副題は「アメリカはなぜユダヤ国家を支援するのか」。イスラエルとハマスの戦いは終わりが見えない。バイデン大統領はイスラエルに戦闘の中止を働きかけるが、ネタニヤフ首相は聞く耳を持たない風を装っている。これだけアメリカに傲慢な態度を取れるのはなぜかという疑問がわくが、それを説いたのが本書である。アメリカは世俗国家という感じで捉えられているが、実はキリスト教の支配する宗教国家であるということを押さえておくべきである。大統領の就任式の宣誓を見ればわかるように神に誓っているのだ。このような中でユダヤ人の聖地帰還・建国運動であるシオニズムを、聖書の解釈(神学)に基づいて支援するキリスト教徒の運動を「キリスト教シオニズム」というが、それを担う「キリスト教シオニスト」が積極的にかかわって、イスラエル建国に貢献した。これが今のアメリカとイスラエルの「特別な関係」「聖書の同盟」を支えていると著者は言う。
この両者の「特別な関係」を支える主な要素を著者は5つ挙げている。① 「聖地、聖書の民への親近感」②「建国神話・物語の類似性」③「前千年王国終末論の黙示思想」④「イスラエル(ユダヤ)ロビー」⑤「反ユダヤ主義・ホロコーストの罪悪感」。それぞれについて著者の簡潔な説明があるので、詳しくはそれを見ていただきたいが、④について、「アメリカ・イスラエル広報委員会(AIPAC)」が有名だが、ロビーの政治的影響力は誇張される傾向があるとのこと。ユダヤ系アメリカ人は現在人口の2%を切っており、投票では親イスラエルのキリスト教徒の方が多く、ユダヤ系大富豪の政治献金がものをいうとある。因みに2007年に出版された『イスラエルロビーとアメリカの外交政策Ⅰ・Ⅱ』(ジョンJミアシャイマー スティーヴンMウオルト 講談社)はこれについて詳細な報告があり、親ユダヤ・イスラエルのロビー団体が、アメリカ社会で影響力を発揮するのを容易にする環境を作った経緯を知ることができる好著である。
本書はイスラエル建国以後の両国の関係とアメリカのキリスト教の歴史を通時的にわかりやすくまとめたものだが、その中でキリスト教福音派(原理主義)の進化論裁判の話題が面白った。裁判の発端は、1925年ごろ南部テネシー州議会が進化論を公立校で教えることを禁じる州法を成立させたことだった。米市民自由連合(ACLU)は州法で訴追された被告人を弁護して争う機会を探していて、小都市デイトンの若い生物教師ジョン・スコースプがACLUの説得に応じて進化論を教え、逮捕された。この裁判で検察側の証人に立ったのが元国務長官のウイリアム・ジェニングス・ブライアンであった。結局裁判は原理主義派が勝利したが、ブライアンは被告側の弁護士に天地創造説の矛盾を鋭く突かれ、四苦八苦する様子がラジオで全米に中継され新聞紙上で笑いものにされ、メディアから「無教養」「時代遅れ」の烙印を押されてしまった。ブライアンは名誉挽回の機会をうかがっていたが、裁判の5日ご急死した。このブライアンが原理主義に接近したのは、世界大戦のすさまじい破壊で、楽観的な世界観が崩壊したからで、リベラル神学による世俗化、キリスト教倫理の喪失が危機をもたらしたと考えた。そして大戦の原因とされたドイツの軍国主義は社会進化論(社会的ダーウイニズム=ダーウインの自然選択と適者生存の概念を社会や歴史に応用した思想)の影響であるとみて、社会的ダーウイニズムを敵と考えた。著者は、これはヒトラーのナチスが社会進化論の優生思想にによる障碍者の「安楽死」殺人からホロコーストへ進んだ歴史を考えると鋭い問題意識であった評価している。適者生存の社会思想は、敵対心や闘争心を煽り、弱者への同情や共感を消し去ってしまうという側面を持つということだろう。
競争社会で切磋琢磨して発展することが善だという思想には著者のいうようにリスクが伴うことも確かだ。競争はごめんだという人にも住み心地の良い社会を担保することも必要だと思う。アメリカは自己責任の国で、チャンスをつかめば夢を実現できると言われているが、成功する人の割合は非常に低い。アメリカの大リーグを見ればわかるように、大谷のように活躍できる人間はごくわずかだ。その中で生きる糧を求めて神の加護を求めるメンタリティーは理解できる。アメリカにおいてキリスト教の諸派が依然として力を持っている所以だ。
この両者の「特別な関係」を支える主な要素を著者は5つ挙げている。① 「聖地、聖書の民への親近感」②「建国神話・物語の類似性」③「前千年王国終末論の黙示思想」④「イスラエル(ユダヤ)ロビー」⑤「反ユダヤ主義・ホロコーストの罪悪感」。それぞれについて著者の簡潔な説明があるので、詳しくはそれを見ていただきたいが、④について、「アメリカ・イスラエル広報委員会(AIPAC)」が有名だが、ロビーの政治的影響力は誇張される傾向があるとのこと。ユダヤ系アメリカ人は現在人口の2%を切っており、投票では親イスラエルのキリスト教徒の方が多く、ユダヤ系大富豪の政治献金がものをいうとある。因みに2007年に出版された『イスラエルロビーとアメリカの外交政策Ⅰ・Ⅱ』(ジョンJミアシャイマー スティーヴンMウオルト 講談社)はこれについて詳細な報告があり、親ユダヤ・イスラエルのロビー団体が、アメリカ社会で影響力を発揮するのを容易にする環境を作った経緯を知ることができる好著である。
本書はイスラエル建国以後の両国の関係とアメリカのキリスト教の歴史を通時的にわかりやすくまとめたものだが、その中でキリスト教福音派(原理主義)の進化論裁判の話題が面白った。裁判の発端は、1925年ごろ南部テネシー州議会が進化論を公立校で教えることを禁じる州法を成立させたことだった。米市民自由連合(ACLU)は州法で訴追された被告人を弁護して争う機会を探していて、小都市デイトンの若い生物教師ジョン・スコースプがACLUの説得に応じて進化論を教え、逮捕された。この裁判で検察側の証人に立ったのが元国務長官のウイリアム・ジェニングス・ブライアンであった。結局裁判は原理主義派が勝利したが、ブライアンは被告側の弁護士に天地創造説の矛盾を鋭く突かれ、四苦八苦する様子がラジオで全米に中継され新聞紙上で笑いものにされ、メディアから「無教養」「時代遅れ」の烙印を押されてしまった。ブライアンは名誉挽回の機会をうかがっていたが、裁判の5日ご急死した。このブライアンが原理主義に接近したのは、世界大戦のすさまじい破壊で、楽観的な世界観が崩壊したからで、リベラル神学による世俗化、キリスト教倫理の喪失が危機をもたらしたと考えた。そして大戦の原因とされたドイツの軍国主義は社会進化論(社会的ダーウイニズム=ダーウインの自然選択と適者生存の概念を社会や歴史に応用した思想)の影響であるとみて、社会的ダーウイニズムを敵と考えた。著者は、これはヒトラーのナチスが社会進化論の優生思想にによる障碍者の「安楽死」殺人からホロコーストへ進んだ歴史を考えると鋭い問題意識であった評価している。適者生存の社会思想は、敵対心や闘争心を煽り、弱者への同情や共感を消し去ってしまうという側面を持つということだろう。
競争社会で切磋琢磨して発展することが善だという思想には著者のいうようにリスクが伴うことも確かだ。競争はごめんだという人にも住み心地の良い社会を担保することも必要だと思う。アメリカは自己責任の国で、チャンスをつかめば夢を実現できると言われているが、成功する人の割合は非常に低い。アメリカの大リーグを見ればわかるように、大谷のように活躍できる人間はごくわずかだ。その中で生きる糧を求めて神の加護を求めるメンタリティーは理解できる。アメリカにおいてキリスト教の諸派が依然として力を持っている所以だ。