いつにない”芥川賞”騒ぎであった。
それは吉本芸人の又吉直樹さんの小説『火花』が芥川賞に選ばれたからである。
250万部も本が売れ、すでに17版を重ねている。
かなり前から予想はしていただけに、今年の3月11日の発売日に買っておいた。もちろん初版本である。
予想していたのは、作者が一介の芸人だからではない。
『火花』の初出は雑誌『文学界』である。『文学界』は純文学誌で、あまり売れないし、地方の書店などはほとんどが取り寄せない限り、
店頭には置いていないのである。
その『文学界』も品切れになり、前代未聞の増刷に踏み切った。それでなくても”本が売れない”と出版業界は喘いでいる。
ましてや純文学誌が増刷するのは、異例中の異例である。これはもちろん漫才師・又吉直樹さんの小説『火花』が掲載されていたからだ。
世のおじさんたちは漫才師・又吉を知るまい。芥川賞を取ったからこそ、時代に乗り遅れまいと身銭を切る。
瀬戸内寂聴さんは(『火花』を読んで)「なかなか面白かったわ。しかしこんなに売れるなんて、妬けるわね」とテレビ番組で語っていた。
『火花』を手にした3月11日の日記に「小説『火花』は出だしは面白そうだが、中途でたるんだ感じ~」と記している。
主人公は売れない漫才師。熱海の花火大会のイベントの仕事で、のちの師匠と仰ぐことになる同じ芸人の神谷と出会う書き出しは、うまいし、
読ませるが、途中から文章が乱れ、後半はなんとか持ち直した感じ。阪神のなんとか投手のコントロールに似ている。
いくつかの場面で私は笑った。言葉の面白さではない。苦しむ漫才師の姿が愚かだからだ。
よくある”芸人物”というかバックステージものではない。作者は、苦悩や懊悩を芸人という器に入れ、語りかけた私小説である。
又吉自身がいちばん崇拝しているという太宰治の匂いもたしかにある。
しかし太宰治ほどの文章に透明感がない。
その太宰は芥川賞に落選した。太宰は当時の選考委員であった川端康成、佐藤春夫に抗議の長い手紙を出したことは世にも知られている。
しかし2度目も3度目も落選。ついに脳病院に入院した。病院の紹介状を書いたのは佐藤春夫だったという。
ところでピース・又吉直樹の漫才は見ていない。
しかし3年前だったかピースの相方とともに映画に出ているのを見たことがある。ワンカットだけの端役であったが、味のある芝居をした。
ピースでなければできないほどの好演だった。
映画は三浦しをんさんの『舟を編む』である。
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