第7章 ナツがはじまる。(3)
一体どこに行ったんだろう?
みどりは疑問を持つが、間も無くそれについては忘れてしまう。
ラジオからは先程と変わらず、「サンライツセッティング」の選曲した、みどりの好きなタイプの音楽が流れている。
そういえば将さんどうしたろうか?
みどりは自然と忍び足になり、教室とアトリエを隔てるフスマにそっと耳を当て、その向こう側に聞き耳を立てた。
「カァーッ!もうやってらんねえー!!」
急にフスマが開く。
驚いたみどりは身を翻し、無関心の振りをした。
「なんだ……みどり、いたのか」
「あ、将さん、絵の調子はどう?」
分かってるのに、分かっていない振りをする。みどりは自分で自分を、馬鹿だなあーって思った。
「いいわけがない。様子見て分かるだろ?」
ほら、将さんの機嫌が悪くなる。ああ言えば、こうなるって分かってたのに。
「だいじょぶだよ。将さん、天才じゃん。きっと何とかするよ」
「天才?……しかも、きっと何とかする?……みどり、お前俺のこと馬鹿にしてるだろ?」
「そんなわけないじゃん、尊敬してるよ。将さんのこと」
「あーーー!うるっせーなあーー!!!お前と話してるとイライラする!俺もうアトリエ戻るわ!」
「いつもお二人仲がいいですねえ~」
そこに、皆神祐樹がニンマリした笑顔で入ってくる。
「皆神さん……こんにちは」
将が皆神に挨拶する。
「いらっしゃい」
みどりも言葉を繋げる。
「そんな風に言い合える仲間を持てるってことは、素敵なことですねえ~」
皆神は相変わらずニンマリした笑顔を崩さない。
「皆神さん、失礼」
将は部屋を出て行く。
「あっ、将さん」
みどりが将を呼び止めようとする。しかし将はそれを無視して玄関の扉を開け、そして迷いなく扉を閉めた。ドアを勢いよく閉じた音が、強く教室内に響いた。
「みどりちゃん、お邪魔しちゃいましたか?」
皆神が言った。
みどりはかぶりを振り、
「なんでですか? そんな事ないですよ。皆神さん、今日は?」
「そうですねえ……みどりちゃんに会いに来ました」
「は?」
「今日は、授業ないですから」
「また調子の良いこと言って~。制作活動ですか?」
皆神は不意にみどりの顔を覗き込んで言う。
「ほんとの事なんですけどね。……アトリエは、空いていますか?」
「えっ、あっ、今、将さん出てっちゃいましたから。誰も居ませんよ」
「そうですか。じゃあ、少し絵でも描こうかな……」
皆神はアトリエのふすまを開け、中に入ろうとする。
ラジオからはいつの間にか音楽が止んでいて、ノイズ音が流れっぱなしになっていた。みどりはラジオのスイッチを切り、窓の方に近付いた。
「暑いな。窓、開けようか」
空を見ると、雲のすき間から強い太陽の日差しが漏れ出していた。
「……明るく、元気に!」
今年の、ナツガハジマル。