おっちーの鉛筆カミカミ

演劇モノづくり大好きおっちーのブログです
いろいろ活動してます
そのうち、みなさんにお目にかかれたらうれしいです

真夏の恐怖

2007年07月31日 00時15分21秒 | 文章塾
 第18回文章塾用投稿作品第1稿が完成しました。

 今回のお題は、「「夏」で思い浮かぶ文章。ただし恐怖を描くこと」

 であります。

 僕は子供の頃感じた恐怖を繋いで完成させました。

 なのでモデルは自分であります。


 でもまだ投稿はしません。

 寝かせて、推敲・推敲…します

 まだ時間はたっぷり


 ほんとは日曜に観てきた映画の話とかもしたいんだけれども、

 もう寝なきゃ!!

 観てきた映画はパイレーツオブカリビアン。
 IMIさんお勧め。
 のってみた。

 感想は明日以降。


 ではお休みなさーい…

文章塾復帰について。

2007年07月10日 01時02分39秒 | 文章塾
 悩んでいます。

 楽しそう。
 でも始めたら結構しんどいぞ。
 ちゃんとやるには覚悟がいる。

 やるんならきちんと参加しなきゃ。
 中途半端はもう嫌だ。

 もう一回くらいコメントだけで参加して様子を見ようか…

 参加するんなら、今度は山岳コースでチャレンジしたいな。


 ……悩んでいます。

文章塾始まりました。

2007年07月06日 00時09分56秒 | 文章塾
 今週の火曜日から、
 僕のお世話になっているサイト・アサヒネットの
第17回 "文章塾"の講評期間が始まりました。

 僕は今回作品を提出していないんですが、
皆さんの作品への感想、コメントのみの参加で
場を賑やかにできたらと思っております。

 塾生の皆さん、
僕のコメントがうっとおしく思えた場合には、
遠慮なくこのブログまでコメント書き込んでくださいませ。


 このブログに訪れてくださった皆さん、
"文章塾"、楽しいサイトなので、是非リンクから飛んで、
様子を覗きに行ってみてくださいね!

『アリアのハーモニーに向かって歩いてみる。』

2007年01月08日 12時05分22秒 | 文章塾
 秋子は上を見上げていた。それは舞台の上。本当は立ち上がりたかった。立ってもっと近くでその歌をウタウ人を見たかった。

 オペラ劇を観に来ていた。スジや内容なんて秋子には解らなかったけれど、ただ一人、秋子の目を釘付けにする男性が舞台の上に立っていた。それで秋子の体は目一杯になった。
 恋なんて言葉にも満たない、ただひたすらに強い憧憬。

「お嬢さん、いらっしゃい」
 秋子は吸い寄せられるように舞台上へ。
 彼とともに歌う。アンサンブル。
 彼の声は秋子の為に秋子の声は、彼の為に。

 そしてすべては、全ての観客の為のもの。

 それは愛だった

 普遍に、普通にあるもの。
 だけどそれは芸術にさえ成った。
 二人の愛を、見、聞くもの全てが同調し、賞賛した。

 しばらくの間、秋子は彼との重唱を奏でること心から楽しんだ。
 それは確かに愛を含んでいたから。


 けれど、それは見世物だった。
 愛は儚い。
 もろかった。
 初恋なら尚更。

 そう、秋子は今日、初恋をしたのだ。
 皆の見つめる中、勇気を振り絞って告白したのだ。
 そして一時交わした愛の唄は、その想いが片方の矢印しか届いていないことを秋子に教えた。
 確かにそれは愛を含んでいたのに 周りにはそう見えたのに
 何故?
 初めての失恋。

 悲しくない。失うものもない。けど少しの涙。
 むなしいかな? 少し空気が冷たくなって。寂しいかな?
 秋子は歩く向きを変えた。

 それから幕が閉じ

 劇場からの帰り道、秋子は言う。
「お母さん、あの人ね、すごくかっこよくて、すごく良かったけど、嫌い!」
「そう、どうしてそう思うの?」
「どうしても!」
 それから秋子はツンとして家に着くまで一言も話さなかった。

 秋子は帰ってから夕飯を食べ、お風呂に今日は一人で入った。
 そうして、お風呂の中で”アリア”を歌った。
 つまり独唱。





 …如何でしたか?
 久々の800字作文。
 僕としては今までと少し書いてる時の感じが変わったかな。という気がしています。

 そのほか、文章塾生の皆さんの講評やそれに対する僕の返答はこちらから。

 では。

5つの誤算(完全Ver.)

2006年10月09日 19時19分43秒 | 文章塾
 ご無沙汰しております。
 鉛筆カミカミです。

 へちま亭文章塾塾生の皆さん、お久しぶりです。
 この鉛筆、まだ生きてました(笑)

 本当はこの3連休で塾生の皆さんにコメント返しを
行おうと思っていたのですが、思いの外忙しく、
また体も無理がきかず、結局無理なようです。

 最低でもやろうと思っていました、第11回のコメントで宣言した、
「5つの誤算・完全バージョン」を、今更ですが、
発表したいと思います。


………………………………………………………

   『5つの誤算~完全Ver.~』


「じゃ、ダブルデートという事で」
「いいですよ?」
 自分が何にドギマギしているのか、英二は判らなかった。
「だから期末テストまで頑張んなさい!」
「はいっ」
「じゃあこの問題…」
 机上に目を移した美穂の長い髪が、サラ…と落ちた。
「…」
 美穂がニマ~と笑う。
「ほら集中しろ!トップとれなかったら遊びにも行けないんだぞ!」
「…分かりましたぁ」

 この日、英二と真里は美穂先生と耕一とで遊びに行く約束をした。

 そしてテストも終わり、約束は果たされることになった。
 当日。

「え~っ、熱出して、ベッドから起き上がれない!?」
 真里が遅刻してくるのはおかしいと思い、英二が電話した。この時間、集合場所に来ているのは英二のみ。
 遅れて2人が到着し、話し合いの結果3人で遊ぼうという事になった。

「重いですよ~耕一さんも持って下さいっ」
「んー雲行き怪しいなあ。英二君、どっか入ろうか。急いで急いで」
(全然聞いてない)
 美穂も耕一にヒョイヒョイとついて行く。
(ほとんどあんたの買い物なんだぞ!)
 恨めしそうに美穂の後姿を睨むが、気付くはずもない。
「みやこタワー入ろうよ。展望台登ろ」
 途端に雨が降ってきた。

    *

「エレベーターより早く登れたらご褒美に何かしてあげる!」
「何かってなんだよぅ」
「秘密っ」
「英二君、競争しよう!」
「こんな疲れてて勝てる訳ないじゃないですか。それにエレベーターより早くなんて無理ですよ。僕は降ります」
「そうか?」
「耕一頑張んなさい!」
 耕一は階段で登り、英二と美穂はエレベーターに乗り込む。
 エレベーターが走り出す。
 バリバリバリーと切り裂くような音が鳴り響いた。
 ガクン、とエレベーターが停まり、真っ暗になる。
 停電?

「午後には、雷を伴った夕立があるでしょう」
 朝、テレビのお天気キャスターが伝えていた。

「雷だ」
 乗っているのは2人だけ。
「動かないね」
 若い男女2人で密室に閉じ込められた。
「ええ」
 長い。
「真里ちゃん残念だったね」
「ええ」
 長い。
「英二君キスしたことあるの?」
「えっ・なんでそんな事」
「あるの?」
「…そ、そりゃありますよ」
「本当?大人なんだ…」
 真里とのキスは数える程。
「キスしたいな」
「へっ?」
「最初に付き合った人、頭が良くて真面目な人だった」
「…へえ」
「忘れられないんだ」
「…」
 美穂の唇が英二の唇に近付いてくる。
 大人の女性の匂い。
 英二が味わったどのキスより濃厚なのだ。
 その刹那、ガタン、と床が動いた。明るくなる。離れる2人。

「ちぇ…でも未遂で良かったね」
 美穂が悪戯っぽく笑った。
 全くだ。今では本当にそう思っている。

    *

 無事に展望台に着いた。
 耕一は一頻り心配した後、
「俺の方が早かったことには変わりないよな」
 と誇った。
「わかったわよ~も~」
「約束」
 美穂さんが軽くリップにキスをした。
「…それだけ?」
「何を期待してた訳?」
 耕一は頭をボリボリ掻いた後、
「…まあ…嬉しい誤算だ」
「そうよっ」
 英二は2人の様子を無言のまま眺めていた。


………………………………………………………………………

 掲載にあたって思ったのは、ニュアンスの少しの差で
文章から受ける印象が全く変わってくるということです。
 やっぱり800字、難し~~っ!!

お題難産

2006年09月02日 01時24分27秒 | 文章塾
 第11回へちま亭文章塾のお題、発表されましたねえ。
 ↓↓↓
 へちま亭文章塾お題

 とりあえず「うれしい誤算」の方で一本書き上げましたが、どうも納得がいかない。
 今回、初の没ネタが出るかもしれません。(今までは書いたらその作品を推敲後、投稿していた)
 明日は、「粋と艶」で一本書くぞー。でそれを寝かして推敲を繰り返し、いい方を投稿するのだ!
 頑張るぞーっ!

PLANET OF THE ANIMALS~動物の惑星~

2006年08月31日 03時27分54秒 | 文章塾
 第10回へちま亭文章塾の受賞者も発表され、ひとまず終了。
 それぞれの作品の作者も同時に発表され、ブログに作品を掲載するのも解禁。
 というわけで、僕が第10回文章塾に投稿した作品、「PLANET OF ANIMALS~動物の惑星~」をここで再発表いたします。

 このブログを訪れてくださった文章塾の塾生の皆さん、今日は1度見た内容の再発表でご免なさい。
 明日はまた新しい記事をアップします。お暇がありましたら是非どうぞ。



  『PLANET OF THE ANIMALS~動物の惑星~』


 三角乗りで目的地に急いだ。
 降り頻る雪が額に当たる。猫は寒さが苦手だ。
 今はこの世界のこの地方で一番暑い、「夏」の時期。
 しかし昼夜の気温差が激しく、この時期でも夜は極寒だ。
 天候が崩れると雪も降る。
 緑の木の葉に積もる雪。
「朝になれば溶けるニャ」
 それ迄に辿り着かねばならない。
「自分には、これ位の事しか出来ない」
 作戦が成功した時、それを本隊に伝える役目。
 猫は、ペダルを漕ぐ足を速めた。

 作戦は成功だった。
 敵陣に用水路から進入し、銃器庫を全て制圧する。
 潜入の際は、鰐や小河馬が活躍した。
 隙を突いて門を開け、仲間を誘導する。
 針鼠が見張りの経穴を刺し、眠らせる。
「殺めるのではなく、制するのだ。そして究極には和をもって、皆が自ずから制するのだ」
 ナマケモノ王のこの言葉に支えられた者は多い。
 やはり避けられなかった人間との闘いを、血生臭い「戦争」にはしたくなかった。
 あとは本隊を突入させ、人間達を捕えればよい。
 その後は、時間をかけて和を図ろう。

 夜が明けようとしていた。
 猫に弱い鼠でさえ、諜報活動という得意分野がある。
 自分には何があるのか。心は闇に包まれた。
「俺はお前が必要だ。それじゃ駄目か?」
 タイガー隊長に言われ、やっと心の雲が晴れた。
「自分は此処に居ていいんだ、皆と居ていいんだ」
 やっとそう思えた。
 朝日が差し込む。瞳が細くなる。
 解け出したシャーベットがキラキラ輝いていた。
 眼下の景色を望む高台の上。
 遠くを眺めた。陽の光、水と氷に反射した光が眩しい。
 火を焚き、狼煙を上げる準備をする。
 猫は潜入隊作戦成功の合図を確認した。
 人間達の住む街からは死角に陣取っている本隊に、シグナルを中継するのだ。
 送った。仲間達が走り出す姿が見えた気がした。
 皆に自分の姿は見えない。けれども役目を果たした。
 今日もまた暑くなりそうだ。
 猫は、無理して運んできた、動物の国の大きな旗を振った。
 自分は此処に居る。
 皆も其処に居る。
 それだけで満足だった。


 ↓この作品に集まった講評・コメントはこちらからご覧になれます。
第10回へちま亭文章塾・鉛筆カミカミ作「PLANET OF ANIMALS~動物の惑星~」のページ

第10回へちま亭文章塾課題発表!!

2006年08月01日 01時21分25秒 | 文章塾
 今回のお題は、

「真夏の雪景色」で思いつく文章表現。小説、随筆、詩、ジャンルを問わず。

または、

「福の神がやってきた」で思いつく文章表現。以下同じ。

 ということです。

 今回は前回より想像力の広がるお題ですね。

 さぁ、いいの書くぞぉ~っ!!!

 なお、へちま亭文章塾のアドレスは、以下の通り。

 http://bunshoujuku.asablo.jp/blog/cat/2thema/

手を繋いでみましょうか~もう一度~

2006年07月28日 03時19分20秒 | 文章塾
 つい昨日、第9回へちま亭文章塾の奨励賞・共感賞・かんとう賞が発表されました。
 ついでに作者名も同時に発表です。
 残念ながら今回、僕はどの賞にもひっかかりませんでした。(ToT)

 各章の発表は↓のアドレスから。

 http://bunshoujuku.asablo.jp/blog/

 というわけでついに解禁!
 第9回へちま亭文章塾、お題「「殺し文句」から思いつく文章表現」・「2005年7月1日のへちま亭 1330「受容」・7月3日のへちま亭 1332「続・受容」・7月4日のへちま亭 1333「続々・受容」を読んで思いつく文章表現」

 ちなみに、
 「受容」
 http://hechima.asablo.jp/blog/2005/07/01/27340
 「続・受容」
 http://hechima.asablo.jp/blog/2005/07/03/27991
 「続々・受容」
 http://hechima.asablo.jp/blog/2005/07/04/28344
を、参照のこと。

 もう一度最初から書きます。お題「殺し文句」・「受容」両方。題名は『手を繋いでみましょうか~もう一度~』です!

 なお、今回ブログ掲載にあたり、文章塾投稿時のものから大分手を加えました。
 参考にさせていただいたコメントを書いてくださった皆様に感謝!です。ではどうぞ。



   『手を繋いでみましょうか~もう一度~』


 男の妻と子は容疑者によって全員殺害された。

 事件の犯人はすぐに逮捕された。しかし男の愛する家族は帰ってこない。
 男の生活は荒んでいった。
 掃除もしない。ゴミも出さない。仕事にはただ行くだけ。
 こんなことではいけないと、思いもしない。
 ただ、今の状況が受け容れられなかった。

 そんな状態のまま6年の歳月が流れた。
 男から全てを奪った者には、死刑の判決が下された。

 その頃男は、慰みをパソコンの中の世界に求めていた。
「何もかもが空疎です。今すぐにでも死にたい」
 チャットに何の脈絡もなくこんなコメントを書いた。

 すると電話がかかってきた。
「どうなさいましたか?」
 電話の向こうの優しい声に、いつしか男は全てを打ち明けていた。
 この相手・浅野と、男は会うことになった。

 当日、浅野は女性を連れて待ち合わせ場所にやってきた。
 挨拶も早々に、浅野は女性を紹介した。
「こちら、小石川律子さん」
 聞くと、この女性も家族全員を事故で亡くしたという。
「あの電話の後、小石川さんと知り合いましてね。あなたの話をしたら是非会いたいと」
 男は律子の顔を見た。決して美人ではないが、何となく亡くなった妻に似ている気がした。
 それから2人は、互いを襲った悲しい出来事を中心に話した。涙ぐみながら、話を聞きあった。
 その日は別れ、男は律子とまた会うこととなった。

 そして何度かデートを重ね、

 今日は何時間この人と話をしたろう、男がふと思った時、律子が口を開いた。
「再婚する気はありませんか」
「えっ?」
 突然の言葉に男は狼狽する。
「私、あなたのことが好きです。大丈夫、この二人が今より不幸になるなんてことはありませんから」
 なるほど、と男は思った。
 そしてその一言で、男は律子と一緒になることを決めた。
「指輪を買わないと」
「そんなもの要らないわ、ほら…」

 男は思った。
「地に足が着き、我に帰る余裕を持った時、初めて人は自分の置かれている状況を受容することができるのだ」

せかいでいちばんおいしいでしょう?

2006年07月25日 02時12分47秒 | 文章塾
グーブロのメンテナンスで、1日空いてしまいました。


今日でとりあえず今出せるものの中では最後の作品になります。

この作品は、へちま亭文章塾がお休みになり、復活した最初の回に投稿したものです。第8回目になります。

お題は「苦肉の策」から思い付く文章表現なんでも。

それでは2006年6月15日投稿締切り、題名は、『せかいでいちばんおいしいでしょう?』!



  『せかいでいちばんおいしいでしょう?』


「アキちゃんにはまだ無理だって!」
娘のアキコが料理をしたいと言い出した。まだ4歳だ。
大好きなヨウタ先生にお弁当を作ってあげたいのだという。
「何を作りたいの?」
「すてぇき!」
「まあステーキ」
「カンタンカンタン」
「まあ」

アキコの背はコンロに置いたフライパンの取っ手にようやく手の届く高さだ。
包丁持たせるなんてとんでもない!
アキコには諦めさせることにした。
「ゼッタイお料理作るもん」
「アキちゃん、ほら、これ」
おままごとセットを勧めようとする。
「イヤ!」
餌には釣られない。先生への愛だろうか。たんなる意地?
「もう寝るからぁ。入ってこないで!」
部屋のドアをばたむと閉めた。しかし閉まり切らないで少し開いている。
娘は何をやらかすつもりだろうか。
今は見守るしかない、か。
危ない事にならないように気を配ろう。最低限の親の務め。本当に。

翌朝。
「これアキちゃんのお弁当ね。ほんとに先生に作ったお菓子持って行かなくていいの?」
「ウン。いらない!」
娘は元気だ。
今日も幼稚園へと出発。

  ***

お昼の時間になった。
持ってきたお弁当を普通に頬張るアキちゃん。
そして、お昼寝の時間が終わって、帰りの時間が近づいた。
アキコがヨウタ先生にてけてけてけと近付く。
「せんせいお腹すいた?」
「そうだなぁ…少し」
大好きなヨウタ先生の笑顔。これでアキコも上機嫌。
「これっ!」
アキコは先生に何やら差し出す。
「?」
どうやらスケッチブックのようだ。
何か描いてある。
「これはなに?アンパンマン?」
アキコのほっぺがプウと脹れる。
「はんばぁぐ!」
「あぁ、ハンバーグかぁ」
「だよ。せんせい食べて」
先生は食べるふり。
「ん。モグモグモグ…おいしかった!」
「なくなってなぁいぃ!」
「え?じゃあ…」
先生はハンバーグの描いてある所だけ切り取ろうとする。
「モグモ…」
「やぶっちゃだめぇっ!」
「えっ」

ヨウタ先生はアキコにジッと期待を込めた熱い眼差しで見詰められているのだった。

大切なものを挙げるとしたら

2006年07月23日 01時18分05秒 | 文章塾
文章塾のゆりかごは、2回行われました。(今のところ)
今回の作品は、その2回目に投稿したものです。
文章塾のゆりかごでは、1度に3作品応募することができました。
その変型として、1作品800文字なので、3作品分2400字、三部作として応募することも可能でした。
この作品は三部作、2400字まで、の規定で投稿したものです。
お題は「音」に関する文章表現ならなんでも。

では、2006年5月15日投稿締切り、題名は『大切なものを挙げるとしたら』。



  『大切なものを挙げるとしたら』


俺が声の限りを尽くして歌う。俺の後ろに控えし温子が、キーボードを奏でる。そして他の愛すべきメンバーたちも、複雑なビートを刻むウチのバンドのサウンドを盛りたて、観客に投げつけ、一方で誠実に届けようと一生懸命に頑張る。客も応え、身体全体でグルーヴを刻んで乗ってくれる。
ライブは最高だ。一生のうちこんな楽しいことなんてそうそうない。


一瞬、何も聞こえなくなった。
キーボードの音も、ドラムも、ベースも、ギターも、自分の声さえも。
「!?」
独り、舞台上に困惑する自分が立っていた。
しかし次の瞬間、音が復活した。
(気のせいか…)
俺はすぐにその一瞬の出来事を忘れてしまった。

しかし、後でメンバーに「お前あそこトチッたろー?」言われてしまった。

ライブの次の日、寝坊をした。
バイトから帰ってきた温子に裸足で小突かれた。
「こいつはいつまで寝てるんだ!?こいつは!こいつは!…!」
俺は目をこすりながら、
「…えー…今何時よ?」
「午後6時!何時間寝てる気だね?キミは」
「えーウソ、10時間も寝てんじゃん!今日用事あるから昼に鳴るように目覚ましかけといたのに!」
「自分で止めて寝てんじゃん。きっと」
「そんな訳ないだろ…」
枕元の目覚まし時計を確認した。
「あれ、止めた形跡がない。鳴らなかったか?」
「もうそれ壊れたの?こないだ買ったばっかじゃん?」
不可解な出来事だった。

俺は夜中から朝方にかけて工事現場の仕事を、温子は昼間にオフィスワークのバイトを入れている。
俺が帰って、温子が仕事に行く前、2人で一緒に朝食をとり、温子が帰って来てからまた一緒に夕飯を食べる。
で、夜、スタジオで他のメンバーと一緒に同じバンドのメンバーとして練習をする。
そんな毎日だ。

それにしても変だ。
寝坊事件があったあたりから耳がおかしい。
音が聞こえなくなる時がある。
耳はミュージシャンの命。
ものすごく不安になってきた。
医者に行ってみる事にした。
「これは…鼓膜などの器官には何の問題もありません。それでも音が聞こえなくなる時があるというと…」
「どうなんですか…?」
「道川さんのかかった病気はおそらくリパーゼント症候群と呼ばれているものです。最近になって発見された病気で、残念ながら特効薬は開発されていないのです。とりあえず、リハビリに通ってみたらいかがですか。こちらとしても様子を見たい」
「はあ」

日に日に、聞こえなくなる割合が1日のうちで増えてきている。
俺は恐怖に襲われた。このままでは大切なものを失ってしまう。この病気は治らないのか?リハビリばかりの毎日。仕事とバンドの練習は何とか続けているが、失敗が多くなる。温子に愚痴る。
「何でこんなことになっちまったんだろう」
「う~ん、なんだろう…でも実はね、私も時々耳が聞こえなくなることがあるんだ。正樹の病気と同じかな、もしかしたら?」
温子は筆談を交え、大きな身振り手振りで話してくれる。
「本当か?大変じゃないか。お前も早く医者に行けよ」
「そうだね。そうする」

温子にもリパーゼント症候群の診断が下された。
「私達、どうなっちゃうんだろう…?」
「そんなの俺にはわからねぇよ」
俺はイラつき、焦っていた。
毎日仕事場で働き、メシを食い、スタジオで音楽をやる。そんな当たり前の生活が、愛おしかった。耳が聞こえなくなるというだけで、世界はこんなに住みにくく、楽しくないものになってしまうのか。
俺たちの人生を返してくれ!天に叫びたかった。

少し前からその兆候はあった。
しかし、バンドのメンバー全員が同じ病気にかかるというのは信じ難い出来事だった。
音楽活動は休止だ。
とうとう俺は人生における大切なものを一つ失った。
俺は泣いた。
「俺達ゃこれからどうしたらいいんだよ」
「…分かんないけどやっていくしかないじゃん。頑張ろうよ。きっと道はあるよ」
「そうかぁ?」
「そうだよ」
全て筆談。俺たちの耳は既に全く音を失っていた。
この頃の俺たちは、失ったものばかりに目がいき、光を探すことがとても難しかった。

  * * *

今日、皆既日食があるらしい。
何十年に1度の天体ショーだとテレビでは大騒ぎだ。
しかし昨日テレビではリパーゼント症候群の世界での猛威を伝えていた。
いまや全人口の半分以上の人間がこの病気にかかっているという。
この世界はどこへ行くのだろう。
そんな時に、日食などに気を留める気になどならなかった。
しかし温子は結構気になっているようだ。
「だって今度見れるときは私も正樹もおばあちゃん、おじいちゃんだよ。しっかり見れるときに見ようよぉ」
「へーへー」
俺は生返事。ちなみに今のも筆談。
皆既日食が起こる時刻が近付き、俺たちは近くの高台にある公園に行くことにした。やはりしっかりと見るのである。
2人ともサングラスを携帯する。筆談用のメモはいつも、持ち歩いている。
結構人出は多い。
「でも皆既日食っていったって、大した事ないよな。みんな暇なんだなー」
俺が温子にメモを見せると、
「みんな興味津々なの!」
怒られてしまった。文字で怒られてもあまり堪えない。温子にひじで小突かれた。すんません。
日食が始まった。サングラスを付けた俺も、その様子に目を奪われる。次第に辺りが薄暗くなってくる。


あれっ?何かおかしい。
太陽の光が弱まったように感じる。日食?サングラスのせいか?
いや違う。急速に辺りの風景が遠のいていく。
光が、消えた。
そんなばかな!
何も見えない。
神は俺から音だけでなく光まで奪うのか!?
身体の芯から湧き上がる「絶望」。
世界は消えた。


しかし、何かに触れた。
その先を辿る。
“ふにふにと”やわらかい感触。
グッと掴み、自分の方にその対象を引き寄せる。抱きしめる。
その対象は、素直に俺の背中に手を置いてギュッと抱き返してくる。
体が覚えている。この感触、香、息づかい。
アツコ。
何もない世界で、確かに2人はここに居る。
それを感じ、信じることができた。
今は、それだけでもいい。

そこからすべてが始まるんだ。

また会えたね!

2006年07月22日 01時55分21秒 | 文章塾
引き続き、今回は文章塾のゆりかごに投稿した作品を再公開いたします。

実はこの作品、2006年1月29日投稿締切りのへちま亭文章塾、お題「「雪」または「ユキ」という言葉を含む小説」に投稿したものを書き直したものです。
文章塾のゆりかごで、「過去の作品再提出に挑戦」というお題があり、それに投稿たものなんです。
ちなみに文章塾のゆりかごでは、1回につき3作品まで投稿可能だったんですよ。

では2006年4月16日投稿締切り、題名は『また会えたね!』です!



  『また会えたね!』


私は生まれ変わりを信じます。
なんでって、、


ウチでは”らぴす”という犬を飼っていました。らぴすと私達には楽しい思い出が一杯!

ウチの両親は犬も家族の一員!という精神を徹底している人たちで、旅行するにもらぴすを連れて行くし、ご飯食べる時も家の中。家族と一緒に食べる。

一番覚えているのが、小学校の運動会の時の事。私、徒競争で転んでしまったんです。すると観客席にいたらぴすが私の方に飛び出してきた。私驚いて、
「らぴす、私大丈夫だよ!」
と起き上がろうとしたら、彼は私をあっさり追い抜いて、前の子達も抜き去ってトップでテープを切ってしまったのでした。

他にも思い出は色々。

でも今、らぴすはいません。交通事故で死んでしまったんです。
その代わり、らぴすの娘の”ばりす”がいます。

私には兄と弟がいます。兄は東京の大学に行き、そこで雌の犬を一匹飼いました。正月にその犬と一緒に帰ってきました。
その間に、兄の愛犬とらぴすが交尾をしました。
兄の犬は、しばらくして東京でらぴすの子供を何匹か生みました。
丁度その頃です。らぴすが死んだのは。
悲しむ私に、兄は子犬を一匹くれました。

しばらくして、兄は東京で起きた大地震の被災者となり、帰らぬ人となりました。愛犬の行方は分かりません。

あれから一年が経ちました。家の裏山の崖の下には、らぴすの墓があります。けれど、今は雪が積もっていて見えません。弟が、墓の上に犬の形をした雪ダルマを作りました。私はあの正月に皆で撮った写真を前に置きます。手を合わせました。
瞬間、大きな音がして、らぴすの雪ダルマの上にばりすが落ちてきました。驚いた私が上を見ると、弟が心配そうに崖の上から覗いています。
まるで、らぴすがばりすに生まれ変わったみたい。
私は言いました、
「ばりす、怪我もなくて本当に良かった!今分かったよ、お前は皆の生まれ変わりなんだ!神様がくれた大切な宝物だ!」
私はばりすをギウと抱きしめました。

カイダンでカイダンを。

2006年07月21日 01時32分07秒 | 文章塾
『カイダンでカイダンを。』…この作品は、へちま亭文章塾がお休みしていた間に開かれた、「文章塾のゆりかご」というサイトに投稿したものです。

今回は投稿当時の作品にラスト以降を大幅加筆し、文章塾で皆さんからいただいたコメントを参考に再編成したものを公開します。

現在第9回へちま亭文章塾の講評期間のため、コメントを書き込む合間を縫っての作業となったため、完成度にはかなり不安がありますが、勇気を持って、発表させていただきます。

では、お題「かいだん」。2006年4月16日投稿締切り。
『カイダンでカイダンを。』です!



  『カイダンでカイダンを。』

昼休み。いつもは高校の屋上でお喋り会。議題は自分たちの恋愛について。
けど今日は雨。屋上へ上がる階段に座って、今日は会談。
「…だよねー。でもさ、今日子の意中の彼、あれどうなったのよ?」
「あれね、もうだめかもしんない」
「え~頑張んなよ。今度ついてってあげようか?」
「いいって私の事は。それより夏美はまた彼と喧嘩したんだって?」
「ぐさっ。現在進行形の話~それはリアルだから賞味期限切れてからにしてよぅ」
夏美が何気なく外の方へ目をやると、誰かが屋上を囲む柵の外側に立っていた。
「ちょっとっ!」
夏美は焦って屋上に飛び出た。降りしきる雨も気にしない。
「どうしたの?」
他の3人も夏美の後を追おうとするが、雨が降っているので扉の外には出ない。夏美を見守る。
「何してんのアナタッ!?危ないじゃない!」
どうやら男の子のようだ。何年生だろ?夏美は彼に近付く。
「まさか飛び降りる気!?止めときな!いい事ないって!」
彼から返事はない。夏美は更に近付く。
彼が突然呟いた。
「…そこまで勉強って大切かな。彼女をあきらめてまで、勉強ってしなくちゃだめ?」
夏見には雨の音でよく聞こえなかった。
「えっ?何?もう一回言って?」
「勉強と恋愛って、どっちが大事なんだよ!?」
彼が叫んだ。夏美はびっくりする。
それでも答える。
「私は恋愛の方が大事だと思う。だって今しかできない恋愛ってあるじゃない」
「…嬉しいよ。」
彼は夏美の方に右手を差し出した。夏美は彼に近付き躊躇いながらも右手を差し出し、彼に触れようとした。しかしその瞬間、彼は夏見の視界から消えた。

「何やってんのよ、夏美」
「あれ?今ここに?」
「あんた一人だったじゃない、変なの。あーびしょ濡れ。拭いてあげる」
雨はいつの間にか止んでいた。

「だからあそこにいたんだって!男の子が!」
「うーん、にわかには信じがたいわね」
「だいたいその子どこに行ったのよ」
「……分からない。消えちゃった」
「なにそれ?」
「うゎ~ん、だから私にも分からないの!」
放課後、学校に残り、3人は今度は誰もいない教室で会談。
「…それってもしかして、幽霊じゃないの?」
「やめてよ今日子!足あったって!普通の私達と同じくらいの歳の男の子!」
「でも消えちゃったんでしょ?」
「……うん、」
「やっぱり幽霊だよ…」
いつになく3人の顔が真剣になる。
「……あれじゃないの?昔のここの高校の生徒で、屋上から飛び降り自殺した男の子、とか」
少し震えたような声で、今日子が言う。
「あぁそういえば、勉強と恋愛とどっちが大事か?なんて私に聞いてたな」
「そうだよきっと、勉強と恋愛を両立できなくって悩んでた子が自殺したんだ。やっぱり夏子の見たの幽霊だよ~」
「でもそんなことくらいで自殺する、普通?」
尚美が疑問をはさむ。
「昔の人だったとしたら、今の私達より純粋だったんじゃないかな」
今日子が思ったことを述べる。
「あぁあ~~っ!こんな事私たちだけで議論しててもしょうがないよ、解決しない!」
夏子が苛立って声を上げる。
「いいじゃん、こういう事話してるとゾクゾクして楽しくない?」
今日子が意外な事を言う。あれは武者震いだったらしい。
「楽しくないっ!……そうだ!この学校に昔からいる先生いないかな!?話を聞けば何か知ってるかも!」
「そういえば教頭先生って、20年以上この学校で先生やってるって聞いたことがあるよ」
「それだ!」
夏子はピョコンと立ち上がり、
「行ってみよう、職員室!で、話を聞いてみよう!」
「え~~職員室苦手~~」
「私だってそうだよ。でも私教頭先生好きだよ。今度もきっと私たちの話に答えてくれる!」

   * * *

「あれは今から10年前のことだったかな。彼はとても頭の良い生徒だった」
教頭は3人を前に学校の応接室、というか職員室の中にある「応接コーナー」で話をしている。
「じゃあやっぱり自殺したんですか」
今日子がフライング発言。
「まあ待ちなさい、まだ話の途中…さて、どこまで話したかな…あぁ、彼は入学してから2年間、ずっと途切れることなく学年トップの成績を収めた」
「すごい」
尚美が思わず声を上げる。
「しかし彼が3年生になる直前、季節も春になろうとしていた頃、彼に恋人ができたんだ」
3人は真剣に教頭先生の話を聞いている。
「すると、彼は3年生の最初の中間テストで初めてトップの座を逃した」
「恋人ができたことが原因だったんですか?」
夏美が尋ねる。
「私たち教員や彼の親はまずそう思った。だから彼らに別れるように勧めたんだ。大学入試も1年後に控えている2人だ。恋愛なんぞにかまけている場合ではないと」
(それは違うな)
夏美は思ったが、口には出さずにいた。
「今とは時代がまた違ったからね。彼は順調にいけば東大合格も間違いないと私たちは踏んでいた。そんな思惑もあり、また、彼のご両親も教育熱心だったこともあって、私たちいわゆる大人側は、彼らを監視し、強引に会わせないようにした。彼らの仲を引き剥がしたんだね」
「ひどい!」
夏美が思わず叫んだ。
「そうだね、今では私もそう思うよ。あんなことになって、2度とこんな悲劇が起こらないように私たちは猛烈に反省した。もう少し生徒の気持ちを考えるべきだったと。あれから私は生徒とのコミュニケーションをとるときの心構えが全く変わったし、他の先生方も同様だったと思う」
「そうだったんですか……」
尚子が息を吐く。
「やっぱり幽霊だったんだよ、夏美、」
と今日子。
「うん、」
「じゃあ君達は屋上で彼の幽霊を見たというのかい?」
「いえ、見たのは私だけです」
「そうか、どんな様子だった?」
「ええと……」
夏美は屋上で見た「彼」の様子を教頭に伝えた。
「特徴はそっくりだな。……その話、本当なんだね?」
「はい!私教頭先生に嘘なんかつきません!」
「分かった…信じよう。彼は屋上にいたんだな。…そういえば」
教頭は席を立つ。
同じ部屋の棚を探り、本を一冊もってきた。
「修学旅行の写真だ。彼の顔が写っている」
3人はゴクリとつばを飲んだ。
教頭が彼の顔が写っている頁を探し、アルバムをめくる。
「彼だ」
3人は教頭の指差す先を覗き込む。
……
「そうです。この人と会いました」
夏子が言い切る。
「そうか」
教頭は溜め息をついた。
「彼はまだ成仏していないんだな」
3人は無言でその写真を見詰めていた。
「よし、後のことは私が対処する。もう遅い、君達は家に帰りなさい」
「はい」
3人は素直に家路についた。

その晩、夏子はベッドの中で、頭に浮かんでくる彼の顔と、聞こえてくる
「勉強と恋愛って、どっちが大事なんだよ!?」
の言葉に悩まされていた。
「もう眠れないよ!」
夏子は起き上がった。部屋は真っ暗である。
(そりゃ勉強も大事だけどさ…)
今しかできない恋もある。と夏子は思う。
(一期一会って言うじゃない)
しかし、親や先生達は、勉強は今しかできないといつも言う。
(それはそうなんだけどぉっ!)
夏子は頭を枕に討ちつけるように再び横になった。
(あぁ、わかんない!)
夏子は悩み、そのうちにその晩は寝てしまった。

次の日、教頭が呼んだ近くの寺の僧侶達が彼の魂を慰めにやって来た。
夏子たち3人もその場に呼ばれた。
3人は目を瞑り、彼の霊の成仏を祈った。
教頭を始め、各先生たちも手を合わせていた。中には念仏を唱える先生もいた。
(でも死んじゃ駄目だよ…)
夏子は思い、そのあと、
(あたりまえじゃん)
と付け加えた。
(早く成仏して、生まれ変わったら……会って、もっと話がしてみたい)
そう夏子は心の底から思うのだった。

2006年07月20日 01時33分27秒 | 文章塾
昨日に引き続き、僕が「へちま亭文章塾」に投稿した作品ブログで公開するシリーズ第2弾です。

僕がへちま亭文章塾に初めて投稿したのが第5回目のとき。
けれども昨日は訳あって6回目に投稿したものを発表しました。

今日は7回目に投稿した作品。
投稿締切日は2006年3月19日でした。
お題は「卒業」から思いつく文章表現。
題名は『奴』。
ではどうぞ!



  『奴』

奴がその子に送った最後のメール。
「もう僕を見掛けても声を掛けてくれなくていいです」
返信は二度となかった。
どうしてそうなったかは覚えていない。
でも最初から終わるのは分かっていた気がする。
いや、もともと始まってもいなかったのかも知れない。
何度か、両手で数えられる位、デートをしただけ。
それでもその子は奴にとって大切だった。
どうしてこうなったのか……
考えれば考えるほど奴は内に籠っていった。
寝るかパソコンに向かうだけの生活。
精神は麻痺していった。
幻覚が見え始めた。
突然、世界は滅亡するという妄想にとらわれた。
何故か東京ディズニーランドの下に「陰」の世界の入り口があるという
考えが奴を支配した。
もうすぐアメリカで「陽」の世界の王が生まれる。
彼に対抗するため、日本で生まれてくる「陰」の世界の王を見付け、
その参謀にならなくてはならない。
そういった幻想。
また、黒いものは「不浄」と考えた。
だから魚のオコゲが食べられない。
白い米と牛乳で作った粥をくれと家族に頼んだ。
祖母は牛乳を買ってきてくれると言ったが、
父はそんなこと必要ないと祖母を制した。
皆にはこの窮地は理解できない。
奴はこのままでは死ぬと思った。
焦りのあまり、とうとう奴は狂った。
前後不覚に陥り、フェンスを登り、線路の上へと身を躍らせた。
なぜそんなことをしたのか、奴は全く覚えていない。
覚えているのは、電車のライトの光と、警笛の大きな音、体中の傷の痛みだけ。
「あ、自分は死ぬのかも。大変なことをしたのかも」
そう思ったときはもう遅かった。
その子が大学を卒業した年、奴は人生を卒業した……

目が覚めた。
病院のベッドの上だった。
生きていた。
卒業は始まりの年でもある。
周りには心配そうに見つめる家族の顔。
「ごめんね」
最初に出た言葉だった。
「家の建替えの話、進めていい?」
いきなりそれかい。
「いいよ」
答えた。
まだ終わらない。
彼の新しい人生の始まりは、これからだった。

ダンスの本質

2006年07月19日 00時51分38秒 | 文章塾
一昨日の記事にも記しましたが、僕は現在、「へちま亭文章塾」というサイトに参加しています。
「文章塾」に参加するのは、「文章塾のゆりかご」を含めるとこれで7回目。

ちなみに「文章塾のゆりかご」というのは、アサヒネット主催で運営されていた「へちま亭文章塾」が一時おやすみ期間に入った際、木の目さんという方が主催されて立ち上がった、ほとんどへちま亭文章塾と同じ内容のサイトです(色々とユニークな味付け(木の目さん本当にご苦労様です)はありましたが)。

……
そこで!
今まで文章塾に投稿してきた作品を、改めてこのブログで再発表したいと思います。

では、2006年2月19日投稿締切り、課題「ダンス」



……………
あぁあ、忘れてましたが文章塾では毎回「課題」というのが発表されて、参加者はそれに沿って作品を書くんですよ。800文字まで字数限定で。

では改めて、課題「ダンス」、題名『ダンスの本質』です!



   『ダンスの本質』


 音楽は、心と身体を躍らせる。
 ポップス、ロック、演歌、歌謡曲、フォークソング、クラシック、ジャズ、ニューミュージック、民謡、ラップ、ヘビメタ、イージーリスニング、子守唄、鼻歌、森のざわめき、人の話し声、工事の騒音、列車や車の走る音、警笛、イビキ……数え上げればきりがないが、その種類に関係なく、音――広い意味での音楽――は僕らを揺さぶり、時に興奮させ、また時にとても安らかな気分にさせてくれる――たまに嫌な気分にさせられる時もあるが……
 僕らは、音楽の中で生きている。そして、それにいつもノッて躍っている。

 スーパーで、お気に入りの曲がBGMでかかる。気分が高まる。リズムを刻んでしまう。少し顔が緩む。

 夜中の騒音で眠れない。寝返りをうつ。びんぼ揺すりをする。イライラして、「うるさい!」と叫んでしまう。

 音に踊らされている。不本意なダンスだ。……いや、本意か?
 ただ、人は音の中で生きている。それは間違いない。

 ダンスに技術が伴い、ダンサーと観客の関係が成立すれば、ダンスは時にショーになる。
 基本は、いつもと同じ。音に乗って、気持ちと身体を感じるままに躍らせるだけ。
 自然と、表情もオーラも、躍り、輝いてくる。

 僕はダンスの照明をデザインし、操作する仕事をしていた頃があった。
 そのときも、オペレーターの僕は踊る。
 音楽に乗って、ダンサーの動きに乗っけて、照明を操作する。
 色を変える、当てる方向を変える、舞台空間全体の空気を一瞬で違うものにしてしまう。
 ダンスにおいて、照明の効果は絶大だ。

 ……みんな、オートマティックに踊ってんじゃん!

 だから、ダンスや振りってそんな特別なものじゃない。音が、自然に引き出してくれるものなんだ。



へちま亭文章塾アドレス↓

http://bunshoujuku.asablo.jp/blog/