医者は、和子が、5年もの間眠り続けていたこと、そしてその間、私が、どれほどの熱意と愛情を注いで看護をしてきたかを、彼女に語り始めていた。彼女は、目覚めたばかりの意識と、同じように5年間眠り続けてきた筋力を振り絞って、顔を私の方に向け、助けを求めていた。私は、医者と看護士がなすべきことを終えると、2人だけにしてもらうよう彼らに言い、彼らが病室を出て行ったのを見届けると、和子が不快に感じない程度に、ぽつりぽつりと、今までのことを自らも振り返るように、彼女に話し始めた。
和子は、話を遮ることもなく、相づちさえ打たずに、ただ、時折、また眠りに就くかのように、まぶたを閉じては、力無く目を開き、天井を見つめたりしていた。私の話は、どこで終わり、という訳でもなく、沈黙の合間に独り言をつぶやいている、という感じで、あの事故のことに関してはなるべく触れないようにしていた。しかし、この、目の前にある現実の姿のきっかけがあの事故である以上、言葉には出さなくても、私の語るその全てが、あの悪夢を思い出させてしまうのは、無理も無い話だった。
(つづく)
和子は、話を遮ることもなく、相づちさえ打たずに、ただ、時折、また眠りに就くかのように、まぶたを閉じては、力無く目を開き、天井を見つめたりしていた。私の話は、どこで終わり、という訳でもなく、沈黙の合間に独り言をつぶやいている、という感じで、あの事故のことに関してはなるべく触れないようにしていた。しかし、この、目の前にある現実の姿のきっかけがあの事故である以上、言葉には出さなくても、私の語るその全てが、あの悪夢を思い出させてしまうのは、無理も無い話だった。
(つづく)