第五章 再会(三)
『それでは、今日のサンライツセッティングの放送は、ここまで! みな様お付き合いありがとうございました!』
ラジオから一瞬ノイズが流れ出す。その直後、
『みな様こんにちは! サンライツセッティングのお時間がやって参りました! 今日もこれからなん時間かみな様のお相手をいたします、今井麻衣子でございます』
慎平と修が教室に入ってくる。
「みどりちゃんまたこのラジオ聴いてるんだ~?」
「よく飽きないよね」
「相変わらずBGMの選曲はいいよね~」
慎平が軽口をたたく。
「DJは?」
修が慎平に向かって言うと、二人は顔を見合わせて、ケタケタ笑い出した。
「最悪だよな~、このDJ!」
「なんだかなあ~」
「きっとまだ若いから、経験が伴ってないんだよ」
みどりがフォローをする。
見えない、会ったこともないこの番組のDJに、みどりはフォローを入れている。
『今日の最初のナンバーは、この曲。ミキサーの恵美ちゃんが今日持ってきて、もうサイコーなんです! みな様、ぜひ聴いてみてください』
ラジオから軽快な音楽が流れ始める。
それと同時に、教室内の空気が変わる。
BGMひとつで、これだけその場の雰囲気って変わるものなのだな。みどりは思った。
「だから選ぶ音楽のセンスは、飛び抜けていいんだよな」
慎平が述べると、
「そうそう」
修が相槌を打つ。
「このたまに名前が出てくる、『恵美ちゃん』って人の選曲が、いいんでしょうね」
みどりが言うと、
「そういうことになるな」
慎平が結論付けた。
「それはそうと……慎平さんはいつ月謝を払っていただけるのかしら!」
「えっ?」
みどりが慎平に前触れなく詰め寄る。
「俺ここの生徒じゃないもん! ただ修についてきてるだけだって」
「そんな子供みたいな言い訳が……!」
「だって俺が先生の授業受けてること一度でもあったか?」
慎平は修に同意を求める。
「それは……ないな」
「それきったない……ズルイのぉ~」
「先生が月謝払えって? 言ってるの?」
「そういう訳じゃないけどぉー」
「じゃあいいじゃん」
「あたしの立場的に……見逃せないんですけど」
「もっとアバウトに、いい加減になったほうがいいよ、みどりちゃん」
「余計なお世話……しかも今、慎平さんにだけには言われたくありません」
慎平と修は荷物を机の上に置いて、適当に並んでいる椅子に座った。
「修さんは、今度のコンクールには当然作品出しますよね?」
修はみどりの質問には答えずに、あらぬ方向に顔を向けている。
「俺は出すよ」
「は?」
出すと答えたのは慎平だ。
「意味が分からない。慎平さんが絵を描いてるとこ自体、私一度も見た事ないですよ」
「描けるよ」
「まー参加するのは自由ですけど」
「賞とるよ」
「『笑い』の笑ですか?」
「ちげーよ! 大賞とか、優秀作品賞とか」
「わかりました。頑張ってください。で、修さんは出品しますよね?」
「みどりちゃ~ん、」
みどりは完全に慎平に対して無視の態勢。修は、なんだか困った顔をしている。
「修さん?」
「……みどりちゃん……」
修がいまだあらぬ方向を見ながら、口だけボソッと呟いた。
「はい!?」
「愚痴っていいかな?」
「……え~と……いいですよ」ニコッ。
みどりは作り笑いで修に応じる。
「何を描いていいのか、分からなくなっちゃったんだよう~!!」
「……はぁ、」ニコ。
みどりはひたすらアルカイックスマイル。
「何でもいいじゃねえか、絵のモチーフなんて」
慎平が話に割り込んでくる。
「よかねえよ。モチベーションが上がんない」
「そりゃモチーフが決まらないのが問題じゃなくて、お前の内面に問題があるんだ」
「へえ」
みどりが意外そうな声を上げた。
「どした?」
「まともなコト言えるんですね、慎平さん。ちょっとびっくりしました」
「惚れた?」
「やっぱり馬鹿ですね」
慎平、ズルッと大袈裟にコケる。
「慎平、一緒に絵のモチーフ……俺が描く気になるモノを探してくれないか」
修は本気である。
「はあ?」
「頼む!!」
修は慎平に両手を合わせて拝んでいる。
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