おっちーの鉛筆カミカミ

演劇モノづくり大好きおっちーのブログです
いろいろ活動してます
そのうち、みなさんにお目にかかれたらうれしいです

『失フ』

2009年06月20日 06時47分18秒 | 文章塾

   『失フ』


 幼い頃、定規で遊んでいる内に折ってしまった。
 何故あの時、僕はあんなに悲しかったんだろう
 あんなに涙が出たのだろう

 初めて人の死に出遭ったのは、小学4年生の事だった。
 顔の上に掛けられた白い布を見ても、その下の黄色い皮膚を見ても、悲しくはなかった。
 むしろ夢中になって従兄と遊んで、母に泣きながら怒られるくらいだった。
 その母の涙に、初めて祖父の死の悲しみを感じた。

 失恋したのは、小学3年の時が初めてだ。
 失恋というより、相手にもされなかった。
 悲しくなかったから、それ程好きでなかったのかも知れない。
 本格的なのは、予備校生時代の冬。
 恋人が出来たと聞かされて、ショックで何も手につかなくなった
 本当に好きだったんだ。

 人は心を遷したものを失うと、悲しい気持ちになる。
 とても とても

 だから変わる事は、別れは、切ない。

 新しい周囲に自分が慣れるまでは時間を要する。
 自分が変わるまで。
 失ったものを過去に出切るまで。

 それでも僕は全ての過去を見送ってきた。
 悲しい事だろうか。

 抱え切れなくなって全てのものを放り投げたこともあった。
 責められる事だろうか。

 前を向く度に、新しい色のペンキで上から塗り潰してきた。
 現在の僕は、「今の僕」というものにしか見えない。
 じゃあ僕の過去は、失くなってしまったのか?
 僕は時々掘り返して見る。
 すると、奥深くの地層から地表まで、染み出しているものがある。
 それは嬉しい事だった。

 今が全てだけど、
 全ては今だけじゃない。

 繋がっている……
 それは嬉しい事だ。


 笑顔に為った。
 その表情には、君の全てが詰まっているんだね。
 憎らしくなって、切なくなって、僕は頬っぺたを引っ張った。
 君は表情を崩すけど、やっぱり笑顔なんだ。
 つられて、僕も笑顔なんだ。
 いつかは、僕も、変わる。君も、変わる。
 その時も、笑顔でね。
 全てが詰まってるって知ってるから。
 泣きそうになる笑顔にも、世界が全部が詰まってる
 その涙は拭えないけど、いつまでも
 さよなら。

障害物越走(オリジナル)

2009年04月04日 01時20分40秒 | 文章塾


「スタート」
 僕はその時の事を憶えていない。
 号砲は確かに鳴った筈だ。
 しかし僕はそれを憶えていない。
 だけどとにかく、僕は走り始めたのだった。
 最初、僕はどこへ向かえばいいのかすら分からなかった。
 でも声が聞こえた。
「向こうへ走るんだ」
 僕はその通りにした。
 ふと気が付くと、僕の隣にも、僕と同じ様に走っている者がいた。
 僕は彼を「友達」と呼んだ。
 走っている間は、僕は彼の相手しかしなかった。
 しかし暫くして、彼とは別れた。
 道が分かれたのだ。
 その後、道は人で溢れた。
 僕に友達が大勢できたのだ。
 その中に魅かれる相手がいた。異性だった。
「このぶら下がってるパンを口だけ使って食べるんだって」
 僕は背が高かったので、難なくクリアできそうだった。
「あたしちっちゃいから無理。もう手で取っちゃお」
 その子が手を伸ばした時、彼女のお腹の、裾の下からチラリと臍が見えた。
 でも僕は目の前の、ルールがある方を優先した。やり方が分かっている方を優先したのだ。
 僕はパンを口の中に入れて走った。「友達」は少し減ったみたいだった。
 暫く走ると平均台があった。
「そこから落ちたら不幸になるぞ!」
 観衆からの野次が飛んでくる。只の平均台なのに。
 僕はそれなりに恐怖とプレッシャーを感じながらも、それを無事渡り終えた。
 今度は網の中を潜るのだ。
 網の中に入ると薄暗くなった。
 ん? 何か僕は柔らかいものに触っている。
 嫌に気分が高揚してくる。
 どこからかいい匂いもしてくる。
 網の中に出口は見えない。
 網は手足に絡まる。
 僕はその時、初めて進む事を止めた。
 この快楽の、甘い泥の中、意識を失うまでそれを味わった。
 目を覚ました。
 嫌に頭がスッキリしている。
 空は晴れていて、光が眩しい。
 網から抜け出ると、誰かと手を繋いでいた。
 僕が笑うと、そいつも笑った。
 その頃の僕はなんだか力に満ちていた。
 慢心したのか、転んでしまった。
 膝から血が出た。
 小さな子供が、僕の事を心配している。
「大丈夫だよ」
 僕はその子供に言った。
 愛しかった。
 いつの間にか、僕は独りになっていた。
 もうすぐゴールだ。
 ゴールテープが迎えてくれる。
 あ、
 地面の茶色と空の青が同時に目に映った。
 その後の記憶は無い。



 僕はその手紙を鳥に託した。
 僕は今、何も無いところに居る。


   *  *  *


 「第33回文章塾という踊り場♪」への投稿作品のオリジナル(最初に書いた形)版です。
 今回のお題は、「死者についての文章」でした。難しかったです。
 この作品の文章塾投稿版と、それに対する塾生の皆さんのコメント、僕の返信は、こちらから。

ダイスパニック

2008年12月02日 00時00分03秒 | 文章塾
 そこは大きなホールだった。
 沢山の人々がテーブルについて騒ぎながら、何かしている。
 何をしているのだろうか? カチャカチャ小さな物が当たり合うような音もしている。
 男女2人のペアが…どうやらサイコロを振っているようだ。
 一心不乱に何度も振り直す。
 その度に一喜一憂。
 歓声があがる毎に、周りはそれに反応する。
 すごい眼で声のした方を睨み付ける。
 そして即、それぞれ印象深い独特の迫力で、またサイコロを振り直す。
 その繰り返しである。

 ある瞬間、一際大きい叫び声が聞こえると、次第に部屋の中は静かになり、音がしなくなった。
「…おめでとうございます! トップはこの御夫婦です!」
 若い夫婦が壇上に上がり、ハニカミながら他の客に軽く会釈する。
「賞金1億円はあなた方のものですよ!」
「ありがとうございます」
 夫婦は深々と頭を下げた。
 他の参加者は落胆の表情。
「それでは続いて第2位…1千万を目指して頑張っていただきましょう!」
『ザワザワ…』

 また全員がカチャカチャと振り始めた。

「1千万円はこのご夫婦!」
「3位…百万円の賞金はこのお2方の頭上に輝きました!」
 ゲームは終わった。
 夫婦のペアで20面サイコロを振って、ゾロ目が出たら賞金がゲットできるこの企画。
 豪華客船たいたにっく号の中で開かれた、金持ちの道楽である。

「大金貰っちゃったな」
「百万なんていざ使ったらすぐに無くなるわ」
 実はこの2人、本物の夫婦ではなかった。
 特に男の方は3等客室で旅する貧乏美大生である。
 女は金持ちの令嬢。2人はこの船の旅で出会い、恋に落ちた。
「でも『1』が7つ揃った時には寒気が走ったわね」
「俺達、ツイてるよ」

 この先、この客船で起こる悲劇を、2人は想像すらしない。
 そして、その過程で2人の絆がどんなに深まるかも。
 2人は知らない。

 ちなみに、あのゲームで1位をとった夫婦は『4』のゾロ目、2位の夫婦は『13』のゾロ目で賞金を手にした。
 この夫婦達の運命を、作者は知らない。


   *  *  *


 「第30回文章塾という踊り場」お題「ぞろ目」「いいふーふ」への投稿作品です。〆切は、2008年11月22日でした。
 塾生の皆さんから寄せられたコメントと、それに対する僕のレスはこちらから。 

The ReBirth of LoveWorld

2008年10月02日 01時18分06秒 | 文章塾
※この作品は、同日アップの文章塾作品『The Death of LoveWorld』の続編です。
 それでは、ごらんください。( ̄▽ ̄@


   *  *  *


   The ReBirth of LoveWorld


「ばぁば?」
 リリィの孫が初めて喋った。
「ねえ今!」
 娘のクィスが、リリィの肩を叩いて喜んでいる。
「この子は…」
 リリィが語り始めた。


 カルロスが死んでからしばらく経った。リリィはカルロスとの間にできた娘――クィスと2人で生きていた。
 仲間とも、闘いとも、縁を切った。

 カルロスとの別離があった直後は、リリィは死ぬことさえ考えた。その度に仲間に救われ、娘の言葉に助けられた。
「お母さん、そんなんじゃお父さんと神の国で再会なんてできない」
 クィスはその時、溢れそうな涙を必死に堪えて母に説いた。

 生きなきゃ。

 光が見えなくたって、生きている存在は、定め通り、生き続けなくてはならない。

「私は何に向かっていけばいいのだろう」
 リリィには判らなかった。
 しかしリリィはそれが、娘には見えているように感じられた。
『生命は自然の一部であり、その理に沿って在り続けることに、真実がある』
 クィスの中に根ざしていた考えはその事であり、それが、娘の心に光があり、母の心が闇の中にあり続けなければならない理由の1つだった。

 クィスが、結婚をした。
 クィスと同じ、ハーフエルフ――妖精エルフと人間の混血――の青年だ。
 彼が混血であったことからくる、一筋縄ではいかない苦労の連続は、彼の顔に色濃く刻まれていた。
 なんとなくカルロスを思わせる…
 リリィの第一印象だった。
 それでも娘を取られたようで、リリィは婿には無愛想であった。
 そして、クィスが息子を産んだ。

 生まれた孫を見たとき、ハッとした。リリィは魂で判った。この子はカルロスだ。私の孫は、私の亡き夫と同じ魂を持っている!
この子は、あの男性の、強き心を持っています。
けれども、愛に飢えていたあの魂。

「ばぁば?」
 それが彼の初めて口にした言葉。
「この子はカルロスです。私はこの子を、精一杯の愛情で包んでやろうと思う」

 それは、リリィのカルロスに対する愛の、新たな復活であった。
 リリィは今、光の指す方向を見つけた。


   *  *  *


 「第28回文章塾という踊り場」お題「「世界の始まり・世界の終り」」への投稿作品です。〆切は、2008年9月6日でした。
 塾生の皆さんから寄せられたコメントと、それに対する僕のレスはこちらから。

The Death of LoveWorld

2008年10月02日 01時09分48秒 | 文章塾
※この作品は、8月9日アップの文章塾作品『カルロス』の続編です。
 それから、このあとアップする『The ReBirth of LoveWorld』は、この作品の続きにあたります。
 それでは、ごらんください。(^^)


   *  *  * 


  The Death of LoveWorld


丸い空が見える
ここは木々に囲まれた 森の空地

時々鼻を突く 湿った植物の臭い 土の臭い 虫の臭い 動物達の臭い
気温が高いから それらが鼻の周りにまとわり付くように感じる

風の音 木々のざわめき 遠くから鳥の声が聞こえる
ここが私の生まれた場所
私はずっと ここで生きてゆくはずだった


私はある日 人間の若い男と一緒に森を抜け出した
私に親はいなかった 仲間からは嫌われていた
男の誘いを断る理由はなかった
その頃から私は 恋という感情が妖精である私にもあるならば
それに心を奪われていたのかも知れない

その直後 私に仲間が出来た 全て人間だ
5人皆が冒険者であり 職人だった
彼らは 男の仲間だった
私を仲間だと 皆が言った
初めてそれを面と向かって言われた時 どうにもならない感情が身体からあふれて
顔がカッと熱くなり 目から水がどうどうと零れた
水が 鼻の奥からも流れた
泣くな と言われた
意味がわからなかった
その日 私がいつの間にか眠りにつくまで その水はどうしようもなく流れ続けた
翌朝 私は男の腕の中で太陽の光を見た

そのあと
私は男と仲間を守るために戦い続けた
私の出来る限りの能力を使い 闘った
ある時は盗賊と またある時は竜と
それは常に死と隣り合わせの厳かな儀式のように思えた
けれど それは同時に私にとって 身体 心 が軽くなる この男
そしてこの仲間と同じ方を向いて闘う日々だった
またそれは 私を巣食う森での過去の記憶を次第に忘れさせてくれた

そして私たちはいつしか
人間界で英雄と呼ばれるものになっていた
仲間で夜 酒を酌み交わし 食事を共にする
笑顔が絶えなかった

「仕事」もどんどん大掛かりなものになっていったが
私たちにはそれを乗り越えるチカラと根性があった
あ…私今「根性」なんて言葉使ってる…こんなことになると思わなかった
おっかしいの

けれどその日は 思ったより早くきたんだ

なぜ私は妖精で 彼は人なのだろう
妖精は、死なない。
人は亡くなる。朽ち果てる。


私は今 あんなに嫌だった森にいる
見上げると 丸い空が見える


  *  *  *


 「第28回文章塾という踊り場」お題「「世界の始まり・世界の終り」」への投稿作品です。〆切は、2008年9月6日でした。
 塾生の皆さんから寄せられたコメントと、それに対する僕のレスはこちらから。

カルロス

2008年08月09日 02時21分21秒 | 文章塾
 夏だ!
 暑いが、俺達は元気だ。
 元気でなかったら、こんな仕事は務まらない。

 最近、森の入り口に竜の子供が出没するという。
 竜は人を食う。危ないので、何とかしろという依頼だ。

 俺は精霊使いである。
 万物には、精霊という目に見えない(俺には見えるが)存在が宿っている。
 精霊というのは、ものすごく簡単に言えば神と人の中間のようなものである。
 彼らの手を借りれば、色々と「不思議」な現象が起こせる。
 魔獣だって倒せる力になるのだ。
 間違いのないように言っておくが、俺は精霊を「手段や道具」などとは少っしも思っていない。
 俺は精霊を愛している。

「出たぞ!」
 仲間が竜の姿を認めたようだ。
 7人が陣形を作る。
 遠くから弓を射る。
 魔法使いが、「氣」の塊をその体にぶつける。
 俺はというと、火の魔法を使うために精霊を呼び起こす。
「やっちゃって♪」
 俺の合図で、竜は炎に包まれる。
 甲高い鳴き声が響く。

 竜の反撃。
 炎の吐息だ。
「だから暑いっつーの。火はやめようぜー」
 竜は大分弱っている。あまりその反撃にも威力がない。
 大勢は決まった。仲間の剣士達が、止めを刺しに竜に迫る。
 その刹那、
 背中にピリッとした感覚が走った。

「よくも」

「 よくも 私の娘 を 」


 辺りが急に暗くなった。
「上!」
「死角をとられた!?」
 見上げると、バカでかい竜が翼を広げている。

「竜王!?」

 俺のパートナー、妖精エルフであるリリィが呟いた。
 あれが竜王だとしたら、俺たちに明日は無い。絶望だ。

 竜は浮遊したまま首を少し反らした。
 ヤバイ!
 そう直感した俺は考えられる限り全ての力を使って仲間を守ろうとした。
 竜王の吐く息は、鋼鉄をも一瞬でサラサラに融かす。
 「竜王」は俺達に向けて、激しくブレスを吹付けた!

 全ての精霊よ!

   ・ ・

 俺達は赤茶けた土の上に寝転んでいた。
 竜王の野郎…
 そこに竜の姿はない。
 この世界を司る精霊がそこにいた。
 火 水 風 土 樹 雷
 あれ? 一体足りない。

 風のリリィが俺を指して言った。

「光…」

 さっ、反撃だ^^

  * * *

 「第23回文章塾という踊り場」お題「七月」への投稿作品です。〆切は、2008年7月16日でした。
 塾生の皆さんから寄せられたコメントと、それに対する僕のレスはこちらから。

うめのきうめのいろ

2008年08月07日 01時12分34秒 | 文章塾
 かくれんぼしよう
 妹の瑞希はきっとあの大きな箱の中に隠れている。
 いひひ
 梅の花の色をした箱を開けると、またその中に箱があった。
 あれ?
 その箱を開けるとまた中に箱があり、それを開けるとまた。
 瑞希ー!
 妹はどこにいったのか。愛姉は必死になって箱を開け続けた。
 お姉ちゃん…
 妹は小さな箱の中から現れた。瑞希は、掌に乗るほど小さくなっていた。
「お姉ちゃん!」
「何よっ!?」
 思わず大きな声で応えていた。
「こんな所で寝てたら…」
「風邪ひくよって言いたいんでしょ!?」
「…そう。」
「あんただんだん母さんに似てきたよねー」
 愛は体を起こし、瑞希を見上げた。
「背高いところは父さん似なのに」
「…なあに?」
 瑞希は膨れっ面をする。
 瑞希は男子を含めても、学校で一番背が高い。
 それは瑞希にとってあまり誇らしい事ではないらしい。
 愛は続ける。
「口うるさいところが、母さんに似てる!」
「そう?」
 愛は立ち上がった。
「瑞希、あたし変な夢みたよ」
「どんな?」
 妹と並んで立つ、梅の木の傍らで。
 瑞希と同い年の梅の木。
 家の庭の、端っこの方に植わっている。
「ちょっと前は、梅の方が背高かったのにねえ」
 母親が声を掛ける。
 すると愛が声を上げる。
「全然高いよ、瑞希の方が!」
「愛は同じ位か?」
 父親がひょっこりと現れた。
「なんで背低いとこばっか母さんに似たんだろ」
「お姉ちゃん!」
 瑞希が愛の服の袖を引っ張る。
「何よ」
 妹の視線を追うと、家の高さまである、大きな梅の木。
 瑞希はにっこりと笑う。
「…わかってるよ!」
 中学三年生と、小学校六年生。二人の姉妹の、明日は卒業式だ。
 今日は天気がいい。明日も晴れるかな?
 そして瑞希は笑顔のまま、
「ちーび」
「あんたいまなんていったあ!」
 あはっ、ますます笑顔が弾ける瑞希。
「まあまあ、」
「二人とも、」
 なだめる夫婦。四人家族。
「こんな子もらってくれる男性は現れるのかねえ」
「大丈夫。」
「余計なお世話!」
「こりゃ駄目だね」
 梅の木が笑っていた。

  * * *

 「第23回文章塾という踊り場」お題「桃、梅、桜、ピンク、あるいはそれにまつわる作品。」への投稿作品です。
 〆切は、2008年3月16日でした。今さらで申し訳ない。
 塾生の皆さんから寄せられたコメントと、それに対する僕のレスはこちらから。

病棟の中の空気ってこんな感じ。

2008年03月09日 23時41分43秒 | 文章塾
 時は近未来。この世界とは違うパラレルワールドでのお話。

「うわ~暑い」
「寒いですう」
 地球上には極寒の地と灼熱の土地がある。そこで暮らす人々の苦労は計り知れない。
 そこで世界中の科学者が集まり、暑くもなく寒くもない…地球の気候をちょうどいいものにする研究が行われた。
 研究は難航を極めたが、十年後、何度もの失敗を経て、ついにその研究は実現化された。
「これで人々の悩みは大きく減ることだろう」

 その成功した研究の仕組みはこうだ。
 まず、地球を覆う大気圏の直下に、高濃度のガスを停滞させる。つまり、そのガスで地球の大気を覆うということだ。ビニルハウスの原理である。
 そして、全世界各地に点在させた基地の煙突から、大気に、ある成分の気体を大量に混入させる。もちろんその気体は、人体に無害なものである。
 研究に研究を重ねたその気体の効果はすさまじく、それが地球全体を包み込むことによって、地球全体は一定の温度に保たれ、風も吹かず、雨も降らなくなる。
 ただし、雨が降らなくなっては植物が生きられなくなってしまうので、水を降らせる人工の仕組みも考案しなくてはならなくなったが。
 研究はすべて成功したように思えた。

「なんかちょうどいい気候って、つまんないね」
「うん、気分がなえてくる」
「そんなこと言うんじゃありません。偉い学者さまたちが私たちのためにしてくださったことなのよ」
 しかし、事態は深刻だった。
 研究が具現化されてからまもなく、世界中の人々が、無気力無感動な精神状態におちいったのだ。
 仕事もしない、学ばない、子供もつくらない、何もしない。
 ついには食べることさえおっくうになり、病人が世界人口の大半を占めるまでになった。

「これはいけない」
 学者たちは新たな研究を始めた。
「地球に刺激を取り戻すのだ」
 結果研究は実現され、夏は最高気温五十度、冬は最低マイナス四十度という環境がつくられた。
 そして一般市民の声…

「いいかげんにしてくれよ!」



 この文章は、第二十二回「文章塾という踊り場」、お題「「極寒または猛暑、冬または夏」暑さ or 寒さを感じさせる、あるいはそれにまつわる作品」に投稿したものです。
 この文章に対する、文章塾塾生の皆さんからのコメント、それに対する僕の返信コメントはこちらから。

 ではでは。よろしくお願いします。

獅子舞

2008年01月31日 22時30分42秒 | 文章塾
 …この舞台の題名は『獅子舞』。「失われた日本の正月を取り戻す」というテーマだ。
 俺は獅子舞になっていた。踊る踊る。たった1人で。
 照明も音響もわからない。台詞もわからない。舞台の上に、俺がただ独り。舞台と客席。客が居るかも判らない。
 …おどる、おどる…


 某大学の演劇部、専用の稽古場兼劇場―

「お前らこの忙しいのに花火なんか見てんなよ!」
「だってニューイヤーだよ。ね、部長も一緒に花火見よ」
「そんな余裕全然ないだろ! 明日…てかもう今日だよ!今日の夜が本番なんだぞ!」

  ひゅう~~っぱーん

 あと19時間しかない。それで舞台組んで照明吊って、進行プランも確認しなきゃならない。
 何故こうなったかって? 脚本担当の部員が書く戯曲の完成が大幅に遅れたのだ。今の今まで稽古だった。
 しかし彼は責められない。年末は補習と追試を乗り切るので精一杯だったらしいから。
 台本が出来て、徹夜で稽古して何とか形になった。みんな頑張ったと思う。だが稽古から開放された途端、この体たらく。
「仕込みって嫌いなんだよねえ」
 皆が言う。全く、緊張感のない…誰だこんな時期に公演やろうなんて言い出したのは。…俺か。
 仕方ない…俺は1人で舞台を組み始めた。今晩も徹夜かな…

 釘を叩いていると、突然獅子舞が現われた。俺は大して驚かない。今回の小道具だ。誰かの悪戯だ。
「おい」
 俺が言うと、誰かに肩を後から押された。よろける。そこに獅子舞が頭を噛みついた。
「ぎゃっ」
 叫ぶと、意識が急速に遠のいた…


「部長、初日の出すごいよ!」
 …ハッ?
 劇場の外から皆が呼んでいる。
 仕込みはどうなった? 本番は間に合うのか?
「部長頑張ったじゃん」
 何を頑張ったというのだろう。俺は、お前らは今まで何を…
「ほらっ」
 腕を引っ張られる。無理やり外に引きずり出される。
 夜の帳はゆっくりと引き上げられ、現れる紫色の垂れ幕。そして一点の光。
「…」
 俺は何も言葉を吐くことなく、ただ昇ってくる朝日を見詰めた。



 第21回「文章塾という踊り場」投稿作品です。
 お題は「お正月らしい、お正月を感じさせる作品」。
 この作品に対する文章塾生の方々のコメント、それに対する僕の返信はこちらから。
 ではでは。

…サンキュ。

2007年11月26日 22時29分57秒 | 文章塾
 この文章は、第20回心のダンス文章塾、特別企画「旨いもの賞」によせたものを、800字の制限を設けずに書き直したものです。といっても、最後の部分に少し加筆しただけですが。

 オリジナルはこちらをどうぞ。



 やっぱりな
 私はそう思いながら、Tさんに握手の手を差し出した。
 その時の Tさんの手のしわが記憶に残った

 私は、某商社のシステム部で働いている派遣社員の1年生。
 同じ部署の先輩に、TさんとKさんがいる。
 2人とも40歳くらい
 いつもこのお2人に優しく面倒を見てもらってる私。
 Kさんは女性
 丁寧な言葉遣い 優しい物腰 明るい、みんなを元気にさせてくれるその声。
 女の私にも、彼女の魅力はよくわかる。
 男性Tさん
 話しかけてくる人には誰でも優しく応対
 でも
 自分から話しかけることはほとんどしない。
 ところが、K女史だけには なにかと明るく声を掛ける
 不器用なひと。
 私は
 その意味をわかってるつもり。
 付き合ったりしないのだろうか?
 2人とも独身だと聞いている
 枯れかけた花に水はやらないのだろうか
 もう うんざりなのか

 昼休み 思い切ってTさんを誘ってみた。
 珈琲が美味しいと評判の喫茶店
 木製の看板に彫ってある店の名前
 Tさんが先に入る 扉を開けるとカランとベルが鳴る
 ここは、Tさんお気に入りのお店
 ここの珈琲飲んでみなよと、私に薦めてくれた。
 いつもファーストフードか、チェーンの珈琲ショップでお昼をすます私。
 注文し、出てきたランチを食べる
 パスタおいしい
 食べたあと
 テーブルの上に残っているもの
 Tさんはアメリカンをブラックで。
 わたしはアイスカフェオレ。
 もう子供じゃないんだから
 私は、Tさんのことが好き。
 歳は20も離れてるけれど、うらびれた感じ、背中の哀愁がたまらない。
 私は告げた

私「つきあってもらえませんか?」

 刹那 空気が固まる
 指1本動かせない
 私はTさんの顔を見られなかった
 でも
 無理して一瞬だけ
 チラッと見た。
 空虚な表情に見えた
 あの哀愁が漂っていた

Tさん「ごめん」
私「えっ」
Tさん「……」
私「……」
Tさん「私は、……何ていうか……」

 その先の言葉を私は知っている。

私「もう、いいです」
Tさん「ごめんな、付き合えない」
私「いいですってば」

 やっぱり。私は泣いていた。
 でも、涙を拭いて、
 悲しくなりたくないから、
 私は立ち上がって左手を差し出した。

私「…サンキュウ…です」

 サンキュ。先輩! 先輩も頑張んな!

こころのダンス文章塾第20回特別企画お題:「旨いもの」投稿作品『ねえ、マスター♪』

2007年11月25日 15時19分21秒 | 文章塾
 今日は、マスターの喫茶店が開いてから四半世紀が経つ記念日だ。
 私は開店当時からこの店に通い続けている。
「お前は高校生だってのにここに入り浸ってな」
 私は笑う。ここで出逢った少女と、私は結婚した。そして娘が生まれた。
 まさかその娘がマスターの息子に盗られるとは思わなかったが。
 今度はマスターが笑った。今、2人で昔を語り合っている。
 そういえばマスターの息子さん、インターハイで3位になったこともあったな。
 マスターはハンドルを回し、コーヒー豆を挽いている。今時手動である。
『機械に任せてたら人間駄目になっちまう』
 いつだったかマスターがそう呟いていた。よく覚えている。
 確かに人間は、色々なことが便利になった為に、見失っているものも多いのかも知れない。
 マスターに、この旨いコーヒーを淹れる秘訣を訊いたことがある。
『伸一の奴も昔一度そんなことを訊いたな…』
 マスターはそんな事を言い、はぐらかしてキチンとした答を教えてくれなかった。
 今日、再チャレンジをしてみた。
「…自分の手を汚さなきゃいかんのだよ。今はやれパソコンだ、マシンだと自分の頭と体を使わない。それじゃ元気にやっていけんのだよ」
 私は笑った。思い当たる節があったのだ。いや、今の人なら皆私と同じ感想を持つのではないか。
「御宅の娘がホームページ?にうちの店の宣伝をするって。ワシは断ったよ。伸一も同じ意見だったね。あいつは根っこでワシの気持ちが分かってる」
 私はまた笑った。
「地道に、人の手でやるのが一番なのだよ」
 そういえば娘夫婦は?
「今日は夕方に顔を出すって。そろそろ来るだろ」
「こんちゃ」
「今日は…あれお父さん来てたんだ」
 噂をすれば。
「ウチの大常連」
 マスターが笑う。今日来ないわけがない。
「お義父さん、プレゼント」
「え?」
「この携帯の画面見て下さい。お店のホームページ作ったんですよ」
「だから美樹さん…」
「俺も今日知ったんだよ」

 けれど、マスターは笑顔だった。



 第20回文章塾特別企画、お題「「旨いもの」で思い浮かぶ文章」への投稿作品です。
 この作品に対する、文章塾塾生の皆さんからのコメント、僕のそれに対する返信のコメントは、こちらから。

第20回文章塾投稿作品『俺は挽いたコーヒー豆の上に尻餅をついた』

2007年11月24日 17時57分17秒 | 文章塾
 コーヒーの巧い淹れ方なんて口で言ってもわからないよ。
 俺は事ある毎に口に出して唱えたね。

「俺は美味いコーヒーを客に出す」

 ってね。


「ふーん」
「なんで今そんなこと聞くんだよ?ほら練習だろ?とっとと行ってこい」
「わかってるよ」
 気が乗らない。幾ら練習しても記録が伸びないから。掴みかけた「コツ」がどっかいっちゃった。

「伸!遅せーぞ!遅刻だぞ!」
「うるせーな、わかってるよ!――痛アッ!美樹、何すんだよ!」
「わかってるなら走って来い」
「うっせーな、わかってるよ」
「それ口癖?」
「どこが?」
「…あんた陸上部一のホープなんだから自覚しなさい」
「えっ?あー……」
「本気にしてやんの!あんたなんかビリがお似合ーい。ぺっぺっ」
「うっせ!殴るぞ!」
「こわ~」
「仲の良いこったな」
「わっビックリした。部長!」
「伸一、早く準備しろ。今日から特訓だって言ったろ」
「ハイ、スミマセン」

 だから来たくなかったんだ。特訓?そんな事したって俺の記録は伸びないよ。

 もう限界なのかも知れない。

『…パンパン!』

 両の頬っぺたを叩いた。陸上を始めて4年、幅跳びになって1年、腐っちゃ情けないだろ。

(でも、どうしたら今以上力がつくのか?)

 わからねえ。そういえば親父の言葉、

(俺は事ある毎に口に出して唱えたね)

 思い出しちまった。
 俺、なんであんなこと親父に訊いたんだろう。
 口に出して唱える――

『俺はあと少しでも遠くへ跳びたい』

 その言葉を呟きながら、3週間、俺は特訓を受けた。


「今日で結果が出なかったら、お前をレギュラーから降ろす」
 ――わかってるよ。
 確信ではない。俺の中で何かが変わった気がする。自信か?今もベクトルは向っている。
 その答えはもうすぐ出るだろう。

 走り出す。あっ…ほら、もう何かが違う。
 踏切までが長く感じる。スピードに乗る風に乗る。
 跳んだ。
 景色が流れる。美樹の姿も――
 そして茶色い粉を飛び散らして着地する。

 一瞬、鼻先を親父の香りが掠めた気がした。



 第20回文章塾――お題「「珈琲の香り」で思い浮かぶ文章」――への投稿作品です。
 この作品に対する、文章塾塾生の皆さんからのコメント、僕のそれに対する返信のコメントは、こちらから。

廻り道

2007年10月13日 01時07分53秒 | 文章塾
 箱の中に生き者がいた。外には出られない。
 行きたい所に移動するには、垂直な面に体重を掛けて、ガタン、ガタンと転がしていくしかない。

 生き者は旅行マニアだった。
 乗り物に乗る時、段差を登るのに苦労した。ダイヤを乱したのは一度や二度ではない。
 階段を降りる時はもっと苦労した。降りるというよりガタガタガターッと落ちる感じで酷い事になる。どこかしらに怪我をした。箱の中は暗いので何処にどれ位の怪我をしたのかよく判らない。ある部位に怪我をして、それが治り、またどこかに怪我をした。

 生き者は創造主に願った。
『この箱が玉であったらどんなに良い事か』
 移動するのに苦労せず、こんなに怪我をする事もない。
 祈りはすぐに叶えられ、生き者は玉の主となった。
 生き者が歩けば、それは移動になった。快適な事だった。
 それから、生き者はあちこち散歩に出歩いた。以前では考えられない事だった。鼻歌交じりに生き者は歩く歩く。
 ところが困った事が起きた。今度は停まっていられないのだ。風が吹けば煽られ、坂では立っていられない。
 バス停が坂道にあるときは本当に困った。列に並んで待てないのだ。上の方に体重を掛けても、いつの間にかジリジリと下がってしまう。玉の後ろに並ぶ人も困り顔。
 なんとかバスに乗り込み、目的地で降りた。忘れていた。そこは急な坂道だったのだ。
 ものすごい勢いで玉は坂を降っていく。もうどうにもならない。運を天に任せた。
 しかしそれは味方しなかった。その先は崖で、更にその下は高速道路の真ん中だった。
 玉は猛スピードで走る車にはねられ、生き者は意識を失った。

 ……気が付くと空が見えた。初めて見る空。ここは天国か?
 生き者は箱の中に居た。開放されることはなかったのだ。
 しかし、それは透明な箱だった。
 見回した。始めて見る周りの景色。角があることはもう、問題にならなかった。いや、既に、それには意味があることが解っていた。
 生き者は生まれ変わったのだった。



 いまさらですが第19回文章塾、お題「箱」における僕の作品を再発表します。

 文章塾生の皆さんから寄せていただいたコメントと、僕の返答はこちらから。

『祈るチカラ』

2007年08月14日 23時06分17秒 | 文章塾
「地震が起きませんように、火事になりませんように、世界が平和でありますように」
 毎日この言葉を仏壇に10回唱えるのが僕の日課だ。
 でも小さな声でお願いするので、お母さんやお父さんは僕が何を拝んでいるのか知らない。

 さて、明日はみんなで海水浴に行く。
「津波が襲ってきませんように」
 今日は、仏様にお願いすることが1つ増えた。拝んでる途中、今何回唱えたのか判らなくなる。
 今6回目!
 勝手に決めて、後を続ける。

 昨日、テレビで津波の事をやっていた。
「怖いね~」と僕
「そうだな」とお父さん。
「あさって地震が起きて、津波があったらどうしよう?逃げられる?」
「じゃあ行くのやめて家にいるか?」
「それは嫌だ~」
 お父さんは笑って「家にいるのが一番安全だ」
「でも火事が起きたらどうするの?」
「お父さんもお母さんもいるから大丈夫だよ」
「そうかな~」
 テレビで見た感じではそうは思えない。安全な場所なんてあるのかな?
「そういう時はね、仏様にお願いするんだよ」
 今度はおばあちゃん
「やってるよ」
「へえ偉いね、力」とお母さん。
「なら大丈夫だ。おじいちゃんが守ってくれる」おばあちゃん
「うん」

 その日の夜
 僕はタオルケットを被って眠ろうとする。
 目をつぶる。
 暑いので手足を布団から出そうとする。
 …ダメダメ!手足を引っ込める。顔以外そとに出さない。
 だって出してたらそこをドラキュラに噛まれて血を吸われる。
 汗だくになりながら、僕はいつしか眠りに落ちた。
 その時、頭を噛まれる事はいっさい考えなかった。。。

 明日は海。楽しみだ。
「…津波にあいませんように!」
 僕は仏様に10回お願いする。
「そんなに怖いの。行くの止めにしようか、本当に?」お母さん
「ううん、もう大丈夫、だって神様にお願いしたもん!」
「神様?」
「あっ仏様かな、ご先祖様?…とにかく10回も祈ったんだから大丈夫!」
 その時の僕には、怖いものなんか何にも無かったんだ。
 みんなは心配していたけど、本当だよ。



 文章塾投稿作品『祈るチカラ』

『案山子の思い出』

2007年07月31日 00時35分40秒 | 文章塾
「冷たいっ」
「どうした」
「ベンチに座ったのよ。まだ冬ね」
「そんなことより」
「いいえ、そういう訳で、私あんたとはお別れすることにしたから」
「なんで」
「あなたが浮気したからでしょう?だからあたしもしたの」
「どういう事だよ」
「男友達を家に泊まらせたわ。彼と一緒に学校に行くとこ」
「なんでそんな」
「酷いのはあなたよ。もう信じられない」
「信じろって」
「いいえ、あなたは浮気した、証拠はあるんだから」
「そんなの嘘だ」
「もう、あなたの言葉は信じない」
「…俺、泣きそうだよ」
「それも嘘でしょ」
「もういい。俺から別れる。お前とはもう会わない」
「上等よ。願ったり叶ったりだわ。さよなら」

 プーップーップーッ

「なんて。確かに男は家に泊めたけど、今私は独り。これどういう事?」

 プーップーッ…

「ウッ、ウッ、ウッ…もう嫌だ。嫌だぁ。なんでいつもこうなるんだよ?結局最後は独り。俺はミジンコだ。いくら夏は元気に泳ぎ回っても、冬は乗り越えられないで死んでしまう。俺はミジンコだ」

 コンコン、

「?」

 コンコンコン、

「どうしたの?なんで電話ボックスの中で泣いてるのよ?しっかり」
「ぁあ?」
「開けていい?」
「どうぞ勝手に」
「失礼します。変なの。なんで携帯使わないの?」
「俺持ってないもん」
「嘘でしょーっ?」
「携帯は持たない主義なんだ」
「不便な人だねー」
「うるさい」
「…」
「独りにしてくれ」
「ごめん、なんか話すね、えーっと…」
「…」
「今朝なに食べた?」
「何も食べてない」
「嘘っ、不健康」
「うるさい」
「もう涙止まった?」
「お前のせいで」
「良かった」
「どっちでもいい」
「だって泣いてたら空見れないじゃん」
「え?」
「今日晴れてるよ。見てみなよ」
「うるせー」
「ホラ出てきなって」
「あぅ」
「ね?」
「あっ、桜の花びら」
「もう春だよねー」
「暖冬だからだよ。桜は早すぎ」
「そうかな。でも嬉し」

「…」
「なに?」
「神様は案外俺を自由にしてくれたのかもな」
「えっ?」





 今更ですが、再発表。。。

 前半はともかくとして、後半は気に入っています。

 第14回文章塾投稿作品。お題は、「春」。