おっちーの鉛筆カミカミ

演劇モノづくり大好きおっちーのブログです
いろいろ活動してます
そのうち、みなさんにお目にかかれたらうれしいです

こみたく!【七】

2015年11月24日 20時41分15秒 | 戯曲・つれづれ
【七、アイグラント帝国軍の登場】

キロ入場
ゴウリの実を拾い集めている
周囲に気を配りながら
アイグラントの気配に恐れを抱きながら

キロ 「今日は、何事もなく集められるかしら
ゴウリの実……おじいちゃんの薬、今日の分だけでも」

キロ、何かの気配に感付く
近くに立っている木の後ろに、身体を隠す
ビストローヌ、ドウルフ入場

ビスト「いつものお嬢ちゃん、今日はいないようだねえ
手間が省けて、楽だよ
いつも、こうあって欲しいもんだね
なあ、ドウルフよ」

ドウルフ、駆け出す
キロ、ドウルフが突然近付いてきたので、その場から逃げようとする
ドウルフは、キロの気配に気付いた訳でもなんでもなかった
しかし、その結果……

ビスト「そこに誰かいるね!
いつもの嬢ちゃんかい?
いい加減に、我々の手を煩わすのはやめて貰えないかね!」

ドウルフ、キロに飛び付く(じゃれ付こうとする)
キロ、小さく悲鳴を上げてそれを振り払い、体を二人から遠ざける

キロ 「煩わすって……
この村を勝手に占拠したのは、あんた達じゃないか!
この村は私達のものだ
あんた達アイグラントの連中に、どうこう言われる筋合いは全くないわ!」
ビスト「その手に持っているものは、何だ?」
キロ 「訊かなくても分かっているだろう……
ゴウリの実だよ!」
ビスト「それがいけないねえ!
『このファーネスの村で収穫されるゴウリの実は、
全てアイグラント帝国のものとなる』
そういう契約を、この村と交わした!」
キロ 「そんな契約、認めるもんか!
村人の命を楯に、強引に結んだ契約じゃないか!」
ビスト「契約は契約なんだよ、お嬢ちゃん……
とにかくその手に持つゴウリの実を、全て引き渡しなさい!
お前に対して、それ以上の拘束をするつもりはない
簡単な話じゃないか」
キロ 「このゴウリの実で、命を繋いでいる人がいるんだ……
見逃して、くださいよ……」
ビスト「私も遊びでやってるんじゃないんでね……
この村でしか採れない、ゴウリの実を独占する……それが私の仕事なんでね
悪いが!
ドウルフ!」

ドウルフ、キロとの距離を詰める

キロ 「じゃあ、勝負しろ!
私が負けたら、今日は大人しく家に帰る!」
ビスト「随分大きく出たね
私とこみたく勝負をするつもりか!
アイグラント帝国軍の中でも、こみたくで私の右に出る者は、ほんの一握りだ
こんな片田舎の娘に、私が負ける訳がないけどねえ」
キロ 「うるさい!
やってみなきゃわかるもんか!」

男審判員、入場

男審判「こーみたーくしょーうぶ!
始まりそうですね、こみたく勝負
ダブルユーちゃんは今ちょっとお休みなので、
この勝負は、わたくしエムエーさんが引き受けますぞー
では早速、始めのワードをどうぞ!」
キロ 「………どうぞ」
ビスト「いい心掛けだ
そうだな……
お前はどうしてゴウリの実を必要とするのだ?
一度訊いてみたいと思っていた」
男審判「始めのワードで、相手に質問するのはルール違反ですぞー!」
キロ 「大丈夫!
始めのワードは、それで」
男審判「特別ルール適用!
対戦者の同意が得られれば、質問で始めるのを許しますぞ」
ビスト「じゃあ開始だ
なぜ、お前は毎晩ゴウリの実を集める?」
男審判「こみたくぅースタートォーッ!」

男審判だけ、若干浮いた空気

キロ 「おじいちゃんの薬を作るの」
ビスト「お前の祖父は、病気なのだな」
キロ 「ええ。緑至病という病気」
ビスト「その病気の名前は聞いたことがある
確か、罹ると次第に言葉を失い、動く事が出来なくなり、
最後には一本の木になってしまう病気だ
治す薬は存在しない、と聞いている」
キロ 「この村には、その薬があるの」
ビスト「!
なるほど、ゴウリの実が、薬になるのか」
男審判「こちらの攻撃的投げ掛けを、こちらはあっさりとかわした!
やはり軽いジャブ程度では、KOは不可能なのかぁ!」
キロ 「ゴウリの実が、おじいちゃんの緑至病の進行を止める、唯一の希望なの!
緑至病の薬は、ゴウリの実からしか作れないのよ!」
ビスト「その薬は、治せるのか?」
キロ 「えっ?
病気を……あっ
ゴウリの実から作れる薬でも、緑至病の進行を止める事しか出来ない」
男審判「ふう!」

及川、入場
対戦の様子を隠れて見ている

ビスト「治せないのなら、放っておく方が良い」
キロ 「どういう!ハッ!
今は治せなくても、いつか治るかも知れない!」
男審判「おーう」
ビスト「それは自分勝手な希望だ
お前の祖父は、その状態を望んでいないかも知れない」
キロ 「えっ
そんなことはない!」
男審判「ハイ三回ルール適用です!
三度言葉に詰まった
あなたの負け
あなたの勝利~!」

うなだれるキロ

ビスト「まあ当然だ」
男審判「こみたく審判員エムエーさんでしたー
またの登場を、お楽しみに~」

男審判員、退場

キロ 「ちきしょう
ちきしょうちきしょうちきしょう!
お前こそルール違反じゃないか
何でそんな心無い事が言えるんだ
勝負に勝つ為とはいえ、そんな酷い言葉、私には言えない」
ビスト「私は本当にそう思っているぞ
テクニックだけでこみたくは勝てない
単にお前が未熟だったのだ
さあ、ゴウリの実を置いて家に帰れ」
キロ 「お前らそれでも人間か!」
ビスト「負け犬の声にしか聞こえないな
勝負に負けた者は、勝った者の意思に従え
それがこの世の絶対的ルールだ」
キロ 「………」

こみたく!【五】【六】

2015年11月18日 13時56分06秒 | 戯曲・つれづれ
【五、ガストロールへの扉】

及川 下北沢……
地図を見ると……こっちか
……えっ、この……粗大ゴミの中なのか?
何でこんな所に……
……冷蔵庫……確かに冷蔵庫だな
たぶん、もう使えないヤツだ
……この扉を……開く

幸次、息を呑む

及川 なんだ……これは……?
ドラえもんじゃねーんだから
冷蔵庫の中に、別の世界が広がってやがる
これは夢じゃねーだろーな
入ってみるか?
戻れなくなったら……
まあ、この扉を閉めなきゃ、大丈夫だろ
細心の注意を払って……
よし、行ってみよう

幸次、冷蔵庫の中の世界に入る(退場)
すぐに、清掃員1と清掃員2が入場

清掃1 この冷蔵庫は、いつまでもここに置いてあるな
清掃2 廃棄しましょう。廃棄
清掃1 それがいいな

清掃員2、冷蔵庫の扉を閉める

清掃2 じゃあそっち持ってください
清掃1 了解。あらよっと
清掃2 急に持ち上げないでください。バランスが……
清掃1 おや失礼。それじゃあ、あらよっと
清掃2 あいよっと
清掃1 ほいさっさ
清掃2 ほいさっさっさー

二人の清掃員は退場


【六、扉の中】

幸次入場

及川 ここはどこだ?
日本じゃないのか?
一体、どこだ?
あっ、そうだ、退路確認……
あれっ、えっ?
おかしい、今、俺はここに入ってきたばっかだぞ!
出口が無くなってる……
どういうことだ
どういうことだ
何でだ
あーもう!
無くなっちまったもんはしょうがない
とりあえずここはどこなのか、それを確認しよう
それにしても……誰もいないな

こみたく!【四】

2015年09月27日 10時02分24秒 | 戯曲・つれづれ
【四、聖木(ルーンツリー)とキロ】

キロ入場

キロ おはよう、ルーンツリー
あなたはわたしに何を求めるの?
この村を出て、旅立つこと?
おじいちゃんを見捨てること?
あなたの真意が、私には分からないわ
この村に、来訪者が来る……
その人と、一緒に行けばいいの?
でも、おじいちゃんはどうしたらいい?
ルーンツリーは答えてくれない……
一体私は、どうすればいいんだろう
答が見つからない
私は、とても困っているよ

コバルト、入場

コバル キロ!
キロ コバルト、おはよう
コバル ああ、おはよう
ビッグニュースだ
キロ えっ、また耳を覆いたくなるような悲報なの?
……それにしては嬉しそうね、コバルト
コバル 悲報なもんか
奴らに対抗する術が見つかるかも知れない!
キロ ほんと? でも無理しないでね、コバルト
コバル 僕の事を信用してよ、キロ
もうこれ以上、奴らにゴウリの実を独占させない
キロにも、これ以上苦労はさせない
キロ そうか
ありがとうコバルト
でも頑張り過ぎないで
何かあったら、私にも教えてね
コバル ああ、わかったよ、キロ
キロ あ、コバルト……
コバル なあに?
キロ ……あ、いや、何でもないわ
コバル どうした?
何だい、キロ
何でも話し合おうって、約束しただろ
教えてくれ
キロ ごめんなさい
これはまだ、私だけの問題なの
その時になったら、必ず話す……必ず
それでもいいかな
コバル ああ……わかったよ、キロ
その代わり、その時が来たら、必ず話してくれな
キロ うん、わかった

こみたく!【三】

2015年09月27日 01時29分44秒 | 戯曲・つれづれ
【三、太陽の降る村】

及川、PCの画面に向かっている(タブレットでも可)

及川 太陽の降る村について都市伝説の件……なんだこりゃ?
太陽の降る村って?
ふんふん……街の中には、空間がひん曲がって異空間と繋がっている
場所が幾つか存在している……はあ?
その中で、太陽が降るという村と繋がっているのは、下北沢の某所
ここに地図を記すので、興味がある者は行くとよい
但し、この地図は暗号化してある
この暗号を解く力のある者は、この世のものとは思えない美しい場面を
その目にする事が出来るだろう
はあ
嘘っぽいけど、三橋なら解けるだろ
暇潰しに、頼んでみるか
三橋~

三橋入場

三橋 おう、調子はどうだ、幸次?
及川 何の調子だよ?
三橋 こみたくの地区予選、準備に余念は無いんだろ?
及川 そんな力入れてたら、出せる実力も出せないよ
修行は、自分の意思の力でするもんじゃない、常にさせられるもんだ
もっと分かりやすく言うと、いつの間にかしてる種類のもんだ
三橋 何かムカつく~
幸次って、だから友達少ないんだよ
及川 別にいいよ、少なくても
生活が出来る程度で充分
それ以上いたら、めんどくさいだけだろ
三橋 幸次、お前それ学校で言わない方がいいぞ~
及川 ああ、集まってるとこじゃ言わねーよ
って事にしとく
三橋 ああ? まあいいや。そうしとけ
で、今日の用件は何だ?
ただ駄弁りに来た訳じゃねーだろ
その為にお前わざわざウチ来ないよな
及川 ああ、このデータの暗号、お前解けるか?
三橋 ああ~、百ギガビットベースの、ABS構文の暗号だな、こりゃ
及川 そんなこと言われても、さっぱり意味分かんないけど
一目見ただけでそこまで分かるんだ、さっすが
三橋 ああ
こっちは俺の領域だ、任せとけ
これは……地図か?
シモキタ?
及川 そうだ、下北沢の、地図のはずだ
三橋 ちょっと上がって待ってろ
三十分ありゃ解けるよ
及川 おおーう、よろしく~
助かるわ、三橋
三橋 ああ、任せとけ

三橋引っ込み、ちょっとしてすぐ戻ってくる

三橋 幸次
及川 早いな! まさかもう解いたのか?
三橋 いや、これの結果、ほんとにお前に伝えていいのか?
及川 どういう意味だよ
三橋 俺は、こっから得た情報は、努めて忘れる
そんくらい危ない臭いがするぞ
及川 どういう事だ?
犯罪とかが絡んでるって事か?
三橋 いや、なんて言うか、とにかく、これに足を突っ込むのは危険だ
及川 何でそこまで言えるんだよ
三橋 キッパリとは言い切れないが、俺の、勘だ、十七年間で身に付けた
及川 そうか
じゃあ、結果だけ教えてくれ
あとは俺自身の判断で、この情報を生かすか、捨てるか、考える
三橋 わかった
じゃあ俺は仕事……役割、として、このデータの暗号を解く
その結果をどうするかは、お前次第ってことだな
及川 そゆこと
三橋 ラッジャ
待ってろ
三十分だ
及川 よろしく

三橋引っ込む

こみたく!【二】

2015年09月24日 17時57分20秒 | 戯曲・つれづれ
【二、こみたくって?】

幸次の通う学校
幸次のクラス
何人か、クラスメートが談笑している

香 ではこみたく勝負始めます
美雪ちゃんの、嫌いなものを教えて
美雪 普通にゴキブリとかかな
香 私は、植物……特に花が嫌いなの、綺麗だけどね
美雪 綺麗よね、私は好きよ、花
香 花には虫がついてるのが嫌いなの
美雪 虫は花を助けているの
香 ………どゆこと?
美雪 はい疑問形! 話を受けられなかったから、香の負け!
香 あーん、意味分かんないよ美雪、虫が花を助けてるってどういう事?
美雪 植物は、花粉を虫によって他の花に受粉してもらってるの
つまり虫がいなかったら花は種を付ける事が出来ない……そういうこと
香 あー、そうなんだあ
やっぱりこみたく、難しい!
美雪 ただの言葉の受け答えの技術だけじゃなく、まんべんない知識も必要だからね
深いよ~こみたく
香 美雪ちゃん、どうすれば美雪ちゃんみたいに強くなれるの?
美雪 練習と工夫、夏なあ
香 結構、練習はしてるんだけどなあ
美雪 考えながら練習しないとね
今の勝負だって、一回流したけど、植物が出てきたくだり、前のキーワードの
「ゴキブリ」を受けてないから、本来ならあやしいとこだよ
香 ああ、そっかあ
そうなんだ
美雪 幸いにも、ウチのクラスには最高のお手本がいるから、参考にするといいよ
私も参考にしてる
ときどき、実力違い過ぎて絶望したくなるけど
香 やっぱ幸次君、凄いよね
美雪 我が校の代表射止めたからね
ウチの学校じゃ相手になる人いない、余裕で全国大会レベルって話
私も頑張ってるつもりだけど、才能なのかな、幸次君にはどうやっても勝てない
香 美雪がそう言うんじゃ、私なんか耳クソレベルだよ
美雪 女の子が、自分のこと耳クソって……
香 言いたくもなるよ
世間は不平等だー!
私だって頑張ってるのにー!

及川、三橋登場

三橋 おはよー
香 あ、おはよ
美雪 おはよう
幸次君、代表おめでと
香 おめでとーう
及川 あ、うん、ありがとう
三橋 流石だよなあコイツ!
及川 三橋やめろって
たまたまだよ
香 またそんなこと言って
自信と負けん気の塊がー
当然だって思ってんだろー
及川 あー、まあな
香 ほらほら本音が
及川 冗談だって
美雪 みんな、そろそろ朝礼始まるかな
三橋 ほんとだ、校庭に急げ!
及川 朝礼かあ
めんどくせーな
三橋 認証式があるからな、幸次の
美雪 幸次君、行こうか
及川 ああ、そうだな

クラスの人達、パラパラと退場
四人も退場

ぼくらの夏

2015年08月23日 22時23分16秒 | 戯曲・つれづれ
   季節は、夏

一太「そろそろかっ飛ばせよ」
次郎「えっ?」
一美「打てるもんなら打ってごらんなさい!」
次夢「おねえちゃん頑張って!」
一美「次夢、お姉ちゃん絶対勝つよ!」
一太「あんなこと言われてるぞ、次郎! 男なら、次夢の頭越すようなホームラン打ってやれ!」
次郎「でも、姉ちゃんクセ球だからなあ」
一美「男が言い訳すんな!」
次夢「そんなコトだから、美咲ちゃんにフラれるんだよ!」
次郎「なんでそんなこと知ってるんだよ!? てかそんなん関係ないじゃん、今は!」
一太「よし次郎、ここは美咲ちゃんに捧げる一打だ」
次郎「意味分かんないよ! もう忘れてよ、そんな事は!」
一美「次郎ちゃんも恋するお年頃になったんだねえ? 次夢、あとで美咲ちゃんの写メ、よろしく!」
次夢「姉ちゃん、承知しました!」
次郎「終わったことをほじくり返すなあ……」
一太「次郎、次だ次! アタマ切り替えろ!」
次郎「わかったよお 幸せ真っ只中の一美姉ちゃんの球を、僕が、打ち返す!」
一太「よし、その意気だ!」
一美「姉ちゃん昨日、フラれたんだ……」
三人「え」
一美「吉田一美、投げた~! これが最後の一球になるかあ~?」
一太「……ス、ストライックウ~!! 三振、バッター次郎アウト!」
次郎「姉ちゃんずるい」
次夢「おねえちゃん、それ本当?」
一美「子供が、大人の恋愛に口出すのは十年早い」
次郎「デマなの?」
一太「こりゃ真相はわかんねーな 踏み込むと火傷するぞ、きっと」
次夢「そっかあ~」
一美「ふふふ 兎に角、この勝負は私の勝ち さあ、掛け金徴収するよ」

丸雄とチカ子

2015年08月22日 11時45分18秒 | 戯曲・つれづれ
   男女が電柱にのぼりながら会話をしている

丸雄「チカ子さん、あなたはどうしてチカ子という名前になったんだい?」
チカ子「丸雄さん、あなたこそどうして丸雄というお名前なの?」
丸雄「どうでもいいことだよ、そんな事は」
チカ子「それは、お互い様でしょう」
丸雄「それはそうと、どうしてこんなことになったんだっけ?」
チカ子「昔の事は、忘れてしまいましたわ」
丸雄「そう。僕、もう降りてもいいかな」
チカ子「構造上、私が降りないとあなたも降りられないことになっておりますわ」
丸雄「そう。じゃあ君降りて」
チカ子「嫌ですわ」
丸雄「どうして?」
チカ子「ずっとこのままでいたいんですの」
丸雄「それは、チカ子さんからの告白と捉えていいのかな」
チカ子「恥ずかしい!」
丸雄「じゃあ、ずっとこのままでいよう」
チカ子「本当に? チカ子嬉しい!」
丸雄「雨の日も、風の日も、台風の日も、すっとこのままで」
チカ子「それは嫌だわ。丸雄さん、早々ですが離婚いたしましょう」
丸雄「それが君の本心なら」
チカ子「私、この電柱から降りたくなってしまったんですの」

こころとココロ。

2015年08月21日 22時38分01秒 | 戯曲・つれづれ
狭くて汚い部屋に、男女がいる

心「そんなん、こっ恥ずかしくて出来るワケないじゃん!」
真「そうかなあ。俺を愛してるんなら、喜んでするでしょ」
心「しん、アンタってあたしのコトなんにもわかってないね」
真「しん、俺はお前の事をわからない」
心「そうだね!」
真「でもさ、それってしんにとっても画期的なコトなんじゃね?」
心「画期的ってなにさ、画期的って」
真「ステキだってこと」
心「どこが! アンタと話してると、心が荒んでいくわ」
真「ごめんなさい」
心「どういたしまして。素直で苛立つう~っ!」
真「どうでもいいけど、なんでお前、俺の部屋にいるの?」
心「あなたのことが好きだから」
真「あ、ハートがひとつ飛んだ。私はあなたがキライ」
心「どっひゃ~。新婚一ヵ月目の、どっひゃ~」
真「真理ってそんなもんだよ」
心「それどういうコト!? どっひゃ~が、真理!?」
真「そっちなん? お前臭いよ」
心「あんたも臭いよ」
真「お互い風呂入ってねーもんな」
心「入る?」
真「一緒に入るか」
心「絶対嫌」
真「なんで?」
心「アタシ、あなたのことが大っ嫌いなの」

私に伝えたい・サイドストーリー(秋庭)『アラライにまつわる物語』

2011年12月12日 00時14分46秒 | 戯曲・つれづれ
 私の苗字は秋庭といいます。
 みんな会社ではアキバさんと呼んでくれます。
 今日は土曜日なので会社は休み……新井薬師前という駅までやってきました。新井薬師前は、山手線の高田馬場駅で乗り換えて、西武新宿線で5分ちょいの駅です。
 ここに何をしに来たかというと、駅から歩いて5分くらいの場所に、スペシャルカラーズというバースペースがあって、そこでパフォーマンス公演があるのです……それを観に来ました。
 それは、『ア・ラ・アラ・ライブ』というタイトルの公演。いろんなパフォーマーが集って、芝居あり、歌あり、パントマイムあり……とにかくいろんなパフォーマンスが100分の間に目の前をわんさか流れ過ぎるという、ユニークな公演なのです。
 会社の同僚に苑田さんという私のお兄さんみたいな人がいて、その苑田さんがこの公演のスタッフとして関わっています。
 苑田さんは別に自分が出演するわけじゃないのに、「アキバさん観に来て!」と何かある度に言うので、一回くらい……と今日は観に来たわけなのです。
 ちなみに苑田さんは、アラアラライブに出演することが今の目標なんだそうです。
 それもあって、ここまでやって来ました。

 地図を見て来たんですけどね。
 道に迷ってます。
 ほんとにこの辺なのかしら。
 「あらいやくしはりきゅう整骨院」というピンクの看板のあるビルの地下……らしい。
 ん、ピンクの看板ってこれかな?
 ここだ。きっとここだ。
 自転車とかバイクとか並んでるけど、この中ほんとに入っていいのかな。
 意を決して入る。
 階段を下りる。
 不安。
 間違ってたらどうしよ。
 知らない人が出てきたら逃げよう。
 地下フロアに到着。ちょい狭。
 そしてドアが閉まっている。
 どうしよ。
 ドア三つあるけどどれが本物だろう?
 あ、一つはトイレなんだ。
 残り二つ。
 普通に考えれば、階段に近い方だよなあ。
 よし決めた!
 も一回意を決して、ドアを開ける。
 こんにちは。
 あ、誰か出てきてくれたよ。
 知らない人だ。逃げた方がいいかな。
 あ、笑ってくれた。いい人~。
 え、まだ開場1時間前?
 もう開演の1時間半前ですけど、入れないんですか?
 前行ったコンサートだと、それくらいには……
 まだ準備している?そうなんですか。
 あ、謝らないでください。ごめんなさい、私が無知なだけだったんです!
 でも、私どうしたらいいですか?(←自分で時間をつぶそうという発想がない)
 私、苑田さんの知り合いで……
 あっ、苑田さん~!
 よかった~間違ってなかったんだあ~
 えっ、入っていいの?準備中じゃないんですか?
 全然オッケー?
 部外者ですけど……はい、じゃあ……失礼します。
 苑田さん、ありがとう。
 あ、笑顔で迎えてくれたお姉さんも、ありがとう。
 ……でもこれ、リハーサルじゃないのかなあ。見ちゃっていいんですか?
 見たくなかったら目隠しを貸してくれるらしい。
 ……って、なんでそんなものがあるんですかぁ?
 小道具……なんですか。
 ……どんな内容の出し物で使うんだろう……。
 ふーん、舞台のリハーサルってこんな風にやってるんだなあ。
 そうしてリハーサル終わって、そろそろ開場のお時間。
 なんか気合い入れをするらしい。
 え、私も入れって?
 だから私部外者……
 みんなで手を重ね、「アラライ、オー」って言って手を上げればいいだけ?
 いやだから私ただの観客のはず……って……恐縮です~
 『アラライ!オーッ!!』
 やってしまった……
 でも、学生時代の文化祭みたい。
 文化祭のライブ、あれ燃えたなあー。
 あ、主宰のアラリンさん!DMと同じ顔だ、感動~
 そして私なんかに話し掛けてくれたあ~泣
 はい、どうもです、よろしくお願いします……って私が言うの変か?
 え、終演後に打ち上げがあるからぜひ参加してほしい?
 なんですかそれ?私ただの観客……
 はあ、そういうもんなんですか。私こういう公演って観に来たの初めてなんで……
 へえー、芝居って、終わったあと観客も交えて打ち上げするものなんですね。(←勘違い)
 パルコ劇場とか、大きな劇場の公演後はどうしてるんでしょうねえ……きっとすんごい事になるんだろうな(←大間違い)
 はい、じゃあ参加します。ありがとうございます。
 それじゃ苑田さん頑張ってね~

 受付を済ませて、客席に着いた。まだ、開演まで30分ある。
 どんなパフォーマンスが見られるんだろう?待ち遠しいな。
 そういえば苑田さん、観客参加型のパフォーマンスだって言ってたな。
 もしかして、舞台上に観客が上がるなんてことは。
 まさかそんなわけないか。気持ちの問題だろう。きっと拍手とか、手拍子とかするくらいだよな。
 でも、なんか緊張してきたな。
 客席も埋まって……もう始まるかな。
 あっ、アラリンさんが出てきたぞ
 舞台明るくなって……ドキドキドキ

( 終 )




作者注:どこの公演でも、終演後に役者スタッフ観客交えて打ち上げをするわけではありません。でもアラライではやります(夜の回の後ですが)。あと、苑田さんという人物はフィクションであり、アラライに行ってもいません。探してもいません。小道具の目隠しもフィクションです。最後に、開場前にいらしてもリハーサルは見られませんので注意しましょう。

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2010年09月23日 20時37分23秒 | 戯曲・つれづれ
 ゆずの『夏色』が流れ始める。
 日井周平、似千川まひる、五橋夏生の三人は自転車に乗ってサイクリングをしている。
 『夏色』のイントロが終わると、曲がストップ。
 その瞬間、周平、まひるが前で、夏生がうしろで自転車をこいでいる。

夏生  この長ぁいい長い下りぃ坂を~♪
まひる 何?
夏生  君を自転車ぁの~うしろぉにぃ乗せて~♪
周・ま 音痴!
夏生  うるせ(え)、ブレーぇキいっぱい握りぃしぃめて~♪
三人  ゆっくりー、ゆっくりー、くだってく~♪

 突然激しい車のブレーキの音が鳴り響く。
 三人は自転車から放り出される。
 転がる三人。
 夏生はいなくなる。
 周平とまひるが倒れている。

まひる あいたたたたた…

 まひるは起き上がろうとする。
 辺りをキョロキョロ見回す。
 そばに倒れている周平に気が付く。

まひる 周平

 まひるは周平に駆け寄る。
 途中、体中の痛みに顔をしかめる。

まひる イタッ!…

 周平に近づき、声を掛ける。

まひる 周平、大丈夫?

 周平からは返事がない。

まひる 周平…周平!…死んじゃったのぉ?

 まひるは周平の体を揺する。

まひる 周平! 周へーい!
周平  いたたたたた…
まひる 周平ッ! なんだ生きてんじゃん、良かったあ

 まひるは周平の体をはたく。

周平  痛っ! 痛いよお前!ナニスンダヨ!

 周平は起き上がる。怒っている。

まひる 元気じゃーん、よかったぁ
周平  元気じゃねえよ、体中いてーよ。
まひる あたしも。私たち、一体どうなったんだろ?

 周平はまわりの景色を確認する。

周平  あれっ?夏生は?
まひる ああ夏生くん?…わからない。
周平  わからないじゃねーよ。探そうぜ。
まひる うん、

 二人は立ち上がろうとするが、体が痛くて立ち上がるのに苦労する。

周平  (イ)ツッ!
まひる …!…(体が痛いのを我慢している)
周平  痛えー、事故にでも遭ったんかな。
まひる 夏生くん!?
周平  ちげーよ、俺たち三人。
まひる えっ?私たちが?
周平  そう。自転車に乗ってて、突然車が出てきたところまでは覚えてるんだ。
まひる 車にぶつかったってこと?
周平  それならもう俺ら病院に運ばれてるよな。この程度の怪我ですんで良かったけど、それにしてもここはどこなんだろうな。
まひる 天国だったりして。
周平  あぁじゃあ俺たちすでに死んでるんだ。
まひる うん。
周平  冗談。足なくなってないし。
まひる 古典的発想だねえ。外国の幽霊って足あるんだよ、知ってた?
周平  知らねー。それより、夏生と自転車探そうぜ。
まひる うん。

 二人は辺りを歩き回る。

周平  夏生ー!
まひる 夏生くーん!

 探し回る二人。
 しかしいくら探しても、夏生も自転車も見当たらない。

周平  しっかしここいくら歩いても何にもないな。
まひる 草と木しかないね。
周平  ほんとにあの世なんじゃねーの?
まひる あたしたち、死んだんだ。
周平  だってさ、生きてる実感がないっていうか、変な感じがしないか?
まひる うん、ふわふわしてる感じはするよ。
周平  えーーー……
まひる あっ

 雨の音。
 雨が降ってきた。

周平  うひゃっ、雨かよ。まいったな、雨宿りするところなんかないじゃんか。
まひる 周平、あの木!
周平  あぁ、でっかい木があるな、向こうの方に。あそこまで走るか。
まひる うん!

 二人は木に向かって走る。
 木の下に駆け込み、体についた水滴を払う。

周平  いやー、まいったまいった…
まひる 周平、雨がピンク色。
周平  えっ!?

 周平は周囲を見渡す。

周平  …まわり中、ピンクの土砂降りだぁ。
まひる 雲も…

 周平、頭上を見上げる。

周平  うわっ、なんだこりゃ。雲までピンク色かよ。
まひる やっぱりここ、あの世なんだよ…
周平  …似千川、俺たち、身体…
まひる えっ?…あぁ、ほんと、
周平  いつの間にか、痛みが消えてるだろ。
まひる うん、…どうして…?

 その瞬間、周平はなにかを感じ取ったようだ。
 フラフラと木の下から離れていく。

まひる 周平、どうしたの? 濡れちゃうよ。

 周平は、まひるから離れていく。

まひる 周平?
周平  似千川、いいから、お前はそこにいろ。
まひる え? 周平は?
周平  俺は、行かなきゃいけないところがある。
まひる え? 私も行くよ。
周平  お前は、そこに居ろ。
まひる どうして? こんなとこで独りにしないでよ。
周平  サンキュ、似千川。お前にはたくさん思い出をもらった。
まひる ……。
周平  ここで、さよなら。
まひる …なによ、それ。
周平  ……

 周平の只ならない決意を秘めた様子に、まひるも察する。

まひる わけわかんないよ! わかるようにちゃんと説明してよ!

 周平は、何も答えない。

まひる あたしはついてく。周平のこと追っ掛けるから!
周平  …じゃあな、似千川。もう二度と会えない。
まひる ふざけんなーーーッ!!

 まひるはついに木の下から飛び出る。
 土砂降りの雨の中、二人が少し間をおいて向かい合う。

まひる ふざけんな、周平。なんであなたと別れなきゃならないの?…理由を知りたい。

 そこで、うしろの遠くの方に夏生が現れる。

夏生  まひるちゃん!まひるちゃん!起きてよ!まひるちゃんまで死んだら、俺どうしたらいいんだ!
周平  ぶっちゃけ、
まひる は?
周平  ぶっちゃけ、俺似千川のことが嫌いなんだ。
まひる なにそれ
周平  なにかあると俺にばっか頼って、我がままばっか。泣き虫で、怒りっぽくて、感情的で、自分勝手で、似千川といると、俺自分のことなんにも出来なくなっちゃうんだよ。自分が自分でなくなっちゃうんだよ。
夏生  まひるちゃん!俺、本当はまひるちゃんのことが好きだった。でも周平に遠慮して…あいつ親友だからさ、わかるだろ? あいつが死んだら、まひるちゃんの事を守るのは俺しかいないと思ってる。だから…
まひる 私は周平のことが…

 まひるは周平の方に駆け寄ろうとする。
 後方では、夏生が冠のようなものをかぶっている。そして、周平とまひるの間を通る。
 「冠」には桃色の細長い布がついていて、結果、二人の間を隔てるピンクの川になる。

周平  まひる!

 まひるは周平の言葉を受けて、ビクッと動けなくなる。
 しかしそれをすぐに振り切って周平の方に駆け寄る。
 走り寄ると、ピンクの川のところで壁にぶつかったように進めなくなる。

まひる なによ!これ!?

 まひるは見えない壁を押したり、叩いたりするが、「壁」はびくともしない。

周平  似千川

 周平は、見えない壁に、両手を広げて当てる。

まひる 周平…?

 まひるも、壁に両手を広げてつける。

 二人は暫くの間動かない。
 二人とも、何を想っているのか

 そして、ある瞬間、
 周平は、桃色の布に巻かれて小さくなってしまう。

 まひるもその場に座り込み、倒れる。

 冠を外し、布を片付けた夏生が、倒れているまひるの傍にたたずむ。
 まひるは目を覚ます。

夏生  まひるちゃん! 気が付いた? お医者さんも大丈夫だって言ってる。良かったよ。
まひる …周平は?

 夏生はうつむき無言で答える。

まひる そっか……♪いつか君の泪がこぼれおちそうになったら何もしてあげられないけど 少しでもそばにいるよ……♪

 まひるはか細い声で歌う。
 もう一度、ゆずの『夏色』が流れてきた。


      <終>





 於来年の路上演劇祭、この台本で芝居します!

 来月上旬に初ミーティングをして、プロジェクトスタートです。

 『www.co.jp』というのは、とある歌い手さんの作詞した歌の名前です。

「これがないと、どこにも繋がらない。でも、これだけではどこにも繋がらない」

 そんなテーマのこの詞に共感し、そんな心のある部分を表現したくて、この台本を書きました。

 僕の役どころは、演出です。

 3人の登場人物は、都緒kingで頑張ってもらっている役者さんに、引き続き演じてもらうことになりました。

 いいものが作れるように、頑張ります。
 応援よろしくです。

 ではでは~

www.co.jp

2008年03月19日 01時37分30秒 | 戯曲・つれづれ
    ゆずの『夏色』が流れ始める。
    日井周平、似千川まひる、五橋夏生の三人は自転車に乗ってサイクリングをしている。
    『夏色』のイントロが終わると、曲がストップ。
    その瞬間、周平、まひるが前で、夏生がうしろで自転車をこいでいる。

夏生  この長ぁいい長い下りぃ坂を~♪
まひる 何?
夏生  君を自転車ぁの~うしろぉにぃ乗せて~♪
周平  音痴!
夏生  うるせ(え)、ブレーぇキいっぱい握りぃしぃめて~♪
三人  ゆっくりー、ゆっくりー、くだってく~♪

    突然激しい車のブレーキの音が鳴り響く。
    三人は自転車から放り出される。
    転がる三人。
    夏生はいなくなる。
    周平とまひるが倒れている。

まひる あいたたたたた…

    まひるは起き上がろうとする。
    辺りをキョロキョロ見回す。
    そばに倒れている周平に気が付く。

まひる 周平

    まひるは周平に駆け寄る。
    途中、体中の痛みに顔をしかめる。

まひる イタッ!…

    周平に近づき、声を掛ける。

まひる 周平、大丈夫?

    周平からは返事がない。

まひる 周平…周平!…死んじゃったのぉ?

    まひるは周平の体を揺する。

まひる 周平! 周へーい!
周平  いたたたたた…
まひる 周平ッ! なんだ生きてんじゃん、良かったあ

    まひるは周平の体をはたく。

周平  痛っ! 痛いよお前!ナニスンダヨ!

    周平は起き上がる。怒っている。

まひる 元気じゃーん、よかったぁ
周平  元気じゃねえよ、体中いてーよ。
まひる あたしも。私たち、一体どうなったんだろ?

    周平はまわりの景色を確認する。

周平  あれっ?夏生は?
まひる ああ夏生くん?…わからない。
周平  わからないじゃねーよ。探そうぜ。
まひる うん、

    二人は立ち上がろうとするが、体が痛くて立ち上がるのに苦労する。

周平  (イ)ツッ!
まひる …!…(体が痛いのを我慢している)
周平  痛えー、事故にでも遭ったんかな。
まひる 夏生くん!?
周平  ちげーよ、俺たち三人。
まひる えっ?私たちが?
周平  そう。自転車に乗ってて、突然車が出てきたところまでは覚えてるんだ。
まひる 車にぶつかったってこと?
周平  それならもう俺ら病院に運ばれてるよな。この程度の怪我ですんで良かったけど、それにしてもここはどこなんだろうな。
まひる 天国だったりして。
周平  あぁじゃあ俺たちすでに死んでるんだ。
まひる うん。
周平  冗談。足なくなってないし。
まひる 古典的発想だねえ。外国の幽霊って足あるんだよ、知ってた?
周平  知らねー。それより、夏生と自転車探そうぜ。
まひる うん。

    二人は辺りを歩き回る。

周平  夏生ー!
まひる 夏生くーん!

    探し回る二人。
    しかしいくら探しても、夏生も自転車も見当たらない。

周平  しっかしここいくら歩いても何にもないな。
まひる 草と木しかないね。
周平  ほんとにあの世なんじゃねーの?
まひる あたしたち、死んだんだ。
周平  だってさ、生きてる実感がないっていうか、変な感じがしないか?
まひる うん、ふわふわしてる感じはするよ。
周平  えーーー……
まひる あっ

    雨の音。
    雨が降ってきた。

周平  うひゃっ、雨かよ。まいったな、雨宿りするところなんかないじゃんか。
まひる 周平、あの木!
周平  あぁ、でっかい木があるな、向こうの方に。あそこまで走るか。
まひる うん!

    二人は木に向かって走る。
    木の下に駆け込み、体についた水滴を払う。

周平  いやー、まいったまいった…
まひる 周平、雨がピンク色。
周平  えっ!?

    周平は周囲を見渡す。

周平  …まわり中、ピンクの土砂降りだぁ。
まひる 雲も…

    周平、頭上を見上げる。

周平  うわっ、なんだこりゃ。雲までピンク色かよ。
まひる やっぱりここ、あの世なんだよ…

    その瞬間、周平がなにかを感じ取ったようだ。
    周平は、フラフラと木の下から離れる。

まひる 周平、どうしたの? 濡れちゃうよ。

    周平は、まひるから離れていく。

まひる 周平?
周平  似千川、いいから、お前はそこにいろ。
まひる え? 周平は?
周平  俺は、行かなきゃいけないところがある。
まひる え? 私も行くよ。
周平  お前は、そこに居ろ。
まひる どうして? こんなとこで独りにしないでよ。
周平  サンキュ、似千川。お前にはたくさん思い出をもらった。
まひる ……。
周平  ここで、さよなら。
まひる …なによ、それ。
周平  ……
まひる わけわかんないよ! わかるようにちゃんと説明してよ!

    周平は、何も答えない。

まひる あたしはついてく。周平のこと追っ掛けるから!
周平  …じゃあな、似千川。もう二度と会わない。
まひる ふざけんなーーーッ!!

    まひるはついに木の下から飛び出る。
    土砂降りの雨の中、二人が少し間をおいて向かい合う。

まひる ふざけんな、周平。なんであなたと別れなきゃならないの?…理由を知りたい。

    そこで、うしろの遠くの方に夏生が現れる。

夏生  まひるちゃん!まひるちゃん!起きてよ!まひるちゃんまで死んだら、俺どうしたらいいんだ!
周平  ぶっちゃけ、
まひる は?
周平  ぶっちゃけ、俺似千川のことが嫌いなんだ。
まひる なにそれ
周平  なにかあると俺にばっか頼って、我がままばっか。泣き虫で、怒りっぽくて、感情的で、自分勝手で、似千川といると、俺自分のことなんにも出来なくなっちゃうんだよ。自分が自分でなくなっちゃうんだよ。
夏生  まひるちゃん!俺、本当はまひるちゃんのことが好きだった。でも周平に遠慮して…あいつ親友だからさ、わかるだろ? あいつが死んだら、まひるちゃんの事を守るのは俺しかいないと思ってる。だから…
まひる 私は周平のことが…

    まひるは周平の方に駆け寄ろうとする。
    後方では、夏生が冠のようなものをかぶっている。そして、周平とまひるの間を通る。
    「冠」には桃色の細長い布がついていて、結果、二人の間を隔てるピンクの川になる。

周平  動くな!

    まひるは周平の言葉を受けて、ビクッと動けなくなる。
    しかしそれをすぐに振り切って周平の方に駆け寄る。
    走り寄ると、ピンクの川のところで壁にぶつかったように進めなくなる。

まひる なによ!これ!?

    まひるは見えない壁を押したり、叩いたりするが、「壁」はびくともしない。

周平  似千川

    周平は、見えない壁に、両手を広げて当てる。

まひる 周平…?

    まひるも、壁に両手を広げてつける。

    二人の掌と掌の距離が、少しずつ狭まっていく。

    そして、触れようとした瞬間、
    周平は桃色の布に巻かれて小さくなってしまう。

    まひるもその場に座り込み、倒れる。

    冠を外し、布を片付けた夏生が、倒れているまひるの傍にたたずむ。
    まひるは目を覚ます。

夏生  まひるちゃん! 気が付いた? お医者さんも大丈夫だって言ってる。良かったよ。
まひる …周平は?

    夏生はうつむき無言で答える。

まひる いつか君の泪がこぼれおちそうになったら何もしてあげられないけど 少しでもそばにいるよ……♪

    まひるはか細い声で歌う。
    もう一度、ゆずの『夏色』が流れてきた。


                  <終>

10 YEARS AFTER

2006年09月03日 00時35分08秒 | 戯曲・つれづれ
 昨日の記事で「粋と艶」で800字作文一本書くと豪語してしまいましたが、結局今日は1文字も書けませんでした。(- -;;
 一本書いてしまったせいかテンションがあがらず、全くアイデアも浮かばず、やっぱり必要に迫られないと書けないのかなーと、自分の能力のなさというか、やる気のなさにうんざりしつつあります。

 それはそうと超短編戯曲最後になる第3弾。「10 YEARS AFTER」です。



     『10 YEARS AFTER』


   テレビやラジオでよく流れているような曲が、聞こえている。
   列車のボックス席に、若い女性と、中年の男性が向かいになって座っている。
   女性はイヤホンで音楽を聴きながら、景色を何気なく眺めている。
   中年の男性は大いびきをかいて眠りこけている。
   女性は、そのいびきの音が気になる様子。
   何度か席を移ろうかと、周りを見回す。
   そのたびに中年の目が覚めそうになったり、物売りのカートが通ったりして女性の気をそいでしまう。
   そのカートが通り過ぎたあとで、

女 すいません、コーヒー一杯下さい。

   呼び止められた売り子は、大分行き過ぎたカートを女のいる席の前まで引き戻す。

売り子 何になさいますか?
女 だからコーヒー一杯。

   不機嫌な女の様子を怪訝に感じながらも、売り子は缶コーヒーと紙カップを女に手渡す。

売り子 二百円になります。

   女は売り子に千円札を渡す。
   売り子は女に釣り銭を取り出して払う。
   売り子は元のようにカートを押して去る。
   カートがいなくなると、親父が起きて女の方を見ていた。
   女はそれに気づいていない。

女 ・・・
親父 あんたどこまで行きなさる?
女 えっ?
親父 あなたはどの駅まで行きなさるかって。
女 えっ、あーはーあのー・・・特に決めてないんです。
親父 こりゃ驚いた。特に決めてないんですか。
女 はい・・・決めてないんです。
親父 でもあれでしょう?何となくは、決めてるでしょう?
女 ああ・・・そうですね・・・
親父 ・・・。あぁあすみません!! 突っ込んだ質問をしてしまって!
女 いえっ。
親父 無粋でしたっ!
女 とんでもないです。
親父 本当に失礼を。
女 気にしないで下さい。
親父 はあ、
女 ……
親父 ……
女 あのっ、
親父 はい!?
女 いえ……どちら、から…
親父 はいっ?
女 どちらからいらしたんでしょうか。
親父 わたしですか!?
女 はい。
親父 わたしは、東京から来ました。
女 あぁ・・・東京から・・・
親父 (妙に満足そうに)はい…
女 わたしも東京からです。
親父 そうなんですか?
女 ええ、そうです。
親父 へえ。
女 …でも、あれですね、
親父 はい?
女 この電車東京発ですし…
親父 ええ、そうですねぇ。
女 あたしがここに座ったときから、寝てらしたですよね…
親父 ああ、そうですか?
女 ええ。

   女、笑顔になり、「クスクスと」笑う。
   親父もつられて笑う。
   こちらは豪快に。やや大げさに。

女 あぁ、あの・・・
親父 はい?なんでしょう?
女 わたし、降りる駅決まりました。
親父 あぁ、そうですか、…
女 あたし、次の駅で降ります。
親父 はあ、
女 それで、東京に帰ります…
親父 それは、よかった…
女 …はい、ありがとうございました…
親父 気を付けて。
女 はい。

   女、立ち上がる。

女 それじゃあ…

   親父、笑顔で見送る。
   女、去る。

親父 ……わたしも、行こうかな……

   冒頭に流れていた音楽のヴォリュームがあがる。
   ゆっくりと明かりが落ちていく…

                         了


   * * *

 これちょっとあれなんですよね(笑)。途中でちょっとつじつまが合わないところがあって、今読み返して慌ててるんですが、まあ、それも一興という事で、そのまま載せることにしました。
 途中の雰囲気とか、気に入っているところもあるのですが、さすがに7年前は若い。至らない点が多い(今でも全く至らないんですが(笑))。
 けれども次回からは更に前の10年前に書いた戯曲を公開しようってんだから、自分でも良く恥ずかしくないなあ、と思います。でももはや開き直ってるんですよね(笑)。
 それではまた。

GOING TO THE MOON

2006年09月01日 00時16分36秒 | 戯曲・つれづれ
 昨日の予告どおり、本日は超短編戯曲第2弾。「GOING TO THE MOON」です。



  『GOING TO THE MOON』


   そこには兄、弟一人ずつの兄弟がいる。
   そこはよく晴れた初夏の浜辺。
   兄弟の他には誰もいない。
   兄弟は最初座って話している。

兄 じゃあさ、船を作るんだよ、俺達で。
弟 うん!
兄 あの辺に生えてる木を切って、こうやって組み立てて、
弟 うん、
兄 組み立てるのはロープを使うんだ。それで水が漏れないように、樹液を塗って固める。
弟 すごい!
兄 甲板に、何十日も過ごせるように小屋を作るんだ。
弟 うんうん、
兄 それで、海の向こうを目指す。
弟 ・・・海の向こう?
兄 そうだ! あの向こう側には、きっと俺達の知らない世界がある。きっといろんなものがあるよ! そして、いろんな人達がいる。お前だって行ってみたいって思うだろう?
弟 僕たちの知らない・・・世界があるの?
兄 そうだよ!
弟 知らない人達がたくさんいるの?
兄 そう、会ってみたいだろう?
弟 ・・・僕は・・・行きたくないや。
兄 ・・・
弟 ・・・
兄 ・・・なんでだよ? 楽しいぜ、きっと?
弟 ・・・
語り 弟は黙ったまま。その話は終わり。けれど兄はしばらくして旅に出る。自分の夢を叶えるため。両親の夢を叶えるため。

   残された弟の姿。

語り そして半年後。兄は弟の前に帰ってきた。兄は船の材料のある場所を見つけた。兄は木材の組み方を学んだ。兄は食料の保存の仕方を学んだ。あとは実行に移すだけだった。兄には自信があった。長い夢は実現する。

   弟は戻った兄の正面に立つ。

弟 今までどこに行ってたのさ? 始めるって・・・何を始めるの? 兄さん!・・・よく聞いて。母さんが死んだんだ。それにいろんな事があった。・・・兄さんは今まで何してたの? とにかく中に入ってよ。父さんの具合も良くないんだ。兄さんに手伝って欲しい。

   弟は兄を促して奥へ行く。

語り それは十七年前。一艘のボートがこの島に流れ着いた。そのボートには、二人の男女が乗っていた。彼らはこの島で、いつか自分たちのいた場所へ帰ることを夢に、生き延びねばならなかった。

   兄弟の後ろ姿。

兄 ・・・母さんは?
語り 兄は、その過去を両親から聞いていた。
弟 いつか教えて欲しい、兄さんがなぜ家を出たのか。
語り 少年だった弟は、その事を知らされていなかった。
弟 ・・・・・・
兄 ・・・大変だったな。

   二人の姿が見えなくなる。

                      了

Bye-Bye

2006年08月30日 02時19分07秒 | 戯曲・つれづれ
 ど~も~鉛筆です~~

 突然ですが僕昔、大学で演劇をやっていたんですね。ええ、そりゃ今もちょっとはかじってますが。
 そんな時代、僕はいろいろと脚本を書きました。長いのも短いのも。ええ、いろいろと。
 その中の超短編がいくつか発見されました。ええ、最近のことですが。
 それを書いたのはもう7年も前のことになります。そんな前なんですね~
 せっかく見つかったので、ブログで発表したいと思います。
 それでは、戯曲「Bye-Bye」です。



    『Bye-Bye』


  男が横たわっている。
  その横に少年が立っている。
  その周囲は焼け野原。
  時々金属の塊が大小焼け残っているのが見える。

男 ・・・み、水をくれ・・・
少年 ・・・
男 ・・・苦しい・・・
少年 ・・・
男 ・・・
少年 ・・・
男 ・・・
少年 苦しいの?
男 ・・・苦しい・・・
少年 ・・・

  少年は、男の顔を覗き込む。
  男の息の荒さを少年は初めて感じ取る。

少年 ・・・

  少年は男の手を取る。

少年 ・・・

  少年はある瞬間、手の内にある男の手を、力一杯握り締める。
  男の顔は苦痛に歪み、男はうめき声をあげる。

少年 ・・・
男 ・・・
少年 ・・・神様。

                        了