久しぶりにCareNeTVの春日武彦先生の講義を聴いた。第1回の「困った人たちとの遭遇」が最も面白い。何だか随分な内容にはなっているが、これが真実ということだろう。
CareNeTV
カスガ先生の精神科入門 負けるが勝ち!
精神科医 春日武彦先生
①「困った人たち」との遭遇
②うつ秒に関する必要最小限の知識
③自殺患者がは運ばれてきたら
④一般科医が、精神疾患を併せ持つ患者を診るとき
本番組の基本方針
‣非専門医でも最低限知っておくべき知識と考え方を身につける
‣不可能なことは不可能と明確化する(いい方法はないと認識する)
第1回 困った人たちとの遭遇
よくいる患者さんFILE
研修医を見くだす患者
►「研修医なんかに私は診れない」と、まったく聞く耳を持たない
►「○○薬を出せ!」の一点張り
☞彼らは権威に弱いので、専門医を名乗る者が診るのが早道(ウソではなく一種の「演出」)
☞説得しても効果薄
☞ある程度妥当性のある危険度の少ない薬であれば、堂々と処方
「困った人たち」とは・・・
いわゆる(境界型)人格障害
►意識が清明である
►幻覚や突飛な妄想がない
・ただし被害妄想的である
「バカにしやがって!」など
►責任能力が十全である
・知能・思考障害によるものではない
►理性的な対応を受け付けない
►トラブルを繰り返す
☞その多くは「人格障害」と名付けるしかない!
「人格障害」の定義・特徴
現実を理解する能力が貧弱
►人格(感じ方、考え方、反応の仕方)に顕著な偏りがある
・被害妄想的である
・自己評価が異様に高い
・著しく常識を逸脱した印象
►特に対人関係において日常生活が円滑に営めない
・敵か味方か、と極端な認識
・裏切られたと感じると攻撃する
►彼らは体験から学習していくことがない!
・高学歴な人格障害は珍しくない
・同じようなトラブルを繰り返す
☞「理解困難な人々である」という事実を受け入れて割り切って対応するしかない!
「人格障害」について押さえておきたいポイント
極端に「個性的」な人々
►狭い意味での病気には該当せず
・投薬、入院、カウンセリング等では解決しない
・通常、患者には病名を告げない
►法的には正常と見なされる
・心神喪失や心神耗弱には該当せず
・本人に責任を取らせる対応が適当
☞状況によっては、躊躇せずに警備員、警察へ通報するべき
►人格障害は相対的な概念である
・環境によっては問題にならない
☞職業によっては許される!?
風俗、芸能界、アートの世界
某女流棋士、某国プリンセス(故人)、某カリスマ男性歌手(故人)、某女流芥川作家、某アイドル歌手(春日先生は実名をあげているが、そこはピーが入っている)
美貌も、才能もない人格障害はかわいそうだ
国によっては人格障害の概念があまりない?
フランス、中国(国民全員が個性的?)
・”個性的な人”との線引きは曖昧
・にもかかわらず、まぎれもなく量が質に転化した印象を放つ
☞正常からグラデーションではあるが「まぎれもない人格障害」は存在する!
よくいる患者さんFile
屈折したある種の魅力
►思わせぶりな言動で自分のペースに引き込むのに長ける
ボーダーライン=「境界性人格障害(BPD)」
‣「情緒不安定性人格障害」「境界性パーソナリティ障害」とも称す
‣正常と異常の「境界」に位置する障害と考えている人が多く、病像的にはあながち間違いではない側面もある(実際は「神経症」と「精神病」の境界と考えられていたことに由来)
‣特に思春期に顕著で、激しい衝動性や攻撃性、見捨てられることに対する強い不安、敵か味方か(=理想化とこき下ろし)という極端な人間関係などが特徴
よくいる患者さんFile
行動化する患者
►行動化としての過食、自殺未遂
►見捨てられることへの強い恐怖から”試し”たり”当てつけ”たりする
►特有の慢性的空虚感による行動
よくいる患者さんFile
過度に敏感な患者
►「1を聞いて1万を知る」?
・処方箋のわずかな位置の違いにすらネガティブなサインを読む
►意外と本心を見抜いているのかも?
►人格障害者全般に「特別扱いされたい」という思いがある
►人格障害者全般にコントロール願望が顕著なことが多い
☞ドライかつソフトは対応が基本
☞感謝を期待しても報われぬものである
☞人格障害者にひどい目にあわされるのは医療者としての通過儀礼…
絶望するにはあたらない!
人格障害の理解のために留意すべきポイント①
(参考:犯罪の要因は、色・金・怨恨)
人間の精神がけつまずく要因は、
プライド・こだわり・被害者意識
►彼らはプライドが高い
・どんな人間でもプライドはある
(たとえ認知症であっても)
・意図せず傷つけるケースが多い
・傷つけると一生恨まれることも
☞相手のプライドを尊重せよ!
►こだわりが強い
・意固地、精神的な視野狭窄状態
・視野の狭さが人生を楽にもする
神経症はひとつの症状にこだわる
→他のことはかかわらないくていい→人生が楽になる
→治ろうとしない
☞結果を急ぐのは逆効果
☞ダメな医者を演じて「待つ」
►被害者意識が強い
・人は基本的に被害者意識を持つもの
・人格障害では顕著になる
人格障害の理解のために留意すべきポイント②
クレーム・攻撃性
►クレームだけがコミュニケーションの手段という人もいる
・「裏切られた」と受け取りがち
・そのことの不毛さを学習しない
►攻撃的かつ猜疑的
・被害妄想的な言いがかり
・理不尽な権利意識
☞のらりくらりでかわすべし
☞最長2時間と腹をくくろう
・ただし、実際の暴力に及ぶことは少ない
☞暴力に及んだら、躊躇せずに警備員、警察に通報するべき
人格障害の理解のために留意すべきポイント③
時間の概念が希薄
►昔の恨みを生々しく持ち続ける
・まあいいやという感覚に欠ける
・イヤな経験を何度も頭の中で反芻しているものと思われる
・周囲に気味の悪い印象を与える
►基本的にくどくてシツコイ
・彼らにとっては人生の一大事
粘る患者の話を切り上げるコツ
これができれば開業OK!?
▸自分のキャラに会ったスタイルで
・医師のキャラクター次第では「じゃあ3分だけね」でも通用する
・あらゆる患者に万能の医師はいない
☞得意とする患者のタイプを見つけよ
☞完璧でなくても料金分の満足を
▸手の内をさらし、謝罪と懇願
☞「時間が許せば今日は最後まで聞くべきでしょうけど、今日は次の患者さんが待っていますので…」
▸メモを取って区切りの演出
・演出=手間暇をかけるのは重要
人格障害への対応のポイント①
共感とけじめ
▸相手の言葉を繰り返す
・特に感情の部分への共感的態度
患者「むかついたんです!」
医師「むかついたんですか、なるほど」
・聞いてますよというメッセージ
☞必要に応じてメモを取ってみせる
▸相手の顔を立てよ
・彼らは権威主義的
「責任者を出せ!」
☞肩書が有効なことは多い
(責任者を出した方が早い)
・彼らは諺が好き
コンパクトな中に真実を盛り込んでいる?
☞「出る杭は打たれますからね~」
▸曖昧な態度を取らない
「時間外でもなんでも自分を診ろ」と要求
・特例を作らない=ぶれをなくす
・患者の邪推を先回りで制する
・うろたえない
「もしかしたら、あなたは、〇〇〇〇と思ってるかもしれませんが、例外は無いんです」
☞ゴネ甲斐がなければあきらめる
☞線を引くべきところは譲るな!医療者が揺れると患者も揺れる
人格障害への対応のポイント②
つかず離れず、割り切って
▸仲間と情報交換を
・一人で抱え込むを疲弊してしまう
・楽しむ余裕を持って心を軽く
▸魔法の方法はないと腹をくくれ
・割り切って対応するしかない
・熱血的な義侠心は逆効果
・つかず離れずの距離感が重要