読書日記

いろいろな本のレビュー

十三億分の一の男 峯村健司 小学館

2015-04-26 09:14:40 | Weblog
 副題は「中国皇帝を巡る人類最大の権力闘争」で、「中国皇帝」とは中国共産党書記長のこと。現在習近平が就任しているが、皇帝と表現しているのは、その権力の強大さを物語るもので言い得て妙である。かつての王朝は皇帝の私有物で、その権力を握るために血みどろの戦いを繰り返してきた。そのドラスティックさは日本史の比ではない。13億人が一人の人間に支配されるというのはどれだけの全体主義国家かと思うが、現に中国共産党という装置がそれを可能にしている。
 冒頭アメリカのロサンジェルス郊外の中国人の愛人村のレポートがある。中国高官の愛人がアメリカで子どもを産んで市民権を取るために滞在している話。高官たちは汚職で手に入れた大金で愛人を高価な家に住まわせ、高級車を与えて贅沢な生活をさせている。年に1~2回訪れているようだが、将来自分の身に危険が迫ったとき、中国を脱出してアメリカへ逃げ込むためであるらしい。共産党は今や「為人民服務」ではなく「為自己繁栄」の利権団体に成り下がった観がある。その状況下での習近平主席である。
 次に習の娘がハーバード大学に入学して卒業したというレポートがある。在学中にインタビューを試みたが、失敗したいきさつが書かれている。敵国と言うか、ライバル関係にある国に自分の娘を留学させるというのは、人質を提供しているようなもので、戦国時代じゃあるまいし普通はやらないだろう。でも留学を認めた父習近平は基本的にアメリカが好きなのだろう。そうでないと説明がつかない。共産党の幹部が若くしてアメリカへ留学して箔をつけるというのが大きな流れになっているようだ。アメリカ敵視政策は見せかけだけで実は仲良く共存したいだけなのだろう。しかし共産主義を標榜している手前、ストレートにはいかないと言うのが実際の所だ。
 習近平は身の処し方がうまかったことで国家主席になったと書かれている。いくら頭が良くても、自分が出過ぎて組織をうまくまとめられない人間はだめだと書いてある。ぱっと見、シャープな感じはしないが、でっぷり肥って口数は少ないが押し出しも強くて、指導者として好まれるのだろう。習近平は江沢民に認められて出世の糸口をつかんだようだが、この無能な江とは一定距離を置いて行動してきた。江は上海閥の首領で利権を独占して、子分をたくさん作って来たが、今、習は「トラもハエも叩く」と言って、腐敗撲滅運動に邁進している。「運動」と言えるかどうかわからないが、とにかく民の声に耳を傾けようとしている。彼の愛読書は『荀子』らしい。性悪説を唱え、法で人間を縛って行かなければ社会は統治できないというやつである。『荀子』の思想は『韓非子』に継承されて行くので、彼の興味関心もいずれ『韓非子』に移り、厳しい法家思想に行きつくかも知れない。(閑話休題)
 前主席の胡錦濤は実は親日派で、そのラインの政策を進めたかったが、江沢民との確執の中で失敗に終わった。かつての尖閣問題に関わる反日デモは完璧に官制でデモで、デモ参加者は共産党に強制的に駆り出された人々だった。反日を煽って山積する国内問題から目をそらせようというわけだ。そんなことははじめからわかっていたが、日本のメディアははっきりそれを指摘しなかった。つい2,3日前インドネシアのバンドン会議で安部首相と習近平主席が会談した。いつまでも知らん顔じゃ利益がないと中国側が悟ったのだろう。裏には江沢民の影響力が無くなったことがあるだろう。
 13億の人民を養っていくことと共産党を存続させていくこと、どうバランスをとって舵をとって行くか、難しい問題である。