読書日記

いろいろな本のレビュー

「中国問題」の内幕  

2008-03-03 21:11:17 | Weblog


「中国問題」の内幕  清水美和  ちくま新書 
本書は胡錦濤と江沢民前総書記率いる上海グループとの主導権争いなど普通の新聞・雑誌では書かれることの無い、まさに中国共産党の内幕を白日のもとに晒したものだ。清水氏は共産党政治局員の友人がいるのではと思うくらいだ。
 いま中国は経済格差、環境問題、拝金主義、民族問題等々深刻な問題を抱えている。これは共産党そのものが腐敗と貧富の差を生み出す元凶になっていることに起因すると言っても過言ではない。一党独裁の限界が露呈したものだ。都市の党幹部から地方の幹部に至るまで国家の資産を食い物にして恥じない体質はこの国を破滅に導く可能性があることを筆者は危惧する。
 共産党内部の権力闘争はいまに始まったことではないが、それにしても12億の人民を7人の政治局党務委員が支配する中でドラスチックに展開される権謀術数。中国が中国たる所以である。
 胡錦濤は農民出身で清華大学の共産主義青年団出身のたたき上げである。彼はこの共青団系の人脈を権力中枢に作りたい意向だが、これに対抗するのが太子党と言われる中華人民共和国建国に功績のあった革命家の子弟たちである。そして、もう一つは斜陽だが、江沢民前総書記ら経済的富裕層を味方につけた上海グループである。この三つ巴の戦いがしばらく続く。
 よって対日本の外交も日本と直接向き合った形で行われるのではなく、内部のせめぎあいの結果に左右されることになる。これが中国外交の難しいところだ。豊富な情報と適切な判断が要求される。日本のインテリジェンス能力が問われるのだ。





叡智の断片  池澤夏樹  集英社

2008-03-03 17:51:16 | Weblog

叡智の断片  池澤夏樹  集英社
 池澤氏は小説家の故福永武彦氏の息子で「スティルライフ」で芥川賞を獲得した。私は彼の熱心な読者ではなく、「ハワイ紀行」ぐらいしか読んだことがない。しかし、「世界文学全集」の個人編集者として新聞、雑誌に取り上げられているぐらいだから読者としても一流なのであろう。とにかく博識だ。
 本書は「月刊プレイボーイ」に連載されたコラムで、内容は多岐に渡っているが、数種類の「引用句辞典」(英語版)からの引用がモザイクのようにちりばめられているのが特徴。冒頭、筆者曰く「日本人は著名人の発言や小話の類を引用しない。なぜかと考えてみた。引用というのは自分の意見を飾るために叡智の断片を飾ることだから、意見を言わない国では使い道がない。日本人は好みは言っても意見は言わない。選挙演説でも意見は言わず、ひたすらお願いしますしか言わない。政策ではなく、人格を売り込んでいるみたい。云々」蓋し正鵠を射た意見である。
 自分の意見を飾るために叡智の断片を飾ることは、読者、聴衆を感動させるための基本的な技術であり、知的な営為である。読書に縁のない生活を送っている者には至難の技だ。そういう類の人間が演壇でスピーチをやると主婦の井戸端会議レベルのものになる。わかりやすいが中味が無いのだ。
 大学の学長の式辞は学問の府の代表だけあって「叡智の断片」で飾るのが普通だ。ところが、高校の場合校長の知的レベルはピンキリなので「叡智の断片」で飾れない者が多い。これはインテリは校長になれない、あるいは馬鹿馬鹿しいからならないという状況に起因する。高校にしろ義務制にしろ最近の教育界は知性・教養に対するニヒリズムが台頭しており、心ある教員は創造的無能を装って竹林の七賢人のごとく清談に耽っている。ところがこの七賢人はM教師(問題教師)として糾弾され、免許を取り上げられようとしている。七賢人を救え。