読書日記

いろいろな本のレビュー

京都 黒川 創 新潮社

2015-03-31 09:26:30 | Weblog
 京都は王城の地で、その歴史と伝統で多くの観光客を集め、文化都市の名をほしいままにしている。その伝統を支えているのが京都弁で、京都人はこれを誇りにしている。同じ関西人からしてもその独特のアクセントはまねがしずらい。まねがしずらいということは独創的ともいえるわけで、よそさんとは違うということを自らがよって立つ基盤にしているわけだ。京都に住んでいても下手な京都弁をしゃべっていたらバカにされそうだが、奥の深い京都人は表だって批判をすることはしない。それが京都の文化で、中に入るとお付き合いの面でいろいろと難しいことがあるのだろうと推測できる。
 本書は京都に住んでいる人々の日常を描いた短編小説が四編載せられている。京都の観光案内は多くあるが、これは京都人による裏の京都案内書だというのが、第一感。四編の題は1「深草稲荷御前町」2「吉田泉殿町の蓮池」3「吉祥院、久世橋付近」4「旧柳原町ドンツキ前」で、印象的なものが二つあった。それは1と4だ。1は在日の男が日本人の女と結婚して家庭を築こうとする話。4は京都の古地図から「小屋」という差別的な名称を消すように頼まれるで話で、被差別に関わる内容である。
 1が一番面白かったが、京都で必死に生きる庶民の日常をうまく切り取っている。作為が見え見えの部分もあるが、差別と偏見の中で生きる京都人というのをこのようなスタイルで描いたのは初めてではないかと思う。在日差別と差別は解決のために今まで真摯な取り組みが行なわれて来た。その運動方針をめぐるいざこざも多くあったが、京都はその運動の中心地でもあった。京都が観光都市という薄っぺらい側面だけで語られることに黒川氏は不満だったのだろう。差別と抑圧を跳ね返す意志を語る時の、登場人物たちの京都弁も大変魅力的である。力作と言って良いのではないか。