すずしろ日誌

介護をテーマにした詩集(じいとんばあ)と、天然な母を題材にしたエッセイ(うちのキヨちゃん)です。ひとりごとも・・・。

オペラシアターこんにゃく座~ネズミの涙~

2016-05-25 22:15:20 | ひとりごと
 今日は市民劇場の例会日だった。朝仕事の段取りで、1時間だけ職場に顔を出し、友人と待ち合わせてその足で徳島市内へ。
 まずは腹ごしらえに。お昼は中華のランチにした。

     

 切らしている化粧品などを買い物し、それらを車に乗せてから会場へ。今回は前から3列目、しかもほぼ中央と言う素晴らしい席だった。これで、うっかり眠ってしまったりしたら、ものすごく失礼だなあ・・・などと心配しながらいたが、何の何の寝るどころか、久しぶりに涙をこらえる事が出来ない状態だった。
 オペラと言っても、堅苦しい物ではない。オリジナルのオペラで、ふんだんに笑いの要素も入っている。しかし、内容は重い。
 話は人間社会をネズミに置き換えている。テンジクネズミの一家は旅芸人一座。時は戦争まっただ中。野ネズミの軍隊に演目を見せる中、
 「ご飯が腹いっぱい食べられる。」
という憧れを抱いていた長男ネズミは15歳で兵隊に取られてしまう。一方野ネズミ兵士の1匹は、恋に落ちて一家と行動を共にする。
 1年以上経って再会した時、息子は敵を全滅させた英雄として祀り上げられていた。ただ、臆病なだけだった子供が、やみくもに放った銃が、罪もない一般ドブネズミを虐殺してしまったのだ。それを湾曲して戦争に利用される。そしてそこから抜け出せなくなる子供。
 やがて彼は報復に合い惨殺されてしまう。息子の亡きがらを見ても生き延びるために他人を通すしかない家族。
 「息子はいなかった。」
そう言い聞かせて旅を続ける。やがて、娘と脱走して一家に付いてきていた野ネズミは結婚する。その1年目の結婚記念日。町がドブネズミに襲われると知った娘は、帰りの遅い夫を案じ、危険を冒して太鼓を打ち鳴らし、それがために銃殺されてしまう。
 記念の花を持ち帰った夫に、母親は泣きながら、
 「お前のせいで死んだ!お前が殺したんだ!」
と泣き叫ぶ。そんな母親を父親が慰める。
 「俺達には息子も娘もいなかった。」
そして抱き合って泣きじゃくる。
 演じているのがネズミであるが故に、可愛らしく微笑ましい。キャラクターもそれぞれ個性的で素晴らしかった。特に娼婦ネズミは観客の気持ちを十分に掴んでいた。娘リンの歌声は透明感があって本当に胸に響いた。
 けれど、これは強烈な反戦ドラマだ。ただ臆病なだけの純朴な少年が、いとも簡単に戦争に巻き込まれ、手を血に染めていく。どれほど戦争が愚かで、戦争が憎いと思っていても口に出来ない。子供が目の前で殺されても、生きるために我慢するしかない。ただ、好きな人と暮らし、自分の家を持ち、子供を育てたい。そんなささやかな夢を、ふりしぼった勇気が仇となり打ち砕かれる。
 こんな事が、過去の日本にあったのだ。そして、今も世界に溢れていて、今なお続いているのだと思うと、震える思いだった。
 何も出来ないが、ただ、そばにいる大事な人を大切にしよう・・・。そう心から思った。


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コメント
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