ネットで話題作との評判を見て図書館で借りてきた。
読み終えたが、良く分からない小説なのでネットで作者インタビューなどを読んでみたのだが、まだ良く分からない。
読後に知ったのだが、第165回直木賞受賞作だということである。つまりエンターテイメント寄りの小説、と言う事になる。
作者の佐藤究さんも、自分は(純文学作家として)一度死んで、エンタメ作家として生き返ったんですよ、みたいな事をインタビューで語っているので、大枠はエンターテイメント小説として書かれたのだと思うが、それにしてはサービス精神が薄いような気がする。
臓器売買の世界を追った「レッドマーケット」というノンフィクションに触発された、ということだが影響され過ぎてうまく消化しきれないまま書かれたのではないだろうか?
もうちょっと筋立てをシンプルにして、コシモの母親のエピソードや、日本に流れてきたメキシカン・マフィアのバルミロのエピソードは省いても良かったのでは?
でもそうすると、生贄をささげるアステカの宗教が、臓器移植と重なってこないからストーリーが薄くなってしまうか…。
自分としては、まずバルミロが日本まで流れてきて、臓器移植ビジネスに関わるというのがありえないような気がするのだ。力で敵も味方をねじ伏せ支配し、巨万の富を得ていた麻薬マフィアのボスが対立組織に敗れて外国に逃れ、身一つで屋台から再度身を起こす、とか不自然に思えてならない。しかも兄弟、妻、子供を皆殺しにされているのにである。
とりあえず現場から脱出したらすぐにでも味方を呼び集めて反撃するはずだと思うし、屋台から再起して復讐とかそんなのんびりやらないと思う。
麻薬マフィア同士の戦いの場面とか、日本に流れてきたバルミロがはぐれ者の犯罪者を集めて「殺し屋」(シカリオ)として訓練する場面とか、コカイン中毒になった宇野矢鈴とか、個々の場面は全部面白いのだがうまくくっついていない。
違う物語がいくつか強引にくっつけられているような気がした。
麻薬マフィアの場面を最初に読んだときは、ドン・ウィンズロウの影響を受けているのかな、と思ったが、コーマック・マッカーシーの「血と暴力の国」という小説(映画「ノーカントリー」の原作)の影響がある、とインタビューで語っておられた。
だから臓器移植とか麻薬戦争とか影響をうけた物語をアステカの人身御供を接着剤としてくっつけて、エンターテイメントとして打ち出したが、うまく融合できてないような。
だけど文章家としての腕は熟練されているので、個々の場面、場面は生き生きとして面白い、ということになったのではないか、というのが今の所の自分の感想だ。
ひとつ良かった事は、佐藤究さんは多分、異常な性癖とか嗜好がないので、下手をすればえげつない小児スプラッター小説になりかねない題材だが、そういった描写は全くなかった。
暴力描写についても過激であると評判だが、作者本人は多分あまりそういった事に興味がなく、エンターテイメントに必要だから描いている、という構えなのではないだろうか?夢枕獏さんのセクシー描写と同じ、といったら失礼かもしれないが、夢枕さんの小説の濡れ場でムラムラする事がないのと同じように、いくら酷い虐殺シーンが出てきても、やめて!と思うような事はなかった。
酷い目に合うのは悪人ばかりで、読後の後味は悪くなかった。