ニッポン親中外交が失おうとしているもの
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/100626/plc1006261815012-n1.htm
カナダで始まったサミット(G8)で外交デビューした菅直人首相。参院選を前に、笑顔の「顔見せ外交」となりそうだが、その手腕はまったく未知数だ。菅政権の引き継ぐ民主党外交は、深傷を負った日米関係と「アジア重視」の親中路線に代表されることになる。特に民主党の対中観の示された8カ月間を点検すると、見えてくる日本の現実がある。専門家は「日本の中国属国化」への警鐘を鳴らしている。
共産党の政治意志
中国政府はここ約2カ月で、日中間にしこっていた「ギョーザ」「ガス田」という2懸案を相次いで片づけた。
約2年にわたって中国が「ゼロ回答」を続けてきた2案件だったが、まず3月末にギョーザ中毒事件の容疑者の拘束を唐突に通告。ガス田の共同開発にかんする条約交渉開始は、5月末に来日した温家宝首相が首脳会談で打ち出した。いずれも中国共産党ならではの政治決定。交渉より政治意志がすべてである。
日中関係筋は「北京は昨年末あたりに民主党の評価を定めたようだ。3月初めから兆候があった」と述べる。相次いでカードを切ったのは民主党政権が当面続くとの読みからであろう。中国側の「民主党評価」のポイントはふたつ。「歴史認識(靖国問題)」と「台湾問題」で中国の意向に逸脱しないとの判断であった。
温-鳩山両首脳の日中首脳会談の2日後、鳩山氏は辞意を表明した。さっそく温家宝首相は菅直人氏に祝電で「引き続き戦略的互恵関係を」と念を押した。「菅氏は親中派」(関係筋)とみられており、中国側に警戒感はない。
一方の菅政権は、発足早々、次期中国大使に民間人、伊藤忠商事元社長の丹羽宇一郎氏氏(71)の起用を閣議決定した。丹羽氏の起用は、中国への強烈なメッセージだ。もはや日中関係は「政治より経済」であり、中国の海洋覇権への懸念より「日中間のトップセールスへの期待」の宣言となった。
地域の流動化要因としての北朝鮮問題、中長期的な米中関係の行方、今後の中台関係-外交課題の山積する北京はまさに「政治力」の世界である。中国大使は人脈、情報、分析、決断を求められるポスト。経済人大使起用の波紋は拡大している。政府判断の是非は、成果を持って問われることになるはずだ。
軽量級への友好ムード
中国共産党は日本の民主党を「好(ハオ)=好ましい」と判断した。初動の民主党が示した媚中的な対中政策への評価である。
日中関係は小泉政権の靖国神社参拝などで2006年まで冷え込んでいた。その後の自民党政権(安倍、福田、麻生内閣)は無難な路線で関係を修復した。そうしたなか、自壊する自民党に代わって現実味を帯びた民主党政権誕生に中国はただならぬ関心を寄せた。
政権交代後、民主党は中国の「期待」に応えた。まず自民党時代の安倍晋三政権に代表される「価値外交」(民主主義など価値を共有する国との関係重視)から異なる体制との共存共栄をうたう「友愛外交」へ転換。歴史に関しては早々と「歴史をみつめる政権」と名乗った。さらに小沢一郎前幹事長が同党議員ら大挙600人を引き連れ訪中。中国の次期指導者、習近平・国家副主席が天皇陛下との会見を希望すれば、天皇会見の「一カ月ルール」を破ってまで中国側の希望に沿った。
そして、3月から5月にかけ東シナ海、西太平洋で続いた中国海軍の駆逐艦進出や艦隊航行、艦艇ヘリの示威飛行や調査船活動などの軍事的覇権行為に、日本の民主党政権は、厳しい態度を取らなかったどころか摩擦を回避しようと腐心した観すら残った。「軽量級ニッポン」に、中国は実に友好ムードである。
「日本は属国化する」
中国共産党は2021年、結党百年を迎える。
中国軍事の専門家、平松茂雄氏は、親中的な日本の民主党政権の登場が中国の軍事戦略上、重要な時期に偶然、重なったことをもっと注視すべきだ-と主張している。
「中国は1970年代からほぼ10年ごとに着実な海洋戦略を進めてきた。80年代南沙諸島に進出し、90年代に東シナ海で出て、2000年からは西太平洋への海洋調査を始め、昨年からは軍艦も派遣し始めた。これからの10年は、2021年への締めくくりだ」
「その意図は台湾統一である。この海域からの米海軍力の影響力排除を狙っている。軍艦はこれからもっと増える。軍事進出に反応すべきこの時期に、この海域を(鳩山政権は)『友愛の海』と呼んだ意味は深刻である。さらにいえば、中国は2050年に建国百年だが、これに向け太平洋、インド洋進出を目標としている。中国の軍事戦略を容認していけば、日本は属国化する」と警告する。
平松氏はまた、東シナ海のガス田開発についても、ガス田が沖縄と宮古島の間を通る場所に位置し、その権益主張は資源・経済的なものより、西太平洋への戦略的意図が深いと指摘している。
日本周辺の海をめぐる中国の既成事実化は、過去約30年にわたり積み重ねられてきた。そしてその意志はいま、「御しやすいニッポン」に攻勢を強めている。これを警戒すべきだという雰囲気は、いまの民主党にはない。
2010.6.26 18:00
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/100626/plc1006261815012-n1.htm
カナダで始まったサミット(G8)で外交デビューした菅直人首相。参院選を前に、笑顔の「顔見せ外交」となりそうだが、その手腕はまったく未知数だ。菅政権の引き継ぐ民主党外交は、深傷を負った日米関係と「アジア重視」の親中路線に代表されることになる。特に民主党の対中観の示された8カ月間を点検すると、見えてくる日本の現実がある。専門家は「日本の中国属国化」への警鐘を鳴らしている。
共産党の政治意志
中国政府はここ約2カ月で、日中間にしこっていた「ギョーザ」「ガス田」という2懸案を相次いで片づけた。
約2年にわたって中国が「ゼロ回答」を続けてきた2案件だったが、まず3月末にギョーザ中毒事件の容疑者の拘束を唐突に通告。ガス田の共同開発にかんする条約交渉開始は、5月末に来日した温家宝首相が首脳会談で打ち出した。いずれも中国共産党ならではの政治決定。交渉より政治意志がすべてである。
日中関係筋は「北京は昨年末あたりに民主党の評価を定めたようだ。3月初めから兆候があった」と述べる。相次いでカードを切ったのは民主党政権が当面続くとの読みからであろう。中国側の「民主党評価」のポイントはふたつ。「歴史認識(靖国問題)」と「台湾問題」で中国の意向に逸脱しないとの判断であった。
温-鳩山両首脳の日中首脳会談の2日後、鳩山氏は辞意を表明した。さっそく温家宝首相は菅直人氏に祝電で「引き続き戦略的互恵関係を」と念を押した。「菅氏は親中派」(関係筋)とみられており、中国側に警戒感はない。
一方の菅政権は、発足早々、次期中国大使に民間人、伊藤忠商事元社長の丹羽宇一郎氏氏(71)の起用を閣議決定した。丹羽氏の起用は、中国への強烈なメッセージだ。もはや日中関係は「政治より経済」であり、中国の海洋覇権への懸念より「日中間のトップセールスへの期待」の宣言となった。
地域の流動化要因としての北朝鮮問題、中長期的な米中関係の行方、今後の中台関係-外交課題の山積する北京はまさに「政治力」の世界である。中国大使は人脈、情報、分析、決断を求められるポスト。経済人大使起用の波紋は拡大している。政府判断の是非は、成果を持って問われることになるはずだ。
軽量級への友好ムード
中国共産党は日本の民主党を「好(ハオ)=好ましい」と判断した。初動の民主党が示した媚中的な対中政策への評価である。
日中関係は小泉政権の靖国神社参拝などで2006年まで冷え込んでいた。その後の自民党政権(安倍、福田、麻生内閣)は無難な路線で関係を修復した。そうしたなか、自壊する自民党に代わって現実味を帯びた民主党政権誕生に中国はただならぬ関心を寄せた。
政権交代後、民主党は中国の「期待」に応えた。まず自民党時代の安倍晋三政権に代表される「価値外交」(民主主義など価値を共有する国との関係重視)から異なる体制との共存共栄をうたう「友愛外交」へ転換。歴史に関しては早々と「歴史をみつめる政権」と名乗った。さらに小沢一郎前幹事長が同党議員ら大挙600人を引き連れ訪中。中国の次期指導者、習近平・国家副主席が天皇陛下との会見を希望すれば、天皇会見の「一カ月ルール」を破ってまで中国側の希望に沿った。
そして、3月から5月にかけ東シナ海、西太平洋で続いた中国海軍の駆逐艦進出や艦隊航行、艦艇ヘリの示威飛行や調査船活動などの軍事的覇権行為に、日本の民主党政権は、厳しい態度を取らなかったどころか摩擦を回避しようと腐心した観すら残った。「軽量級ニッポン」に、中国は実に友好ムードである。
「日本は属国化する」
中国共産党は2021年、結党百年を迎える。
中国軍事の専門家、平松茂雄氏は、親中的な日本の民主党政権の登場が中国の軍事戦略上、重要な時期に偶然、重なったことをもっと注視すべきだ-と主張している。
「中国は1970年代からほぼ10年ごとに着実な海洋戦略を進めてきた。80年代南沙諸島に進出し、90年代に東シナ海で出て、2000年からは西太平洋への海洋調査を始め、昨年からは軍艦も派遣し始めた。これからの10年は、2021年への締めくくりだ」
「その意図は台湾統一である。この海域からの米海軍力の影響力排除を狙っている。軍艦はこれからもっと増える。軍事進出に反応すべきこの時期に、この海域を(鳩山政権は)『友愛の海』と呼んだ意味は深刻である。さらにいえば、中国は2050年に建国百年だが、これに向け太平洋、インド洋進出を目標としている。中国の軍事戦略を容認していけば、日本は属国化する」と警告する。
平松氏はまた、東シナ海のガス田開発についても、ガス田が沖縄と宮古島の間を通る場所に位置し、その権益主張は資源・経済的なものより、西太平洋への戦略的意図が深いと指摘している。
日本周辺の海をめぐる中国の既成事実化は、過去約30年にわたり積み重ねられてきた。そしてその意志はいま、「御しやすいニッポン」に攻勢を強めている。これを警戒すべきだという雰囲気は、いまの民主党にはない。
2010.6.26 18:00