図書館にあったので借りてきた。
UWFとかリングスについては、主にリングに上がった外国人選手の発言を元に完全にプロレスである、と言い切っているところが良い。
そこの所をレスラーの言うがままに書いていた佐山さとるの本の著者とは全然違う。
ただ、パンクラスについてはその開幕戦のみレビューしているが、リアルファイト、真剣勝負であるかのような論調でやや不満。
自分は当時盛り上がりつつあった格闘技は好きだったがUWF以前のプロレスについてはまったくファンではなかったが、本書にあるようにメディアの加熱にあおられてUWFを追っかけた口である。
ジワッとくる良いエピソードがたくさんある。
P325:修斗の坂本一弘氏
「俺がお前らの年齢のときに俺がいたら俺は凄いよ」とある日、佐山先生が俺たちに言ったことがあります。30歳の佐山聡が20歳の佐山聡に教えていたら、とんでもない選手が育っただろう、という意味です。
でも、佐山先生が現役選手をやることは不可能だった。
ああ、この人は自分が本当にやりたかった格闘技ができないんだ。だったら俺がやろう、と思いました。僕たちは死にものぐるいでやらないといけない。たとえ、練習で死んだとしても、やり続けなきゃいけない、と」
こういう言葉をつむげる坂本氏はなんという天才だろうか。
なんと素晴らしい師弟関係。
なぜか宮沢賢治が思い出される。
P344:神元社長のエピソード
私財を投じ、UWFのため身を粉にしてきた神氏が、前田氏らに会社の金を使い込んでいると邪推され、クーデターのように組織を追われることとなり、長野からの帰路、車中でずっと泣いていた。
P377:記者の藁谷浩一氏のバーリ・トゥード・ジャパン・オープン95の記憶
「試合について実際に覚えているのは、断片的な風景だ。・・・もう少し鮮明に覚えているのは、自分の感情である。中井に対して汚い野次を飛ばし続け、ゴルドーが殴ると喝采を叫んでいた、暴力しか求めいていない観客たちである。・・・だが、彼らより殺気立っていたのは私のほうだ。観客に殺意を抱いたのは、記者生活で他に記憶がない」
大勢の観客が、中井選手に対して野次を飛ばしゴルドーに喝采を送っていたのは見た。
彼らは、プロレスファンだったのだと思う。
彼らは単純に暴力を求めていたのではなく、プロレスに異を唱えた、中井を憎んで、彼が痛めつけられる光景に快哉を叫んでいたのだと思う。
それに対してこちらもはらわたが煮えくり返った。
面白かった。