なんでも内科診療日誌

とりあえず何でも診ている内科の診療記録

岩田健太郎先生の「感染症の本質」~ケアネットまつり

2023年10月31日 | 岩田健太郎

 こちらもCareNeTVのケアネットまつり、岩田健太郎先生の「Dr.岩田の感染症診療の本質」から。

 

 ワクチン未接種者で、重症化予防効果はニルマトレルビル/リトナビル(パキロビッド)とレムデシビル(ベクルリー)は90%弱、モルヌピラビル(ラゲブリオ)は30%台。

 使用できればニルマトレルビル/リトナビル(パキロビッド)が優先されるが、日本での使用は圧倒的にモルヌピラビル(ラゲブリオ)になっている。

 これはニルマトレルビル/リトナビル(パキロビッド)は禁忌薬剤があり、腎機能障害で減量あるいは使用できないということあるためだろう。その点モルヌピラビル(ラゲブリオ)は禁忌薬剤も腎機能障害の考慮が不要(透析患者でも使用できる)で使用しやすい。

 ワクチン接種者ではモルヌピラビルは重症化予防効果はなかった。ただし、症状を3~4日軽減させる。ヨーロッパはそれでモルヌピラビルを認めなかった。日本では症状を1日早く軽減されるとして、エンシトレルビルを承認している。

 

 最後の「本質とは」は、いかにも岩田先生。ダイアモンド・プリンセス号から追い出されたことを自虐ネタ(自慢ネタ?)としてまだ使われていた。

 

 

ケアネットまつり 
Dr.岩田の感染症診療の本質

症例)60代男性
発熱、皮疹
コロナ、インフルエンザ陰性
診断:2期梅毒
ステルイズ240万単位筋注

症例)40代女性
自己免疫疾患でステロイド使用、ST合剤の投与なし
発熱、呼吸困難で受診
SARS-CoV-2陽性
胸部X線で両側にすりガラス陰影(GGO)
COVID-19肺炎かPCP(Pneumocystis oneumonia)かが問題になった
ST合剤(点滴静注)・レムデシビル・ステロイドで治療開始
β-Dグルカン陰性でPCPは否定
診断:COVID-19肺炎

症例)40代女性
発熱が2週間続く
ロッククライミングをしている(マダニ咬傷)
診断:SFTS(重症熱性血小板減少症候群severe fever with thrombocytopenia syndrome)
対症療法のみ

症例)50代男性
発熱、呼吸困難
自己免疫疾患でステロイド使用
SARS-CoV-2陰性(2回)                                                胸部X線で両側にすりガラス陰影(GGO)
β-D-グルカン陽性、LDH上昇
口腔内カンジダ症あり
肺炎はPCPが疑われた、CMV肺炎も疑われた
嚥下痛→食道症状(食道カンジダ?)                                         岩田先生は、PCPと食道カンジダと診断                                       若い先生は、PCVとCMV食道炎を疑った                                        内視鏡検査でPCP、CMV食道炎と証明された                                    診断:PCP、CMV食道炎、口腔カンジダ

PCP
・HIVとステロイド!
・βDグルカンが有名だが、これはuniversal fungal marker
・聴診所見がないこと、労作時の呼吸苦が特徴
・ST合剤±ステロイド

CMV
・どこにでも病気をおこす
・再活性が大事
・アンチゲネミアやPCR有用性?
・レテルモビル(プレバイミス)DNAターミナーゼ阻害薬
HSCT(造血幹細胞移植)患者の予防に

ACP(アメリカ内科学会)のCOVID-19外来治療ガイドライン
軽症~中等症でモルヌピラビルを推奨
すぐに反論が出た
「PANORAMIC RCT」
 ワクチン接種者でモルヌピラビル投与
 ・重症化を防ぐ効果はまったくなかった
 ・症状は3~4日分改善される

〇ヨーロッパ
モルヌピラビルを認めなかった
〇日本
モルヌピラビルの格下げ(ニルマトレルビル/リトナビル、レムデシビルが使用できない時に選択)
エンシトレルビルを症状を1日早く改善するとして承認

本質とは
●診断は、患者に起きていることに肉薄すること
・カントの「物自体」
●治療は、患者にベストを尽くすこと
・EBM best available evidenceを使う
・スケベ心を起こさない!
●科学的であることとは、誠実であること
・世論、空気、忖度から自由であること
・偽善者に要注意

 

 

コロナ感染症「外来診療」の基礎知識を公表、重症化リスクの高い ...

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Dr.岡の感染症プラチナレクチャー~ケアネットまつり

2023年10月30日 | 感染症

 CareNeTVで、ケアネットまつりとして著明な先生方の講義が出ている。岡秀昭先生のレクチャーは何度も見返している。ご著書の「感染症プラチナマニュアル」に沿って日常診療を行っている。

 ただ岡先生は、新型コロナは基本飛沫感染、といわれる。エアロゾル感染は空気感染とは違うともいわれる。

 医療センターの西村秀一先生らは、新型コロナはエアロゾル感染であり、要するに空気感染であるとしている。インフルエンザも他の呼吸器ウイルスも基本的にはエアロゾル感染と考えているようだ。

 西村先生らが主張するように、飛沫と飛沫核は含まれる唾液成分の量が連続的に変化しているだけで、はっきり区別できるわけではない。ダイアモンド・プリンセス号では循環式換気により個室にいても感染した。飛沫感染、飛沫核感染(空気感染)ではなく、すべてエアロゾル感染と表現するのが正しいと思う。

 通常の風邪もインフルエンザも、周囲に感染者がいない(わからない)状態で感染している。新型コロナも現在はそうなっている。無症状感染者がいることも含めて、それはエアロゾル感染したと考えるのが妥当だと思う。

 

Dr.岡の感染症プラチナレクチャー
お祭りVer.発熱診療
2023年9月23日

症例)22歳女性 39.0℃の発熱と倦怠感
(この時点では)診断できない
検査値:白血球6340・好中球93.5%・CRP6.61、コロナ・インフルエンザ抗原検査は陰性
(この時点では)診断できない

PCR診断のゴールドスタンダード
・咽頭よりも鼻咽頭の方がウイルス量が多い
・PCRは鼻咽頭スワブまたは喀痰(エアロゾル対策のもとで採取)
・スワブでの検体採取の方法
 …少し頭部を後方に反らして目を閉じてもらう

PCRについて
・PCRの精度-高い特異性
 理想的な環境では高い感度も持つが、臨床性能は条件により可変的
・偽陽性はまれ
・偽陰性率は5%未満から40%
・繰り返し陰性で、4回以上の検査で初めて陽性となることはまれ

 偽陰性
 ・暴露日 100%
 ・5日目 38%
 ・8日目 20%
 ・21日目 66%
 Ct値の臨床応用は不正確(異なる検査室で標準化されていないため)

PCRの解釈と運用
・PCRが陽性=COVID-19確定
・PCR陽性≠感染力がある
・陰性でも、可能性が高ければ疑いのまま!!

病院や医療施設での感染予防策
COVID-19は
・症状出現前から感染性がある
⇒病院に入る人全てのユニバーサルマスク(全員のマスク着用)実施を推奨
●実際に医療従事者の感染予防効果あり ユニバーサルマスクの導入後⇒医療従事者のCOVID-19陽性者が減った

いずれにしても大切なことは
決して ガードを下ろしてはいけない!ということだ

症例)22歳女性 39℃の発熱と倦怠感 続き
病歴で、コートジボアール共和国から帰国
末梢血塗抹でマラリア原虫2%
診断:熱帯熱マラリア
治療マラロン

感染症のSTSTAE
(Dr.徳田の臨床推論講座)
S:Sick contact 病人との接触
T:Tb contact 結核暴露
S:Sexual History 性行為
T:Travel History 渡航歴
A:Animal contact 動物との接触、生肉
E:Enviromental Exposure 環境暴露(山、川、温泉)

症例)54歳男性 39℃の発熱と頭痛、倦怠感
診断はデング熱
渡航地:インドネシア
暴露歴:蚊
潜伏期:3~5日

症例)41歳男性39℃の発熱と頭痛、倦怠感
診断はレプトスピラ症
渡航地:西表島
暴露歴:河川での遊泳
潜伏期:5~7日

エボラ出血熱
・症状:発熱、頭痛、倦怠感、嘔気、下痢
潜伏期:約7~10日間
流行地:中央・西アフリカ

症状は非特異的
マラリア、ウイルス出血熱(デングも)、腸チフスの症状での区別は難しい
外来での
発熱!発疹!下痢!咳!
必ず渡航歴の確認をしましょう→速やかに感染症専門医へコンサルト

一方で!
・院内発熱の診断は難しくない!
・ただし、原則を守ること

発熱、CRP上昇のみを根拠に
抗菌薬を開始しない、変更しない、追加しない

感染症診療は三角形で考える
感染臓器
微生物
抗菌薬
  CRPは臓器も微生物も教えてくれない!

感染症診療は2段構え
初期治療(経験的治療)標的治療
 De-escalation:敗血症、細菌性髄膜炎、重症肺炎
 Escalation:膀胱炎、副鼻腔炎

頚椎歯突起周囲石灰化、CRP12
→偽痛風
膝関節炎、CRP18
→偽痛風

院内発熱 非感染症
薬剤熱
偽痛風
深部静脈血栓症
無石胆嚢炎
内分泌疾患

薬剤熱 比較三原則
・比較的徐脈
・比較的元気
・比較的低CRP
発疹や好酸球増加があればラッキー

感染症?非感染症?
・CRPだけで判断できない!
・感染巣、微生物を丹念に探すこと
・感染症は原則、悪化か改善のみ!

院内FUOの原因
〇感染症は悪化か改善する
〇引き分け状態なら以下を鑑別する
・膿瘍
・C.difficile感染症
・薬剤熱
・深部静脈血栓症、肺塞栓症

院内発熱 感染症
だいたいこのどれか!
カテーテル血流感染
カテーテル尿路感染
院内肺炎人工呼吸器関連肺炎
手術部位感染
C.difficile感染症
ひとつずつ指先確認!

●カテーテル血流感染症
 局所感染所見は? 3%

カテーテル血流感染の診断基準
①末梢血液培養の少なくとも1セットが陽性
  +
発熱、悪寒戦慄、血圧低下などの所見があり
  +
カテーテル以外に感染のフォーカスがない
②なおかつ以下のうちいずれか陽性
a.カテーテルの定量・半定量培養で有意な菌量あり
b.CV血・末梢血の培養陽性化に有意な時間差あり
c.CV血・末梢血の定量培養で、コロニー数比が5:1より大きい

●カテーテル尿路感染症
無症候性細菌尿かどうか?
・高齢者では20%ほど
・原則、利用しない(例外:妊婦。泌尿器科手術前)
・カテーテル留置があると1日4%細菌尿
 
膿尿、細菌尿あり≠尿路感染症
カテーテル尿路感染症の診断
膿尿、細菌尿あり+除外診断
⇒血液培養を提出
尿培養から大腸菌、血液培養から黄色ブドウ球菌(こちらが本物)

●院内肺炎/VAP
院内肺炎、VAPの診断
・新規の胸部陰影
  +
・以下のうち2つ
 ✓発熱
 ✓WBC増加
 ✓膿性痰増加
この診断基準でおおよそ7割が実際に肺炎!
⇒血液培養を提出

●手術部位感染
深部か、浅部か?それが問題
深部は表面からではわからない

表層切開部:皮膚、皮下組織
深層切開部:筋膜、筋層
臓器体腔:腹腔内感染、新内外膜炎、縦隔洞炎、頭蓋内感染、骨髄炎、副鼻腔炎、乳腺炎、血管の感染など

●CDI
院内下痢
・非感染性7割→薬剤が多い
・感染性3割→ほどんどがCDI
下痢があれば、CDトキシン抗原検査を出す
便培養ではない

院内発熱で大切なこと
・基本に忠実に、型通りにやる
・全身を診察
・除外診断

発熱ワークアップ
 血液培養2セット尿培養胸部X線

症例)72歳男性
脳出血で入院
開頭血腫除去術実施
術後7日目に発熱、頻脈、血圧低下あり
手術部位は問題なし、喀痰増加なし、胸部聴診異常なし
人工呼吸管理下で経鼻経管栄養中
右前腕に末梢ライン留置あり、オムツ
感染症?非感染症?
・術後7日
・急激に悪化
おそらく感染症!

ひとつずつ指先確認
→末梢点滴部位に発赤・腫脹があった

見逃しやすいものを認識して探せ!
・副鼻腔炎
・感染性心内膜炎
・褥瘡、肛門周囲膿瘍
・急性前立腺炎、精巣上体炎
・化膿性椎体炎、化膿性関節炎
・胆管炎、肝膿瘍

感染症診療は三角形で考える
・感染臓器:CRBSI
・微生物:MRCNS、MRSA、GNR、カンジダ
・抗菌薬

血液培養からE.faecalis
尿培養陰性
胸部X線異常なし

カテーテル血流感染症治療
初期治療(経験的治療)
バンコマイシン+セフェピム
  ↓
標的治療
腸球菌E.faecalisに対してアンピシリン
 
Take Home Message
病歴、身体所見をしっかりとる
端折るな日々血液培養
とことん考えろ 
  迷ったら前へ

 

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腎破裂

2023年10月29日 | 泌尿器科疾患

 10月27日(金)の昼前に救急車の音が聞こえてきた。後で確認すると、打撲による腎破裂だった。

 76歳女性が自転車に乗っていて、縁石に乗り上げて転倒した。左側胸部を打撲して、側腹部から背部の痛みがあり、救急要請した。

 救急当番は外科医(大学病院から応援)だった。胸腹部CTで肋骨骨折はなく、肺病変もなかった。問題は腹部にあり、左腎臓が破裂して周囲に出血が広がっている。骨盤底部にも出血がたまっていた。当院は現在外科手術ができないので搬送になる。

 水曜、木曜、金曜と大学病院外科から応援(バイト)に来ている。外科の常勤医がいないので、外科外来の受診者は少ない。それで救急当番をお願いしている。入院になる時や判断に困る時は、当番の常勤内科に相談してもらうことになっている。

 水曜と木曜はずっと同じ先生が来ていて、慣れている。搬送が必要な時は直接自分で手配してくれる。金曜は交代で来るので、こういう時はどうするかというのがわからないことがある。

 その日の当番だった現在内科を診ている先生が呼ばれた(もともとは消化器外科医)。地域の基幹病院救急部に連絡すると、受けてもらえて、救急搬送となった。

 左腎臓を摘出することになるのだろう。消化器外科の扱いになるのか、泌尿器科の扱いになるのかわからない。他の内臓損傷の評価も必要なので、合同で診るのだろうか。

 腎破裂は始めて見た。

 

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肺腫瘍と骨腫瘍

2023年10月28日 | 血液疾患

 9月26日に89歳女性が腰椎の生検のために整形外科に入院した。生検の結果、骨髄腫plasma cell myelomaと診断されて、現在免疫染色追加で精査中だった。

 

 1か月前からの腰痛の悪化で、8月29日に整形外科外来を受診した。老人ホーム(ケアハウス)に入所している。腰椎X線で腰椎L2の圧迫骨折が疑われた。

 しかし腰椎MRIでは腰椎がつぶれているというより腫脹しており、骨髄転移が疑われた。胸部CTでは右肺中葉に胸膜嵌入を伴う腫瘤を認めた。(20年前に肺癌で右上葉の手術を受けているので中葉?)

 肺癌・骨転移が疑われたが、整形外科で脊髄を生検して診断することになった。呼吸器外来(大学病院から応援)に紹介されたが、肺癌の精査・治療は年齢的に難しいとされ、経過観察(6か月後に胸部CT再検)になった。

 生検結果が骨髄腫plasma cell myelomaと出て、事情が変わった。骨髄腫に対する根治的な化学療法は難しいが、緩和的放射線療法の効果が期待された。

 地域の基幹病院は血液内科の外来が大学病院からの応援で週1回ある。(血液内科としての入院治療はできない)まずそちらに紹介して、血液内科として治療の可否を判断してもらい、緩和的放射線治療だけでもお願いすることになった。

 肺病変は肺癌と思われ、骨髄腫と肺癌の両者があるということになる。

 

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脳梗塞

2023年10月27日 | 脳神経疾患

 10月26日(木)に市内の内科医院から、55歳男性が当院の脳神経内科外来(大学病院から応援)に紹介された。 

 内科医院には高血圧症(ARB、Ca拮抗薬)・糖尿病(DPP4阻害薬、メトホルミン)で通院している。10月21日に定期受診した時に、10月8日(日)に右上下肢の麻痺が出現した、という話が出たそうだ。上肢の麻痺は強かったが下肢はそれほどでなく、歩行はできたらしい。

 患者さんの住所は隣町で、当番医であった町内の個人病院を受診した。頭部CTで異常は指摘できず、内服している薬の副作用ではといわれたそうだ。(明らかに半身麻痺なので頭部MRIが検査できる病院へ紹介すべきだった)

 自宅で様子をみているうちに、翌日には上下肢麻痺が軽快(ほぼ消失)していた。良くなったので、連休(9日月曜日は祝日)明けにも受診はしなかった。

 内科医院としては、一過性の半身麻痺でTIA疑いとしての紹介だった。当院で頭部MRIを行うと、左内包後脚に新鮮なラクナ梗塞(拡散強調画像で高信号)が描出された。すでに発症19日目で亜急性期になってしまう。

 脳神経内科医は抗血小板薬2剤(DAPT=クロピドグレルとバイアスピリン)を早速開始していた。80歳くらいの高齢者ならわかるが、55歳がよくそのまま様子をみていたものだと思う。

 

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インフルエンザ

2023年10月26日 | インフルエンザ

 10月19日(木)にインフルエンザに罹患していた76歳女性が、自宅で転倒・頭部打撲後に動けなくなり、救急搬入された。

 10月17日から37.8℃の発熱、鼻汁・咽頭痛・咳、関節痛・倦怠感があった。さらに嘔気・嘔吐もあった。15日と16日に甥と姪が市内のクリニックでインフルエンザと診断されていた。

 10月18日に当院を受診して(連れてこられて)、発熱外来でインフルエンザA型と診断された。嘔気があり食事摂取が難しく、外来の処置室で点滴とラピアクタの点滴静注を受けていた。

 実はその日病院に来る前に、自宅で立てかけてあった杖をとろうとして、後ろ側に転倒した。後頭部を椅子に、腰を床に打撲していた。

 その日は点滴後に帰宅していたが、その後から打撲部の痛みで動けなくなったそうだ。もともと整形外科で左肩と右膝の治療を受けている。

 点滴と血液検査を行って、頭部CT、さらに胸腹部CT(圧迫骨折など骨条件の検索もあるため)を行った。頭部CTは異常なかった。

 胸腹部CTで圧迫骨折などはなかった。右肺の下葉外側に淡く線状網状影があった。白血球8500(ふだんは4000)・CRP4.8とインフルエンザだけにしては上昇していて、軽度の肺炎併発として抗菌薬(セフトリアキソン)も開始した。

 入院時にはすでに解熱していたが、咳・淡黄色痰は続いていた。入院後は、痰は白色に改善して、食事摂取もできるようになった。

 若い人ならそれで退院だが、短期間リハビリをしないと自宅で動けないので、来週まで(1週間の治療と1週間のリハビリ)入院継続とした。(10月25日は白血球4900・CRP0.5)

 インフルエンザでの入院は2~3年ぶりくらいになる。新型コロナが出てからインフルエンザの入院を診ていないかもしれない。

 

 

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ウェルニッケ脳症

2023年10月25日 | 脳神経疾患

 内科の先生が非常勤の脳神経内科医に、入院しているウェルニッケ脳症の42歳男性の相談をしていた。記憶障害(短期記憶)で、ついさっきのことを忘れてしまうのだという。何とかなりませんかねえ、という相談だった。

 

 長年実家暮らしだったようだ。一人暮らしをしたいと、実家を出て新聞配達の仕事をしていた。3か月前の7月から仕事をやめてしまった(勤まらなかったのだろう)。

 お金がなくなり、食事がとれず、水ばかり飲んでいた。徐々に体力がなくなり、9月28日に動けなくなって倒れているところを発見された。

 地域の基幹病院に救急搬送された。傾眠状態で、画像としては頭部CT、胸腹部CTが行われたが、有意な所見はなかった、頭部MRIで視床~中脳水道~延髄にかけてFLAIRで高信号を認めて、ウェルニッケ脳症と診断された。

 

 ビタミンB1は11ng.mL(24~66)と低下していた。血液濃縮があり、脱水状態でもあった。ビタミン補充療法と点滴で回復した。

 10月5日の頭部MRIの再検が行われて、FLAIRでの高信号は軽減している。

 10月19日に当院の回復期リハビリ病棟に転院してきた。自力歩行はできるが、ふらつきがある(下肢の運動失調)。会話は可能だが、ナースコールを引っ張ってみたり、変な態勢(何故か壁にへばりつく)でいたりする。

 ついさっきのことも忘れてしまうので、病棟の看護師さんとは常に初対面のようになってしまう。

 10月23日に頭部MRIを行っていて、放射線科の読影レポートでは病変は指摘できないくらいになっている、とあった。ビタミンB1は56ng/mL(20~50)と正常域だった。

 

 

 脳神経内科医のアドバイスは、認知症のテストをして下さい、だった。今後は実家(当院の隣の市)に戻るしかないのだろう。

 

 

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肺癌

2023年10月24日 | 呼吸器疾患

 10月23日(月)に、地域の基幹病院呼吸器内科から肺癌の67歳女性が紹介されてきた。

 9月の段階で緩和ケアになったので、終末期入院を含めた緩和治療をよろしくとなっていた。2018年に大学病院呼吸器内科からの紹介で当院にリハビリ入院したことがあった。

 2017年に左上葉肺癌で手術を受けている。2018年に小脳転移で再発して、脳外科で手術を受けた。手術後のリハビリを依頼されたのだった。ピックアップ歩行器を使用して歩行できるようになって退院していた。

 その後は、2019年に小脳転移が再発している。キナーゼ阻害薬療法(EGFRチロシンキナーゼ阻害薬のオシメルチニブ)が行われていた。

 2023年6月には左前腕転に対して緩和照射が行われていた。9月のPET-CTでは多発性肺結節性病変、左腋窩リンパ節転移があるという。送られてきた9月のCT(通常の)では肺病変はよくわからない。

 左腋窩のリンパ節腫脹は確かにある。左上肢は全体的に、特に前腕から手にかけて浮腫が目立つ。リンパ浮腫なのだろうか。

 内臓転移による悪化よりも左上腕の壊死崩壊が来るのではないだろうか。癌病変と放射線の副作用なので、根本的な治療はできない(切断術もできないだろう)。感染症と出血を来して、コントロール不能になる可能性がある。

 

 基幹病院と当院では通院の手間でそれほど違うわけではない。緩和治療での長期の入院や、入退院は繰り返しには対応できない病院なので、そこは当院でということなのだろう。

 患者さんは東南アジアの出身で、夫とはかなりの年齢差がある。夫は、以前入院した時も妻を大事そうにしていたが、それは変わらない。長年日本で生活しているはずだが、日本語はたどたどしく、理解できないことも多く、紹介状にある通り意思疎通が難しい。

 

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総胆管結石

2023年10月23日 | 消化器疾患

 10月19日(木)の午後に、糖尿病・高血圧症・高脂血症で通院している90歳女性が心窩部痛で外来を受診した。

 

 今年の2月14日に心窩部痛で内科新患を受診した。腹部CTで総胆管結石と診断されていた。胆嚢にも数個の結石があるが、胆嚢炎の所見はなかった。肝機能障害と炎症反応上昇を認めた。

 地域の基幹病院に連絡したが受け入れ困難だった。県庁所在地にある消化器病センターのある専門病院に搬送となった。そこの消化器内科の先生が以前から当院に診療応援に来ている。

 内視鏡的に総胆管結石が摘出されて、無事に戻ってきた。変形性股関節症で歩行器を使用しているが、認知症もなく、元気な方だった。

 

 今回は、本人と家族がそれの再発ではないかと思っての受診だった。その日の午前6時ごろに心窩部痛で目が覚めた。痛みは2時間くらいで治まったそうで、受診時には痛くないという。ただ食欲がなく、朝から水分だけとっていた。

 さっそく腹部CTと点滴・血液検査を行った。その日は月1回の感染管理のラウンドとICT会議があり、その後にコロナ対応についての会議も続けて予定されていた。

 検査室から肝機能障害がかなりあります、と連絡がきた。会議を退席してCTを確認すると、総胆管末端に結石があり、嵌頓しているようだ。嵌頓して結石が動かないと腹痛が治まることがある。

 白血球15900・CRP1.5と炎症反応は発症早期の像で、AST 978・ALT 414・ALP 372・GTP 425・総ビリルビン3.3と著明な肝機能障害を認めた。

 以前の治療があるので、消化器病センターのある病院に連絡を入れた。その日はベットがなく受け入れできないが、翌日に受診してもらえば、対処してくれるという。それでお願いした。

 患者さんに一晩当院に入院して翌日の搬送を勧めたが、腹痛が消失していることから帰宅を希望した。入院の準備をしてから行きたいという。夫と息子さんが付き添っていたが、本人の希望が強く、翌朝に車で連れて行くことになった。

 夜間や翌朝に状態が悪ければ、救急要請して当院にいったん来てもらって、搬送を交渉することにした。点滴500mlと抗菌薬1回を入れて、疼痛時のカロナール500mgを持たせて帰宅とした。

 翌朝まで当院に連絡はなく、家族の車で向かったようだ。乳頭切開は前回しているので、専門医としては処置は楽なのかもしれない。処置の経過観察で入院継続が必要な時は当院で引き取ることにする。

 

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ガーグルベース

2023年10月22日 | 商品名

 10月26日に感染管理の院内勉強会があり、そこで講演をすることになっている。事務から、外部講師の招聘はお金がかかるので、自前で行うようにといわれていた。

 今回は石川県加賀市で開業されている永田理希(ながたりき)先生の著書をもとにして、「シン・かぜ診療」の話をする。

 永田先生は、うがいもトローチもかぜ予防・治療に効果がないと述べている(正確には効果があるというエビデンスはない)。

 かぜのウイルスは鼻咽頭から入って来るので、口腔内を消毒・洗浄してもあまり意味はない。インフルエンザウイルスは粘膜に付着すると、20分で細胞内に入り込む。これを防止しようとすると、20分おきにしなければならない。

 そもそも粘膜に対して消毒薬を使用するのは、粘膜を痛めて、(感染防止に役立つ)常在菌に影響が出てしまう。

 

 ところで、病棟でうがいというより口腔ケアをする時や嘔吐の時に使用している、通称「ガーグルベース」とはどういう意味かと気になった。

 検索をしてみると、あの倉原優先生の「呼吸器内科医」が出てきた。「ガーグルベース」か「ガーグルベースン」か、という題で記事を載せられていた。(2013年6月19日付け)

 英語だとgargle basinで、一般名は「ガーグルベースン」になる。ガーグルgargleは「うがい」で、ベースンbasin(正確にはベイスン)は「たらい」や「盆」にという意味だ。

 製造している大手メーカーのアイエスケー株式会社では、一般名として「口腔衛生汚物受小型ベースン」と記載していて、商品名は「ガーグルベース」にしている。経緯は不明だが、日本では「ベースン」に(耳)馴染みがなかったのため、「ベース」としたのではないか、ということだった。

 つまり、ガーグルベースンは一般名で、ガーグルベースは商品名、なのだった。

 

あしかメディ ガーグルベース 10個入 うがい受け 汚物入れ 口腔ケアに N10027

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