第6章 夢、追い掛けて(2)
私、なにに成りたいんだろう……?
今井麻衣子は屋上の金網に体をもたれながら物思いにふけっていた。
今は、昼間高校に通って、夕方前にこの『あおば荘』にやってきてラジオ番組を恵美と一緒に作っている。
ラジオ番組といってもミニFM放送である。聴くことが出来るのはこの近所だけ。
他人に「あなたの夢は?」と訊かれれば、躊躇なく麻衣子は「ラジオ番組のパーソナリティになることです!」と答える。
けれども麻衣子には、その夢を実現するためにどうすればいいのかが分からない。
現在、高校3年生の6月である。
クラスのみんなは、就職組を除く大部分が大学受験の勉強に躍起になっている。ほとんどの人間が、塾か予備校に通っている。
麻衣子は大学に通うコトに興味がない。かといって就職活動をするモチベーションも、勇気もない。
宙ぶらりんの状態なのだが、それをなんとかする気持ちが起きない。具体的に何をすればいいのか分からないのである。
今の自分の気持ちにフィットする行動が浮かんでこない。
ただひとつ、ラジオ番組のDJの真似事をしているときだけは、何かをやっているという実感がある。
これでいいんだとは思わない。けれど、他の選択肢も思い浮かばないのである。
「あたし、いま煮詰まってるのかな……」
にっちもさっちもいかない……ってワケでもない。
ちょっとの勇気と一種のあきらめがあれば、前には進めるのだ。
でもそれをしてまで前に進む気も起きない。今の麻衣子はそこまで追い詰められていないのである。
目の前に広がる夕焼け空。
ここのところ雨の降らない日も多くなってきた。
まだ気象庁からの梅雨明け宣言はないが、もう暫くも経たない内に梅雨は明けるだろう。そしたら
「夏か」
そう……一年でいちばん熱い季節……夏の始まりだ。
今年も……海にもプールにも、麻衣子は行かないだろう。
一緒に行く人がいないんだよ。
麻衣子には恋人も、ボーイフレンドと言える知り合いも、いなかった。
クラスの友人は、いつも男の子の話題で盛り上がっている。
自分の彼氏はどーだ、どこそこのクラスの何々君は一番のイケメンだ、今度あそこでナンパ待ちをしに行こう……等々。
あいつらが海やプールに行く動機も、すぐに想像がつく。
麻衣子はそういった話題になると、気持ちがシラけてしまう。
恋愛って、もっと……なにか、こう……違うもののような気がする。
クラスの友人たちが求めているものを、麻衣子は欲しいと思わなかった。
自分は変わり者なのだろうか。どこか病んでいる?のだろうか。
たとえ病んでいるにしたって、麻衣子は自分の気持ちに正直でありたかった。
やりたくないコトは、やらない。したいことを、する。
……とはいっても、麻衣子にはその「したいこと」が見付からないのだ。それで困っている。
もう、終わらせてみようか……
麻衣子は金網の内側から、下の地面を見おろした。
ここから落ちたら絶対死ぬだろうな。
痛いだろうな。
嫌だな。
それだけの理由で、麻衣子は自分の絶望と別れを告げる行為をあきらめるのである。
「ふわあぁ~~ぁあ」
麻衣子は今自分でも、あくびがしたかったのか溜め息がつきたかったのか分からない。
首を傾げて、その場にしゃがみ込んだ。
身体に力が入らない。
その時、自分の名前を呼ぶ声が背後から聞こえた。
* * *
いかかでしたでしょうか。
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