なんでも内科診療日誌

とりあえず何でも診ている内科の診療記録

心不全のはず

2025年01月16日 | 循環器疾患

 1月15日(水)に医局のコンピュータの置いてある部屋で、外来受診した患者さんの画像を見ていた。内科の先生が前日に受診した患者さんの画像を出して、声をかけられた。

 患者さんは50歳の男性で、通院している市内の内科医院から肺炎・胸膜炎の疑いとして紹介された。内科医院で高血圧症・糖尿病の治療をしていて、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)で大学病院にも通院していた。

 2019年に胸痛で当院の循環器科(当時はあったが、その後は閉科)を受診した。心エコーで左室の全周性肥厚を認めるが、心電図では左室肥大の所見はない。心臓カテーテル検査では右冠動脈の50%狭窄のみで、βブロッカー内服で経過観察となっていた。

 

 昨年末に胸部痛(胸骨裏面)の痛みがあり、体動時に痛むということで筋骨格系の痛みとしてNSAIDsを処方して軽快したそうだ。1月13日から再度同様の痛みが生じて受診した。ただ今回は、胸部X線で両側胸水と両肺野に透過性低下があった。

 当院を受診した時は、血圧124/85・脈拍数114/分・体温37.1℃で酸素飽和度が80%台と低酸素を呈していた。

 心電図ではほとんど異常なしだった(機械読みでは非特異的T波異常)。胸部CTで確認すると、両側胸水と肺うっ血を認める、ように見える。

 白血球11100・CRP1.5と感染症急性期の所見のような結果だった。BNPは7.6と正常域で、心拡大がなく、むしろ小さめに見えることから心不全とはし難かったそうだ。

 ちょうど当院はその日入院ベットがなかった。基幹病院呼吸器内科に肺炎・胸膜炎として紹介すると、幸いに受けてもらえたそうだ。

 肺炎なのかといわれると、説明し難い。画像所見は心不全にしか見えない。確かに心不全の所見として疑問のところはあるが、もともと肥大型心筋症は間違いなくある。

 心不全ならば、基幹病院内で呼吸器内科から循環器内科に回されるので問題はないか。当院としては「高次医療機関に搬送」でよかったのだろう。

 

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肺血栓塞栓症(その後)

2025年01月14日 | 循環器疾患

 12月11日に記載した、大学病院に救急搬送した肺血栓塞栓症の70歳代後半の女性のその後。

 12月末に腎臓内科の若い先生から、12月9日に大学病循環器内科に救急搬送した患者さんが、年明けに戻ってくると話してくれた。実際に年明けに当院に転院となった。

 多発性嚢胞腎で慢性腎不全があり、大学病院で血液透析を行ったことから、腎臓内科に転院依頼が来ていたのだった。

 

 当院から大学病院に搬送後、大学病院ではヘパリンによる抗凝固療法を開始した。その日の夜間に心室頻拍(VT)が発症して、cardioversionを行っていた。

 翌日に胸部造影CTを行うと、両側肺動脈に血栓塞栓像があり、特に右肺動脈は近位でほぼ完全に詰まっていた。左下肢の静脈に深部静脈血栓症を認める。

 

 肺血栓塞栓症が再発して、抗凝固薬による保存的治療継続の猶予がないと判断されて、心臓血管外科で右肺動脈血栓摘除術(開胸)が行われた。

 胸水増加・無気肺、NPPVの施行など術後も大変だった。CHDF(continuous hemodialysis and filtration:持続血液濾過透析)が行われたが、その後2週間くらいで離脱した。

 ただ血清クレアチニン以前の3mg/dL台から5mg/dLに上昇していた。通常の慢性透析導入は、廃用症候群の寝たきり状態では適応にならない、という問題がある。

 摂食もできず、経管栄養が行われている。どこまで治療するか、家族と相談になるようだ。

 

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肺血栓塞栓症

2024年12月11日 | 循環器疾患

 12月6日(金)の当直の時に、7日午前2時過ぎに70歳代後半の女性が救急搬入された。トイレに行って戻る時に倒れたということだった。救急隊到着時に血圧が70/50mmHgと低下していた。

 搬入中に血圧が170mmHgまで上がったというが、搬入時は107/87mmHgだった。酸素飽和度は92~94%(室内気)。意識は清明で普通に会話ができる。体温36.3℃。手足の冷感があって、寒いと訴えた。

 

 この患者さんは内科医院に高血圧症・慢性腎臓病で通院していた。今年の1月に腎機能の悪化で当院の腎臓内科に紹介されている。多発性嚢胞腎polycystic kidneyがあった。家族(娘2人)の検査も行われていた(なかった)。血清クレアチニンは3mg/dL台でいずれ悪化した時は透析予定となっている。

 胸痛や呼吸苦の訴えはなかった。心電図は洞調律で右脚ブロックだけで虚血性変化はなかった。(以前は右脚ブロックはなかった)血圧低下なので脳血管障害は否定的だが、念のため撮影して異常はなかった。胸腹部CTで心拡大はあるが、肺野に異常はなかった。

 血液検査(試験紙使用の簡易検査)では白血球10300・CRP3.2と軽度の炎症反応上昇を認めた。肝機能は異常なかった。CTで以前から肝臓の左葉を中心に小嚢胞の多発があるが、前回と同様だった。(時間外は凝固検査はできない)

 家族の話では腎盂腎炎を繰り返しているということだった。(入院はしていないので膀胱炎くらいなのか、発熱を伴ったのか詳しくはわからない。

 尿路感染症疑いとして、入院で点滴・抗菌薬で経過をみることにした。入院すると、午前8時に病棟から血圧が80mmHg台と連絡がきた。呼吸苦は訴えないが酸素飽和度も90~92%だった。

 酸素吸入2L/分を開始して、補液1000ml追加で血圧は100~110台になって、通常の持続点滴だけ(1500ml/日)で安定した。尿路感染症からの敗血症性ショックになった可能性を考えていた。

 発熱が見られないのは感染症としての重症度が高いのかもしれない、尿路感染症を繰り返していて起炎菌は通常の菌種ではなく、難治の大腸菌ESBLなどかもしれない。抗菌薬をセフトリアキソンからメロペネムに変更した。

 そのまま週末を過ごして、バイタルは同様だった。12月9日(月)に病棟に診に行った、血圧は100~110mmHgだが、元々高血圧症なので血圧が低下していることになる。手足の冷感はまだあった。

 

 外来で診ている腎臓内科の若い先生と相談していたが、別の内科の若い先生が、CTで肺動脈内に血栓があるようだと指摘してくれた。見直すと右肺動脈と左肺動脈の分枝に血栓を示唆する高濃度物質を認める。血液検査で凝固検査も提出していたが、Dダイマーが18.7と上昇していた。(もっと高値でもいいくらいだが)

 肺血栓塞栓症だった。心エコー検査を検査室に緊急で依頼すると、右房・右室の拡張を認めた。(当院の心エコーは他院の検査技師が月曜日だけ来て行っている)

 多発性嚢胞腎による慢性腎臓病(今回は血清クレアチニン4.4mg/dL)もあり、そこに肺血栓塞栓症が発症している。全身管理になると思われて大学病院救急科に連絡した。

 若い(声で判断)女性医師が出られて、それは循環器内科でしょうといわれた。親切に循環器内科の先生に回してくれた。病状を説明して、地域の基幹病院は受け入れ不可だったことを伝えると、受けてくれた。家族にも連絡して救急搬送となった。

 

 改めて両下肢を確認したが、腫脹・疼痛はなかった。深部静脈血栓症があるはずだが、診察上はわからない。多発性嚢胞腎で下大静脈に影響が出るのか。

 トイレに行って突然倒れたことから、その時に発症した可能性もある。ただその日の昼から体調が悪く、昼食摂取はわずかで、夕食は食べられなかったという。救急車内で急に血圧が上昇したということもある。肺動脈内の血栓が詰まりかけたり、外れたり(あるいは末梢に流れたり)と変化した可能性がある。週末急変しかったのは運が良かった。

 

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急性大動脈解離

2024年12月03日 | 循環器疾患

 12月2日(月)は内科外来に出ていた。再来を診ながら新患も診ている。当院の内科外来は2診体制で、月曜日は大学病院(循環器内科)から来てもらっている先生と2人で診ている。

 外来の看護師さんが「急性大動脈解離の患者さんが」と慌てていた。前日から前胸部痛が続く60歳代後半の男性が、大学病院の先生の方に回されていた。

 前日の午後6時ごろ、「夕食のラーメンを食べていて最後の一口を飲み込んだ時」に突然前胸部痛が出現した。胸痛は続いていたが受診はせず、そのまま月曜日まで我慢して受診した。 (普通に自分で病院まで来て、新患として受け付けをした、いわゆるwalk inの患者さん)

 血圧165/103mmHgと高値だった。市内の内科クリニックに高脂血症で通院していて、高血圧症・糖尿病はないらしい。喫煙者だった。

 診察では有意な所見はなかった。心電図は異常なし。胸部X線でも大動脈弓の拡大が疑われる。最初は単純CTで見ていたが、大動脈内腔に石灰化が見えて、解離を示唆していた。造影CTで大動脈弓の頂部から下行大動脈にかけて解離していた。 

 自分の病院の心臓血管外科に連絡していたが、ICU満床で受け入れができなかった。循環器病センターのある専門病院に連絡すると、受け入れ可能で、そちらの病院に救急搬送となった。

 血圧を120未満にするようにと指示があり、ニカルジピン10mg+生食10mlを2ml/時で開始しての搬送となった。

 

 当方の外来には、いろいろ訳ありの新患患者さん(重症ではない)が回されていた。検査しようとしても、この患者さんのことで外来の看護師さんが出払ってしまっていた。

 

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「ねころんで読める心不全」

2024年12月01日 | 循環器疾患

 メディカ出版から「ねころんで読める」シリーズが出ている。たくさん出ていると、当たりと外れがあるが、とりあえず新刊が出ると購入するかどうか検討することにしている。

 今回「ねころんで読める心不全」が出た。大抵は書店(丸善)で内容を確認して購入を検討するが、面白そうなのでamazonで注文した。心不全治療のFantastic 4の話などが分かりやすく記載されている。

 Fantastic 4の導入は、

 SGLT2阻害薬は、基本的に最初から導入。ARNIは血圧に余裕があれば早期に導入。MRAは電解質に注意して(腎機能・血清カリウム)早めに。βブロッカーはうっ血解除後に少量から導入。となっている。

 なにしろ扱っている患者さんたちが80歳代~90歳代なので、SGLT2阻害薬はサルコべニア・フレイルの(超)高齢者に導入していいのかと思ってしまう。というか、導入を躊躇する(しない)ことが多い。

 高齢者でも体格がよい人(体重の有り余っている人)には出しているが。

  

ねころんで読める心不全:症例を通して病態を理解できる/最前線の実践知を知る

 

 「ねころんで読める緩和ケア」は書店で見てから購入検討とした。「ねころんで読めるてんかん診療」は初版が良かったので、改訂2版もamazonで購入した。てんかんの本がシリーズ中で最も良いといわれているらしい。

 

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うっ血性心不全

2024年11月12日 | 循環器疾患

 11月4日(振替休日)の日直の時に、80歳代後半の男性が救急外来を受診した。10日くらい前から息が苦しくなるということだった。安静はよいが、労作時(トイレに行く)に息切れがする。ご本人は受診するつもりはなく、妻が心配して連れてきたということだった。

 両側下腿の浮腫があるが、それは何年か前から続いているという。脳神経内科(昨年春に常勤医退職)の外来でも相談したことがあるが、原因はいわれなかったそうだ。

 当院の消化器科の外来に通院して、脳神経内科の処方(抗血小板薬、降圧薬=ARB)も併せて処方してもらっている。昨年消化器科で行った胸腹部CTには胸水貯留はなかった。

 胸部X線・CTで確認すると心拡大・両側胸水貯留を認めた。

 

 心電図ではV1-3でST上昇様に見える。胸痛は特になかったそうだ。無痛性に心筋梗塞が発症して、心不全症状で気が付くということがある。現在当院は時間外でトロポニンは測定できない。上室性期外収縮はあるが、心房細動ではない。有意な心雑音はない。

 入院させて酸素吸入と利尿薬で治療を開始して、翌日の心エコーで判断することにした。(心エコーは外部の検査技師が週1回月曜日に来ている)酸素吸入は2L/分で十分だった。

 点滴静注薬は使わず、内服でエンレスト(100mg分2)とアゾセミド30mg・スピロノラクトン25mgとした。翌日まで1400mlの排尿があり、両下腿浮腫は軽快していた。

 心エコーではdiffuse hypokinesisとされ、画像を見ると確かにそうだった。V1-3のST上昇で前壁中隔梗塞ということではないようだ。駆出率(EF)は37%とされた。

 11月12日の胸部X線で胸水は減少してきている。1週間治療を継続(血圧はいいのでエンレストは増量へ)することにした。ご本人は早く退院したいといっている。

 11日の採血では、BNP 1922.6と著明に上昇していた。トロポニンIは314.0と高値だが、CK/CK-MBは正常域で炎症反応は陰性だった。

 

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結局筋肉痛?

2024年11月09日 | 循環器疾患

 11月4日(月、振替休日)は当直だった。午後5時前に、日直の先生から大腿骨頸部骨折と思われる救急要請を受けたのでよろしくと申し送られた。

 次に低血糖の救急搬入があった。続けて3台目の救急搬入は、上背部の激痛を訴える80歳代前半の女性だった。

 後頚部ではなく、高さは肩の位置になる。正中から左右にかけての痛みだった。台所で作業をしていて、突然の発症だった。ただ持続はしているが、少し程度に波があるという点が血管性の痛みとしては合わなかった。

 通院している内科医院から降圧薬2剤が処方されているが、搬入時の血圧は230/110と著しく高値だった。心電図は完全右脚ブロックだけでST-T変化はない(CRBBBはST-変化があれば読める)。酸素飽和度は正常で呼吸苦はなかった。突然発症からは大動脈解離が疑われた。

 点滴をして採血結果を待っていると、右下肢がつって痛いという(正確には叫んだ)。最近こむら返りが頻発していたそうだ。主には夜間だが、昼間もあったという。自分で調べて漢方薬が効くということを知っていたそうだ。

 搬入後に疼痛に対してアセリオ注(アセトアミノフェン1000mg)を点滴している最中だったが、芍薬甘草湯を薬局から持ってきて内服してもらった。10~15分で効いたようだ。ペルジピン注で血圧も150程度になった。

 頸部~腹部の造影CTを行ったが、大動脈解離はなかった。他にも異常所見はない。上背部の症状は軽減していたが、また軽度の痛みと違和感があるという。血液検査は異常なしで、炎症反応も陰性だった。降圧薬内服(ベニジピン4mg1錠)を内服させて、入院で翌日で経過をみることにした。

 翌日には違和感があるような気がするというが、ほぼふだんの状態に戻っていた。夜間にこむら返りは起きなかった。頭部CTは搬入時に検査して異常なしだったが、頭部MRIで椎骨脳底動脈を確認したが、解離などはなかった。

 家族の迎えの都合でその翌日に退院した。結局筋肉痛だったのだろうか。降圧薬追加を定期内服といて、こむら返り時の芍薬甘草湯も持たせて、通院している内科医院に診療情報提供書を提出した。

 

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ワーファリンの効き過ぎ

2024年11月08日 | 循環器疾患

 11月7日(木)病棟にいる時に整形外科医に相談された。患者さんは、前日に入院した80歳代後半の男性だった。

 6年前に右大腿骨転子部骨折の手術を地域の基幹病院整形外科で受けている。現在は隣町の施設に入所しているが、右股関節から大腿近位部の痛みと腫脹があり、当院の整形外科に紹介された。(基幹病院は受け入れ困難だったのだろう)

 X線・CTで確認すると、骨や手術の問題ではなく、筋肉内の出血があった。心房細動の病名でワーファリンが処方されていて、PT-INRが5.04と明らかに効き過ぎだった。

 四肢に皮下出血が散在しているが、右股関節~大腿近位に出血したのは術後で金属が入っているためだろう。整形外科で入院となった、ビタミンK静注で治療して後は血腫の吸収を待つしかない。

 入院時の心電図が洞調律だったので、疑問に思ったらしい。心房細動がなければ抗凝固薬は不要になる。

 心電図は洞調律で、1°房室ブロックがあり、ウェンケバッハ型の2°房室ブロックも見られた。一瞬感染房室ブロックかと思ったが違った。ただQRSが抜けるところのP波がはっきりしない。

 生理検査室で心電図を長めに記録してもらうことにした。その日は洞調律で1°房室ブロックだけだった。心電図モニターを装着して経過をみることにした。

 循環器に詳しい内科の先生に相談すると、発作性心房細動なのかもしれないが、心房細動の診断自体正しいんですかねえ、ということだった。

 施設入所前にされた診断なのだろう。腎機能は正常で今どきワーファリンというのは、随分以前からの処方がそのままになって、DOACへの切り替えがなされていなかったのだろう。施設で頻回に血液検査をするとは思えないので、今回のような過量で出血が生じてしまって危険なのだった。

 心エコーで診て、左房内血栓の有無と左房の拡張があるか確認するようにということだった(当院は心エコーは週1回外部の検査技師施行)。左房の拡張があれば慢性的な心房細動を示唆する。

 出血のコントロールがついてからになるが、発作性心房細動で抗凝固薬継続が必要な時は、エドキサバン(リクシアナ®)15mg/日でどうかという。

 

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エンレスト

2024年10月10日 | 循環器疾患

 10月9日(水)に、コロナになってから初めての製薬会社の医局説明会があった。会議室でのweb講演で、昼休みに30分の講演を2回流す。(お弁当付きなので利益供与にはなる)

 講師は山下武志先生だった。心臓血管研究所名誉所長となっていたので、定年になったのだろう。これまで心房細動や心電図の著書を購入してきた。今回はARNIのエンレストの話(宣伝)だった。

 

 内容は以下の通り。

 高血圧症の治療で適正な血圧まで下げているのは3割くらいであとは、何となく130台とか140くらいに下げているだけが多い。目標についてはわかってはいるが、実際はそうなるようにしていないという臨床イナーシャclicical inertiaに陥っている。

 血圧は160/90とされた時代から140/90、130/80と以前のintenviveが次のstandardになるという形で目標が下げられてきた。心血管イベントを改善するには、高血圧治療ガイドラインでも示されている正常血圧120/80未満が好ましい。

 できるだけ単剤での治療が望ましいので、血圧を10mmHg低下させるARB(または10mmHg下げるCa拮抗薬、5mmHg下げる降圧利尿薬)を使用する。

 それで目標に達しない時は、ARNI単剤(エンレスト)に切り替える。それでも高い時は、ARNIにCa拮抗薬、降圧利尿薬を追加していく。こういうシンプルな治療ができるということだった。

 エンレストは慢性心不全では1日2回投与で、高血圧症では1日1回投与になっている。エンレストの半減期は12時間で、その点では1日2回の投与になる。

 しかし高血圧症で使用する1回200mgは、翌日には血中濃度が低下してくるが、それでもまだ治療域にあるので1回でよいそうだ。(1回100mgで開始することが必要な患者さんもいる)

 脳血管障害の予防には130/80未満でよいが、心不全の予防には120/80未満が必要で、それが心不全パンデミックを避けることにつながる。

 

ARNIとSGLT2阻害薬についてシンプルにまとめてみました: 新時代の心不全治療に向けて

人生100年時代の循環器診療

 

 実際には、80歳以上の高齢者で血圧120前後ではふらつきがあり、少し緩めて130くらいにすることが時々ある。

 

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急性大動脈解離

2024年09月21日 | 循環器疾患

 9月20日(金)朝病院に来て控室で着替えていると、前日の当直だった内科の若い先生が着替えを取りに入って来た。大動脈解離の患者さんがwalk inで受診して、という。

 午前4時半過ぎに、70歳代前半の男性が職場の上司に支えられて受診した。工場のラインを洗浄する仕事(夜勤)をしていた。午前1時ごろに背中に重苦感が発症して、しゃがみこんでしまったという。少し様子をみていたのだろうが、症状が続いて、病院に連絡を入れないで直接受診した。

 受診時、血圧が65/51と低下していた。脈拍数は70/分、酸素飽和度98%(室内気)、体温36.0℃。意識障害はなく、会話はできる。

 リンゲル液で血管確保して、検査を行っていた。心電図は正常洞調律でST-T変化はまったくなかった。胸腹部CTは単純CTだが、大動脈起始部から胸部下行大動脈まで解離して、心嚢液(血液)が貯留していた。

 地域の基幹病院に連絡したそうだが、心臓血管外科はないので、受けられないといわれた。(若い先生はその辺の事情はまだわかっていなかった)。循環器センターのある病院に連絡して、搬送となった。

 大動脈解離の診断には造影CTが必要になる。いちおう単純でもわかったので、この血圧だとあえてこちらでやらなくていいかと思う。搬送前の血圧は点滴で90にはなっていた。

 

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