漢詩を読んで楽しんでいる人はどれぐらいいるのだろうか。本書はそういう人を対象にして書かれたもの。作詩の作法ではなく、主題の設定から題材の選び方についての作法を述べたもの。冒頭には、漢詩の作り手が政治家であったため、漢詩が政治的抒情を表現する手段になっていたこと、科挙の制度がそれを発展させたこと等々、漢詩の歴史が簡潔にまとめられている。そして漢詩のテーマに移って、まず「送別」と「留別」の違いを説いて曰く、送別の詩は、送る者が作って、送られる者に手渡す詩であり、留別の詩は、送られる者が作って、送る者に手渡す詩である。現存する詩の作品数についていえば、送別詩が留別詩の数倍に達する。これは送別の宴席において、見送る側にいる大勢がこぞって送別の詩を作る時に、送られる者は、ただ一首の留別の詩を作るという送別の場の一般的な情況の反映である。このため離別の詩という場合、多くは送別の詩を指すことになると。明快な説明である。今まで離別の詩と言えば、送別詩のことだとばかり思っていたが、留別詩もあったとは。実際、この二つの詩題の作品を挙げて説明してくれている。そして留別詩について、「一度の送別の宴で複数の者が足並みを揃えて作る送別詩とは異なって、留別詩は、旅立ちの不安を自ら引き受ける当事者の作であるだけに真情のこもった作品であることが多い」と述べておられる。
今年たまたま、新潟大学の入試問題を見る機会があったが、晩唐の詩人、韋応物の留別詩が出題されていた。親友を洛陽に残して、自分は長安へと旅立つ寂しさをうたったものだが、確かに「旅立ちの不安を自ら引き受ける」内容であった。また離別に因んでいうと、別れに柳のしだれる枝を折って環に結び、旅立つ人に贈ることを「折楊柳」と呼ぶのだが、「柳」は「留」と同音で、旅人に留まって欲しいという意味が込められていること、枝を環に結ぶのは、「環(わ)」が「還(かえる)」に通じていると、第三章「漢詩のイメージ」で説明があるが、非常に興味深い。これ以外にも漢詩に出てくるいろんな語の説明に蘊蓄が傾けられていて、飽きさせない。漢詩愛好家必読の書である。
今年たまたま、新潟大学の入試問題を見る機会があったが、晩唐の詩人、韋応物の留別詩が出題されていた。親友を洛陽に残して、自分は長安へと旅立つ寂しさをうたったものだが、確かに「旅立ちの不安を自ら引き受ける」内容であった。また離別に因んでいうと、別れに柳のしだれる枝を折って環に結び、旅立つ人に贈ることを「折楊柳」と呼ぶのだが、「柳」は「留」と同音で、旅人に留まって欲しいという意味が込められていること、枝を環に結ぶのは、「環(わ)」が「還(かえる)」に通じていると、第三章「漢詩のイメージ」で説明があるが、非常に興味深い。これ以外にも漢詩に出てくるいろんな語の説明に蘊蓄が傾けられていて、飽きさせない。漢詩愛好家必読の書である。