水曜日の内科再来に糖尿病の70歳女性が受診した。この方は10年前に隣町の病院からHbA1cが11%で紹介されてきた。入院治療はしたくないと外来で経口血糖降下薬で治療を開始した。1年経過して血糖は改善せず、しぶしぶ同意してインスリン導入のために入院した。
混合製剤(30R)朝10単位夕6単位くらいの量で入院中は良好な血糖になった。退院すると、みるみる血糖は悪化した。肥満があり減量や食事療法の順守で血糖は改善するはずだが、それが難しい。糖尿病教育入院はいやということで、5年経過した。その間、「入院しませんか」「「できません(したくない)」ということを繰り返した。せめて外来でインスリン朝夕の2回打ちからインスリン強化療法への変更を提案したが、それもいやがった。
そうこうしているうちに胸痛が出現するようになった。循環器科で心臓カテーテル検査を行うと3枝病変で石灰化も目立った。冠動脈バイパス手術が好ましいと判断された。いつも紹介している心臓センターのある病院ではなくて、夫がICD植え込み術を受けた別の循環器病センターを希望してそこで手術を受けた。その病院には糖尿病専門医がいて、混合製剤からインスリン強化療法に変更した。入院中の食事療法順守と強化療法で血糖コントロール良好となって退院した。その後、外来に通院しているうちにまた悪化した。食べてインスリンを相当量打つので、むしろ肥満が進んだ。
糖尿病教育入院を勧めているうちに、今年の3月に気が付いたら整形外科病棟に大腿骨頸部骨折で入院していた。入院中は食事療法が守られるので、むしろ外来のインスリン量では低血糖が続いて、かなり減量した。入院中はHbA1cが6.1%と初めて見るような値だった。退院後、初めての外来でHbA1c7.5%になっていた。これまでのHbA1c8%台よりはいいが、やっぱり外来になると食事がなあと思った。
ふだん元気な人だが、その日は元気がなかった。「運動する気にならないんです」という。事情を訊いてみると、入院中(整形外科手術後にリハビリ病棟にいたので3か月)、夫が亡くなったという。「どこが悪かったんですか」と訊くと、「自分で・・・」。自宅近くで縊首したそうだ。夫は2年前に別の病院で大腸癌の手術をして、その後に抗癌剤治療も受けていた。PET-CTで再発は認めなかったという話だが、詳しくはわからない。再発せず、治癒したかもしれないと思えばもったいない。
自分が入院して不在の時のできごとなので、それを気にしていた。この方の家族は息子夫婦と孫で今時としては多い8人家族だった。自分が入院したことを気に病んでいるので、「大勢の家族と一緒に生活しているので、妻が入院して寂しい思いをしたという訳ではないと思いますよ(否定はできないが)。」と伝えた。
今年別の患者さんから、「実は最近妻が亡くなりまして」という報告を聞いた。昨年は「息子が悪性リンパ腫で亡くなって」というのもあった。高齢の両親(80歳代後半から90歳以上)が亡くなったという話だと、「長生きされましたね」だが、配偶者や子供の話だと「残念でしたね」というしかない。