ニッポンのゆる~い日常

技術世界一でも国際市場の9割が海外メーカー

2010-06-10 11:02:00 | 日本
技術世界一でも国際市場の9割が海外メーカー

首相がトップセールスしないから世界一の新幹線・リニアが海外で売れない


http://news.nifty.com/cs/magazine/detail/sapio-20100610-01/1.htm


先のGW期間中、前原国交相が鉄道会社、車両メーカーの幹部を引き連れてアメリカ、ベトナムを歴訪し、官民一体で日本の高速鉄道技術を売り込んだ。だが、これまで国際市場の商戦では日本の出遅れが目立った。原因はどこにあるのか。かつて中国に日本の新幹線を導入させることに尽力し、その後も日本の高速鉄道ビジネスのあり方に提言を続けている日本財団会長の笹川陽平氏が政官財界に警鐘を鳴らす。

 環境対策、景気刺激策として、今、先進国から途上国に至るまで世界各国で高速鉄道の建設計画が目白押しだ。いずれも巨大な国家プロジェクトである。

 例えば中国は、2020年までに全土で総延長1万8000kmに及ぶ路線を建設する「四縦四横」計画を立てており、投資額は70兆円近くにも上る。アメリカは、31州で13路線、総延長1万3700kmを建設する計画を打ち出し、14年までに1兆2200億円余りを投資する。ブラジルは、15年までにリオデジャネイロ・サンパウロ・カンピーナス間の500kmに建設を計画し、その投資額は1兆8000億円。この他、ロシア、インド、ベトナム、インドネシア、マレーシアなどにも巨大な計画がある。

 そこで、鉄道先進国である日本、ドイツ、フランス、カナダだけでなく、新興の中国、韓国までが受注合戦に鎬を削っている。

 鉄道の敷設、車両の製造といったハードに始まり、運行ノウハウといったソフトに至るまで、日本の技術は全体として見れば世界トップである。とりわけ、64年の開業以来、新幹線がいまだ事故によって1人の死亡者も出していないことが示すように安全性は抜群に高い。普通に考えれば日本が世界市場の5割以上を制してもおかしくない。



トップセールス不足で出遅れる日本

 だが、現実には、過去の実績ではドイツのシーメンス、カナダのボンバルディア、フランスのアルストムの「ビッグ3」だけで世界の鉄道事業市場の60%近くを占め、日本の2強である日立製作所、川崎重工業でもシェアはわずか数%にすぎない。そして、これから拡大する商戦でも日本は明らかに出遅れている。

 例えば、アメリカのオバマ大統領は今年1月の一般教書演説で高速鉄道計画についても言及し、アメリカ自らが競争力を持たねばならないと述べた後、こう続けた。「ヨーロッパや中国が最速の列車を持たねばならない理由はない」。鉄輪式で有人試運転の世界最高速度記録を持つフランスのTGV、鉄輪式・リニア式双方の営業運転で世界最高速度を誇る中国の高速鉄道を思い浮かべての発言だが、オバマ大統領の念頭に日本の新幹線はなかった。アメリカにはJR東海が熱心に売り込みをかけ、昨年、葛西敬之会長が運輸長官と会談しているにもかかわらずである。オバマ大統領の誕生以降、米中が頻繁に首脳会談を行なう一方、日本の首相の存在感は薄い。そうしたことが高速鉄道の売り込みにも影を落としている。先のGW期間中に前原国交相が鉄道会社や車両メーカーのトップを引き連れてアメリカを訪問したのは、こうした遅れを取り戻すためだ。だが、官民一体となった売り込みではドイツ、フランスなどが先行しており、日本は1路線も受注できないのではないかという悲観的な見方すらある。

 ブラジルに対しても、フランスのサルコジ大統領は一昨年、昨年と2年連続で、韓国の李明博大統領も一昨年、企業経営者の団体を連れて訪問し、自国の鉄道システムを売り込んだ。とりわけこの2国はトップセールスに熱心である。日本も一昨年、当時の麻生首相がブラジルを訪問したが、鳩山政権になってからは今年1月にブラジルのルーラ大統領に首相の親書を送っただけで、実質的には三井物産、三菱重工業などによる企業連合だけで受注活動を行なっている。間もなく入札が行なわれる予定だが、相手が親日国家とはいえ、今の状態では行方はどうなるかわからない。

 高速鉄道のような国家プロジェクトの場合、大統領や首相によるトップセールスが大きくものを言う。一般消費財ならば「安くていいモノ」が売れるが、国家プロジェクトにその神話は通用せず、トップセールス次第で「高くて悪いモノ」も売れてしまう。日本の出遅れの原因のひとつは、そのトップセールスが不足していることである。

 高速鉄道と並ぶ日本の二枚看板のひとつ、原発の受注をめぐり、昨年から今年にかけて、アラブ首長国連邦アブダビ首長国のプロジェクトで韓国に、ベトナムのプロジェクトでロシアに負けたのは象徴的な例である。鉄道で同じ轍を踏んではならない。



ブラックボックスを売りライバルを作る愚

 かつて私は、日中友好の象徴になると思い、中国に日本の新幹線を導入してもらうべく奔走したことがある。その時、日本の様々な弱点を感じた。

 中国は94年、北京・上海間に高速鉄道を導入する計画を立てた。当初、日本は鉄道会社や車両メーカー、制御システムメーカー、信号機メーカーなどがそれぞれ個別に受注活動を行なっていた。かつての日本は池田勇人首相がフランスのド・ゴール大統領から「トランジスタのセールスマン」と揶揄されるほどトップセールスを行なっていたが、ロッキード事件のトラウマから影を潜めた。その結果、絶対有利と言われていた世界最大の中国三峡ダム(93年着工、09年竣工)建設で、日本企業はほとんど受注できなかった。

 その反省から、私はまず、自分が理事長(当時)を務める日本財団が支援して日本企業の受注活動を強化すべく、運輸省(当時)に働きかけて鉄道関連企業が集まる「日中鉄道友好推進協議会」を設立した。その協議会を受け皿にして中国から鉄道技術者を受け入れて研修を施すなど地ならしを行なった。その上で、98年に竹下登元首相、平岩外四元経団連会長をリーダーとする一大使節団を組んで中国に乗り込んだ。この時、唐家璇外相(当時)から聞いた話が忘れられない。朱鎔基首相(当時)が訪欧してフランスのシラク大統領(当時)と会談した時、冒頭でこう言われたというのである。「高速鉄道と原発はフランスでお願いしますよ」。帰国後さっそく、小渕首相(当時)に働きかけ、その年に江沢民国家主席(当時)が来日した時、首相自ら日本の技術を売り込んでもらった。

これが功を奏したこともあり、フランスに競り勝ち、日本の技術が採用された。新幹線の輸出は台湾に続く2例目となった。だが、日本は2つの大きなミスを犯した。

 ひとつは、日本が受注できそうな情勢になると、政治家や財界人が競うようにして中国を訪問して売り込みを始めたことである。私が懸念した通り、ネット社会を中心に日本の新幹線を排斥せよという運動が起こった。日本の受注は覆されなかったものの、日本が技術協力し、一部の車両は日本製であるにもかかわらず、中国政府はそのことを国民に言えなくなった。その結果、いまだに大半の中国人は北京・天津間を走る高速鉄道の愛称「子弾頭」という車両は中国独自の技術によるものだと信じ込んでいる。国家プロジェクトへの売り込みにおいては、相手国の国民感情も考慮する必要がある。

 もうひとつのミスは、車両を受注した川崎重工業が技術のブラックボックス化をしなかったことである。その結果、中国の車両メーカーが急速に力をつけ、今、アメリカ、ブラジルを始め世界中の市場で日本のライバルになりつつある。上海市郊外と上海国際空港を結ぶ路線のリニアモーターカーはドイツ製だが、中国の反発を受けながらも、ドイツは技術をブラックボックスにしたままである。そのようにして自国の技術を守っているのである。



「日本株式会社」を早急に組織せよ

 トップセールスの欠如とともに、私が中国での体験から日本の弱点だと痛感したのは総合力不足である。

 高速鉄道を建設し、運行するには単に鉄道関連技術だけでなく、土木、建設、機械、電気、IT、マネジメントなど多分野にわたる技術が必要である。発注側からすれば、そうしたものの全てを一括して提供してくれる方がありがたい。そこで、私が以前から提唱しているのが「日本株式会社」の設立である。

 鉄道版ならば鉄道関連企業に加え、先に書いたような周辺産業や商社、さらにはJBIC(国際協力銀行。株式会社日本政策金融公庫の国際金融部門で、外国政府などが日本から輸入する際、融資を行なう)なども株主となったオールジャパンの株式会社、あるいはそうしたメンバーが会員となった財団法人を設立する。そして、そこがフィージビリティスタディ(事業の可能性の検証)から始まり納入後の保守点検に至るまで一括受注することを目指す。こうした態勢をいち早く確立すべきだ。世界の鉄道市場でこれまで日本企業のシェアが低かった一因は、個別に受注を目指し、その結果、単なるサプライヤーにとどまっていたことにある。

ちなみに、融資もセットで売り込むべきだ。例えば中国はアメリカ、ブラジルだけでなく、中近東、南米、東南アジアの鉄道プロジェクトにも積極的に参入を図っているが、その際、国有銀行と連携している。それに対して日本は、メーカーと銀行が個々別々に動く傾向がまだまだ強い。

 だが、そう遠くない時期に日本の経済界全体が「日本株式会社」設立に向けて動くはずである。昨年9月には国交省に「鉄道国際戦略室」が新設された。日本の鉄道システムの海外展開を推進する部署である。私に言わせれば「ようやく」ではあるが、歓迎すべきことである。この部署と「日本株式会社」が一体となり、つまり官民一体となり、その上で首相がトップセールスするのが理想である。その機運は高まった。

 今年4月、ベトナム政府はハノイ・ホーチミン間1600kmに計画している高速鉄道に関し、日本の新幹線方式を採用することを閣議決定した(総事業費5兆円超)。また、日立製作所がイギリスの高速鉄道プロジェクトに1400車両を納入することが内定している(受注額1兆円規模)。

 不十分な態勢でありながらこうした成果を上げていることを考えれば、万全の態勢を組めば、さらに受注合戦で勝利を重ねられるはずである。

(SAPIO 2010年5月26日号掲載)








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