Dream Gate ( 中野 浚次のブログ )   

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歌舞伎の味を伝えた最後のひと  ー中村 歌江さんご逝去ー

2016-04-01 | 人物

       

 

  

 

いいえわたしは歌舞伎座の女方(おんな)

お気のすむまで 笑うがいいわ

あなたはあそびのつもりでも 地獄のはてまでついて行く

思いこんだら いのちいのちがけよ

そうよ私は歌舞伎座の女方(おんな)

歌舞伎の星は 一途な星よ

                       (歌舞伎の歌  作詞・中村歌江)

 

小山三さんが亡くなってからちょうど一周忌。またもや追うように歌江さんの逝去である。

歌江は昭和7年、湯島天神下の酒屋の息子として生まれた。

ひところ湯島は色街ともいわれ粋筋の町であった。

近所の芸者衆と踊りはもとより端唄や常磐津も習った。そうこうするうち常磐津師匠の 三味線を持ってついて歩くようになった。

歌江は8人兄弟のド真ん中。すぐ上の兄は新東宝の中山昭二で、『ウルトラマン』 『特別機動捜査隊』に主演した映画スター

だった。

 

局、廓の番新、茶店の女房など,高貴な役から市井の女房役まで歌江の芸域は幅広い。

歌江が出ると舞台にパッと花が咲き、あのベットリした粘着性の物言い、それでいて古風な江戸の香りをかもし出す。

歌舞伎の味を、楽しさを再認識させてくれる貴重な女方である。

 

私が最後に観た舞台は歌舞伎座で川口松太郎の『お江戸みやげ』であった。

湯島天神の境内での宮地芝居に出ている下ッ端役者。なにせお酒をキューとひっかけないと舞台がつとまらないという女方

の紋次が歌江の役どころ。

茶店の女(吉之丞)に酒をねだったり、居合わせた紬の行商人(富十郎、芝翫)にまで盃をもらったり、吞まないと夜も日も明け

ない酒豪の女方をみごとに好演。その吞みっぷりが実にうまかった。

 

ほかに『沼津』の旅の若夫婦が茶店で弁当をつかっていて、そのうち喉につかえ、さすって貰う腹のおおきな女房とか、『文七

元結』の左官長兵衛がしびれを切らすのを笑う女郎。

仲居役でけっさくなのは『七段目』の一力茶屋で、平右衛門に頼まれ,うたた寝してる内蔵助に掛布団を用意するのだが、

注意されていながら、わざと大声を出すところ。その呼吸のうまさは一頭地を抜いている。

 

また歌江の声色は天下一品。なにせ師匠大成駒(歌右衛門)のお墨付きだという。

なかでも歌右衛門の声色は一段抜き出ている。

幕内はおろか、新派の喜多村録郎、初代水谷八重子までやってのける。

 

それに歌江は名後見であり、引き抜きはお得意の芸だった。

いつだったか衣装の引き抜きをほめると、「あんなの単なるマジックショーなのよ」と歌江はあだっぽく笑った。

 

お葬式は3日、上野の寛永寺で執り行われる。

謹んでご冥福をお祈り申し上げる。  合掌

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