日本病院総合診療医学会(9月18日・19日Web開催)を視聴した。
忽那先生の講演が期待通りに面白かった。国立国際医療研究センター病院のCOVID-19診療は、当初は人工呼吸器やECMOのついた重症例も集中治療科で主治医を引き受けないので(管理はしてくれる)、感染症科が担当したそうだ。同院は大学病院にように診療科の垣根が高いという。
他の病院との共同研究でも威張った教授相手で苦労したと言っていた。具体的に東京医科歯科大学の呼吸器の教授と言っていたが、大丈夫だろうか。
教育講演はon demandで視聴できるので便利だ。遠藤史郎先生のCOVID-19の話はよくまとまっていてよかった。呼吸器の菊池先生もいつものわかりやすい講演だった。
第23回日本病院総合診療医学会学術総会
最新の呼吸器感染症治療
新潟大学呼吸器・感染症内科教授 菊池利明先生
・ラスクフロキサシン(ラスビック)
・アミカシン吸入用製剤(アリケイス)
ラスクフロキサシン(ラスビック)
2020年1月ラスクフロキサシン(75mg)錠1日1回1錠75mgを経口投与
2021年3月点滴静注用も販売 投与初日に300mgを、投与2日目以降は150mgを1日1回点滴静注
ニューキノロン系抗菌薬 一般的な特徴
・経口投与で優れた吸収性と、優れた組織移行性(特に呼吸器)
・DNA複製時に必要なトポイソメラーゼ(DNA鎖の切断と再結合を担う)を阻害
・元来グラム陰性桿菌に抗菌活性(第2世代シプロキサシン)
・第3世代レボフロキサシンはグラム陽性菌(特に肺炎球菌)へ活性が拡大
・第4世代ガレノキサシンでは嫌気性菌にも活性が拡大
ラスクフロキサシンのMIC90(μg/mL)
グラム陽性球菌、嫌気性菌~第4世代と同等〇
グラム陰性桿菌~第3,4世代よりやや劣る△
緑膿菌~劣る△(適応菌種にない)
非定型菌~劣る△
市中肺炎のエンピリック治療抗菌薬(成人肺炎診療ガイドライン2017(日本呼吸器学会)
内服薬
・βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン薬
注1:細菌性肺炎が疑われる場合 インフルエンザ菌のBLNARに注意
・マクロライド系薬
注2:非定型肺炎が疑われる場合
・レスピラトリーキノロン
注3:慢性の呼吸器疾患がある場合には第一選択薬:ガレノキサシン、モキシフロキサシンなど(緑膿菌も起炎菌)
注4:結核に対する抗菌力を有しており、使用に際しては結核の有無を慎重に判断する
COPD増悪の起炎菌
インフルエンザ菌50%、肺炎球菌26%、モラクセラ21%、黄色ブドウ球菌20%、腸内細菌科19%、緑膿菌13%
緑膿菌がCPOD増悪の起炎菌となるリスク因子
・緑膿菌の慢性的な定着
・Ⅳ期COPD(対標準1秒量<30%)
・気管支拡張の画像所見
・過去3か月の広域抗菌薬使用
・慢性的は全身性ステロイド使用
気管支拡張症175例の定着菌(%)
緑膿菌34%、真菌種31%、インフルエンザ菌21%、非結核性抗酸菌19%、黄色ブドウ球菌12%、肺炎球菌11%
結核菌MIC90(μg/mL) キノロンは結核菌に効いてしまう
トスフロキサシン>100 効果なし
レボフロキサシン0.4 効果あり
ガレノキサシン4 効果あり
ラスクフロキサシン0.3 効果あり
初診から抗結核治療開始の日数
市中肺炎へのエンピリック治療
未使用 5日
キノロン薬 21日(キノロン使用で診断が遅くなる)
13日使用でキノロン耐性になりうる、トスフロキサシン以外処方は10日以内に
アミカシン吸入用製剤(アリケイス)
肺MAC症化学療法 わが国成人の標準的用量用法
クラリスロマイシンCAM 600~800mg/日(15~20mg/kg)分1または2
エタンブトールEB 15mg/kg(750㎎まで)/日分1
リファンピシンRFP 10mg/kg(600㎎まで)/日分1
(必要に応じ)ストレプトマイシンSM(またはKM)15mg/kg以下を週2~3回筋注
2017年改訂された英国ガイドライン
2000年版「治療期間は2年」だったが、「菌陰性化後最低1年」へ改訂
ATS/ERS/ESCMID/IDSAガイドライン2020
治療期間は菌陰性化後最低1年、ただし最適な治療期間は不明
治療成功率52~61~66%
アミカシン吸入療法の可能性
6か月以上の標準治療に抵抗性の肺MAC症57例
アミカシンのリポゾーム製剤590㎎の1日1回吸入を上乗せ
4割が陰性化 3か月で陰性化しないとその後は増えない
有害事象 発声障害46%、咳嗽37%、呼吸困難22%、喀血18%
25%が有害事象で吸入中止
2021年7月アリケイスが発売
専用のラミラネブライザシステム 吸入時間は約14分
・多剤併用療法を併用すること
・喀痰培養陰性化が認められた以降に最大12か月間、本剤の投与を継続
・投与開始後12か月以内に喀痰培養陰性化が得られない場合は、本剤の継続投与の必要性を慎重に再考
まとめ
・ラスクフロキサシンは第4世代キノロン系薬でグラム陽性菌や嫌気性菌への活性が強化された
・ラスクフロキサシンに抗緑膿菌作用は期待できず、慢性呼吸器疾患の増悪で用いる際は注意が必要
・ラスクフロキサシンには抗結核菌作用もあり、結核を否定できずに使用する際は、10日以内に留める
・アリケイスは吸入用アミカシン製剤で、標準治療無効の肺MAC症への効果が期待される
ラスクフロキサシンは特に既存の第4世代キノロン薬と比べて、残念ながらそれほど利点がなさそうで、使わないような気がする。アミカシン吸入は専門医しか使わないだろう。