那須太社 錦輔 の日記

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MR 久坂部羊

2022-10-30 20:38:49 | 読書感想文

ネットの書評で興味を覚えて図書館で借りた。

自分も昔、医療機関へシステム導入するSierの下請けに入って病院に出入りしたことがあったが、再下請けという立場だったので病院相手に直接営業する元請けの営業さんの姿を見る事はあまりなかった。

それでもちらっとかいま見る姿は、自信満々の人もいれば、疲れ果てて神経が切れそうに見える人もいた。

たまたま書評を読んで、そういえばMRってどういう事してるんだろう、と昔を思い出したのである。

読んだら実に面白い。

自分も若いころから法人対象の営業を20年近くやったものだが、こんな濃密な営業はやってなかった。

ここまでやるなら、確かに高い給料もらえるよな、と思った。

久坂部羊さんは医師だそうで、この作品は2021年出版で最近の作品。

もう何作も書いておられるようで、それでこの密度だとしたらこれから他の作品を読むのが楽しみ(このような自分の経験をもとに書く方は1作目が一番面白い、ような気がするので)。

素晴らしいエンターテイメントだった。

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無垢なる者たちの煉獄 カリーヌ・ジエベル

2022-10-26 17:42:10 | 読書感想文

凶悪な強盗が押し入った家は、サイコパスが棲む館だった、という小説。

悪対悪で多少コメディタッチかと思っていたが、そうではなかった。

片方の悪は自分なりの規範があって男らしさのある人物で、悪ではなく善玉として描かれる。

彼がサイコパスにいたぶられるので、なかなか読むのがしんどかった。

作家が女性だからか、いたぶり方もあまり読んだことのない感じで、どこがどう違う、というのをうまく言葉にできないが、ネチッこくて閉じ込められる恐怖感、みたいなものを感じたし、サイコスリラーで変質者が犠牲者を監禁するシーンは良くあるが、いちばん嫌らしい感じがした。

ラストはややあっけない感じ。

悪い奴にもっとやり返して欲しかったな。

 

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テスカポリトカ 佐藤究

2022-10-23 20:57:53 | 読書感想文

ネットで話題作との評判を見て図書館で借りてきた。

読み終えたが、良く分からない小説なのでネットで作者インタビューなどを読んでみたのだが、まだ良く分からない。

読後に知ったのだが、第165回直木賞受賞作だということである。つまりエンターテイメント寄りの小説、と言う事になる。

作者の佐藤究さんも、自分は(純文学作家として)一度死んで、エンタメ作家として生き返ったんですよ、みたいな事をインタビューで語っているので、大枠はエンターテイメント小説として書かれたのだと思うが、それにしてはサービス精神が薄いような気がする。

臓器売買の世界を追った「レッドマーケット」というノンフィクションに触発された、ということだが影響され過ぎてうまく消化しきれないまま書かれたのではないだろうか?

もうちょっと筋立てをシンプルにして、コシモの母親のエピソードや、日本に流れてきたメキシカン・マフィアのバルミロのエピソードは省いても良かったのでは?

でもそうすると、生贄をささげるアステカの宗教が、臓器移植と重なってこないからストーリーが薄くなってしまうか…。

自分としては、まずバルミロが日本まで流れてきて、臓器移植ビジネスに関わるというのがありえないような気がするのだ。力で敵も味方をねじ伏せ支配し、巨万の富を得ていた麻薬マフィアのボスが対立組織に敗れて外国に逃れ、身一つで屋台から再度身を起こす、とか不自然に思えてならない。しかも兄弟、妻、子供を皆殺しにされているのにである。

とりあえず現場から脱出したらすぐにでも味方を呼び集めて反撃するはずだと思うし、屋台から再起して復讐とかそんなのんびりやらないと思う。

麻薬マフィア同士の戦いの場面とか、日本に流れてきたバルミロがはぐれ者の犯罪者を集めて「殺し屋」(シカリオ)として訓練する場面とか、コカイン中毒になった宇野矢鈴とか、個々の場面は全部面白いのだがうまくくっついていない。

違う物語がいくつか強引にくっつけられているような気がした。

麻薬マフィアの場面を最初に読んだときは、ドン・ウィンズロウの影響を受けているのかな、と思ったが、コーマック・マッカーシーの「血と暴力の国」という小説(映画「ノーカントリー」の原作)の影響がある、とインタビューで語っておられた。

だから臓器移植とか麻薬戦争とか影響をうけた物語をアステカの人身御供を接着剤としてくっつけて、エンターテイメントとして打ち出したが、うまく融合できてないような。

だけど文章家としての腕は熟練されているので、個々の場面、場面は生き生きとして面白い、ということになったのではないか、というのが今の所の自分の感想だ。

 

ひとつ良かった事は、佐藤究さんは多分、異常な性癖とか嗜好がないので、下手をすればえげつない小児スプラッター小説になりかねない題材だが、そういった描写は全くなかった。

暴力描写についても過激であると評判だが、作者本人は多分あまりそういった事に興味がなく、エンターテイメントに必要だから描いている、という構えなのではないだろうか?夢枕獏さんのセクシー描写と同じ、といったら失礼かもしれないが、夢枕さんの小説の濡れ場でムラムラする事がないのと同じように、いくら酷い虐殺シーンが出てきても、やめて!と思うような事はなかった。

酷い目に合うのは悪人ばかりで、読後の後味は悪くなかった。

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破船 吉村昭

2022-10-20 09:41:11 | 読書感想文

図書館で借りた本。

粗筋というか設定は知っていた。

とある貧しい海辺の集落では嵐の夜、船を難破させて積み荷を自分たちの物にするために、浜辺で火を灯して暗礁へと船を呼び寄せる風習があった。しかし、ある時彼らは思いもよらぬ事態におちいったのである、みたいな話で、悪い風習に染まった集落の人々の悪行と、それがあばかれ罰せられるところが描かれているのだろうと想像していた。

しかし、ちょっと違った。

誰も悪い人がいない。

主人公の少年はもちろん、その母親も、周りの漁師も、村長も、相談役も誰も悪くない。

あまりにも住んでいる環境が厳しすぎて、あまりにも貧しいため、ただ日々生き抜くだけで精一杯で、年に一度あるかないかの「お船様」のおかげで細々とかろうじて生きながらえている村なのである。

だから村人は破船の乗組員を容赦なく皆殺しにするが、その略奪対象を「お船様」と呼ぶ。

 

そのあと、彼らが災厄に襲い掛かられてからは案外淡々としていて、やや、尻切れトンボのような気がした。

 

あと、新潮文庫のカバーが小野具定さんという方の絵だが、中々良いと思った。

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黄金探索者 J・M・G・ル・クレジオ

2022-10-15 16:15:35 | 読書感想文

ネットの書評を見てチャレンジしてみたが、読みづらくて断念。

一人称で改行も少なく、読みづらい。

会話とか良いな、と思う部分もあったのだが。

P43

「ごらんなさいな、あそこ・・・あれはオリオン座のてっぺんにあるベテルジューズじゃないかしら。それからあの三ツ星!北のほうをごらんなさいな。おおぐま座が見えるわ。何て言うのかしら、おおぐま座の一番端、轅(ながえ)の上にあるあの星?」

僕はありったけの力をこめて見つめるが、マムの言う星を見ているか確信がない。

「おおぐま座の一番上にある小さな星のこと?」それが今夜はいつになく大事なことのように、父は重々しい口調で訊く。

「ええ、そうよ。ずいぶん小さいけれど、見えるわ。かと思うと消えてしまうわ」

「あれはアルコールさ。『おおぐま座の御者』とも言うんだ。アルコールと名付けたのはアラブ人なんだ。『試す』という意味なんだが、それはあの星がたいそう小さくて、ほんとうにいい目をしている人にしか見えないからさ」ーーーー父は一瞬黙る。それからもっと明るい声でマムに言うーーー「君はいい目をしているなあ。僕にはもうあれを見ることはできないよ」

 

おおぐま座 アルコル

https://hirokami1024.com/hokuto7/

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