読書日記

いろいろな本のレビュー

資本主義と民主主義の終焉 水野和夫・山口二郎 祥伝社新書

2019-08-06 09:35:28 | Weblog
 副題は「平成の政治と経済を読み解く」だ。水野氏は経済学者、山口氏は政治学者で共に旧民主党の政策ブレーンだったが、ご承知の通り民主党政権は三年であえなく倒れ、第二次安倍内閣の誕生を誘導してしまった。その後、安倍内閣はかつてない長期政権を謳歌している。逆に言えばあの時の民主党の不安定な政権運営が国民のトラウマとなって、野党弱体化の原因となっていることは確かだ。二人はその反省も込めて平成の三十年を総括している。
 まずは日米貿易摩擦がトピックとしてあげられるだろう。今米中貿易摩擦でトランプ大統領は中国の製品の関税をあげて貿易赤字を減らそうと躍起だが、かつての日本もアメリカから同じような経済戦争を仕掛けられた。特に日本車の売れ行きがアメリカで増え、逆にアメリカ車が日本で売れないという状況にアメリカの自動車産業から怒りが沸き起こった。しかし燃費が良くて性能の良い日本車が売れるのは当然のことで、それを無視した日本車反対運動は理不尽に見えたことは確かだ。その他、農産品等の貿易についても規制緩和を求められ、これが日米安保条約とセットで圧力をかけられたことで、当時の橋本総理は唯々諾々とアメリカの要求に屈してしまった。この流れが小泉総理で仕上げの段階に入って、さらなる規制緩和が国内外に浸透した。郵政民営化はその象徴であろう。自治労に牛耳られていた郵政を民営化したのはいいが、今度は逆に郵便局員を過重なノルマで縛るブラック企業になってしまった感は否めない(カンポ生命の違法契約問題を見よ)。そしてアメリカの新自由主義の影響で、それにかぶれた政府お抱えの経済学者が、規制を取っ払ってお金の流れを自由にしようと企んだ結果、格差が生まれ、非正規雇用が増大した。銀行も競争にさらされつぶれたものも多かった。アメリカ流の自己責任論が喧伝されたのもこのころである。たまたまの勝利者が自分の人生を反省することもなく厚顔無恥な言説を垂れ流していたのも昨日のことのように思い出す。腹立たしいかぎりだ。
 その後、民主党が政権を担うことになったが、そのやり方は余りにも稚拙であった。鳩山首相は沖縄の基地移転問題について、「少なくとも県外」と述べて大いに期待されたが、結局実現しなかった。山口氏によると、思いつきで発言していたとのこと。その辺のことは最重要課題なのだから、政権幹部による意思統一が必要だった。その後、管内閣になったが、東北大震災が起こり、その対応で右往左往してしまった。山口氏は、菅首相について、思いつきで発言し、政策についてきちんとした見識を持っていない政治家で、官僚の操り人形であったと批判している。そして野田首相になるが、私は彼が尖閣諸島の国有化をしたのが大きなミスであったと思っている。あの時は石原東京都知事が都有化すると息巻いていたので、それなら国有化したほうがましだという判断だったのだろうが、案の定中国側の怒りを買ってしまった。その後の日中対立は激化の一途をたどった。
 そして野田首相の大罪は、安倍自民党総裁と党首討論で、議員定数削減、議員歳費削減と引き換えに解散を約束してしまったことだ。私はこの討論をテレビで見ていたが、解散を迫る安倍総裁に、「やりましょうよ」と野田首相が言い、「いいんですね」安倍総裁がと念を押す映像が印象的だった。明らかに拙速だと思われるやり取りであった。山口氏曰く、野田首相が党首討論でいきなり解散を持ちだしたのは、おそらく「救国の宰相」と後世に名を残したいため、くだけた言葉で言えば「ええかっこしい」です。しかし、政権保持という大目標を見失った暴走と言わざるをえません。鳩山首相の沖縄基地問題に関する暴走で始まった民主党政権は、暴走で終焉という、なんとも皮肉な結末でしたと。
 そして安倍現政権である。ポスト安倍は誰かという問題、世界一の借金国の実情、AIと労働者問題、日米安保、官僚機構崩壊、少子高齢化、民主主義劣化の問題等最後にわかりやすくまとめてくれている。今後の日本の進み方を示唆する好著だと思う。