奥様への賛歌。
自分のことを書いているわけで美化したり誤魔化したりもあるのかもしれないけど、綴られている奥様との良き日々の思い出を読んでいるとほんとに良いご夫婦で、決して猪瀬さんが巷間言われているような悪人ではないと思わされる。
電車の中で読んでいたが涙が出てきて困った。
間に挟みこまれている、微笑子の物語、という奥様の文章を猪瀬さんがダイジェストされた挿話がまた泣けてくる。
微笑子はニコニコしているけどオドオドしている言語障害の女の子。
担任した奥様が(小学校教師)、少しずつしゃべれるようにと女の子の心に近づこうとする。
奥様(と猪瀬さん)の文章からうかびあがってくる少女は、痛々しいほど邪気がない。
お兄ちゃんに疎まれて叩かれても抗うすべをもたず、うずくまるだけだった女の子、お父さんにもかわいがってもらえない、お母さんも無関心。
はたからみればブツブツ独り言を言っている、髪の毛がボサボサの気味の悪い子。
でもその少女は、奥様の厳しい指導に目の周りを真っ赤にして、がんばる。すこしずつ良くなっていく。
お母さんも少女のことを気にかけるようになり、お父さんも少女をかわいがるようになっていく。
そんな微笑子のその後のことはわからない。3年間の期間がすぎて奥様の手を離れたのである。
奥様(と猪瀬さん)の文章も、「微笑子の小さな物語も咲いてほしいと願いつつ、ペンを置く。」で終わっている。
先生がずっと生徒に付き添っていくことはできないのだから、時が来たら生徒のことをご家族に任せて去っていくしかないのかな。
奥様は妹を叩く兄を非難するような書き方はまったくされてない。ただ、お母さんやお父さんが微笑子を気にかけ、かわいがる様になってきたことは喜びをもって記録されている。
こういう病気の子は全国にたくさん(500万人)いるのだという。そして、適切な指導がなされれば直る、とされているそうだ。
幸あれかし、と願う。
フェンシングの大田選手や滝川クリステルさんも五輪誘致のために猪瀬さんと共に戦った。猪瀬さんは招致活動の激務のさなか、奥様のことをこらえきれずお二人に漏らし、大田選手は号泣され滝川さんも涙を流されたという。
しかし、猪瀬さんはその後、都知事選の公職選挙法違反だかで起訴され知事を辞任されで、お二人にはなんか猪瀬さんに裏切られたような気持ちがあったかもしれないが、この本を読まれたら、そんなことはないんだ、とお二人も思われるのではないだろうか。
5000万円の事についても、猪瀬さんの言い分は書いてあり、真偽は自分には分からないが、つじつまは合っていると思う。
かくいう自分も当時はメディアに集中攻撃される猪瀬さんを嘲笑していたのである。果たして本当はどうだったのか、は分からないがこの本はそれとは関係なく凄く良い。
奥様の書かれた連絡帳や日誌、昔の歌謡曲の歌詞、お子さんの作文、各界の作品からの抜粋などもたくさん織り込まれていて、なんというか華やかというか賑やかな文章である。猪瀬さんは私小説的なものはこれまで一切書いたことがないそうだが、技巧的にも小説が上手いなぁと思った。
奥様の文章の抜粋がやはり多いのだが、読み進めるにつれてなんと人柄の良い素敵な女性なんだろう、と思わされていく。
猪瀬さん渾身の奥様への賛歌でありました。良い読書体験をさせてもらいました。