小説的なテクニックは全くたいしたことがないが、実に面白い。
ニーチェについては若いころちょっと興味を覚えて取り組もうとしたが、
難解にあえなく挫折した。
「怪物と戦うものは自分も怪物とならぬよう、気をつけなければならない」
という箴言をたぶん漫画で知って、最初、ツァラトゥストラかく語りき、をな
なめよみして、見つけられず、ニーチェの解説書とか読んで全く理解でき
ず投げ出し、なにかの拍子に 善悪の彼岸 の中の 箴言と間奏曲 の
章にこれを見つけて喜んだは良いが、やはり他の部分を読解することが
できず放擲した。
格好良いから抜き出してみると、
怪物とたたかう者は、みずからも怪物とならぬようこころせよ。
なんじが久しく深淵を見入るとき、深淵もまたなんじを見入るのである。
それ以来、ニーチェとニヒリズムを混同して虚無主義の人なのかなぁ
いずれにしろ、今とは違う時代の人だから、なんて認識でいた。
ところが現代にも通じる、どころか今こそニーチェが透視し予言した
愚民の時代なのである、と書いてある。
確かに時代が変わろうと人間の本質が変わるわけではなく、科学技術
が進歩しても人間の本質が進歩するはずもなく、だからこそシェイクスピア
や論語といった何百年前、何千年前?の書物が読み続けられるのだ
ろうが、偉大なる思想も時を経ても偉大であり続けるのだろう。
この本の面白さとかエッセンスをまとめる能力とか根気は残念ながら無い
ので、なるほどー、と手をうつところがたくさんあったが、とくに印象に残った
フレーズを2つ抜き出してみる。
1,
民族が徹底的にダメになっていくとき、すっかりあきらめてしまったとき、
敵に屈服するすることが一番よい選択だと考えるようになったとき、民族
の神は変質してしまう。今の日本のようにな・・・
2,
高貴であることのしるし、それは自分の義務を、すべての人間の義務に
まで引き下げようとはけっして考えないこと
素晴らしい。
この本への注文としては、
民主主義がキリスト教のルサンチマン思想を引き継いだダメな思想であ
ることはよく分かったが、ではどのような政体がベターなのか、具体的に
示してもらいたい所である。
しかし、自分で考えず、示してもらいたいと要求することはやはり堕落な
のかもしれない。
追記
本書にちりばめられている箴言や哲理は、作者適菜さんが創作したも
のだと思っていたが、ニーチェが書き残したものなのだろうか?
であるとすると、ニーチェ凄い。