昨日は日本呼吸療法医学会の「医師向け 人工呼吸管理基礎教育プログラム」に行ってきた。参加していたのは、ほとんどは若い先生方だった。内容はいわゆる講義で、症例を用いて具体的にどう対応するかという実践的なものではない。
(人工呼吸開始の基準)人工呼吸の目的は1)酸素化の改善2)換気の改善3)呼吸仕事量の軽減なので、人工呼吸開始基準は1)低酸素血症2)高CO2血症・呼吸性アシドーシス3)努力呼吸・頻呼吸になる。呼吸サポートは段階的に、1)経鼻カニューレ・酸素マスク2)高流量酸素3)NPPV4)気管挿管5)ECMOになる。1~2時間後に評価して、改善(呼吸数・心拍数の低下)を認めなければ、さらなる呼吸サポートを行う(段階を上げる)ことになる。
人工呼吸の目的はさらに、4)肺障害を悪化させないこと、が重要だが、肺損傷を起こすのは気道内圧ではなくて、経肺圧(気道内圧ー胸腔内圧)になる。患者さんが喘いで換気量が増えた時に人工呼吸のプラトー圧(気道内圧)を下げても、胸腔内圧が上昇しているので、経肺圧は上がってしまう。トランペット奏者の気道内圧は100cmH2Oを超えるが、胸腔内圧も高くなって経肺圧は低いので肺損傷(肺過膨張)はきたさないという。(食道内圧で代用できるそうだが、胸腔内圧は実際には測定できない)。
人工呼吸開始時には、強い自発努力吸が強い症例ほど、高血圧・頻脈の症例ほど、低酸素血症・血圧低下に対する前準備が必要になる。強い自発努力呼吸から人工呼吸に移行すると、大きな胸腔内圧の消失と背側横隔膜の動きの低下から低酸素をきたす。仰臥位でのは、自発呼吸では肺血流の多い背側の横隔膜が広がるが(換気血流比が良い)、人工呼吸では横隔膜が全体的に均一な広がりになる(換気血流比が悪い)。また人工呼吸では胸腔内圧の上昇から静脈還流量が低下して血圧が低下する。
(NPPV)NPPVの禁忌は、心停止・呼吸停止、多臓器不全、顔面の手術後・外傷・奇形、上気道閉塞、気道確保が不能、非協力的、気道分泌物排出が不能、誤嚥の危険性が高い。NPPVが推奨されるのは、COPD急性増悪と心原性肺水腫(CS1・2・4)。ARDSは軽症なら適応あり。喘息は経験豊富な施設で行う。肺炎はCOPDのある症例で行う(COPD急性増悪は肺炎の併発なので同じこと)。
(換気モード)強制換気方式は、1)VCV(volume control ventilatiion)量規定換気、または2)PCV(presssure control ventilation)圧規定換気。
VCVは、1)設定した換気量を設定した流量で来送る、2)設定した回数を時間ごとに繰り返す(time cycle)、3)通常、ポーズを設定する、4)自発呼吸があれば、自発に合わせて吸気を開始 AC(Assist/Control)VCV。吸気pauseの役割は、正常な肺胞が過膨張して気道狭窄のある肺胞は拡張不全になり、ポーズの間に過剰膨張した肺胞から拡張不全の肺胞に再分配される。
PCVは、1)設定した圧を設定した時間だけ加える、2)設定した回数を時間ごとに繰り返す(time cycle)、3)通常、吸気の立ち上がり時間を調整できる、4)自発呼吸があれば、自発に合わせて吸気を開始 AC(Assist/Control)PCV。PCVにはポーズがないが、まず正常な肺胞が拡張するが過膨張することはなく、圧をかけているうちに気道狭窄のある肺胞も拡張してくるから。
VCVかPCVかといえば、結論は出ていないがPCVのほうが良さそうだという。世界的にA/C-VCVになっているが、VCVが好まれるのは、気道抵抗Rが評価しやすい、コンプライアンスCを評価しやすい、陽圧Pの要素を解析しやすい、1回換気量を既定できる、などの理由による。ただし現在、人工呼吸器メーカーはPCVのほうに行こうとしているそうだ。
強制換気の換気設定は、1)肺障害を惹起しない1回(換気量設定 Vt:6~8ml/Kg、2)肺胞虚脱を防止できるPEEP設定、3)肺障害を惹起しない駆動圧 ⊿P<15cmH2O(PCVの方が制御しやすい)、4)分時換気量は換気回数で調整する pH>7.2であればOK(permissive hypercapnia)。
最近の事情は、1)強制換気と言いながら、吸気相の途中で自由に呼気できる、2)VCVでありながら、患者が自発吸気すれば許容する、3)VCVでありながら、動作はPCVで換気量を保証する、4)PCVでありながらか、、換気量Vtを保障する、ということになっている。
SIMVは、強制換気と自発呼吸が混在する換気モードで、1)自発呼吸で不足する換気量を強制換気が補う、2)強制換気と強制換気の間に自発呼吸を許容する。問題点は、1)シンクロ機能があっても両者は同調し難い、2)少し鎮静鎮痛が必要になることが多い、3)ウィーニングに時間がかかる。SIMV不要とうy意見もある。
PSV(Pressure-support ventilation)は、1)設定された圧を患者が吸っている間加える、2)自発吸気で始まる(patient cycle)~自発呼吸がなければ、換気を行わない、3)立ち上がり時間を調整できる、4)呼気トリガーを調整できるものが多い。PSVの立ち上がりは、患者の吸い始めの流量にマッチした選択をする~患者に訊く(チューブがないように吸気できるよう)。
人工呼吸の警報にまかせきりではだめ~設定に従って自動で停止することがある。人工呼吸器の自己評価としては、換気回数(呼吸回数)、分時換気量・呼気1回換気量、気道内圧(Peek・PEEP)。使用する側の患者モニターとアセスメントとして、呼吸(SpO2/ETCO2)、循環(ECG・BP)、鎮静・鎮痛スコア、呼吸パターンがあり。
(PEEP)肺胞が虚脱しないようにPEEP(Positive end-expirotory pressure)をかける。PEEPを設定する画一的な方法はない。胸部X線像とP/Fで決める、症状で決める、PVカーブで決める、Decremental (だんだん下げてみる)PEEP trialで決めるなどがある。エキスパートの経験に基づく設定を行って、あとは微調整していくしかない。
(鎮静・鎮痛・筋弛緩)ICUにおける患者管理の基本原則は、1)ますは十分な痛み対策、2)必要に応じた最低限の鎮静~できれば鎮静なしを目指す、3)頻回のせん妄評価、4)状態が安定し次第、可及的速やかなリハビリの開始。筋弛緩は初期の48時間ならば予後を改善させるかのしれない。
(人工呼吸の包括管理)通常の呼吸では、室内気の温度22℃・相対湿度50%・水蒸気圧20mmHgが、肺胞気の温度37℃・相対湿度100%・水蒸気圧47mmHgになるよう加温加湿している。人工呼吸ではそれを補う加温加湿が必須。体位や肺炎の予防の話もあったが、このへんで疲れてきた。
(ウィーニングと抜管)ウィーニングは人工呼吸を始めた時から開始する(くらいの気持ちが必要)。自発呼吸トライアル開始基準は、1)原疾患が改善傾向、2)酸素化が十分良い~FiO28cmH2OでSpO2>90%、3)血行動態が安定~急性の心筋虚血・重篤な不整脈がない+心拍数<140/分+多量の昇圧薬を使用してない、4)十分な吸気努力がある~1回換気量>5ml/Kg+分時換気量<15L/分+呼吸回数/1回換気量<105+呼吸性アシドーシスがないpH。7.25、5)異常な換気パターンがない~補助呼吸筋の使用(努力呼吸)がない+奇異性呼吸がない、6)全身状態が安定~発熱・電解質異常・貧血・体液過剰がない。自発呼吸トライアルspontaneous breathing trial(SBT)は30~120分酸素吹き流し下の自発呼吸で観察する。
講義を聴いていた分だけ、テキストが読みやすくはなる。最近の事情を聴けたのが、ちょっとよかったのかもしれない。実際は症例があった時に、詳しい先生に相談しながらやってみるしかないのだろう。