おっちーの鉛筆カミカミ

演劇モノづくり大好きおっちーのブログです
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私に伝えたい・サイドストーリー(秋庭)『アラライにまつわる物語』

2011年12月12日 00時14分46秒 | 戯曲・つれづれ
 私の苗字は秋庭といいます。
 みんな会社ではアキバさんと呼んでくれます。
 今日は土曜日なので会社は休み……新井薬師前という駅までやってきました。新井薬師前は、山手線の高田馬場駅で乗り換えて、西武新宿線で5分ちょいの駅です。
 ここに何をしに来たかというと、駅から歩いて5分くらいの場所に、スペシャルカラーズというバースペースがあって、そこでパフォーマンス公演があるのです……それを観に来ました。
 それは、『ア・ラ・アラ・ライブ』というタイトルの公演。いろんなパフォーマーが集って、芝居あり、歌あり、パントマイムあり……とにかくいろんなパフォーマンスが100分の間に目の前をわんさか流れ過ぎるという、ユニークな公演なのです。
 会社の同僚に苑田さんという私のお兄さんみたいな人がいて、その苑田さんがこの公演のスタッフとして関わっています。
 苑田さんは別に自分が出演するわけじゃないのに、「アキバさん観に来て!」と何かある度に言うので、一回くらい……と今日は観に来たわけなのです。
 ちなみに苑田さんは、アラアラライブに出演することが今の目標なんだそうです。
 それもあって、ここまでやって来ました。

 地図を見て来たんですけどね。
 道に迷ってます。
 ほんとにこの辺なのかしら。
 「あらいやくしはりきゅう整骨院」というピンクの看板のあるビルの地下……らしい。
 ん、ピンクの看板ってこれかな?
 ここだ。きっとここだ。
 自転車とかバイクとか並んでるけど、この中ほんとに入っていいのかな。
 意を決して入る。
 階段を下りる。
 不安。
 間違ってたらどうしよ。
 知らない人が出てきたら逃げよう。
 地下フロアに到着。ちょい狭。
 そしてドアが閉まっている。
 どうしよ。
 ドア三つあるけどどれが本物だろう?
 あ、一つはトイレなんだ。
 残り二つ。
 普通に考えれば、階段に近い方だよなあ。
 よし決めた!
 も一回意を決して、ドアを開ける。
 こんにちは。
 あ、誰か出てきてくれたよ。
 知らない人だ。逃げた方がいいかな。
 あ、笑ってくれた。いい人~。
 え、まだ開場1時間前?
 もう開演の1時間半前ですけど、入れないんですか?
 前行ったコンサートだと、それくらいには……
 まだ準備している?そうなんですか。
 あ、謝らないでください。ごめんなさい、私が無知なだけだったんです!
 でも、私どうしたらいいですか?(←自分で時間をつぶそうという発想がない)
 私、苑田さんの知り合いで……
 あっ、苑田さん~!
 よかった~間違ってなかったんだあ~
 えっ、入っていいの?準備中じゃないんですか?
 全然オッケー?
 部外者ですけど……はい、じゃあ……失礼します。
 苑田さん、ありがとう。
 あ、笑顔で迎えてくれたお姉さんも、ありがとう。
 ……でもこれ、リハーサルじゃないのかなあ。見ちゃっていいんですか?
 見たくなかったら目隠しを貸してくれるらしい。
 ……って、なんでそんなものがあるんですかぁ?
 小道具……なんですか。
 ……どんな内容の出し物で使うんだろう……。
 ふーん、舞台のリハーサルってこんな風にやってるんだなあ。
 そうしてリハーサル終わって、そろそろ開場のお時間。
 なんか気合い入れをするらしい。
 え、私も入れって?
 だから私部外者……
 みんなで手を重ね、「アラライ、オー」って言って手を上げればいいだけ?
 いやだから私ただの観客のはず……って……恐縮です~
 『アラライ!オーッ!!』
 やってしまった……
 でも、学生時代の文化祭みたい。
 文化祭のライブ、あれ燃えたなあー。
 あ、主宰のアラリンさん!DMと同じ顔だ、感動~
 そして私なんかに話し掛けてくれたあ~泣
 はい、どうもです、よろしくお願いします……って私が言うの変か?
 え、終演後に打ち上げがあるからぜひ参加してほしい?
 なんですかそれ?私ただの観客……
 はあ、そういうもんなんですか。私こういう公演って観に来たの初めてなんで……
 へえー、芝居って、終わったあと観客も交えて打ち上げするものなんですね。(←勘違い)
 パルコ劇場とか、大きな劇場の公演後はどうしてるんでしょうねえ……きっとすんごい事になるんだろうな(←大間違い)
 はい、じゃあ参加します。ありがとうございます。
 それじゃ苑田さん頑張ってね~

 受付を済ませて、客席に着いた。まだ、開演まで30分ある。
 どんなパフォーマンスが見られるんだろう?待ち遠しいな。
 そういえば苑田さん、観客参加型のパフォーマンスだって言ってたな。
 もしかして、舞台上に観客が上がるなんてことは。
 まさかそんなわけないか。気持ちの問題だろう。きっと拍手とか、手拍子とかするくらいだよな。
 でも、なんか緊張してきたな。
 客席も埋まって……もう始まるかな。
 あっ、アラリンさんが出てきたぞ
 舞台明るくなって……ドキドキドキ

( 終 )




作者注:どこの公演でも、終演後に役者スタッフ観客交えて打ち上げをするわけではありません。でもアラライではやります(夜の回の後ですが)。あと、苑田さんという人物はフィクションであり、アラライに行ってもいません。探してもいません。小道具の目隠しもフィクションです。最後に、開場前にいらしてもリハーサルは見られませんので注意しましょう。

ゆめをみるかね(3)

2011年12月01日 00時00分00秒 | SUKYSH CLOUD
第三節 微笑むホタル


「もう動けねえ。一歩歩く体力もこのプールに吸われちまった」
「情けないなあ」
「仕方ない……」
 コバンがよっこらせと立ち上がろうとした時だった。
 コバンの周りを何かの虫が一匹飛んでいる。
「? うっとおしいな」
 立ち上がったコバンが追い払おうと手を動かすが、その虫はすり抜けつつコバンの周囲を回り続ける。不自然な様子の虫であった。
 しばらくして、その虫はコバンから離れて飛んでいった。そして、少し離れた所で虫はコバンを待っている。そして緑色の光を放っていた。
 そう、待っているとしか思えなかった。そこでコバンが歩み寄ると、ホタルは遠ざかる。コバンが歩みを止めるとホタルも止まって小さな範囲を飛び回っている。そしてコバンがホタルから遠ざかると、またコバンに寄ってきて周りを飛ぶのである。

 着替えて強化センターを出た。まだホタルはコバンを先導していた。
「気味の悪い夜になったな」
 コッチョルが呟くと、
「面白い事が始まるのかも」
 一方のコバンは胸を躍らせていた。
 二人はホタルを追った。そしてしばらく歩いて、十字路に差し掛かったところでコッチョルが叫んだ。
「コバン、逃げるぞ!」
「は?」
 目の前に、昼間コバンが犯したスリの被害者がいた。

 体力に劣るコバンは被害者に力ずくで抑え込まれ、結局盗んだものを全て返すことになった。
 コッチョルがどう説得したのかは分からないが、彼のお陰でポリスに突き出されることだけは避ける事ができた。
「ホタルさまさまだ」
 元被害者はそう言い残して去っていった。
「あんな奴の金は先生が使った方がいい」
 コバンは食事をしながら、かすれた声でコッチョルに嘆いた。
 コバンはスリを行うターゲットを適当に選んでいる訳ではなかった。充分に、人となりや社会的な立場を吟味して、要はコバンの思う嫌な奴を選んで仕事をしているのである。そして、金持ちしか狙わない、という事実も付け加えておくか。
「今晩はどうする?」
 空に浮かんだ星を見上げながらコッチョルが訊ねた。
「先生のところに泊めてもらっていいか?」
「城には帰らないのか?」
「帰るとまた兵器の開発を進めなくちゃならない。もう嫌なんだ」
 コッチョルは空を見上げたまま、
「そうか。お前も大変だな」
 誰か、今の生活をぶち壊してくれないだろうか。誰が悪なのか、もはやわからない。ただ、今が正しくない事だけは分かる。
 コバンは先生の顔を見た。この人はどうなんだろうか。自分はなぜこの男の人を「先生」と呼ぶようになったんだっけか。
「なんだ、コバン?」
「身体痛くなかったら逃げられたんだけどな」
 コバンは先生に顔を背けて言った。
「人のせいにすんな」
 コッチョルは苦笑いでそう答えた。
 二人が床につき、眠りにつく。
 コバンの上着のフードの中に、何か緑色に光る虫が、飛び込んだ。