久しぶりに「ジャズ」の更新です。
今回、ご紹介するのはフリー・ジャズの開祖といわれたオーネット・コールマン。
コールマンを知ったのは原田康子の『殺人者』という小説でした。
北海道・小樽の山荘で療養中のヒロインが、そこで裏切った女を射殺した青年と出会い、警察から匿まうことに熱中するのですが・・・・
わたしは曲目をえらばずにジャケットを抜きとってレコードをかけた。
アルト・サックスのねばりのある音がうねるように流れだし、ドラムがつづき、トランペットがからみ、ベースが入った。
コールマンだ、とわたしは知った。
このなまなましく深い官能的なサックスのひびきはコールマンの音だ。
プラスチックのサックス、彼だけのサックス。 (『殺人者』より)
付け加えますと、彼女が聴いたのはコールマンの《フェイセス・アンド・ブレイセス》。
曲名にふさわしくベースの音がたっぷり入っています。
ソロに変わると、ベースのひびきにつれて、部屋の空気がふるえているようです。
それは蚕が絹糸を吐き出すように、次から次へと魅力的なメロディーがコールマンのアルトから紡ぎだされるのです。
小説『殺人者』の扇動的でスリリングなシーンにうまく癒合していますし、ヒロインが殺人犯である青年を好きになってしまうという心理描写にも心憎いほどこの曲は効果的です。
コールマン以外の曲などは考えられません。
ジャズとは「何でもあり」の音楽。
結果として良ければいずれ理解され、そのやり方がアタリマエになる。
アドリブは自由な気分を反映させ、まさにフリーなもの。
ですから一見ラクなように思ええるのですが、聴くに堪えるものに育て上げるとなると別問題です。
ガイドラインのない即興で聴き手を飽きさせないのがオーネット・コールマンの真髄ではないでしょうか。
みなさんもオーネット・コールマンをぜひ聴いていただきたい。
以前には味わったことのない感動が、そこにあるかも知れません。
川崎の映画館で偶然に見て、非常に驚きました。同時に見たのは増村保造の『赤い天使』でした。