すずりんの日記

動物好き&読書好き集まれ~!

小説「雪の降る光景」小休止4

2006年10月16日 | 小説「雪の降る光景」
さ、第1章、終わりましたね~。
最近、小説を載せた日のアクセス数が、
普段の倍近くになっていることが多く、
少しずつ、みなさんに読んでいただいているようなのがとてもうれしいです。

先日、出版社に違う小説の原稿を送って、担当の方に読んでいただきました。
とっても良い感じの感想を持っていただいたのですが、
私の方の感触は、・・・う~ん。どこまでが営業かなぁ、といった感じで、
とりあえずは実際の本の出版、ということでなく、
また改めて、他のコンテストにも挑戦したい、という思いを伝えました。
でも近々、札幌で出版に関してのセミナーが行われる、とのことで、
ちょっと行ってみようと思っています。

今、短編と長編を1編ずつ、コンテストに応募してみようと考えています。

で、その長編の応募予定の作品が、この「雪の降る光景」です。

応募するまでに、手直ししつつ、
ここにも載せていきます。
応募までに、結末まで行けるかわかりませんが、
次から第2章が始まりますので、
また読んでみてください


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小説「改・雪の降る光景」第1章Ⅱ~終

2006年10月15日 | 小説「雪の降る光景」
 「ねぇ、兄さん、兄さんはどう思う?」
「どう思うって?」
「チャップリンよ。チャップリンの、『独裁者』、どう、感動的じゃない?」
私の仕事を、ナチ党の事務員だと信じて疑わないアネットは、無邪気に言った。
「あぁ、確かにな。」
「彼の訴えている人道主義に、心を打たれるでしょう?」
「あぁ、確かにな。」
「もう兄さんたら!他に言うことは無いの?」
クラウスは、徐々にアネットの口調が刺々しくなってきたのを感じ取り、急に黙々とパンをちぎって口に入れ始めた。
「確かに、彼が作り出す作品が訴えることは、もっともなことかもしれない。しかし、だから何だと言うんだ?」
「兄さんは、たくさんの人が訳も無く逮捕されたり殺されたりしている今の戦争に、何も感じないの?」
「“訳も無く逮捕されたり殺されたりしている”んじゃない。彼らは、ユダヤという、生まれながらにこうなる理由がある。彼らに対して、我々がいちいち何かを感じてやる理由が無いんだ。・・・私はな、おまえたち2人が結婚して幸福になってさえくれれば、他には何もいらないよ。」
アネットとクラウスは、互いに顔を見合わせ、同じように顔を真っ赤にしてうつむいた。
「それに・・・」
私は、冷めてしまったスープに泳がしていたスプーンを置き、席を立つ用意をした。
「1人の人間を殺した者は犯罪者としての扱いを受けるが、100万人人間を殺した者は、英雄として世に受け入れられるものなんだよ。・・・いずれ、おまえたちが愛するチャーリー(チャップリン)も、全世界から追放しなければな。」

 私は、自分のベッドに横たわりながら、ヤヌスという、奇形の双頭神をふと思い出し、その、互いに反対の方向を向く2つの頭にそれぞれ、チャップリンと総統の面影を重ね合わせた。彼らは似ている。しかし、全く似ていない。少なくとも私にとって彼らは、善と悪といった次元での存在ではない。ただ、出来が良いか悪いか、それだけなのだ。出来が良い方も悪い方も、そう違いがあるわけではない。アドルフ・ヒトラーという人間に対して、親の―――それもどちらかというと母性に近い―――愛情というものを、私が抱いているとしたら、もう片方にチャールズ・チャップリンの頭を持つその存在自体を、私がいとおしく感じているのは間違いない。とすれば、私は彼を追放する気など無いということか・・・。
 目を閉じると、自分のそんな思いも全て、事実として受け入れられるような気がする。しかし、ナチスの私にとっては、その事実があまりにも夢うつつのように思えてならないのだ。このことは、この戦争が終わったとき、初めてゆっくりと噛み締めることができるだろう。

 私は、自分が足を踏み入れてしまった運命に、かすかな不安を覚えたが、その不安が、何に基づいたものなのか答えを出すことができないまま、いつしか眠りに就いた。


(第1章Ⅱ・終わり、第2章へつづく)

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10月体重測定

2006年10月14日 | 
写真は、ちぃです。

左から、8月、9月、そして今回の体重です。

ねね 5.0kg → 4.6kg → 4.8kg(0.2kg増)
はろ 5.8kg → 5.8kg → 5.6kg(0.2kg減)
すず 4.6kg → 4.0kg → 4.2kg(0.2kg増)
りん 4.8kg → 4.8kg → 4.4kg(0.4kg減)
ちぃ 2.6kg → 2.4kg → 3.6kg(1.2kg増)

りんのダイエット作戦は成功してるのに、
今度はちぃの体重がかなり増えてます。

計り間違いでなければ、1点だけ心当たりが・・・。
最近、ちぃたちの外食(虫、ネズミ)が増えてるような気がしていたんです。
ご飯をちゃんと食べた後、平気でネズミとか捕ってきてるし。

ちぃもダイエットかなぁ
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小説「改・雪の降る光景」第1章Ⅱ~7

2006年10月13日 | 小説「雪の降る光景」
 アネットが、無造作に、両手に持ったスープの皿をテーブルに置いた。
「さぁ、兄さん、そんな暗い顔をしないで!元気を出してちょうだい!クラウスも、さぁ遠慮しないで!」
クラウスの家はうちの隣で、父親の代からパン屋を営んでいた。私たちとクラウスの父親同士が幼馴染みで、私たちの両親が、アネットがようやく立って歩けるようになった頃に病気で相次いで亡くなった時から、毎日食事時になるとクラウスの両親が家に誘ってくれていた。その後、クラウスの両親が第1次大戦の戦火に巻き込まれ、クラウスをかばって母親が亡くなり、その際に負った重傷が元で半年後に父親が亡くなった。すると今度は、今までの恩返しにうちの食卓にクラウスを誘うようになったのだ。根っから明るいクラウスの存在は、今までずっと私たち兄妹の支えだったし、クラウスもそう感じているだろう。アネットとクラウスが将来結婚してくれることは、私にとって、この上ない喜びだった。
 アネットは毎日クラウスが焼いてくれるパンの入った籠をテーブルの中央に置き、自分の席に着いた。
「お待ちどうさま!さ、いただきましょう。」
アネットの、この“お待ちどうさま”が私たちのいただきますの合図だった。
クラウスは、その言葉が終わらないうちに、大柄な彼らしく、一口で入りきらないほどのパンの塊を、スープに豪快に浸した。
「うん、これはうまい!アネット、君は料理の天才だよ!」


 ―――私は、総統が狂気の頂点に昇りつめることを望んでいる。私は、総統がユダヤを殺すことを望んでいる。私は、総統が1000年帝国を作り上げることを望んでいる。・・・私は、彼がいとおしいのだ。


 「・・・こうして、オスタリッチの首都に着いた床屋は、今、併合を宣言すべく壇上に立った。そしてマイクに向かってこう言ったのだ!『私は皇帝になりたくない。誰も支配したくない。ユダヤ人も、黒人も。・・・人生は、楽しく自由であるべきだが、貪欲が人間の心を毒し、世界中に憎しみの垣根を作ってしまった。・・・ハンナ!見上げてごらん。雲が切れて、太陽が差し込んできているよ。暗い世界から抜け出し、私たちは光明の世界にいるんだ。ハンナ!お聞き・・・。』」
「『独裁者』かね?」
「えぇ、ラストのチャーリーのセリフですよ。・・・どうだい、アネット?」
「いつ聞いても感動的だわ!あぁ、一度でいいからチャーリーの凛々しい姿を見てみたいものだわ。」
クラウスは、うっとりした顔のアネットをたしなめるように言った。
「それは無理な話だよ、アネット。だってそうだろう?彼の姿を見、彼の言葉を聞いた人間は涙を流して、彼の“人間主義”に賛同せずにはいられなくなるんだ。そうすれば、独裁政治を正当化しようとしている政治家は、生きてはいられなくなるんだからね。」
私は、19世紀にフランス人が愛して止まなかった、あの、“ギロチン”が、今ここに無くて良かった、と思った。


(つづく)

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カミナリが!!

2006年10月12日 | ちょっとしたこと
昨日、今日となんだか天気が不安定です。
これって、北海道だけ?
それともうちの周辺だけでしょうか。

昨日の夜中、熟睡中いきなり、

ドーーン!!

と音がして、飛び起きました。
もちろんネコたちも飛び起きました。
どこかでカミナリが落ちたようなすごい音。

実際にどこか近くで落雷の被害があったという話は聞きませんが、
会社の電話線が不通になり、
放牧地に放されていた馬が1頭、死んでしまいました。
たぶん、カミナリに驚いて、走り出した拍子にひっくり返ったようで、
腰の骨が折れていた、ということでした。

お腹には、来年産まれる予定の胎児がいたのに。
かわいそうなことをしました。


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小説「改・雪の降る光景」第1章Ⅱ~6

2006年10月11日 | 小説「雪の降る光景」
 私は午後の実験の報告書にサインをし、デスクの上に、白衣と一緒にその書類を放り投げて、今日の任務を終えた。
まっすぐ家に帰ると、妹のアネットが、お帰りなさい、と叫んだ。
「お邪魔していますよ。」
妹の婚約者であるパン屋のクラウスが夕食に招かれて、使い古したテーブルに着いていた。妹は、奥のキッチンに立って、黙々と料理を作っていた。クラウスは、我々と同じドイツ人でありながら、我々ナチスのやり方に反感を持っている。彼は、ナチスとしての私を憎み、私は、反ナチ分子としての彼を憎んでいる。そんな彼を、どうしてよりによって妹の恋人として認めているかと言えば・・・、簡単なことだ。私は彼を反ナチとして見た事は無いし、彼もまた、私をナチスの一員として見た事が無いのだ。もし、私と彼が、ナチスと反ナチとしての関係であったなら、その間に立つ妹はどうなってしまうだろう。私は妹を愛している。そして、クラウスも。彼らは、ナチスとして、ではなく、1人の人間としての、私の最後の砦といっていいだろう。
「総統は、お元気ですか?」
クラウスは、皮肉たっぷりに言った。
「あぁ、相変わらずだよ。」
私はそうつぶやくと、クラウスと向かい合ってテーブルに着いた。

 アネットとクラウスが、私が人として生きていくための最後の砦なら、アドルフ・ヒトラーという人間も、私がナチスとして生きていくために必要不可欠な存在かもしれない。私にとって彼の存在は、“手の付けられないわがままな子供”のようなものなのではないかと思う。ただ、普通の子供と違うのは、彼のわがままを、狂気が支配しているということだ。そう。彼は狂っている。しかし、それが何だというのだ。正気を失っている彼の下で働いている私たちが、はたして彼を、彼が狂っているということを、非難することができるのだろうか。所詮、正しい者の下では狂った者はやっていけないし、狂った者の下では正しい者はやってはいけないのだ。私は彼の敵に回ることはできないし、彼を見殺しにすることもできない。・・・彼が死ぬ時、自分も死ぬ。それは、我がドイツの支配者とその部下としての感情ではない。例えば、知恵遅れでわがままに育った子供を守るために他人への迷惑をも黙認してしまう母親の愛情のようなものだ。「君とエバは、唯一この世の中で、アドルフ・ヒトラーを、アドルフ・ヒトラーとして見ている。つまり、血のつながった父と母のようなものだと言っているんだよ。」―――何の深い意味も無くそう言ってのけたボルマンの屈託の無い笑顔が、一瞬、脳裏をかすめた。
 アドルフ・ヒトラーに、本当の意味で親としての愛情を注いでいるのが、彼の産みの親ではなくこの私だとしたら、・・・それが事実なら、私が彼に注ぐ愛情と全く同じものを、この私に対して注いでくれているのは、はたして誰なのだろうか。いや、“誰なのか”というよりも、“存在するのか”と問うた方が良いかもしれない。私を包み込んでくれるもの、そのようなものがこの世にあるのだろうか。人でなくても良い。犬でも、猫でも、馬でも、山でも、海でも、雲でも、雪でも。・・・そう。何も語らずとも、ただ、真っ白な雪が、私の、頭や肩や手のひらに降り注ぐ・・・。ただ、それだけで、良いのだ。


(つづく)

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ねねマクラ

2006年10月10日 | 
ちぃは完全に、ねねをマクラにしてますね。
それだけ信頼して眠ってるんですね~

写真は、ねねとちぃ、後ろにはろとすずも写ってます。

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小説「改・雪の降る光景」第1章Ⅱ~5

2006年10月09日 | 小説「雪の降る光景」
 「イギリスの御方には、少し刺激が強すぎましたかな?」
「私はイギリス陸軍第5編隊の、ディック・アンダーソン少佐だ。我がイギリス軍には、敵軍の中にあって怯える者など1人もいない!」
「・・・私たちにとってあなたは、ただの実験材料に過ぎません。あなたが何という名であろうと知ったことではありませんよ。あえて言うなら、あなたの名前は、“サンプルナンバー725”といったところですよ。」
「・・・サンプル・・・。」
私は、充分に彼に自分の今の立場を噛み締めさせるための間を与え、言葉を続けた。
「そう。それも、ただのサンプルではない。困ったことに、軍人は気が弱く、虚栄心が強い。また、軍隊という温室の中で育ち、その上あなたは、少佐などという肩書きまで持っている。
「イギリス軍隊は温室ではない!」
イギリス兵士は、拳を怒りで震わせていた。
「あなたたち軍人が、日頃どのような訓練を受け、健全で強靭な肉体を作り上げているかは知らないが、いざ敵に捕まると、軍人は必ず、自分の肩書きを以って死から逃れようとする。自分の率いていた部隊を敵地へと導いた、自分の作戦の失敗に対する償いを棚に上げてね。」
「我々はそんな腰抜けではない!」
私は、一瞬彼から視線を外し、改めて諭すように彼を見上げた。
「いいえ。あなたの隣でたった今死んだ老人のように、肩書きも富も無い、名も無い人間こそ、ただ純粋に、自分の運命を呪って厳然と死に臨むのです。」
「それ以上の侮辱は許さんぞ!」
「それならあなたに身を以って見せていただくしかありませんな。これ以上生きて恥をさらすよりも、自分は、死して我が過ちを償う、と。」
今までの強気な態度が、一気に影を潜めた。いや、影を潜めた今見せたあの蒼白な顔つきこそが、彼の本当の姿なのだ。もう、彼は大丈夫だろう。
「そうでなければ、愛すべきイギリスの名を汚すことにもなります。」
 彼は、目の前のロープを凝視し、ごくっと唾を飲んだ。彼が返事をせず、ゆっくりと両手を上げて、自らの力でロープをつかんだので、私は黙ってそれを見ていた。そして、私が少し長い瞬きをした時、彼は、その言葉通り、死を以って祖国イギリスへの償いを終えた。高い鉄骨の上にあったはずの彼の足が、私の目の前で、力無く揺れていた。
「実験が・・・終了、しました。」
足場の上で、力を振り絞ってサンプルナンバー725のロープを解いていた入所3ヶ月の若者は、そうつぶやくと、そのまま気を失った。


(つづく)

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すごい嵐です。

2006年10月08日 | 
雨は今日の昼過ぎくらいで止んだんですが、
風がすごいです。
近くで雷が鳴っているような音をさせて、風が吹いています。

こんな時、はろは、
外に出られないストレスを、こうやって、
スヤスヤと寝ているねねにケンカをしかけて発散します。
なぜそうするかというと、
ねね以外だと、自分が負けてしまって、
さらにストレスがたまってしまうからです。

ねねにたまったストレスは、どうするんでしょう
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小説「改・雪の降る光景」第1章Ⅱ~4

2006年10月07日 | 小説「雪の降る光景」
 サンプルと同じ部屋にいた1人が、私たちのいる部屋に入って来て、こう言った。
「用意が整いました。」
私が軽くうなづくと、それを見て、1人が右手を上げ、ガラス越しに隣の部屋にいる仲間に合図を送った。
 ユダヤ人の老人は、横に立っている研究員に軽く背中を押されて、あっけなくロープの輪の中に顔を収めてしまった。そして、前に押されるまま、一歩一歩力無く足をずらしていった。老人の動きが、ほんの少しためらいを感じたように見えたちょうどその時、彼の足は宙を歩き、彼の首はロープの摩擦でギリッと音を立てた。この瞬間、この事実から目を背けたのは、サンプルの横に突っ立っていた、入所3ケ月目の若者だけであった。私を始め、私の横に一列に並んでデータを取っていた5人の部下は、顔を背けるどころか、ペンを持つ指先以外は、ぴくりとも動かさなかった。誰も声を立てず、誰も途中で止めようとはしなかった。サンプルの足が台を探り、ばたつき、そしてヒクヒクと小刻みに震えを来した。ロープの輪は次第に首に食い込み、ギシギシという音に混じって、ヒュウヒュウという、ロープで潰された気管からわずかに漏れる呼吸音が聞こえる時には、既にサンプルの顔は死の恐怖を迎える気力も無く、一種の放心状態になっていた。爪先に、その台の感触を感じて老人は最後の力を振り絞ったが、無駄であった。とうとう力尽き、老人は何の物音も発しなくなった。
「7秒です。」
誰かがそう言った。さっきまで息をしていた人間が首を吊ってから呼吸が停止するまでの長い7秒間を、ずっと目を背け、吐き気を催しながら耐えてきた若い研究員は、静かにロープを緩め、遺体を床に降ろした。
 そしてその7秒間が、長く両目に焼き付いて離れないもう1人の人物は、気丈に、その震えを最小限に食い止めているようだった。部下が足場を伝って、すこし離れたそのイギリス兵士の横に立った時、若者の目は正気を失いかけていた。
「私が中に入ろう。」
私は、万が一、このサンプルがこの場から逃げようとした場合、それを食い止めるのに、吐き気を催し膝をがくがくさせている若者1人だけでは困難だと判断し、隣の部屋に入った。高い場所から私を見下ろしている部下に、無理をするな、黙って立っていろと目で合図を送り、今閉めたドアの側を離れて、彼が落ちるべき場所に向かってゆっくりと歩きながら、私は彼を見上げた。


(つづく)

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獅子王の心

2006年10月06日 | ちょっとしたこと
「各各師子王の心を取り出だして、いかに人おどすともおづる事なかれ、
師子王は百獣におじず、師子の子又かくのごとし」

どんなに強大な権威、権力の迫害に遭っても、
「獅子王の心」で戦うべきである。

この、「獅子王の心」は、
本来どんな人の胸中にもあります。
だからこそ、その心を「取り出だして」立ち向かっていけば、
何も恐れることは無いんです。

これは、今日の、そして明日からの自分に対して、
私自身が言いきかせている言葉です。

私は、今日も、そして明日からも、
経営者でありながらその誤った経営のあり方の責任を、
一事務員に転嫁させるような、くだらない人間と、
それを見て見ぬ振りをして逃げている無責任な人間に負けるわけにはいきません。

現状は厳しいし、辛いです。苦しいです。
でも、その畜生以下の人間の姑息なやり方に負けたら、退いたら、
私の5人の大事な家族の生活が無くなってしまうし、
共に同じ思いで激励しながらいてくれた、
大好きな人たちがもっと辛い目に遭うかもしれない。
もしくは、くだらないやり方でいじめる相手を代えるだけです。
他には何も変わらない。

こんな姑息な人間は、世の中にまだまだたくさんいるんでしょうね。
そして、私のこんな考えを、同僚は案外、
同じ思いではいないのかもしれません。

それでもいいです。
だってこれは私の戦いだし、私がこんな人間に負けて、
ここから逃げ出して他の場所に行っても、
私はそこでまた、同じような人間と出遭ってしまうでしょうから。
だからここで、自分がとことん納得するまで戦います。
そして、その結果、讒言によって、
私がここを去ることがあったら、
私は喜んで去るし、こんなところにもう、用はありません。
その時には私はきっと、今より少しは強い人間になっていて、
他の場所に行っても、そこでも負けることは無いだろうし、
その時こそ、「獅子王の心」の強さが、私にとっての財産になるでしょうから。


それに、・・・ただでは去りませんからね
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小説「改・雪の降る光景」第1章Ⅱ~3

2006年10月05日 | 小説「雪の降る光景」
 実験室に入ると、4人の研究員が白衣に身を包み、大きなガラスで仕切られている隣の部屋に目を向けていた。その視線がこちらに向いたのを確かめると、私は白衣のボタンを1つ1つ穴に通しながら、後ろ手にドアを閉めた。
 「今日も半日出勤ですか、所長。」
ここでの勤務歴が一番長い、私より1つ年上の、彼らのリーダー役の研究員が手元のメモに何か書き足しながら、そう言った。
「まぁ、そう言うなよ。これでも、午前の報告書には目を通しておいたんだ。」
私に対して彼がそう言うのは嫌味でも何でもなく、挨拶代わりだった。その証拠に、私がいつどんな時間帯にここに来ても、彼の一言目は同じだった。
「今、2人でサンプルの用意をしています。」
「これは何の実験だ?」
「首吊り、です。」
私は隣の部屋とこちらを仕切っているガラスの前に立った。2体のサンプルが、目隠しをされて3メートル程の鉄筋の足場の上に立っていた。その足場の、さらに高い場所から、頭がすっぽり入る程度のロープが吊り下げられ、それぞれの顔の前にゆらゆらと動いていた。1人のサンプルの落下予定地点では、1人の研究員が小さな台を置いていた。
「首が絞まった状態が同じでも、体が完全に宙吊りになり全体重が作用する場合と、足が台に着いて全体重が作用しない場合の相違点を調べるのです。」
去年学校を卒業したばかりの新米が、私の横に立ち、まるでビールに合う料理の調理法を説明するように、にこやかに言った。
「1体はユダヤ系だな。もう1体は、イギリス人か?」
「えぇ、軍の捕虜です。今回は、人種は関係ありません。体重のみを考えて選びました。」
なるほど。確かに、骨格は違うが両方とも同じくらい痩せこけている。上半身裸の2体のうち、足場の下に小さな台を置かれたユダヤ系の老人の方は、さすがにここでの生活が長かったせいか、ノイローゼ状態のようだった。彼なら、ガラス越しに見える私の姿を自分の息子と錯覚し、私の方へ手を差し伸べようとして足を滑らせ、自ら首を吊ることも可能だろう。もう一方のイギリス軍人の方はというと、隆々たる筋肉が、厳しい軍隊での生活を物語っているようだった。その軍隊での訓練の1つとして、全身を鍛え上げるだけでなく、今のような状況に置かれた時の適切な行動も、当然教えられてきたのだろう。「あくまでも生き延びる手段を見出せ。もし、その可能性を見出せなければ、自らの手で死を選ぶしかない」・・・彼の上官は彼に、そのように教えたはずだ。敵の生体実験とはいえ、教えの通りに自ら命を絶てる手段が、自分の目の前にあるのだ。彼は、サンプルとして自分が選ばれた時から、自分の首がロープの輪にかかる瞬間のことだけを考えてきたに違いない。私の部下が、彼らの両手を自由にさせ、目隠しを取ってしまったのも、そのようなことを考えに入れていたからなのかもしれない。


(つづく)

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とうとう、実現!?

2006年10月04日 | ちょっとしたこと
今日、「新風舎」から封筒が届きました。

先日、短編小説がコンテストで入選したんですが、
残念ながら私の小説は、佳作でした。
最優秀作品と優秀作品は「傑作選」として、出版されますが、
そこまでのチャンスは掴めなかったわけです。

で、今頃何だろう、とその封筒を開いてみると、
中には、出版案内が。

「今回も著者の方に制作費をご負担いただき、傑作選を作成、出版する予定ですが、
ぜひ、あなたの作品を掲載したいと思います。ご検討ください。」

え?

・・・え?

え~~~!?

私の作品が本に載る~~!?




・・・もう~、びっくり仰天でございます。

あ、でも、何回も読み直しているうちに、
だんだんすこ~しずつ冷静になってみると、
いろいろ疑問が湧いてきて。

たぶん、入選した人全員に同じ文書を送ってるんでしょうけど、
入選した作品は66編。
全作品が本になるのかなぁ。

その、負担する制作費も、10万を越える金額で、
これって、妥当な金額なの?
その金額を全員が払うのかな。

HPを見ると、自費出版だと、30万くらいの経費がかかるらしいんですが。

それに、実は、
先日、他の作品の原稿を新風舎に送って、
今、審査してもらっているんです。

ま、返事は今月末までにすれば良いみたいだから、
それまで問い合わせをしてみます。

でも、でも、
もしどなたか、出版関係に詳しい方がいらっしゃったら、
ぜひアドバイスをお願いします~~!!





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癒してくれてるのね。

2006年10月03日 | 
最近、仕事が終わって帰宅すると、ヘトヘトで、
30分くらいベッドの上で仰向けで目をつぶって、
ぼ~~~~っとしないと、復活できません。

今日も帰ってきて目をつぶって休んでいたら、
6kg近い体重を常にキープしているはろが、
床からダイレクトに私のお腹辺りに、ジャ~ンプ!

    

ううぅっ!


続いて、ベッドの上でウロウロしていた体重約5kgのすずが、
私のお腹の上でそのまま箱座りしてゴロゴロ言っているはろに近づき、
私の胸の辺りに乗ってきて、
はろと並んでゴロゴロ言い始めました。

くっ、苦しいって!

10kg超えてるよ~!

きっと、彼らなりに疲れてる私を癒してくれてるんだよね?

その後私がウトウトしちゃったのは、
きっと癒されて気持ちが良くなったからで、
気を失いかけたわけじゃありません。・・・たぶん




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小説「改・雪の降る光景」第1章Ⅱ~2

2006年10月02日 | 小説「雪の降る光景」
 私はイスに腰掛ける前に、午前中に行われた実験の報告書が無造作に置いてあるデスクに上着を置き、その書類を手に取った。

「サンプルNO.710 25歳 男
溺死に至る各器官の変化。
水温15~20℃。サンプルはプール内で遊泳中、溺死。
解剖結果は、次の通りである(図、写真は別紙に添付)。

溺れて水を飲んだ際、鼻の奥から鼓膜の裏側に通ずる耳管にも水が入り込むと、毛細管のような耳管に水の栓ができ、続けて水を嚥下すると、耳管の栓がピストン運動を起こし、鼓室やこれに通ずる乳様蜂巣に、陰圧、陽圧が繰り返し生ずる。そのために、乳様蜂巣内の被膜や毛細血管が、圧の急変で破綻し、耳の奥で中耳や内耳を取り囲む錐体の中に出血が起き、錐体の中心にある三半規管が、錐体内うっ血や出血のために機能を低下させる。その結果、平衡感覚が失われてめまいを起こし、泳ぎのうまい人間でも溺れてしまう。
耳管は、子供のときは真っ直ぐであるが、成長するにつれて、少しねじれを生じて完成することから、子供は大人より耳管に水が入りやすい。つまり、あらゆる水難事故において、単に体力の差だけでなく、耳管の構造により、子供は大人より溺れやすい、ということがわかる。

なお、実験後、遺体は衛生的に、かつ速やかに処理した。


                          以上。   」


 私は、1ページ目を読み終えると、余白にサインをした。いつもながらよくできた報告書だな、私はそう思った。このサンプルが、新しく死体処理に使用する予定の穴に水を満たした後、なぜ急に溺死したのか、容易に見当がつく。このサンプルが100%この実験の意図に沿って溺死するために、立ち会った部下は、水に浸かった弱ったユダヤ人に向かって、威嚇発砲でもしたのだろう。この、いつ見ても自然を装った実験方法の描写と、それとは逆に、あくまでも正確で断定的な結果報告。・・・全く、いつ見ても、よくできている。
 私はデスクの上の時計をちらっと見て、いまだに折り目も消えていない真っ白のままの白衣に手を伸ばした。午後12時45分。あと15分ほどで、午後の実験が始まる。


(つづく)


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