読書日記

いろいろな本のレビュー

死にゆく人の心に寄りそう 玉置妙憂 光文社新書

2019-05-14 14:48:58 | Weblog
 玉置氏は現役の看護師であると同時に女性僧侶でもある人で、夫をがんで亡くしたあと、自分で法事をしたいと出家した。本書によると、夫は57歳のとき大腸がんと診断され手術、手術は成功したが3年後膵臓と胆管あたりへの転移が疑われて再手術、グレーな部分を大きく切り取る大手術だった。この再手術から2年後に亡くなった。夫はこの2年間は在宅で治療も入院も拒否して自分の好きなことをして死ぬという選択をした。彼女は看護師故、治療をしないことに対する葛藤は様々あったが受け入れて、夫の看取りをやり遂げた。その様子が克明に描かれていて、読む者の心を打つ。看護師として多くの患者の死を見てきた著者ではあるが、死の3カ月前からの死にゆく人の体と心に起こることの患者の描写はリアルだ。24時間前には、尿が出なくなり、目が半開きになり、涙が出る。そして顎を上下に動かした下顎呼吸になる。これは私も経験したことがあるので、父と義理の母の時を思い出した。この看取りの間、患者にどう対応すべきかをいろいろ書いてくれているので参考になる。高齢化時代の日本の生き方(死に方)の流儀がこれからは必要になってくるので、著者のような看護師で僧侶という人間が今後必要とされてくるだろう。高野山で真言宗の僧侶となるべく厳しい修行をされたようだが、医療と宗教のケアは先駆的な仕事になるのではないか。
 台湾では臨床宗教師という職業が市民権を得ていて、活動が盛んに行なわれているようだ。ただ台湾は宗教に対して非常に熱心で、敬虔な信者が多いので、日本も同じようにできるかどうかはわからないが、死にゆく人に対する心のケアは必要だ。死ぬ前に良い人生だったと思えるようにケアすることは並大抵ではないが、逆にいうとやりがいのある仕事でもある。今回、玉置氏が夫の看取りから、出家、そしてスピリチュアルケアに従事するという体験をされたことは、今後の終末医療に一筋の光明を灯してくれたと言えるだろう。南無大師遍照金剛。