読書日記

いろいろな本のレビュー

北朝鮮とは何か(思想的考察) 小倉紀蔵 藤原書店

2015-06-01 10:04:25 | Weblog
 著者は韓国哲学の研究者であるが、最近は『新しい論語』(ちくま新書)なども発表してどんどん研究領域をひろげておられる。本書は北朝鮮についての論考だが、中国・韓国との外交戦略についても有益な意見を披歴している。
 結論から言うと、日本は一日も早く北朝鮮と国交回復すべきだということである。韓国は戦後独立を果たしたが、国の成り立ちから言うと、帝国・植民地主義の日本を反帝国主義の共産主義で打ち負かし建国した金日成の北朝鮮に正義があり、韓国はこの点で北朝鮮に負い目を感じている。従って韓国が日韓平和条約で解決したにも関わらず、未だに日本に戦後補償の面(慰安婦問題など)でクレームをつけてくるのは、北朝鮮の動向を見ているからで、日本と北朝鮮が国交回復して平和条約を結べば、韓国もこれにならって文句を言わなくなるという内容であった。朱子学の本場・韓国で修業した著者ならではの意見である。政府関係者は小倉氏を講師に招いてレクチャーを受けるべきだろう。
 氏は、中国・韓国・北朝鮮が平和国家日本に対する批判中傷をやめない理由は、この三国の建国事情に依るのだと言う。
 「まず、東北アジア三国は、大日本帝国の消滅後に、大日本帝国の打倒を国是として建設された国家である。従って、その国是がもし正当なものであるなら、すでに自国によって大日本帝国は打倒されたのだから(打倒されていないのであれば当該国家の正当性は崩壊する)、東アジアの太平洋上に浮かぶ列島は大日本帝国=日帝ではありえないはずだ。自分たちの打倒運動(抗日革命・抗日運動)によって大日本帝国が消滅したのでなくては、論理的な整合性が破綻する。だが他方で、大日本帝国が消滅してしまったなら、自分たちの国家の運動性はその使命を終えたことになってしまい、国家の正当性がここでも破綻してしまう。この矛盾を解決するために戦後の日本国にも、大日本帝国の残滓が濃厚に存在しているという認識が援用され、大日本帝国は打倒されたが、打倒日本帝国主義の運動は終わっていないというスローガンが可能になる。日本はこのことを十分理解しなければならない。」(以上要約)
 そして最初の植民地支配の謝罪問題についていうと、北朝鮮に謝罪して、過去の歴史問題の解決が進行すれば韓国側ももっと堂々と日本との歴史和解ができる筈だ。いずれにせよ、イニシアチブは日本にあると断言する。氏の力強い言葉に爽快感を覚えた。