おっちーの鉛筆カミカミ

演劇モノづくり大好きおっちーのブログです
いろいろ活動してます
そのうち、みなさんにお目にかかれたらうれしいです

ONE EYES(24)

2011年01月26日 00時45分41秒 | 小説『ONE EYES』

第7章 ナツがはじまる。(3)


 一体どこに行ったんだろう?
 みどりは疑問を持つが、間も無くそれについては忘れてしまう。
 ラジオからは先程と変わらず、「サンライツセッティング」の選曲した、みどりの好きなタイプの音楽が流れている。
 そういえば将さんどうしたろうか?
 みどりは自然と忍び足になり、教室とアトリエを隔てるフスマにそっと耳を当て、その向こう側に聞き耳を立てた。
「カァーッ!もうやってらんねえー!!」
 急にフスマが開く。
 驚いたみどりは身を翻し、無関心の振りをした。
「なんだ……みどり、いたのか」
「あ、将さん、絵の調子はどう?」
 分かってるのに、分かっていない振りをする。みどりは自分で自分を、馬鹿だなあーって思った。
「いいわけがない。様子見て分かるだろ?」
 ほら、将さんの機嫌が悪くなる。ああ言えば、こうなるって分かってたのに。
「だいじょぶだよ。将さん、天才じゃん。きっと何とかするよ」
「天才?……しかも、きっと何とかする?……みどり、お前俺のこと馬鹿にしてるだろ?」
「そんなわけないじゃん、尊敬してるよ。将さんのこと」
「あーーー!うるっせーなあーー!!!お前と話してるとイライラする!俺もうアトリエ戻るわ!」
「いつもお二人仲がいいですねえ~」
 そこに、皆神祐樹がニンマリした笑顔で入ってくる。
「皆神さん……こんにちは」
 将が皆神に挨拶する。
「いらっしゃい」
 みどりも言葉を繋げる。
「そんな風に言い合える仲間を持てるってことは、素敵なことですねえ~」
 皆神は相変わらずニンマリした笑顔を崩さない。
「皆神さん、失礼」
 将は部屋を出て行く。
「あっ、将さん」
 みどりが将を呼び止めようとする。しかし将はそれを無視して玄関の扉を開け、そして迷いなく扉を閉めた。ドアを勢いよく閉じた音が、強く教室内に響いた。
「みどりちゃん、お邪魔しちゃいましたか?」
 皆神が言った。
 みどりはかぶりを振り、
「なんでですか? そんな事ないですよ。皆神さん、今日は?」
「そうですねえ……みどりちゃんに会いに来ました」
「は?」
「今日は、授業ないですから」
「また調子の良いこと言って~。制作活動ですか?」
 皆神は不意にみどりの顔を覗き込んで言う。
「ほんとの事なんですけどね。……アトリエは、空いていますか?」
「えっ、あっ、今、将さん出てっちゃいましたから。誰も居ませんよ」
「そうですか。じゃあ、少し絵でも描こうかな……」
 皆神はアトリエのふすまを開け、中に入ろうとする。
 ラジオからはいつの間にか音楽が止んでいて、ノイズ音が流れっぱなしになっていた。みどりはラジオのスイッチを切り、窓の方に近付いた。
「暑いな。窓、開けようか」
 空を見ると、雲のすき間から強い太陽の日差しが漏れ出していた。
「……明るく、元気に!」
 今年の、ナツガハジマル。

ONE EYES(23)

2011年01月22日 22時20分15秒 | 小説『ONE EYES』

第7章 ナツがはじまる。(2)


「彼女!?修、お前彼女できたのか!?」
「……そんなようなもんだ」
 修はやはり、蚊の鳴くような声で応えた。
「それで、その彼女さんが絵を描くのを止めろと」
 みどりが問う。
「そんな感じ」
 少しの間があった
「なんでだよ!!」
「何でですか!?」
 慎平とみどり、二人同時に叫んだ。
「女が止めろと言ったくらいで、なんで絵を描くのを止めちゃうんだよ!?」
「そうですよ!」
「そんな女、すぐ別れちゃえ!」
 少しの間のあと、
「慎平さん、それはちょっと言い過ぎ」
「そうか?」
「修、とにかく今ピコタンを辞めるのは思いとどまれ」
「……うーん……」
「今辞めたら、きっと後悔しますよ~」
「……そうかな?……」
「そうだよ、あとで辞めなきゃ良かった~……彼女に言われたくらいで、辞めたのは馬鹿だった~……って、思うぞ、絶対」
「そうかなあ」
「ああ、そりゃ絶対だ」
「……う~ん……」
「修、それよりお前に一緒に来て欲しい所があるんだ」
「は?」
「コンクールに出す、絵のモチーフが見付かったんだよ、来い!」
「おい、ちょっと……!!」
 慎平は、修を無理やり玄関の方に連れ出す。
「待てって、慎平!!」
「いいから、来い!」
 とり残される、みどり。
「みどりちゃん、ちょっと行ってくる!」
「慎平さん、何処へ行くの!?」
「それはまだ秘密!」
 修の「おい!」という叫び声を最後に、ピコタン絵画教室のドアが音を立てて閉まった。
 とり残された、みどり。
「……いってらっさい」

ONE EYES (22)

2010年10月03日 00時17分02秒 | 小説『ONE EYES』

第7章 ナツがはじまる。(1)


『皆様コンニチハ! サンライツセッティングのお時間がやって参りました! 今日もこれからなん時間か皆様のお相手をいたします、今井麻衣子です!!』

 本日も、ラジオから流れる「今井麻衣子」のカラッ元気な声が教室に響いている。

『今日も暑いですねえ。もう夏かしら。……なに恵美ちゃん? はい……もうとっくに夏? はあ、そうなんだ? えっ、だから私の名前を出すな? わかったわよ恵美ちゃん。何わかってない? どうでもいいから曲に入れ? なんか意味もなく怒ってる恵美ちゃんでした。……おぉ、こんな暑い夏にピッタリのナンバー――「PINK SAPPHIRE」で、『P.S. I LOVE YOU』。……えっ、なによ恵美ちゃ(プツッ)』

 FMラジオからPINK SAPPHIREのP.S. I LOVE YOUが流れ始める。
「この曲!……懐かしいなあ」
 田中みどりが、教室内の清掃をしながら、一人ごちている。
「これ好きー」
 笑顔になって、掃除にも勢いがつく。ノッてきたみどり。
 リズムに乗って、机の上を雑巾で拭く。床にあって目についたごみを拾って、ごみ箱に捨てる。掃除機を掛けて、仕上げに床をモップで拭う。
「ふう。……よし、キレイ」
 満足気に教室内を見渡すみどり。
 隣の部屋――アトリエでは、水原将が画を描くという『芸術活動』と格闘していた。時々大きく息を吐く際の声や、画材をキャンバスにあてた時の音だろうか――何かぶつかり合うような物音が聞こえてきていた。
 将さんは……相変わらずか……
 たまにはこっちに出てきてもいいのに。会話というモノを知らないんだから。
 ……お喋りしようよ。
 その時、とう突に誰かが外から教室に入ってきた。
 ビクッと驚くみどり。
「みどりちゃ~ん、修いる!?」
「慎平さん、いきなり現れないで下さいよ」
「ゴメンゴメン、修は?」
「まあいいですけど。居ませんよ」
「今日あいつ来るよなあ?」
「今日、授業はないですからね。どうでしょう」
「来てくれなきゃ困るんだよ。ビッグニュースがあるのに」

『はあ~……一人で喋ってるのも疲れますね。そうだ!今度パートナーを募集します!! この番組のDJをあたしと一緒にやってくれるという方、いつものメールの宛先へ、顔写真付きの自己紹介文を送ってください!……』

「ビッグニュースって何ですか? もしかして……」
「なに? 当てようっての?」
「はい。たぶんそれだと思います」
「答え言ってみなよ」
「慎平さんが、いよいよピコタン絵画教室に入学する!」
「ビー! 大外れ。それとは全然関係ない話だよ」
「じゃあ……コンクール関係ですかあ?」
「おっ、いい線ついてる!」
「もういいかげん教えてくださいよ」
「修が来たら言うよ」

 ピンポーン

「あっ、もしかして修さんじゃないですか?」
「あいつ、ここ入ってくるのにチャイムなんか鳴らさないだろ」
「ちょっと玄関見てきますね」
「はーい。いってら」
 玄関から声が伝わってくる。
「みどりちゃん、オレこの教室やめてもいいかな」
 修の声だ。
「はっ!? なに言ってるんですか、修さん??」
 みどりが返答に困っている。
 会話はもちろん慎平の耳にも届いていた。
「修、いまさら何ばかなこと言ってんだよ!!」
 慎平が教室から大きな声を出した。
「慎平いるのか。オレ、ピコタンやめるから」
「ばーか。やめられる訳ないだろう?」
「なんでだよ、やめるのは自由だ」
 会話の間に、慎平は玄関まで移動していた。
「ちょっと話しよう。とにかく中に入れ」
 慎平は有無を言わさず、修を教室の中まで押し入れた。
「なんで今、『やめる』になるんだよ?」
「そうですよ、修さん、突然過ぎます」
 表情を曇らせたみどりも、慎平と一緒になって修に問うた。
「話すと長くなるんだよ」
 修はうつむいていた。
「じゃあ全部話せ」
 慎平が修にキツく言い放った。
「全部話すのは嫌だから、一言で済ますよ」
「一言で済むんなら最初からそうしろよ」
「うるせーな」
「修さん、話してください」
 修――と慎平、みどりが対峙する。
 修は蚊の鳴くような声で言った。
「彼女が、絵を描くような暗いヤツは嫌いだって」



 久々の『ONE EYES』になります

 なんと半年ぶりの再開!
 うわ~
 何やっとるんじゃ、俺

 今回だいぶダラダラな会話が多くなっております汗
 楽しんでいただければよいのですが……

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 それではでは、よろしくお願いいたします~

 では~

ONE EYES(21)

2010年04月09日 00時25分59秒 | 小説『ONE EYES』

第6章 夢、追い駆けて(3)


 明日作る番組の構成も固まった。あとは、一応麻衣子に確認をとればいい。
 渋谷恵美はペットボトルの、半分ぬるい紅茶をひと口含むと、味わうように口腔内で転がした後飲み込んだ。
 麻衣子は思った通り、まだここに戻ってこない。時計を見ると、もうあれから一時間は経っている。
 まったくどこで何をしているんだか……
 このラジオ番組を麻衣子と一緒に作り始めた最初の日――やはり似たようなことがあって――待てど暮らせど彼女は戻ってこないのでもう家に帰ったのだろうと思い、待つのを諦めて帰宅した。
 すると次の日、麻衣子は機嫌が悪かった。
――どうして先に帰っちゃったの!? ずっと待ってたのに。
――どこで?
――屋上!
――そんなの分からないわよっ!!

 今も屋上にいるのだろうか。
 しかし恵美が探しに行っても、そこにはいなくて途方に暮れたことが何度もあった。
 どこにいるのかな……
 やっぱり……とりあえず屋上に行ってみますか――

 ――屋上には誰もいなかった。麻衣子はどこに行ったのだろう。これまでの経験から、家に帰ったということは絶対に有り得ない。この建物の敷地内のどこかに、麻衣子はいる。
 一階に降りて「庭」の辺りをきょろきょろと見回す。
 すぐに出入り口の門の前に「詩」の書かれた石碑が目に入る。
 麻衣子と恵美のこの場所を、『あおば荘』と呼ぶようになった理由がこの詩の中にある。

『あおばの山際
 浮かぶ月よ
 我らを照らして
 その姿いづ』

 麻衣子がこの詩をいたく気に入り、あまりに喜んだ様子なので、恵美が「じゃあ…この私たちの場所を“あおば荘”と呼ぶことにしよう!」と提案したのだ。
 麻衣子は恵美のネーミングセンスにイマヒトツ納得いかない様子だったが、「この『詩』の中の言葉を使ってここの名前を付ける」というアイデアには大いに賛同したらしく、なかなかの笑顔でその決定を承認した。

 どこを探しても麻衣子が見付からないので、恵美は途方に暮れていた。
 その時、背後から声が聞こえた。
「恵美ちゃん!! どこ行ってたの!?」
 振り返るとようやく見付けた……麻衣子が恵美のいる所まで走り寄ってきている。
「どこって……あんた探してたんじゃない。麻衣ちゃんこそ今まで何処に居たのよ!?」
「放送室に戻ってたよ。そしたら恵美ちゃんいないから……びっくりして」
 いつもは恵美がこの建物中麻衣子を探し回って、ようやく見付けて一緒に帰途につくのだ。
「自分から戻るなんて珍しいね。何かあった?」
「……ううん、屋上で後ろから誰かに名前を呼ばれた気がしたの。でも振り返ったら誰もいなかったから、恵美ちゃんが呼んでるのかなって思って」
「それで戻る気になったの?」
「そう」
 恵美はあきれるあまり絶句してしまった。
「……まあいいわ、もう暗くなってきたよ。帰ろう」
「でも夜になるのも遅くなったよねえ~」
「そうね」
「明日も楽しい一日だといいなあ~」
「そうだね」
「でも学校がなきゃいいのにね」
「はいはい」
 そんな会話を続けながら、二人は門をくぐり、家路へと向かった。
 そして夏が始まる。

      *

 いかがでしたか?
 ようやく物語が本格的に動き出す段階に入ってきました。
 奔放な女子高生「今井麻衣子」とちょっと陰のある女性「渋谷恵美」……不思議な関係の二人がこれから臨む現実とはどんなものなのか!?
 続きをお楽しみに~

 ……それ、でですねぇ、
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ONE EYES(20)

2010年03月21日 23時33分08秒 | 小説『ONE EYES』

第6章 夢、追い掛けて(2)


 私、なにに成りたいんだろう……?

 今井麻衣子は屋上の金網に体をもたれながら物思いにふけっていた。
 今は、昼間高校に通って、夕方前にこの『あおば荘』にやってきてラジオ番組を恵美と一緒に作っている。
 ラジオ番組といってもミニFM放送である。聴くことが出来るのはこの近所だけ。
 他人に「あなたの夢は?」と訊かれれば、躊躇なく麻衣子は「ラジオ番組のパーソナリティになることです!」と答える。
 けれども麻衣子には、その夢を実現するためにどうすればいいのかが分からない。

 現在、高校3年生の6月である。
 クラスのみんなは、就職組を除く大部分が大学受験の勉強に躍起になっている。ほとんどの人間が、塾か予備校に通っている。
 麻衣子は大学に通うコトに興味がない。かといって就職活動をするモチベーションも、勇気もない。
 宙ぶらりんの状態なのだが、それをなんとかする気持ちが起きない。具体的に何をすればいいのか分からないのである。
 今の自分の気持ちにフィットする行動が浮かんでこない。
 ただひとつ、ラジオ番組のDJの真似事をしているときだけは、何かをやっているという実感がある。
 これでいいんだとは思わない。けれど、他の選択肢も思い浮かばないのである。
「あたし、いま煮詰まってるのかな……」
 にっちもさっちもいかない……ってワケでもない。
 ちょっとの勇気と一種のあきらめがあれば、前には進めるのだ。
 でもそれをしてまで前に進む気も起きない。今の麻衣子はそこまで追い詰められていないのである。

 目の前に広がる夕焼け空。
 ここのところ雨の降らない日も多くなってきた。
 まだ気象庁からの梅雨明け宣言はないが、もう暫くも経たない内に梅雨は明けるだろう。そしたら
「夏か」
 そう……一年でいちばん熱い季節……夏の始まりだ。
 今年も……海にもプールにも、麻衣子は行かないだろう。
 一緒に行く人がいないんだよ。
 麻衣子には恋人も、ボーイフレンドと言える知り合いも、いなかった。
 クラスの友人は、いつも男の子の話題で盛り上がっている。
 自分の彼氏はどーだ、どこそこのクラスの何々君は一番のイケメンだ、今度あそこでナンパ待ちをしに行こう……等々。
 あいつらが海やプールに行く動機も、すぐに想像がつく。
 麻衣子はそういった話題になると、気持ちがシラけてしまう。
 恋愛って、もっと……なにか、こう……違うもののような気がする。
 クラスの友人たちが求めているものを、麻衣子は欲しいと思わなかった。
 自分は変わり者なのだろうか。どこか病んでいる?のだろうか。
 たとえ病んでいるにしたって、麻衣子は自分の気持ちに正直でありたかった。
 やりたくないコトは、やらない。したいことを、する。
 ……とはいっても、麻衣子にはその「したいこと」が見付からないのだ。それで困っている。

 もう、終わらせてみようか……

 麻衣子は金網の内側から、下の地面を見おろした。
 ここから落ちたら絶対死ぬだろうな。
 痛いだろうな。
 嫌だな。
 それだけの理由で、麻衣子は自分の絶望と別れを告げる行為をあきらめるのである。
「ふわあぁ~~ぁあ」
 麻衣子は今自分でも、あくびがしたかったのか溜め息がつきたかったのか分からない。
 首を傾げて、その場にしゃがみ込んだ。
 身体に力が入らない。
 その時、自分の名前を呼ぶ声が背後から聞こえた。


   *  *  *


 いかかでしたでしょうか。
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ONE EYES(19)

2010年03月09日 00時13分09秒 | 小説『ONE EYES』

第6章 夢、追い駆けて(一)


「では本日も皆さんのお相手は今井麻衣子……ミキシング恵美ちゃんでお送りしました。
 では、バイ、ナラ。」

 麻衣子がマイクミキシングのスイッチをオフにすると、
「あぁああ~~~っ!!! つっかれた~~っ 今日も一日終わったわ~」
 オヤジさんのような言葉を吐く。
 ガラス越し、ミキサーの前に座る渋谷恵美の顔を見ると、どこか不機嫌そうだ。
「どうした? 恵美りん?」
 恵美はブース内の麻衣子の方は向かずに、音響機器の手入れなんぞをしている。
『恵美ちゃん?』
 マイクをオンにして麻衣子は恵美に声を掛けるが、恵美は応答しない。
 麻衣子はけげんに思ってイスから立ち上がり、ラジオブースの扉を開けた。
 恵美はブースより出てきた麻衣子の姿をチラリと目だけで見て、そのまま自分の作業を続けている。
「恵美ちゃん、今日どうだった?」
「麻衣、」
 恵美が初めて口を開いた。
「ん?」
「放送の中で私の名前出さないって、あれほど念を押したよね」
「そうだっけ? 忘れちゃった……」
 麻衣子はわざとらしく舌を出す。
 恵美は話を続けようとする、
「今度私の…」
「だって恵美ちゃんもこのラジオ番組作ってるじゃん!」
 麻衣子は恵美の言葉にかぶせて自分の主張を大きな声で伝えようとする。
 その言葉を聞きながらも、恵美は不機嫌そうな様子を崩さない。
「だから恵美ちゃんの名前も、あたしは放送の中で出したいんだよ!!」
「今度私の名前出したら、しばらくここサボっちゃうからね」
 恵美ははじめて麻衣子の方を向いて、言葉を発した。
「……えーーー??」
「わかった!?」
「うーん、わかった……かもしんないね」
 恵美はしばらく間を置いたあと表情を崩し、「しかたないな」といった顔をする。
 恵美は気を取り直して、
「じゃあ明日の収録内容の打ち合わせしよっか」
 毎日繰り返している言葉を口にした。
「流す曲のリクエストは考えてきた?」
「うーーん……」
「麻衣、どうしたの?」
「ちょっと気分乗らないからさ、校舎ん中散歩してきていい? ちょっとだけ!!」
「いいけど……そんなに長くはダメだよ。私帰っちゃうよ」
「わかった! ちょっと行ってくる」
 麻衣子は放送室を小走りで出て行った。
 ひとり残される恵美。
「しかたない……今日も一人で構成考えますか…」
 恵美は意外にこの時間が好きであった。
 たぶん麻衣子は、明日の収録内容のことなど考えたくないのだ。
 メンドーなのが……考えることが、大嫌いな性格なのだ、麻衣子は。
 恵美には、そういう麻衣子の性格にあこがれる部分もある。
 もちろん、「時には」という副詞が必ず付いてのことであるが。

 恵美は明日の放送における話題や、途中で流す音楽について考えをめぐらせた。
 恵美は毎日のこの時間が好きであった。
 たぶん麻衣子は恵美が探しに行くまでここには戻ってこない。
 麻衣子は恵美のことを待っている?のだ。
 自分で時間を区切ることも出来ないのだ、麻衣子は。
「でも……私がいなかったら……」
 麻衣子はどうなるのだろう。ときどき恵美はそう思う。
 麻衣子には成長して欲しい。
 別にすぐでなくていいから、ゆっくりでいいから。
 私は麻衣子の前から、いついなくなるか分からないのだ。


   *  *  *


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ONE EYES(18)

2010年01月18日 00時36分28秒 | 小説『ONE EYES』

第五章 再会(三)


『それでは、今日のサンライツセッティングの放送は、ここまで! みな様お付き合いありがとうございました!』
 ラジオから一瞬ノイズが流れ出す。その直後、
『みな様こんにちは! サンライツセッティングのお時間がやって参りました! 今日もこれからなん時間かみな様のお相手をいたします、今井麻衣子でございます』
 慎平と修が教室に入ってくる。
「みどりちゃんまたこのラジオ聴いてるんだ~?」
「よく飽きないよね」
「相変わらずBGMの選曲はいいよね~」
 慎平が軽口をたたく。
「DJは?」
 修が慎平に向かって言うと、二人は顔を見合わせて、ケタケタ笑い出した。
「最悪だよな~、このDJ!」
「なんだかなあ~」
「きっとまだ若いから、経験が伴ってないんだよ」
 みどりがフォローをする。
 見えない、会ったこともないこの番組のDJに、みどりはフォローを入れている。
『今日の最初のナンバーは、この曲。ミキサーの恵美ちゃんが今日持ってきて、もうサイコーなんです! みな様、ぜひ聴いてみてください』
 ラジオから軽快な音楽が流れ始める。
 それと同時に、教室内の空気が変わる。
 BGMひとつで、これだけその場の雰囲気って変わるものなのだな。みどりは思った。
「だから選ぶ音楽のセンスは、飛び抜けていいんだよな」
 慎平が述べると、
「そうそう」
 修が相槌を打つ。
「このたまに名前が出てくる、『恵美ちゃん』って人の選曲が、いいんでしょうね」
 みどりが言うと、
「そういうことになるな」
 慎平が結論付けた。
「それはそうと……慎平さんはいつ月謝を払っていただけるのかしら!」
「えっ?」
 みどりが慎平に前触れなく詰め寄る。
「俺ここの生徒じゃないもん! ただ修についてきてるだけだって」
「そんな子供みたいな言い訳が……!」
「だって俺が先生の授業受けてること一度でもあったか?」
 慎平は修に同意を求める。
「それは……ないな」
「それきったない……ズルイのぉ~」
「先生が月謝払えって? 言ってるの?」
「そういう訳じゃないけどぉー」
「じゃあいいじゃん」
「あたしの立場的に……見逃せないんですけど」
「もっとアバウトに、いい加減になったほうがいいよ、みどりちゃん」
「余計なお世話……しかも今、慎平さんにだけには言われたくありません」

 慎平と修は荷物を机の上に置いて、適当に並んでいる椅子に座った。
「修さんは、今度のコンクールには当然作品出しますよね?」
 修はみどりの質問には答えずに、あらぬ方向に顔を向けている。
「俺は出すよ」
「は?」
 出すと答えたのは慎平だ。
「意味が分からない。慎平さんが絵を描いてるとこ自体、私一度も見た事ないですよ」
「描けるよ」
「まー参加するのは自由ですけど」
「賞とるよ」
「『笑い』の笑ですか?」
「ちげーよ! 大賞とか、優秀作品賞とか」
「わかりました。頑張ってください。で、修さんは出品しますよね?」
「みどりちゃ~ん、」
 みどりは完全に慎平に対して無視の態勢。修は、なんだか困った顔をしている。
「修さん?」
「……みどりちゃん……」
 修がいまだあらぬ方向を見ながら、口だけボソッと呟いた。
「はい!?」
「愚痴っていいかな?」
「……え~と……いいですよ」ニコッ。
 みどりは作り笑いで修に応じる。
「何を描いていいのか、分からなくなっちゃったんだよう~!!」
「……はぁ、」ニコ。
 みどりはひたすらアルカイックスマイル。
「何でもいいじゃねえか、絵のモチーフなんて」
 慎平が話に割り込んでくる。
「よかねえよ。モチベーションが上がんない」
「そりゃモチーフが決まらないのが問題じゃなくて、お前の内面に問題があるんだ」
「へえ」
 みどりが意外そうな声を上げた。
「どした?」
「まともなコト言えるんですね、慎平さん。ちょっとびっくりしました」
「惚れた?」
「やっぱり馬鹿ですね」
 慎平、ズルッと大袈裟にコケる。
「慎平、一緒に絵のモチーフ……俺が描く気になるモノを探してくれないか」
 修は本気である。
「はあ?」
「頼む!!」
 修は慎平に両手を合わせて拝んでいる。


   *  *  *


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ONE EYES(17)

2009年12月21日 00時37分21秒 | 小説『ONE EYES』

第五章 再会(二)


 バタム!

 と大きな音を立てて、ピコタン絵画教室の扉が閉められた。
 二人の男達は、将と30分ほどアトリエで話した後、教室を立ち去った。
 将さんに、何の用件だったのかしら?
 みどりは将とあの二人の男の関係が気になって仕方ない。
 あまり良い感じはしない、と女の勘が言っている。
 将さんに訊いてみればいいのか。
 しかし、その勇気が出ない。
 みどりは、教室で将と二人になると、なぜか言葉が出てこなくなる。
 それは将がアトリエにこもって出てこなくなることも大きな原因なのだが、その原因は、みどりの内面にもあった。
 水原将……
 みどりにとって、将は不思議な、他の誰にも代替できない存在であった。
 みどりにはよくわからないのだが、将には、絵の才能がケタ外れにあるらしい。教室の先生も、「将君には敵わない」と言ったことがあるほどだ。
 でも将は、性格的にははっきり言って変わり者だった。
 教室にいても、誰とも話さない事が何日も続いたかと思えば、何かの拍子に、たがが外れたように、興奮して一時間くらい喋くりまくることもある。
 みなの前で、脈絡のない感情の爆発をさせる事も幾度となくあった。
 だから、みどりも含めたピコタン絵画教室の生徒達は、将と距離をおいて接していた。
 「触らぬ神に崇りなし」的な空気が確かにあったと思う。

 しかし、みどりは勇気を出して、アトリエのドアをふすまを開いた。
「将さん……」
 消え入るような声で、将に話し掛ける。
 案の定、将の耳にその声は届いていないようだ。
 みどりに背を向けて、キャンバスと向き合って芸術と静かな格闘をしている。
「ねえ!」
 みどりが少しイライラして、少しだけ声を荒げた。すると、
「ん?」
 将はみどりの声掛けに気付いたようだった。みどりの方を振り向く。
「アッ……えーと……ね、さっき、男の人二人来てたよね」
「ああ、いたよ」
 焦って話しているみどりと対照的に、将の態度は冷静で、スキがない。
「将さんのお客さんだったの?」
「見てりゃわかるだろ?」
 少しイラつく将。その様子の変化を見てさらに慌てて、挙動不審になるみどり。
 将さんが相手だと、なんでこういう風になっちゃうんだろう。
「そうだけど、確認。だって、なんか感じ悪い人たちだったよ?」
「人を一目見ただけで判断するな」
「そうだけど……なんか大丈夫? 将さんの事が心配だよ」
「余計なお世話だ」
「そうだけど……」
 鼻の奥がツンとしてきた。目頭が熱くなる。
 あっ、泣きそうだ、私。
 こんなことで泣くもんか。
「もういいよ」
 みどりはそう言い残して、アトリエを出た。
 頭の中では、さっきの「紳士」男の声を聞いた時に感じた懐かしいような感覚と、ゴロツキ男への嫌悪感と、将があの二人と何を話していたのかという疑問がぐるぐる渦巻いていた。

 その時、

 ゴンゴン!

 教室の玄関のドアがノックされる音がした。
 たぶんこれは……
「こんにちは~」
「毎度~」
 修くんと慎平くんが来た。
 みどりの表情は、自然にパッと明るくなる。
 そのことを、本人は気付いていない。
 元気で明るい田中みどりちゃんが復活した。


   *  *  *


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ONE EYES(16)

2009年12月14日 00時59分28秒 | 小説『ONE EYES』

第5章 再会(1)


 空の上の雲は飽きもせず、雨を落としてくる。
 サーーー……と雨音のノイズが絶え間なく聞こえている。
 ラジオから流れているのは、耳に心地よいナンバー。
 田中みどりは窓を閉め、ラジオの正面にある椅子に腰を下ろした。
 すると音楽が止み、いつものやかましいDJが言葉を並べ立てる。
 あぁ、今いい感じだったのになあ。
 みどりはさっきまで流れていた音楽が、頭の中でこのDJのやかましい口調に押し流されるのを惜しんでいた。
 このラジオ番組の題名は、『サンライツ・セッティング』。
 DJの名前は、今井麻衣子。あくまで自称、ではあるが。
 今聴いているこれに関して、分かっていることはそれだけしかない。
 電波の周波数は、どのラジオ局にも当てはまらない。ミニFM放送局ってやつだろうか。
 謎だらけ、である。
 けれどみどりは、ピコタンにいる間はいつもこの放送を聴いている。
 その理由は、この番組で流れる、音楽の選曲が素晴らしいからである。
 時々、みどりが聞いたことのある曲も流すが、基本的にはあまり世間で知られていないナンバーが多い。
 それが、いちいちセンスのいい、素敵な曲ばかりなのである。
 だから、みどりはこの番組のファンになったのだ。
 ただし、曲と曲の合間、この今井麻衣子というDJのお喋りになると、はいはい、という気分になる。
 もっと頑張んなさい、というのか、保護者になった気分、というのか、迷いなく突っ走る今井麻衣子の暴走に、もし隣にこの子がいたら優しく諭してあげたい気持ちになるのである。
 しかし決してプロの仕事ではないが、この今井麻衣子の話を聞いていると、なぜか微笑ましい気分になってくる。
 これも「魅力」というものの一つの形かもしれない。
 そんな風に感じながら、みどりはこの放送を聴いていた。
 早く梅雨が終わるといいのにね。

 ピンポーン

 玄関のチャイムが鳴った。
 何かしら?
 みどりはぱたぱたと玄関に向かう。先生と愛奈さんは外に出掛けている。今、ピコタン絵画教室にいるのは、みどりと、アトリエにいる水原将だけである。
 みどりがドアのノブに手を掛ける前に、戸が開いた。

 ガチャッ

「失礼するぜい」
 中肉中背の、みどりと同じか、少し若いくらいの男が扉の隙間から顔を出した。
「はい、ご用件は?」
 男は柄の悪い、言ってしまえばゴロツキのような風貌であった。みどりは少しひるんだが、責任というものがある、毅然と対処する。
「こちらに水原君という男はいるかな?」
 そう言ったのはゴロツキ男ではなかった。どうやらその後にもうひとり男がいるらしい。落ち着いた感じの物言いで、少しみどりは緊張を解いた。
「水原将さんなら、奥にいますが、どんなご用件ですか?」
「いればいいんだよう!」
 ゴロツキ男が大きく扉を開けて、中にヅカヅカと入ってきた。
「ちょっとっ!」
「すまんな、失礼する」
 そう言いながら入ってきたもう一人の男は、かなり大柄である。体格もがっちりしている。
 フランケンみたい……
 みどりは瞬間的にそう思ったが、その男は、帽子とサングラスをしていて素顔がよく見えない。
「あのっ、困ります!」
「うるっせーなあ!」
 ゴロツキからは、あまり恐怖を感じなくなっていた。ただ嫌悪感だけがある。
「長居はしませんから、心配なさらずに」
 大柄な男の発する言葉は紳士である。
 それを聞いた瞬間、みどりの中でデジャヴのような、以前感じたことのある感覚が思い起こされた。
 いつの事だろう。思い出せない。記憶に霧がかかっているように、はっきりとしない。

 二人の男はドカドカと奥に進んでいき、そのまま将のいるアトリエに入ってしばらく出てこない。
 中から話す声が聞こえるが、内容までは聞き取れない。



   *  *  *



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ONE EYES(15)

2009年06月22日 09時40分22秒 | 小説『ONE EYES』

第4章 え?親友ってヤツ。(6)


「あっ、この曲いいね」
 みどりが言った。
 ラジオから聞こえてくる曲。何という曲なのか、曲名は分からないが良い曲だということは分かる。旋律が、和音が、音色が、それぞれの耳に気持ち良く響いてくる。
「いいですねえ」
 皆神がみどりに同意した。
「確かにね」
 慎平がちょっとはにかみながら認めた。
「なっ、修!」
「慎話し掛けるなよ。今聴いてるんだから」
「あっうるさかった?」
 修は無言。
 本気で聴き入っているらしい。
「わかーりましたよう。静かにしてよっと」
 慎平は近くにあった椅子に腰掛けた。
 ラジオから流れる音楽が部屋の中を流れ、空間を満たす。贅沢な時間が過ぎていった。
 そこに居たのは、慎平、修、みどり、将、皆神、あと先生も部屋にいた。
 みんな黙って、スピーカーから流れ出す音楽を聴いている。
『さーてみなさんお元気ですかあ~~~ッ!!?? “サンライツ・セッティング”、今日はこれが最後の曲になります。曲はSPIRAL LIFEで、『PHOTOGRAPH』。ではみなさん、さようならあ~~~っ!!!』
 落ち着いていた空気を切り裂く甲高い声。騒がしい口調。
「なんだこの女?」
 と将。
「この人DJなの?」
 みどり。
「うるせー声」
 慎平。
「ちょっと待った……この声どこかで聞いたことあるような……」
「修まさかとは思うけど知り合いなのか?」
 慎平が修の言葉を咎める。
「いや違う……と思う。よく分かんないや。記憶整理しないと……」
 修は頭を抱えている。

 ソシテ、『PHOTOGRAPH』。……リードギターによるイントロが流れてきた。
「あっ、これもいいな……」
 修が、今悩んでいた事もすっかり忘れて、思わず呟いた。
「わあ……」
 みどりが感嘆の声を上げる。
「SPIRAL LIFEって、聞いた事あるよ、俺」
 将が博学?の面を垣間見せる。

 ……
『leave in photograph』
 ……
『そっとひもとじる 君のフォトグラフ』
 ……

「いい歌だね」
 みどりが口にした。
 重厚な演奏に、半透明の歌声。とても美しく、存在感がある。
「神の歌です。これは」
 皆神が大袈裟な事を言う。
「確かにいい歌だ。これは」
 将が珍しく素直な気持ちを述べた。
「俺はさっき一瞬出てきた、女の子の甲高い声が耳に残って、素直にこの曲を聴けねー」
 慎平はこの曲について、今はあまり感じるところはないようだ。
「お前そりゃないよ。こんなに名曲なのに」
 修が慎平を諭すが、慎平は素知らぬ顔で、
「これくらいの曲、ちょっと探せばあるんじゃないの?」
 と言う。するとみどりが、
「でもね、今日慎平君がここに来て、私たち5人で、あっごめんなさい、先生入れたら6人でしたね……」
 先生は、いいよ、続けなさい、とみどりに言う。
「はい……私たちがここにいて、この曲を聴いた。これって……何ていうの?うまく言えないんだけど、運命……とも違う、この場所で、このメンバーでしか出来なかった事っていうか、うまく私の言ってること伝わってるかしら、何ていうか、すごく特別な事なんじゃないかって、思うの」
 みどりは言い切った後、ハアハアいっている。
「毎日は特別だし、当たり前でもあるんだよ」
 将がサラッと言ってのけた。
「将さん、つまんないまとめ方しないで!」
 みどりがグーを将の頭の上に振りかざした。

ONE EYES(14)

2009年06月09日 08時47分59秒 | 小説『ONE EYES』

第4章 え?親友ってヤツ。(5)


「それ何なの?」
 慎平はみどりに訊ねたが、みどりは聞こえていないのか、返答しない。
 チェッ
 慎平は小さく舌打ちした。
「もう向こう戻ろうか」
 修が言うと、慎平は
「うん、それでいいよ」
 何とも微妙な返事を返す。

「あれーーーっ!? 動かない」
 隣の部屋からみどりの「悲鳴」が聞こえてきた。
「どうした?」
 慎平と修は教室の部屋に入る。
「これが固くって。動かないの」
「はっ?」
「何が固いって?」
 みどりは赤いCDラジカセと格闘していた。
 机の上にラジカセを置き、電源も繋いであるようだがラジカセから音は出ていない。
 みどりはラジカセのヴォリュームというか、チューナー?をいじっているようだった。
 結構力が入っている。
「そんな力入れたら、ツマミが折れちゃうよ、みどりちゃん」
 修が心配してみどりの元に歩み寄る。
 慎平も修の後に続く。
「これ? 袋の中身」
「えっ、袋?」
 みどりは現在必死であって、慎平の問の意味を解さない。
「まあいいや」
 ラジカセの置いてある机の上、ラジカセの傍らには、さっきの買い物袋が丁寧に畳んで置いてあった。
「何が動かないって?」
「だからこのツマミなのよ。固くって、普通スッスッ……って簡単に動くものでしょう?」
「あぁ選曲のツマミね。これが動かないの?」
「そう」
「貸して」
 慎平はみどりからポジションを受け渡して貰い、問題のツマミをいじり始めた。

 ……

「何だこりゃ!? 全く固まってて動かねえー」
「でしょう?」
「ほんとかよ」
 修は慎平からラジカセを奪い取っていじり始める。
「ロックのボタンとか有るんじゃなくて?」
「ああなるほど」
「それは思い付かなかった……けどラジカセだぞ、ウォークマンじゃなくて。ロックなんてあるのか?」

 …………

「だめだ、どうにもならない」
 長い事悪戦苦闘した、修もお手上げの様子。
「初期不良ってやつじゃないですか? 買った店に持って行ったらどうでしょう」
 今まで黙って事の成り行きを見守っていた、この絵画教室最年長、皆神祐樹が初めて発言をした。
「ええーーっ めんどくさいなあ」
 みどりはウンザリ、といった表情。
「こんなん客に売るなよなあ、修」
「まあねえ……でもこういう事もあるよ」
「まあそうだけどさあ……」

 その時急に、水原将が横から入ってきて、ラジカセの電源ボタンを入れた。ラジカセのスピーカーから、音楽が流れ始めた。
「音なるじゃないか」
 その時のラジカセは、FMラジオのモードであった。

   *  *  *

 一応母の近況を伝えておきます。
 今のところ小康状態です。
 医師の話では、「いいデータもあり、悪いデータもある」とのこと。
 看護師は「集中治療室に最初入ってきた時に比べたら、大分良くなっています」とおっしゃっていました。
 どちらにしろ、予断は許さない状況。
 僕はひたすら母の傍で、祈ります。
 そして元気付けます。
 おっしょさんにも、迷惑だと思いましたが話を聞いて頂きました。
 とても参考になる事が聞けました。
 有り難いです。
 僕は1人ではありません。
 母も1人で戦ってるんじゃありません。そう信じたい。
 だから、もう一度笑って一緒の場所に居たいです。

ONE EYES(13)

2009年06月07日 01時48分30秒 | 小説『ONE EYES』

第4章 え?親友ってヤツ。(4)


「あぁマンガ?」
「そう」
「漫画は卒業した」
「ふうん」
「今はイラストとか漫画じゃなくて、ちゃんとした絵を描いてるんだ、ここで」
「……カッコイィ」
「はあ? 気持ち悪いよ」
 修は棚にビッシリ詰め込まれている絵画作品の角を弄くったり、脇を真っ直ぐ沿って撫で回したりした。
 照れてるな、と慎平は思った。
「ここにお前の描いた絵も有んだろ?」
 慎平が訊ねた。
「あるけどお前には見せねーよ」
「見せろ」
「嫌だ」
「はっ倒すぞ」
「……マジ? 怖っ」
「じゃあ見せろ」
「……そのうち見せてやるよ……そうだな、お前がここの生徒になったら」
「なあに言ってんだか。俺は今日1日だけの見学だぞ……あの将って奴みたいな事言いやがって」
「将さん? そんなことお前に?」
「ああ」
「あんまりイメージに無いな。どっちかというと人見知りする人だと思ってた」
「どこが」
「慎、将さんに気に入られたんじゃん?」
 慎平は両腕で自分の体を包んで大げさに震えた。
「気色悪っ。お前2度とそんな事言うなよ……あー寒気する」
「将さんそんな悪い人じゃないぞ」
「俺ん中のイメージじゃ最悪だから」
「あーそうなんだー」
「そうだよ」
 慎と将の間に何があったんだろうと、修は疑問に思う。
 その時、襖を『ボクボク』と叩く音がした。
「はあい」
 修が応えると、
「ちょっと入っていいですかあ?」
 みどりの声だ。
「いいっすよ、もちろん」
 応えたのは慎平。
「失礼しまーす」
 みどりが襖を開けて入ってきた。
「お話弾んでるようで。あっちにも結構聞こえてきてるんですけど」
「そうなん!? 恥ずっ!」
「別に聞かれて困るような話じゃないでしょ」
「そうかなあ」
「将さんの件(くだり)以外はね」
「ゲッ」
「ほら慎」
「まあ気にすること無いわよ。将さんなら気にしないと思うから」
「そうなのか? 滅茶苦茶根に持たれそうな気がするんだけど」
「こら慎平!」
 注意したのはみどりであった。
「まあとにかく……」
 みどりは部屋の片隅に置いてあった、大きめの買い物袋を手に取った。
「これを取りに来たの」
 慎平と修の2人はそれがなんなのか知りたいのだが、
「じゃあごゆっくりー」
 みどりは袋を持ったまま、隣の部屋に行ってしまう。
 なんとなく2人は取り残されたような感じ。

   *  *  *

 久々の『ONE EYES』になります。
 昼寝し過ぎたせいか、今の時間まで寝付けません。
 朝7時に起きる習慣を付けようと決心した矢先なのになあ。
 まあそのお陰で更新です。

 母は今のところ大きな山を越えた小康状態なのだそうです。
 起きると苦しい状態なので、薬で眠っています。
 母と話が出来るようになったらこれ以上なく嬉しいのですが。
 願いを祈り、それを信じる事にします。

 ではでは。

ONE EYES(12)

2009年04月19日 10時33分31秒 | 小説『ONE EYES』

第4章 え?親友ってヤツ。(3)


 その部屋にいた、ピコタン絵画教室の最年長者・皆神が口を挟んだ。
「お2人はお知り合いなんですか?」
 修が答える。
「……ええ、中学高校の同級生なんです」
「そうなんだ? すごい偶然だね」
 みどりが改めて驚きを表す。
「そうなんよ!」
 慎平が軽くおちゃらけながら答える。

 同じ部屋に居る、将は黙っていた。
 そして、修と慎平の2人は、部屋にいる間中、常に痛い視線を感じていた。

「じゃ。……先生、ありがとうございました。失礼します」
 修と慎平は、アトリエ、兼倉庫として使われている、隣の部屋に移る。
 修は襖を開けて、部屋に入った。
 そこには愛奈――先生の奥さん――がいる。
 慎平が続いて入ってきて、修は襖を閉める。
「聞こえたよー。親友ってやつ?」
 愛奈が、根っからの明るい笑顔で、2人の顔を交互に見ながら訊ねてくる。
「違いますよ」「そんなんじゃないっすよ」
 2人は同時に答えた。
「何言ってるかわからない」
 愛奈は、わははと笑いながら言った。
「まあ、腐れ縁ですね」
 修が改めて、2人を代表して答えた。
「腐れ縁、ね……あたしにもそんな友達何人かいたけど、結婚してから……もう随分連絡とってないなあ」
 愛奈の視線が宙に浮いた。
「そうなんですか」
 修が相槌をついた。
「あんたたち見てたら、会いたくなっちゃったよ、その子達に」
 その言葉を、慎平は珍しく黙って聞いていた。
「ここでゆっくり話しなさい。私はちょっと、買い物があるから」
「えっ愛奈さん、お気遣いなく」
 修は慌てたが、
「違うの、本当に今足りないものがあるの!」
 慎平は黙っている。
「じゃ、行ってくる」
「行ってらっしゃい……」
 修と慎平は、愛奈を見送った。
 襖が閉まる。
 部屋には修と慎平だけが残された。
 修の中には、慎平とあんまりの偶然で再会した驚きと、ちょっとの喜びが改めて脈打っていた。

「まだ同人誌書いてるん?」
 慎平が修に訊いた。

ONE EYES(11)

2009年04月14日 20時16分19秒 | 小説『ONE EYES』

第4章 え?親友ってヤツ。(2)


「修?」
 そいつも、俺と同じ様に素っ頓狂な声を上げていた。
 お互いが、まさかこんなところで会うとは夢にも思っていなかった。
 修が言った。
「シン……慎平?」
「えっ?」
 みどりが驚いて声を出した。
「修くん知り合いなの?」
「何でお前こんなところにいるんだよ?」
 修が慎平に訊ねた。その驚きが表情に満ちている。
「知るかよ。お前こそこんなところに何しに来てるんだよ?」
 慎平も動揺している。声が上擦る。
「俺は、ここの、生徒だもの」
 修も呂律が回らない。
「あぁそうか。俺は……説明すると長くなるんで」
「そうか。まあとにかく」
 修と慎平の目が、ニヤリと合った。
「「久し振りーっ!!」」
 修は下手から、慎平は上から、お互いの掌をバチンと合わせた。
 みどりは唖然として2人の様子を見るだけだった。

「慎平さん、修くんとも知り合いなの?」
 みどりが訊ねると、慎平は、
「まあねー♪」
 上機嫌である。
「修、聞きたい事は沢山ある!」
 慎平と修が話し込もうとすると……そこに、
「ん!ンンーーーっ!」
 ピコタン絵画教室唯一の先生、同時に愛奈さんの旦那さんが咳払いをした。
「しまった」
 今授業中だったんだ。興奮してキレイサッパリ頭に無かった。
 修は身の置き所の無い様子で、
「慎、悪い。話は後にしよ」
 言うと、慎平は
「わかった」
 直ぐに全部理解した。
 するとみどりが、
「先生すみませんでした。授業を続けてください」
 後を執り成す。
 しかし先生は、
「修くん、君は途中から来たし、授業の話が分からないかもしれない。今日は、その慎平くんと隣の部屋で話してきたらどうだい」
 仰ってくれた。
 修は先生の計らいに少し感動して、
「先生すみません。……ありがとうございます!」
「よかったね」
 そしてみどりが笑顔で修と慎平に言った。

 一方、傍らでは、無表情の水原将がその様子を眺めていた。

ONE EYES(10)

2009年04月10日 01時43分54秒 | 小説『ONE EYES』

第4章 え?親友ってヤツ。(1)


 市川修は、アパートの軒先に居た。
 結局今日も来てしまったのだ。それは毎日。休む事なく。
 修が腕時計を見ると、もう5時半だった。『授業』はとっくに始まっているだろう。

 アパートの屋根と、隣の建物の隙間から、空を見上げた。
 雨はもう止んでいる。
 でも空は、まだ固い雲に、覆われていた。

 そろそろ梅雨も明ける時期だよな。
 修は乾き始めた階段のステップの1つ1つを踏みしめ、アパートの2階に上がった。
 目的のドアの前に立ち、脇にある傘立てに、乾きかけた自分の傘を差し込む。
 あれ?今日はいやに本数が多いな。たくさん人が来てるのか。
 そして、ピコタン絵画教室の扉を開けた。

「こんにちはー。遅れてごめんなさーい」
「はーい!」
 奥から、明るい女性の声が返ってきた。
 この声の主はもちろん……

 奥の部屋から、20歳くらいの女性がパタパタと足音を立ててやってくる。
 修は玄関の中に入って靴を脱ぎ、置いてあるスリッパに履き替える。

 玄関の隣は、すぐ台所になっている。あまり掃除は行き届いていないようだ。
 流しとコンロ。
 ここで愛奈さんが料理の腕を振るってくれることもあった。

 いつも通り、脱いだ靴はいちおう揃えておく。
 あれ? ひーふーみー……6つ靴が並んでいる。いつもより1人多い。
 やっぱり誰かお客さんが来ているのだろうか。
 修はちらりとみどりちゃんの方を見た。
「将さんのお知り合いが来てるの」
「へえ、どんな人?」
「いい人よ。会ってみれば分かるわ」
 へえ……
 修は、そのお客に対して興味が出てきた。
 奥の部屋に続く短い廊下を進み、リビング――そこが教室になっている――に入る。
 部屋の中にはいつものメンバーだ。
 先生、みどりちゃん、将さん、皆神さん。……もう1人の愛奈さんは、隣の部屋――アトリエ――だろう。
 そしてもう1人、

「あれっ?」
 修は思わず声を上げていた。