おっちーの鉛筆カミカミ

演劇モノづくり大好きおっちーのブログです
いろいろ活動してます
そのうち、みなさんにお目にかかれたらうれしいです

第三章 市川修~めぐり遭い

2008年02月13日 06時31分31秒 | 戯曲・戯小説『ONE EYES』
修「まずい~っもう時間過ぎてるよ~~」

 俺は走っていた。この雨の中。
 遅刻しそうなのだ。授業に。
 大学の授業は、さっき受けてきたところだ。
 そうじゃなくて、俺がこれから受けるのは…

 あれ? 道の向こうから自転車が走ってくる。
 自転車に乗っているのは女の子だ。高校生だろうか、制服姿だ。彼女は傘をさしながら自転車をこいでいる。かなり乗りづらそうだ。
 俺は足の速度を緩めた。
 自転車は俺を避けようと、向かって少し右に進路を変える。その時、俺もその自転車を避けようとして右にに歩く方向を変えていた。思わず少し笑ってしまう。たまにあるよな、こういうこと。
 それを受け、自転車はまた左に進む向きを変える。同時に俺も左の方に歩いていた。あらら。
 そこで俺は少し大人になり、立ち停まることにした。自転車が俺の横を通り過ぎるまで動かないつもりだ。
 自転車は右に方向転換した。このまま通り過ぎてくれるだろう。しかし、自転車はまた左に向きを変えた。おいおいおい。
 俺は動こうかどうしようか迷っている。右に左にヒョコヒョコ体重移動をし続ける俺。それを見てやはり迷っているのか、自転車の前輪はフラフラ左右に揺れている。
 自転車はすぐ近くまできている。早く、どっちかに進路を決めて通り過ぎてくれっ。
 このままじゃほんとにぶつかるぞ。俺は止まってるんだから。それとも今、俺がどちらかによけるか?…わっ、こっちに来たっ。ふらふら、ふらふら。危ないっ!
 俺はギリギリで右によけた。ふう…嘘だろっ、自転車こっち来た!ぶつかるっ!もう目の前、よけられない!ドッシャーン!
 俺と自転車は本当にぶつかった。…マジかよ…
 俺は痛みを感じながら尻餅をつく。自転車が上に乗り上げないように、身体を反射的に横にずらす。自転車は、今まで俺のいた場所―俺のすぐ横―で停まった。
 ふー、轢かれるところだった。いや…本当にぶつかったんだが。

自転車に乗っている女の子「おっさんなにやってんだよ!」

 へっ? 女の子が何か怒っている。

女の子「道の真ん中でフラフラフラフラ、痛かったじゃないか!」

 いや、俺の方が痛かったんだが。走ってる自転車に生身でぶつかったんだぞ。倒れてるのは俺だ。

女の子「優柔不断な男!」

 いや、初めて会った、しかも年上の男性に言う言葉じゃないな。

女の子「ばーか」

 ひでーーーっ。そこまで言うかあ?

女の子「あーあ、ちょっち濡れちゃったよ…」

 女の子がなんか呟いている。
 そこまで言うなら俺も言ってやる、ああ言ってやる、お前こそ…
 言いかけたとき、女の子は自転車に乗って早々に立ち去っていた。
 バカやろーーーっ!!
 俺は小雨の中、自転車の遠くなるうしろ姿に向かって心の中で叫んだ。

 あーあ、全身が雨でベチョベチョだ。
 さいわい濡れているだけで泥汚れはほとんどないようだが、早く建物の中に入って服を乾かさなきゃ。
 雨は小降りになってきていた。俺は道路に転がっている自分の傘を拾い上げ、目的地に向かって歩き始めた。
 …もう…今日は休もうかな…?

第二章 磯野慎平~傘もささずに

2008年01月31日 10時44分32秒 | 戯曲・戯小説『ONE EYES』
 俺は雨降る中、傘をさして町の掲示板を眺めていた。
 そこには「絵画コンクール」のポスターが貼ってある。
 俺はそれに興味を惹かれていた。
 「絵を自分で描いてみたい」 他人の描いた絵を見続けるうちに、その欲望は自分の中でどんどん大きくなってきていた。

慎平「コンクールかあ…」

 もし自分がこのコンクールに絵を描いて出したとしても、結果は箸にも棒にもかからないことになるだろう。それはわかりきったことだ。
 しかしこれはいいきっかけなのかも知れない。この掲示板でこのポスターを俺が見つけたこと自体、運命―何か大きな力―に導かれたことなのだよ。…それは大袈裟かな。でもこんな雨の中、普段なら目に留めることもない掲示板に惹き付けられた…これは偶然だろうか?
 コンクールのポスターの隣には、「絵画教室」の宣伝が貼ってある。ここに入って絵を勉強して、コンクールに出せってことかあ? なんか意図が見え見えで、ここに入る気にはならない。

慎平「自力で描くか…」

 その時、背後に人間の気配を感じた。
 俺は振り向く。そこにはニヤニヤ笑う男が立っていた。傘はささずに、レインコートを着ている。顔はよく見えないが、歳の頃は俺とさほど変わらないように見える。
 不自然な笑顔、その口元に、虫唾が走る。
 俺は無視してその場を去ろうとする。

男「ちょっと待って」
慎平「…なんか用?」
男「キミ、絵を描くの?」
慎平「なんで?」
男「このポスターを熱心に見てたから」
慎平「…。まあ…な、これから描こうとしてるとこ」

 なんで俺はこんな男に自分の話をしているのだろう。とっととここから消え去りたい衝動に駆られる。

男「この絵画教室に入らない?」
慎平「はぁ?」
男「絵、好きなんでしょ? ならちゃんと習ったほうがいいよ」
慎平「余計なお世話です。俺用があるから」

 嘘をついた。本当は暇を持て余している。でも嘘なんかついて当然だ。

男「どうせ暇なんでしょ。教室って目の前だからさ。寄ってみるだけでも」

 そのとき、気が付いたことがあった。この声、チラッと見えた顔、風貌…この男は、この間美術館で絵に落書きして捕まった奴だ!! こんな所で遭うとは…
 男はまだ薄笑いを絶やさずに俺の方を見ている。
 こんな奴に時間を割くほど俺は暇ではない。雨も降っている。早く屋根のあるところに行こう。

慎平「俺忙しいんだ。じゃ」
女の声「将、さんっ!」

 突然声がしたので俺はそちらの方に顔を向けた。

男「あ? みどりか。傘もささないでなにやってるんだよ」
みどりと呼ばれた女「もう先生始めてるよ。早く中に入ろう」
将と呼ばれた男「ちょっと待ってよ。この人と話があるんだ」
みどり「?…お友達?」
将「そんなもんだ」

 あ!? なに言ってやがんだこいつ。俺とお前がいつ友達になったんだ。
 俺は、この男の人を無視した勝手な言動に腹が立ってきた。もう今立ち去ろう。俺は黙って歩き出した。

みどり「ちょっと待ってよ。将さんのお友達でしょう? 気を使わないで。…いいわ。あなたも教室に入って」

 俺は思わずみどりとかいう女の顔を見た。
 丸っこい顔立ち…人なつっこい唇…少し濡れたショートボブの髪…
 意外と可愛い娘だな。ちょっとお友達になってみようか。

将「この人は教室に入学するんだ」
みどり「そうなんだ!? じゃあなおさら。どうぞこちらへ」
慎平「あ、ええ…」

 俺はそのみどりという女目当てに、その絵画教室に行くことになった。
 まあいっか。どうせ暇なんだし。この将って男はムカつくが、無視しときゃいいだろ。
 でも俺は、ここに入学するつもりはない。それだけははっきりしておく。この将って男が勝手に言ってるだけだ。

みどり「お名前なんていうんですか?」
慎平「慎平。」
みどり「あら、名字は?」
慎平「無い。いいから行くんならその教室に早く行こう。みどりちゃん風邪ひくよ」

 みどりはくすくす笑った。やっぱかわいいかも。

みどり「ご心配ありがとうございます。でも冗談ばっかり。いいですよー、教えたくないんなら。こっちからも訊きませんから」
将「みどり、慎平くんは僕の客だぞ」

 「慎平くん」!? 馴れ馴れしい。そして気持ち悪い。みどりちゃんがいなかったらぶん殴ってるところだ。

慎平「で、教室って何処にあるの、みどりちゃん?」
みどり「えっ? ここがそうですけど…」

 絵画教室は本当に掲示板の目の前にあった。正確に言うと、絵画教室のある建物の前に掲示板が立っているのだ。
 傘をたたんで、屋根のある建物の敷地内に入る。雨は止む素振りも見せていない。
 その建物はアパートのようだった。この中の一室を使って開いているらしい。
 建物は結構古い。

慎平「ボロい建物だねー」
みどり「そうなの。もうドアとか建て付け悪くなっちゃって。私力ないから時々開けるの大変なことがあるの」
慎平「ふうん」
将「…みどり、ほら」

 将はみどりにタオルをナップサックから出して渡した。

みどり「ありがとう…」

 みどりは渡されたタオルで、濡れた頭と顔を拭き始めた。

慎平「アンタ、用意いいな」

 将は不気味に(俺にはそう見えた)微笑んだ。
 そして、俺とみどりちゃん、それからどーでもいい将って奴の三人は、絵画教室の古いドアを開け、中へと入った。

第一章 磯野慎平~出逢って初めて

2008年01月25日 00時00分09秒 | 戯曲・戯小説『ONE EYES』
 時は今から十年と少し前の日本、場所は地方のとある田舎町。その町にある美術館から物語は始まる。

 俺は慎平。俺の趣味はいろいろあるが、その中でも最近は美術館で絵を見るのがマイブームだ。
 もっとも俺の住んでいる町はとても小さいので、美術館は一つしかない。そこは、駅から歩いて十分くらいのところにある。
 絵に興味を持ち始めたのは、ここ半年くらいのことだ。
 中学に入って最初の三ヶ月くらい絵画部に入っていたことがある。話は逸れるがその絵画部はすぐに辞めて、陸上部に移籍した。やっぱり俺は、身体を動かす部活の方が性に合っていると当時は思った。それから中学高校で約六年間、陸上をやっていた。種目は中距離だ。風を切ってローラースケートで滑るように走る。走っている時は気分がいい。そして走り終わって飲むスポーツドリンクがやたらと旨い。ほてった身体をグラウンドに横たわらせると、一面の空が目に入る。気持ちいい。
 今は大学生になっていて陸上は引退した。アルバイトがない日は、こうやって半日以上プラプラしている。
 そうこうしているうちに、前に少しだけかじった「絵」というものへの興味が再び湧き出てきた。どこから出てきたのかわからない。今は自分で絵を描くことはないが、他の人たちの描いた絵を見るのが楽しい。
 そういうわけで今日も美術館にきている。
 なんでも一年前に東京で募集された絵画コンクールの入選作品を展示してあるということだ。
 絵はそれぞれバライティに富んでいて、観ていて楽しい。素人が描いたものという感じはしない。むしろ何人かのアーティストに絞っているいつもの展示より束縛がなくて、それぞれが自由に描いたものという印象があり、それが面白い。

慎平(これが大賞をとった絵か…)

 大賞受賞作品の前にきた。平日なのでここにもほとんど人がいない。ここから見える範囲に二人、警備員が立っているだけだ。警備員…今日は楽な仕事だけど、かえって暇でツラいかもな。
 しかしその警備員の安息を打ち破る事件が、これから起きる。

 俺はその受賞作品に魅入られていた。はっきり言って俺にはこの絵が本来なにを表現したくて描かれたものなのかは全くわらない。
 しかしその絵には、パワーがあった。ここから抜け出したい、自分はこんなもんじゃない、カラを打ち破ろうとする力と意思が、この絵から俺には感じられた。

慎平(大したもんだな…それにしてもこんな絵を描くのってどんなヤツなんだろう?)

 爺さんさんか?…そんな感じじゃないな。もっと若い。
 じゃあこの鬱屈したエネルギーは若者?いや、タッチが大人びている…
 そうか!四、五十代の中年だ!この絵からにじみ出てくる力感は、現代社会に虐げられて、押さえ込まれているストレスが昇華したものに違いない。
 そうか大変なんだなあ……芸術家も楽じゃない。人より繊細な感性を持ち合わせている分、きっと現実社会を生き抜くには人より大きな労力を要するのだ。

慎平「かわいそうに…」

 俺は知らないうちにそう呟いていた。
 事件はその次の瞬間に起きた。
 その男は、いつの間にか俺の後ろで同じ絵をしばらく眺めていたらしい。
 そいつは絵の方に近付くと、俺と絵の間にスッと滑り込んできた。

慎平「!?」

 その男は突然どこからかペンのようなものを取り出し、大賞受賞作にガリガリと落書きを始めたではないか! 俺は驚いて何も出来ない。
 当然男の行動に気付いた警備員が驚きながら駆けつけてくる。

警備員「何をしているんですか!?」

 もう一人の警備員も男を取り押さえにやってくる。

男「!!」

 男は二人の警備員に羽交い絞めにされ、動きを抑え付けられた。

男「!!!」

 男は無言のまま抵抗する。しかし二人の男の力にはかなわない。

警備員「なんてことを! 手に持っているものを離しなさい!」
男「嫌だ!」

 俺はこのとき男の声を初めて聞いた。不思議と以前聞いたことのある声のような気がした。まだ声変わり前の少年のような声。小学校の頃の友達の声だろうか、それとも中学? とにかく濁りのない、けれども良く響く声。
 男はひとしきり暴れたあと、諦めたのか、身体の力が抜けたようだ。無理やり開かれた手の平から、ペンが床にカシャッと落ちる。
 男はうなだれている。

警備員「話を聞きます。警備室まで来なさい」
男「…何ひとつ、僕の思い通りになるものはないんだな…」

 俺はその男の小さなささやきを聞き逃さなかった。
 男は、二人の警備員に両腕を抱えられながら、その場を去った。
 俺はただ一人、その場に残された。

慎平「帰るか…」

 俺は、残りの作品を眺めることなく、その美術館を後にした。本音を言うと少しは観ようとしたのだが、全く頭に入ってこなくて、それ以上観るのを諦めたのだ。
 梅雨の始まりだ…美術館を出ると雨が降り出していた。ジャケットのフードを被り、俺は小走りで家路を急いだ。走れば十五分程で着くが…傘をコンビニで買っていくか。
 傘をさして道を歩く。ボツボツと傘に雨が当たって音がする。雨粒が大きいのだ。本降りだ。いよいよ、家に着くのが待ち遠しくなった。早く帰りたい。家の中に入りたい。温かいコーヒーが飲みたい。
 梅雨の始まりは、春の終わり。まだその日の空気は冷たかった。



 『ONE EYES』ようやく第一章、物語の始まりです。
 例によってこの作品は、文章塾のWAの方にもアップしてありますのでそちらもどうぞ。
 なるべく沢山の方々に触れていただきたいのです( ̄ー ̄@
 それではでは。

戯詩語り第1作目『ONE EYES』第0-1章 プロローグ~lyric

2008年01月04日 23時02分00秒 | 戯曲・戯小説『ONE EYES』
第0-1章 プロローグ~lyric


あれは、何処だったか
忘れられない1つの場所。
そこには 皆がいた。

『空を見たら 青が流れていた
青白く光る 真昼の月
人は雲なのか 月なのか
一面に広がる青になれたらいい

積もる出来事は 枯れ葉のようで
雪のように 溶けることもなく
ただそこに居て ただ土になる

空の青さは 全てを包むから
光も闇も 1つの眼差しで
触れゆく優しさ それは歩き続けること

だから私は思う。

めぐり流れる青になれたら、きっとそれでいい』

<登場人物>

磯野 慎平: 絵を見るのが好きな大学生。中高時代は陸上部に所属していた。今は毎日ブラブラしている。満21歳
市川 修: 慎平の親友。現在は慎平とは違う大学に通う。また、「ピコタン絵画教室」にて、絵を習っている。同22歳。

渋谷 恵美: 今井麻衣子のお姉さん役。機械に強い。矢崎義隆とつながりが…? 22歳。
今井 麻衣子: ラジオのDJを夢みる女子高生。17歳。

上杉 千夏: 慎平と中学の頃付き合いがあった。現在は刑事課に属する警官。23歳。
上河 雅也: 千夏の上司で刑事。「自分が上である」「知識がある」ということでしか自己主張の術を知らないという困った性格。36歳。

矢崎 義隆: 渋谷恵美との関係は…? 31歳。
路也 徹(みちや・てつ): 矢崎義隆の腰ぎんちゃく。この物語の鍵を握る? 19歳。

皆神(みなかみ) 祐樹: ピコタン絵画教室の年長者であり、困ったちゃんであり、ムードメーカーにもなっているのかいないのかよくわからない人物。32歳。

水原 将: 芸術方面に大いなる才能を持つ。その反面、神経が繊細? 秘密を持っている。26歳。
田中 みどり: ピコタン絵画教室のスタッフ。しかし絵画の経験全くなし。よく気の付く性格だが、案外大雑把。20歳。

『ONE EYES』第0‐2章 プロローグII~変わらない居場所

2008年01月04日 23時01分43秒 | 戯曲・戯小説『ONE EYES』
 曇り空の下。そこは大きな建物に隣接する空き地。
 11人の人々がそこにいる。

 そこはその人々にとって、2つと無い場所。
 人と人を繋げてくれる、そこに居る理由をくれる、またと無い居場所。

 いくつかの話し声の中、ひとりが大きな声を上げる。

みどり「ねえ、みんながこんなに集まる機会なんてそうそうないと思わない?」
慎平「え?…あぁ」
みどり「だよね。あたし、こういうのは残しておきたいの。…ねえ、みんなで集まって写真撮らない?」
将「あー」
麻衣子「なにそれ?」

 麻衣子はみどりに食って掛かっている。いつもの風景。皆は慣れっこである。

みどり「なによ。文句ある?」
麻衣子「ありまくり」
みどり「…(怒)」
修「まあまあまあ! 麻衣ちゃん面白いじゃん、撮ってもらおうよ」
麻衣子「えー」
修「記念になるよ。ねえ」
みどり「そうそう。思い出にね」
皆神「みどりちゃんの提案、私はいいんじゃないかと思いますけどねえ」

 麻衣子は興味なさそうにそっぽを向く。

恵美「うーん」
慎平「恵美どうする?」
恵美「いいんじゃない?」
みどり「おぉーさすが器が大きい」
麻衣子「…」

 麻衣子は、じゃあ私は写真に入らないだけで、器が小さいことになるの? とでも言いたげな表情。
 一方、矢崎と徹、上河と千夏はみどりたちとは少し離れた場所にいる。

徹「矢崎さん、集合写真ですって」
矢崎「ああ」
徹「我々どうしましょうか?」
矢崎「あまり興味ないな。放っておこう」
徹「そうですか」

 上河と千夏は互いに少し距離をおきつつ、隣り合って座り込んでいる。

千夏「私撮ってもらいたいなー」
上河「お前幾つだ?」
千夏「写真撮ってもらうのに年齢なんて関係あるんですか」
上河「いくつなんだ?」
千夏「失れい…だと思いますけど仕方ないですね、教えますよ。23になりました」
上河「ふむ。まだ若いな」
千夏「上河さんに比べればずっと若いですね」
上河「…ギャフン!」

 千夏は上河の意外にお茶目な言葉に衝撃を受け、一瞬の間のあとで大笑いしている。
 みどりはその2人に向って、

みどり「そこ! こっち来なさい」
千夏「はーい♪」
上河「私は行かんぞ」
千夏「上河さーん、一緒に撮ってもらいましょうよーぉ」

 千夏は上河に甘えた声を出す。

上河「…」

 上河はしぶしぶ立ち上がった。
 そして麻衣子はまだグズっている。

麻衣子「私は写んないよ。ここの卒業生のあんた達だけでやりなよ」
修「えー麻衣ちゃーん」
麻衣子「あんたはうるさい!」
慎平「麻衣ちゃん、写ろうよ」
恵美「麻衣っ」
麻衣子「嫌だ」
恵美「頑固だねー。こうなったらテコでも動かないよ」
慎平「だなー」
修「…」
皆神「皆で写真1枚撮るのも、大変ですねえ」

 すると、将が皆の真ん中あたりに立つ。

将「皆さん、集まりましょう」
慎平「うーす」

 麻衣子、矢崎、徹以外の8人は、わらわらと集まる。

将「みどり、カメラは?」
みどり「あっ…それに気付いてなかったなあー」
将「みどり相変わらず抜けてる」

 みどりはその言葉に内心少しムッとするが、

みどり「携帯があった。これで撮りまーす」
恵美「…」
将「みどり、僕カメラ持ってる。僕が撮るよ」
慎平「あっ! 俺もカメラ持ってるよ」
みどり「あっほんとにー? 写してくれる? わーい、ほんとは私も写りたかったんだよねー」

 慎平の発言はスルー。少々所在無さげになる慎平。

将「じゃあ皆さんそのへんに集まって…」
麻衣子「えっ将さんが撮るの? なら私も入る」

 麻衣子の言動に、ますます機嫌が悪くなるみどり。

修「じゃあ撮りますから並んでー。ほら慎平は高い方なんだから後ろっ 前の人は座ってくださーい」
みどり「おお、修くん仕切ってる」
千夏「修くんかっこいー」
麻衣子「そお?普通じゃん」

 修は内心ショックではあるが、表には出さずに「人員を整理」する。
 みどりと皆神以外は、それでも「だらだら」していてなかなか態勢が整わない。
 しかし修の努力の甲斐もあり、8人は次第に写真をうつす姿勢にまとまってくる。
 すると、恵美が急に矢崎たちの方を向く。

恵美「ほらほら、そっちで突っ立ってる2人」
矢崎「…」

 矢崎はその言葉を無視。

徹「矢崎さん、恵美さんなにか呼んでますぜ」
矢崎「いいんだ。無視してろ」
徹「へえ」

 麻衣子がフォローに入る。

麻衣子「おじさんたちも仲間なんだから入ったらー?」
徹「あいつ自分たちをおじさんなんて呼んでますぜ」
矢崎「いいから。無視してろ」
徹「へえ」

 そこに、将が声を上げる。

将「矢崎くん、入りなよ。その方がいい」
矢崎「…」
将「矢崎くん」

 将の言葉は穏やかだが断定的で、迷いがなく、その場によく響いた。
 矢崎は黙って列の中に加わる。もちろん徹もそれに続く。

慎平「全員揃ったな」
みどり「ねっ♪」
修「みんな枠に入ってるよな。列は乱れてない?」
千夏「よし。じゃあ撮ろーっ!」

 将は集合写真のカメラポジションに立ち、カメラを構える。

将「よし、じゃあいいかな・・・うん、全員ちゃんと入ってる」

 将はカメラのファインダーを覗いている。
 将はカメラのファインダーを覗いている。
 将はカメラのファインダーを覗いている。
 将は…

慎平「早く写せよ!じれったいなあ」
将「いや…なんか、みんなの表情が固いなと思って」

 皆は周りの人たちをそれぞれ見回す。

皆神「表情が硬いそうです」
恵美「そうねえ」
麻衣子「将さん、どうすればいいとおもいますか?」
将「そうだなあ…全員首でも回してください」
徹「はっ?」
千夏「どういう意味ですか」
将「そのまんまの意味です。首をぐるぐると、回してください」

 将の言葉には、何故か逆らえない力があり、矢崎も、上河でさえ従わざるを得ないのである。
 大人(?)が10人並んでぐるぐる首を回す。なぜか全員が時計回りだ。そろっている。
 妙に滑稽で、笑える光景である。
 そのまま4、5秒経過しただろうか、

将「ストップ!」

 間髪入れず、

将「撮るよ」

 10人はそれぞれ別の方向に顔を向けている。
 不平不満が一気に噴出す。わいがやわいがや。

恵美「やだーっ」
慎平「こんなん撮ってどうするんだよ」
みどり「水原くん大じょぶ?」
麻衣子「将さん、どうしたんですか?」
将「もういいんですよ、どこ向いたって。頭固いなあ。もう撮ります。ただしレンズだけは見ないでくださいね」

 10人は低い声で返事する。
 そうして、将はシャッターを切った。

『ONE EYES』第0-3章 田中みどり~モノローグ

2008年01月04日 23時01分20秒 | 戯曲・戯小説『ONE EYES』
「カシャッ」

 その時撮った写真は、今も私の中に在ります。
 その写真は好きだった人が撮ったものだからというだけではなく、いつも、私に何かを伝えてくれようとしていました。

 彼が去ってからも、私はずっと此処に居ます。私に何が起こっても、独りきりになってしまうことがあっても、私はこの場所に居続けようと思います。

 いつか、何年かあとに、また私は彼に出逢うかもしれません。
 その時は、笑えたらいいと思うのです。

 だから、私はずっと、この写真の、この場所、そしてこの場所にいた人達…その眼差しの向き―ベクトル―を、絶対に忘れることはありません。





 ようやく始められました。
 戯詩語り第1作目『ONE EYES』の第0章です。

 「戯詩語り」というのは僕の造語で、戯曲と小説と詩のいいとこ取りを目指して考え出した、僕のひとつの目標です。


▼文章塾塾生のみなさんへ

 この記事は文章塾のWAの方に投稿している作品と全く同じものです。
 なので感想などありましたら、WAの方にコメントよろしくお願いしますm(_ _)m。

 この記事は、文章塾生以外の方々にもこの作品を読んで欲しくてアップしたものです。
 この作品は文章塾生以外の人たちにも広く読んで欲しいと思ったので。
 大学のサークル時代の友人…芝居版『ONE EYES』に出演したり、関わったりした友人の中にもたぶんこのブログを読んでいる人がいると思われます。その人たちには、是非今回の戯詩語り版『ONE EYES』を読んで欲しい。
 できたらコメントくださいねー。まあ無理することはありませんが。

 それでは、また。
 なるべく早く次の第1章書き上げます。

戯曲『ONE EYES』第2場 大切な場所

2007年10月21日 15時41分52秒 | 戯曲・戯小説『ONE EYES』
    慎平と将が入場してくる。
    2人はさしてきた傘をたたむ。
    将は立ち止まり、慎平の方を向き、

将  「ここが僕の場所だ」

    と言う。

慎平 「なんで俺もここまで付いてきたんだろうな」

    慎平はひとりごつ。

    将はドアを外側に開け、中に入る。
    慎平も続いて入る。

    舞台に田中みどりが入ってくる。

みどり「あら、」
将  「こんちは」
みどり「今日は。」
慎平 「こんにちは~」
みどり「あら?」
将  「(みどりに)慎平くん」
みどり「今日は」
慎平 「どうも」
みどり「(将に)お友達?」
将  「美術展で知り合ったんだ」
みどり「へえ~」
慎平 「まあそんなところです」
みどり「?」
慎平 「(将に)ここどこなの?」
みどり「??」
将  「僕の教室」
慎平 「なんの教室?」

    慎平は少しイライラ。

将  「絵画教室」
慎平 「(感心したように(?))はあ~(?)」
みどり「ここは山岸先生の教室よ」
将  「わかってます」
みどり「あと愛菜さんの」
皆神 「あの~…」

    皆神祐樹が首だけ出している。

みどり「はいっ?」
皆神 「みどりちゃん、」
みどり「なんですか、皆神さん?」
皆神 「コピー機借りていい?」
みどり「はい、もちろんいいですよ」
皆神 「すいません…」
将  「皆神さん、人見知りなんだから。入ってきていいですよ」
皆神 「いや、」
慎平 「(皆神に)どうも、」
皆神 「そういう訳では…(慎平に)あ、初めまして」
慎平 「はじめまして」
皆神 「皆神です」
慎平 「慎平です」
みどり「なに、慎平さんなんですか?」
慎平 「え」
みどり「名字は?」
慎平 「…」
将  「教えてくれないんだよね」
みどり「え~、何でですかぁ~?」
慎平 「(みどりに)キミ、名前なんていうん?」
みどり「あ、ごまかした。まあいいや、田中みどりです」
皆神 「私、(名前)呼んでましたよね」
みどり「皆神さん、入ってきてください、コピー機こちらです、分かりますよね」
皆神 「ハイハイわかります」

    皆神がみどりに促され、入ってくる。
    皆神は後ろを向き、コピーを取り始める。
    皆神が入ってくる途中で、

慎平 「ところで俺、ここに何しに来たんだ?」
みどり「聞いてどうするんですか。将くん友達なんでしょ?」
将  「あぁー」
みどり「違うの?」
将  「いや、友達」
慎平 「(俺は)よくわかってないぞ」
みどり「そうなの?」
慎平 「将くんに聞いて」
みどり「?」
将  「僕が慎平くんをここに連れてきたのは、」
修  「ウィーッス!」

    市川修、ドアを開けて入ってくる。

みどり「あらこんにちは」
慎平 「あぁ~~っっ!!」
修  「ええ~~ッッ!?」
慎平 「修ぅーっ!」
修  「慎んーっ!」

    慎平と修は両手でハイタッチをし、握手して再会を喜んでいる。

みどり「なになに??」
将  「……」

    将は少し不機嫌そう。

慎平 「ひっさし振り!どうしてた?っていうかどうしてここに?」
修  「俺のセリフだって、それ。何で慎がここにいる訳?見学?もしかして。ここに入るの?」

    その間にコピーをし終えた皆神が退場。

慎平 「違う、そこの彼に連れて来られたんだよ。訳も分からず」
修  「へ?将さん?」
将  「まあな」
修  「まあいいや、久しぶりだもんなあ。向こうで話そうぜ」
慎平 「あ、ああ」

    慎平と修は奥に行きかける。

将  「ちょっと待て。話がまだ終わってない」
修  「あぁ、そうなの?じゃあ済ませてよ」

    将は慎平に歩み寄る。

将  「慎平くん、今度、日本中の絵描きが出品する大規模な絵画コンクールがあるんだ」
慎平 「?うん」
将  「君も出してみよう」
慎平 「はあ?」
将  「何とかなる、その面構えなら」
慎平 「顔、褒められてるのか?」
修  「多分な」
慎平 「なんだかなあ」
将  「決まりな」
慎平 「えっ?」
みどり「こういう人なの、将くんって。慎平くん、悪く思わないでね」
慎平 「悪くは思わないけど、びっくりする」
将  「(みどりに)そういう訳で、彼は今日からここの生徒ね」
慎平 「え?」
修  「いいじゃんいいじゃん、そのほうが楽しいし」
慎平 「えぇ~っ!?」
みどり「あっ…入会されますか?」
慎平 「ええっ?」
将  「入りなさい」
修  「入っちゃえよ、慎」
慎平 「でも料金とかは?」

    みどりパンフを取り出し、

みどり「将くんと修くんの紹介ということなら、これくらいになりますよ」
慎平 「あぁ~~…」
修  「高くないだろ?」
慎平 「まあこれなら」
修  「よし、決まりっ」
慎平 「いいのかなぁ?」
将  「いいんだよ」
修  「良かったじゃん」
慎平 「そうか?」
修  「久しぶりに遊ぼうぜ」
将  「慎くんは遊びに来たわけじゃない」
修  「そうなん?遊びに来たんじゃないの?」
将  「違う」
修  「まあいいよ、話は終わったんでしょ?奥で話せる部屋があるから」
慎平 「ん」
修  「高校卒業以来だよね、何してたー……」

    慎平・修は退場。

みどり「残念、取られちゃったね」
将  「別に…」
みどり「強がってる」
将  「うるさいな」

    将は奥のアトリエに行ってしまう。退場。

みどり「また絵に逃げるの――?」

    ひとり取り残されたみどり。

みどり「苦しいな…」

    みどりは溜め息ひとつ。

    気を取り直して、そこにあるパソコンの画面に向かう。
    キーボード・マウスを扱いインターネットをしている。

みどり「パシオン365にこんな番組登録されてたんだ~。『サンライツ・セッティング』?聞いた事ない番組名だな…聴いてみるか」

    音楽が流れ始め、DJのトークが聞こえてくる。
    若い女の子の声。

インターネットラジオの声「こんにちは~!サンライツ・セッティングを聞いてくれてありがとう!ナビゲーターの今井麻衣子です」
みどり「イマイマイコ……マイマイ…」
麻衣子「この番組も始まってから1ヶ月。ようやくリスナーの皆さんからメールなどが届くようになり、ほんとナビゲーターやって良かったと思う毎日。ウルウルです。感動です。その中から厳選してメールご紹介しますね。でも皆さんからいただいたメールは全てこの私が読んでますから。信じていてくださいね。今日読めなかったメールは、いつかまた機会があったら紹介したいと思っています。ではその前にオープニングナンバーはこの曲から。『○○○で、○○○○』」

    ノリのいい曲が流れ始める。
    ちなみにこの曲は、今井麻衣子が渋谷恵美と相談して、番組で流すと決めたものである。

みどり「あ、この曲好き」

    みどりはしばらくそのままで音楽を聴いている。
    するとドアをノックする音がする。

みどり「はーい、」

    みどりは中腰。ほんとは聴いていたい。
    再びノックの音。

みどり「はい」

    みどりは立ち上がり、出入り口に向かう。
    コンコンコン…みたびノックの音。
    音楽はいつのまにか消える。

みどり「はい、どなたでしょう?」

    みどりはドアを開ける。
    するとドアのすぐ前に立っていた路也徹の頭に、ドアが「ゴツン!」と当たる。

徹  「痛ぁッ!」
みどり「あっ、すみません」
徹  「このドア、こっちに開くんだ…」
みどり「大丈夫ですか?この建物古いから…」
徹  「いや、大丈夫…」
みどり「ごめんなさい」
矢崎 「こちらに、水原将という男はいるかな?」
みどり「はいっ?あ…はい、居ますけど」

    矢崎義隆と徹は眼鏡(サングラス?)に帽子といういでたちで、顔があまりよく判別できない。

矢崎 「ちょっと失礼させてもらう」
みどり「あのっ、どちら様ですか?」
徹  「ちょっとで済むんで」
みどり「あっ、あのっ」

    矢崎と徹は、中にドカドカと遠慮なく入ってくる。

矢崎 「こっちか?」
みどり「あ、はい、そうですけど」

    矢崎は奥(袖?)へと退場。

徹  「すぐ済みますからね~」

    徹も矢崎のあとにすぐ続いて奥へ。
    みどりに手を振ったりなどしつつ、退場。

みどり「……誰?……あっ、……」

    みどりはこのとき何かを思い出したが、それが何だったのかすぐに分からなくなってしまう。

みどり「…何だっけ?……まいっか。…将くんの友達なら大丈夫(?)…でしょ」

    みどりは再びパソコンに向かう。
    鼻歌など歌いつつ。

みどり「ブログの更新でもしようかな…と」

    またキーボードとマウスを使い、インターネットをするみどり。

みどり「…あ、慎平くんのこと書こう」

    みどりはキーボードを打つ。

みどり「…今日、うちの絵画教室に新しい生徒さんがやって来ました。S君とでもしておこうかな。元々うちの生徒だったO君と親友だったらしく、大盛り上がりでした。O君、大人しくてどちらかというと目立たない人だと思っていたのに、あんなにテンション高いところを見るのは初めてで、意外でした。S君は、なかなか面白いヤツです。でもちょっと遊んでる風。ちょっといいかな、とも思うけれど、私の想いは一途なので揺らぎもしません」

    キーボードを打つ手を休め、

みどり「これくらい書いちゃったほうが面白いっと」

    いつの間にか、みどりの後ろには皆神がいる。

皆神 「みどりちゃん?」
みどり「はいっ!!?」

    みどりは、飛び上がらんばかりに驚く。

皆神 「ごめん、驚かすつもりはなかったんだけど、」
みどり「あ~、びっくりしたぁ~…(皆神に)大丈夫、皆神さん、なんですか?」

    みどりは立ち上がって皆神の視界をふさぎ、パソコンの画面が見えないようにする。

皆神 「いや、……何してるの?」
みどり「あぁ、ブログ書いてたんです。パソコンで」
皆神 「ブログ?」
みどり「インターネット上に書き込める日記みたいなものです」
皆神 「いや、知ってる。私も持ってるから。ブログのページ」
みどり「そうなんですか!?知らなかったなあ。教えてくださいよ。なんてタイトルですか?」
皆神 「いや、恥ずかしい」
みどり「いやいやネットで公開してるんだから今さら」
皆神 「そうか。いや~…えっとね…」
みどり「はい」

    みどりは皆神を見つめる。

皆神 「いやいやいやいや恥ずかしい!」
みどり「そうですかぁ?じゃあいいです」
皆神 「いやそんなに見つめられると…」
みどり「え?」

    みどりは皆神の顔を眺める。

皆神 「いや、…『カミカミのペンシルノート』という…」
みどり「へえっ、面白い題名ですね」
皆神 「いや、皆神のカミを取って…」
みどり「はい、分かりますよ」
皆神 「いややっぱり恥ずかしかった!」
みどり「これからもっと恥ずかしいですよ。検索して見ちゃうもんねー。皆神さんのブログ」
皆神 「ええーっ!」
みどり「『カミカミのペンシルノート』……あった!」
皆神 「あらららら」

    なんか皆神さん、嬉しそうにも見えるぞ。

みどり「…へえ~~っ……ふぅ~ん……」

    みどりは興味深そうに皆神のブログを読んでいる。

皆神 「……なにか感想などあれば」
みどり「皆神さんらしい」
皆神 「はい、」
みどり「面白かった」
皆神 「ありがとうございます」
みどり「どういたしまして」
皆神 「……みどりちゃん、」
みどり「はい?」
矢崎 「失礼」

    矢崎と徹が、奥から戻って出てくる。

徹  「みどりちゃん、まったね~!」

    矢崎と徹、そのまま表に出て、退場。

皆神 「なんですか、あいつら?柄悪いな」
みどり「……」

    みどりはじっと矢崎たちが出て行ったドアの方を見詰めている。

皆神 「みどりちゃん、どうしたの?」
みどり「……私、やっぱり昔、あの人に会ってる気がする…」
皆神 「えっ?あの人って今の?…あの柄悪い?」

    みどりは我に帰り、焦って皆神に向き直る。

みどり「あっ、いや違います!今私なにか言いました?白昼夢!?ちょっとボーっとしてたんです。忘れてください!」
皆神 「えっ?あっ、そう?…ならいいけど…」
みどり「ごめんなさーい」
皆神 「…」

    将が入ってくる。

将  「なんだかうるさいな。何の騒ぎだ?」
みどり「あっ将くん、今の人たち誰?」
将  「あぁ、」

    少し間。

将  「知り合い。」
みどり「そう、…わかった」

    変な間。

皆神 「…あっ、水原君、水原君もブログやってる?」
将  「えっ、やってますよ」
みどり「そうなの!?」
将  「なに?」
みどり「アドレス教えて」
将  「秘密」
みどり「なによケチー~」
将  「なんだよケチって」
みどり「ケチはケチじゃん」
将  「僕ちょっと出てくるね」
みどり「えっ?何で?」
将  「何でってそのつもりで出て来たんだから」
みどり「そう…」
将  「じゃ、」

    将、ドアから出て行き、退場。
    見送るみどりと皆神。

みどり「……」
皆神 「なんか怪しいなあ」
みどり「何がですか?皆神さん」
皆神 「あの柄悪い奴らと水原君、なんか怪しい」
みどり「どういう意味ですか?」
皆神 「いや分からない、勘だけどね。私のカン鈍いから、気にしないで」
みどり「そう言われると気になりますね」
皆神 「気にしてくれる?」
みどり「いや、それほど」

    皆神ずっこける。

みどり「冗談ですよ、皆神さん。だから気にしませんし、気にしないで」
皆神 「えぇ?」
みどり「(小さな声でつぶやく)お願いします……」
皆神 「…?(よく聞こえない)」

    慎平と修が入ってくる。

修  「なになに何の話?」

    みどりはハッとする。

皆神 「自分のブログ持ってるかって話だよ」
慎平 「えぇ?」
みどり「修くんはブログやってる?」
修  「やってるよ」
みどり「そうなんだ。じゃあ慎平くんは?」
慎平 「何ですかブログって?」

    本気の慎平。
    皆コケたり困ったりする。

修  「お前ほんとにブログ知らないの?」
慎平 「ああ」
修  「それはすごいよ!」
慎平 「スゴイか?」
みどり「ブログってね、ネット上で公開できる日記みたいなもので、」
慎平 「えっ、日記を公開するの?」
修  「そうだよ」
慎平 「恥ずかしくねー?それ」
皆神 「改めて考えるとまあ」
みどり「恥ずかしいって言えば恥ずかしいかもね」
慎平 「そうだろ?なんでそんなことすんのさ?」
修  「慎もやってみろって、面白いから」
みどり「コメントとか返ってくると楽しいよ」
慎平 「そうなのかぁ~?俺にはよく分からん!」
皆神 「誰でも簡単に始められますから」
修  「そうそう、やってみな」
慎平 「うーん…考えとく」
修  「始めたらアドレス教えろよな」
慎平 「お前には絶対教えない」
修  「あん?」

    みどりと皆神は笑っている。

修  「で、お前ほんとに絵画コンクールに出品するのか?」
慎平 「…うん、ちょっとやる気になってきた」
修  「ほんとかよ?俺だって迷ってるのに」
みどり「そうなの?迷うことないよ、チャレンジチャレンジ」
皆神 「そうだよ。迷う必要はない」
修  「そういう皆神さんは?」
皆神 「…まだ未定」
修  「何ですかそれ?」
慎平 「みどりさんは描かないの?」
みどり「私は全然!ただのスタッフだし、絵なんてヘタもどヘタですから」
慎平 「そうなんだ~、でも俺の方が下手だと思いますよ」
みどり「そんなことないって!ぜんぜん上手いはず」
慎平 「じゃあ今度見せ合いましょう」
みどり「やだ~~っ。描いたことないもん」
皆神 「描いてみたら上手いんじゃないの?」
みどり「いや絶対ヘタです。描かなくてもわかる」
修  「高校の頃の美術の成績は?」
みどり「確か“頑張りましょう”」
修  「あー…いや、5段階とか10段階で」
みどり「忘れちゃった。うふ」

    皆神さん可愛いとか思ってるぞ、絶対。

慎平 「俺4だったな」
修  「5段階で?」
慎平 「お前知ってるじゃん、10段階」
みどり「(慎平に)それでなんで絵を描こうと思ったの?」
慎平 「あんたに言われたくないよ!」
みどり「あっそう…ごめんなさ~い」
皆神 「修くんは?」
修  「はい?」
皆神 「成績」
修  「あぁ、8か9くらいだったと思いますよ」
みどり「じゃあ結構いいわね」
慎平 「だからあんたがゆうな!」
みどり「は~い」
慎平 「あ、…俺も言えないか…(低い声色で)」

    照明が変化する。
    慎平とパソコンだけが見えている。
    パソコンの前に座る慎平。
    キーボードを打つ。
    打ちながら、

慎平 「本当になんで付いて行ったんだろう……将の奴…あ、S.M.の奴か、修正…えっ、SM?あいつSMかぁ……まいっかこのままで、…なんで付いて行ったのか、S.M.に…解らない。けどあのままあいつを1人で帰したら奴が死ぬほど傷付くような気がしたんだ。考えると変な話だけど。あいつの目がそんな色を放っていた。あいつは重要なことを俺に話さないで隠している気がする。それが何かは判らないけれど、それは簡単なことじゃない。なにか複雑な事情なのだろう。それについては、これから、あいつが話してくれるのを待とうと思う」



 すみません、長くて(-_-;

 久々のONE EYESです。

 今回のシーンは顔見せですね。
 こんな人が出てきますよー、という人物紹介。
 チラリと人間関係(色恋関係?)も触れておいて、この先につながっていきます。

 なんとか読み易いホームページ上で発表したいと思ってはいるのですが、なかなかHP作るというのは大変なことで……
 頑張りまーす

ONE EYES 第1場 『出逢って初めて』

2007年08月15日 09時38分51秒 | 戯曲・戯小説『ONE EYES』
     二科展の展示場。
     磯野慎平が絵を眺めている。
     慎平は片手に傘を持っている。

慎平 「……」

     ひとつの絵に惹きつけられる。
     じっと見る。
     慎平は目が痛くなる。
     ごしごし、目をこする。

     慎平がそんなことをしているうちに、横からもう1人の男が、同じ絵を
     眺めに来る。
     水原将だ。
     彼も傘を持っている。
     2人は初対面なので何も話す事はない。

将  「……」
慎平 「……」

     しばらく2人でひとつの絵を見ている。
     すると将はいきなり鉛筆を取り出し、飾ってある絵に何かを書き込み
     始める。

慎平 「!!?」

     将は書き続けている。
     すぐに係員が現れる。

係員1「何をなさってるんですか!?」
将  「……!!」

     将は係員には構わず、鉛筆を振るう。
     2人目の係員が止めに入る。

係員2「やめてください!」

     慎平は驚くが、騒ぎからは距離をとり、何も出来ず成り行きを見守っ
     ている。
     係員は2人がかりで将の体を拘束する。

係員2「やめなさい!」
将  「僕の絵なんだから、何したっていいだろう」
係員1「とにかく、鉛筆を放して」

     将は諦め、鉛筆を落とす。
     将はため息をひとつ吐く。

将  「何ひとつ思い通りにはならない」
係員 「?」

     慎平は将のことをじっと見ている。
     将はそれに気付く。

将  「…?」
係員1「とにかくこちらへ」

     係員達は将を促すが、将はそこを動こうとしない。

慎平 「この絵、あんたが描いたのか?」
将  「…ぅん」
慎平 「凄いな…上手いな、うん。」
将  「うまくない」
慎平 「何でこんなこと…」
係員2「(将に)すみません、こちらへ来ていただけますか?」

     将は係員の言葉は完全無視。

将  「分からない…」
慎平 「?」
将  「なんでこんな絵を見に来たのかもわからない」
慎平 「どうゆう…」
将  「お前、面白いツラしてんな。絵、好きなのか?絵を描くか?」
慎平 「え?…まあ少しは…」
将  「ついて来いよ。いいとこ連れてってやる」
慎平 「は?」
将  「いいから来いって」
慎平 「ちょっと待てよ!待てって!」

     将は慎平の腕を掴んで強引に連れて行く。

係員2「ちょ…」
係員1「ちょっと!」
係員2「…ちょっと」

     将と慎平は退場。
     係員は顔を見合わせ首をかしげる。
     係員は鉛筆で書き込まれた絵を片付け、退場。



 いよいよメインストーリーに入った『ONE EYES』です。

 この物語はひと夏の出来事なので、第1場は梅雨の時期、2人とも傘を持っています。

 この設定は初演の時と同様です。

 けれども細かいストーリーは初演の時とは全く書き換えています。

 初演では、道に貼ってある絵画コンクールのチラシを見ていた慎平と将が出逢う、という設定になっています。

 初演よりも少し事件性を持たせたつもりなのですが、如何でしょうか?

 水原将の性質をこれでより理解していただければ面白くなってくるのですが……



 只今ホームページを鋭意製作中です。

 そこでは『ONE EYES』の第1幕を発表できるように頑張っているのですが、
なにせ時間がない!

 この夏休みである程度公開の目途を立てられたらいいな、と思っています。


 よろしくお願いします。

 ではでは

ONE EYES 第0-2場 『変わらない部屋』

2007年07月28日 01時36分27秒 | 戯曲・戯小説『ONE EYES』
 "ONE EYES"前回からの続きで、初演では特に大道具などの変化もなく、
 照明だけの変化で場転しました。

※写真は0-1場後半のもの。

   * * *

     舞台上が変化し(照明のみの変化でも可)、場面が変わる。
     そこには登場人物全員が集まっている。
     現実のような、夢の中のような、それでいて懐かしく温かい風景。

みどり「あのさあ、こんなに大勢の人が集まるなんてそうそうないじゃない。それも廃校になった学校の中で。かっこいいじゃん。記念になると思わない?秘密のパーティーみたい。こうゆう時にお約束なのは、記念写真よね。ねえ、みんなで集まって写真撮らない?」
麻衣子「はぁーっ?なに言ってんのあんた?」
恵美 「(みどりに)私とあなた、初対面ですよね」
慎平 「これがパーティーかよ」
みどり「まあそうなんだけど、いいじゃん、撮ってみようよ」
修  「いいじゃん、撮ろうぜ。出来たらちょうだいね、みどりちゃん」
みどり「もちろん、」
麻衣子「あたしパス!意味ない!」
修  「え~麻衣ちゃ~ん、」
麻衣子「あんたはうるさい!」

     間。

慎平 「あぁ、撮ろうか。そんな気になってきた」
みどり「でしょ慎平君さっすが!」
恵美 「まあいっか、撮ってみよう。確かにいい記念かもね」
麻衣子「えー、ウザイ」
恵美 「いいじゃん麻衣、撮ってもらおうよ」
麻衣子「はなれて見てるー」
修  「麻衣ちゃん、一緒に写ろうよ。いい思い出になるよ」
麻衣子「えー、ここの卒業生同士で撮んなよ。あたしは関係ないって事で」
みどり「じゃあ皆さん並んでください」

     他のメンバーは適当に返事をする。
     そして全員適当に集まる。
     みんなダラダラしてるのに我慢できなくなり、修が仕切り始める。

修  「ほらっ、前の人は座って! 慎は高い方なんだから後!(もしくは、「慎は前で座って!」など)」
慎平 「なんだよお前張り切ってるな」
恵美 「修くんカッコいいー」
麻衣子「(遠くから)そう?普通じゃん」

     修内心ショック。
     でもそれを表には出さず“人員を整備”する。
     次第に写真を写せる状態にまとまってくる。

みどり「もっと集まって!入りきらないですよ」
慎平 「みどりちゃんカメラはー?」
みどり「あっ…それに気付いてなかったなー」
将  「みどり相変わらず抜けてる」
みどり「…うるさいな」

     ポッケやカバン、さまざまなところを探るみどり。

みどり「あれっ?いつも持ってるのに今日はない。いいや、携帯のカメラで我慢して」
将  「みどり、僕デジカメ持ってるからこれで撮ってあげるよ」
慎平 「あっ俺も持ってる!」
みどり「ホント?嬉しい!ほんとはあたしも写りたかったんだよね」

     慎平の一言はスルー。所在無げになる慎平。

     将、カメラポジションに移動。

麻衣子「あっ、将くんが撮るの?ならあたしも入る!」

     みどり、ムッとする。

将  「じゃあいいかな…よし全員入ってる」

     将、カメラを構える。
     撮られる方も構える。
     将、なかなか撮らない。
     首なぞ捻っている。

みどり「早く撮りなよ」
将  「…んー…なんか、表情が硬い」
慎平 「そう?」
将  「うん」
千夏 「みんな硬いってー」
みどり「どうしろってのよ」
将  「そうだな…全員首でも回して下さい」
みどり「何よそれ?」
将  「いいから、グルグルと」
徹  「え?」
みどり「なんなのよ一体…?」
将  「回して下さい」
麻衣子「将さん何か考えがあるんですよ、言う通りにしましょう?」

     皆、グルグルと首を回し始める。

将  「ストップ!撮るよ」

     全員、そのままの姿勢で止まるが、

矢崎 「ちょっと待て!」
みどり「やだよそんなの!(皆に)ねえ?」
慎平 「将くんどういうつもり?」
将  「いいんですよ、もうどこ向いたって……頭固いなぁ。但しレンズだけは見ないで下さい、あとはどこ向いてもいいですから」
恵美 「なんだかなあ…」
慎平 「写真一枚撮るのに、大変なんだな」
麻衣子「だから将さんには考えがあるんですって!」
千夏 「早く撮りましょ!」
将  「いくよ!」
将を除く全員「はーい」

     シャッターを切る音がする。

     光がみどりに集まる。

全員 「そのとき撮った写真は、今も私の中に在ります」
みどり「その写真は、好きだった人が撮った物だからというだけではなく、いつも、私に何かを伝えてくれようとしていました。……彼が去ってからも、私はずっと此処に居ます。私に何が起こっても、一人きりになってしまうことがあっても、私はこの場所に居続けようと思います。……いつか、何年かあとに、また私は彼に出会うかも知れません。そのときは、わらえたらいいと思うのです。……だから、」
全員 「私はずっと、この写真の、この場所、そしてこの場所にいた人達…この眼差しを、絶対に忘れません!」

     ブリッジの曲が始まる。

男性陣「劇団○○、」
女性陣「○回公演、」
全員 「『ONE EYES』!」

     ここでダンスが入ってもよいね。

   * * *

 ここまではプロローグです。

 (あれば)ダンスの後、本編が開始します。

 初演の時は、ダンス同好会に入っていて、僕たちの演劇研究会に移ってきた
友人に頼んでダンスの振付をしてもらいました。

 結構ダンスって体力を消費するものなんですよねー

 ま、僕は踊ってないのですが

ひさびさの戯曲発表で~す

2007年07月17日 23時34分47秒 | 戯曲・戯小説『ONE EYES』
 これからたまに発表していこうと思います。

 戯曲・『ONE EYES』。

 これは今から8年位前に、実際に大学のホールで発表した演劇の台本です。

 それを去年の末から今年の初めにかけて、大幅に変更・加筆しました。

 今日はそのほんのさわりだけ。
 プロローグのプロローグ、まだ芝居も始まっていない冒頭のシーンをお伝えします。

   * * *

第0-1場 オープニング~lyric~

    暗闇の中、テーマソング("PHOTOGRAPH" / SPIRAL LIFE)が
    静かにかつ重厚に流れ始める。
    そしてそれに沿うように、一篇の詩が読まれ、場内に響く。

    舞台上は暗闇のまま。

慎平 「空を見たら 青が流れていた」
修&麻衣子「青白く光る 真昼の月」
将&みどり「人は雲なのか 月なのか」
千夏&上河&矢崎&恵美&徹&皆神「一面に広がる青になれたらいい」

慎平&修「積もる出来事は」
みどり「枯れ葉の様で」
皆神 「雪のように 溶けることもなく」
恵美&麻衣子&千夏&上河「ただそこに居て」
将&矢崎&徹「ただ土になる」

男性陣「空の青さは」
女性陣「全てを包むから」
男性陣「光も闇も」
女性陣「一つの眼差しで」
   「触れゆく優しさ」
男性陣「それは歩き続けること」

慎平&みどり「だから私は思う」

全員 「めぐり流れる青になれたら、きっとそれでいい。」

    舞台に光が入る。
    登場人物全員が、舞台全体に後ろ向きで並んでいる。
    全員、振り返りながら自分の名前を名乗る。
    この際、役者は各自の役柄の個性を全てその場で表現しきるくらいの覚悟で、
    工夫をすること。

慎平 「磯野慎平!」
修  「市川修。」

恵美 「渋谷恵美」
麻衣子「今井麻衣子!」

千夏 「上杉千夏!」
上河 「上河雅也」

矢崎 「矢崎義隆。」
徹  「路也徹(みちやてつ)!」

皆神 「皆神(みなかみ)祐樹!!」

将  「水原将。」
みどり「…田中みどり!」

男性陣「劇団○○、」
女性陣「○回公演、」

   * * *

 ここで今回はおしまいです。

 中途半端なようですが、これでワン・シーン終了となっています。

 大幅に筆を入れた今回の『ONE EYES』なんですが、
このシーンだけは8年前に書いた台本のままです。

 無理に今書き直してもこれ以上の詩は出てこない気がしたのです。


 さ~て明日も早い。
 今日はもう寝ます。

 お休みなさ~い