問題の在処(24)
4月になった。自分の収入の土台として、ある雑誌社で働いている。主に有名人の私生活に張り付き、それを扇情的に書き立てて売上につなげるようなタイプのものだ。それを人生最大の目的として働いている訳でもなく、なにかのステップに役立てれば良いと考えていた。
その頃には、明日香もきちんとした定期的なドラマに出るようになっていた。その所為もあって、二人の会う時間は自然と減っていった。それは互いの望むことが実現した結果でもあった。それでも、休日があえば、誰よりもぼくらは楽しく過ごすことが出来た。
ぼくは通勤の途中に本を読む。熱心に読んでいたが、たまには中吊り広告が視線のはしに入る。自分のいる部署はそれらの全面を扱っている。売れ行きが良いこともあれば、それなりの時もあった。だが、自分のこころが満足して充足した気持ちになるということは少なかった。まったくなければ、転職のことも念頭に浮かぶが、文章に関わっていれば、そこそこには楽しくなれた。しかし、自分の表現したいものは別にあった。だが、そのスペースを与えられるのは、ほんの一握りの人間だけだろう。
22歳の自分は大したことを経験しているわけでもなかった。急激な天変地異にあって、それを通過したこともなかった。ただ、普通の繁栄した国の片隅にうまれ、普通の経験をしただけだということにも、自分自身で気づいていた。
それでも、そう厭世した気持ちでいられ続けるほど年老いてもいなかった。まだ、若かったし横には美しい女性がいた。
彼女は、髪型をすこし替えた。洋服の着方も洗練されていった。もちろん、交有関係も広がった。基本的に自分の領土を広げたがらない自分は、ときおり彼女を遠く感じはじめるときもあった。しかし、それで直ぐ関係がいびつになるということも今のところはなかった。
自分の仕事は受け取った写真に、状況を付け足し肉付けしていくようなものだった。何度も書き直しては、なんども修正された。だが、ほんとにその文章を求めている人間など地上には誰もいなかった。ただ、注意をひく写真を見たいだけの不特定多数の存在を感じるだけだった。
学生時代にシナリオを書いて渡していた人間とは縁が切れた。彼が、その後どうなったかまでは知らない。そして、どうでもよい垂れ流しの内容が後世に残ることも考えづらかった。
だが、自分はどうにかものになる人間になれてもよさそうな感じがこころのどこかに残っていた。それを、いつ捨てるかのタイミングも考えないといけない。捨てきれないで、一生、その思いと付き合うことも怖いと感じていた。
普段は、そんなことを素振りにも出さなかった自分だが、明日香は、ぼくが楽しそうもない顔をすると、自分のことのように、
「好きなことをして生きた方が良い」と言った。
堅実な面の多い彼女から、このような言葉をきくと不思議な気もしたが、一方では、その考え方は当然でまっとうなことでもあると納得した。
家に帰ってまで文章を求める作業はしなくなっていた。ある日、片思いの気持ちがなくなってしまったように、ぼくからするりとそれは抜けた。ただ、一時のことだとは思っていたが、本当はそうでもなかったようだ。自分のあるべき才能の耐用年度は、意外にも短かった。そのことに気付くのは、もう少し後のことだったが。
能力が消えてしまえば、あとは自分の糧を求めたり、追い越したり、追い付いたり作業に生きることのみが残った。それを自分はそこそこにやっているだけだった。
しかし、会社の仕事とは別に、以前に知り合った男性からタレントのゴーストライターを頼まれた。金銭に困っていたわけではないが、一冊ぐらいは、その作業にも手を染めてもよいかと深く考えずにのってしまった。ある現金が手に入り、自分は名乗る権利を失う。
そのような状況であったので、ぼくの口座にはその年代からすると、いくらか多い残高があった。なんのために増えているのか分からないまま、ぼくの日常は過ぎていくことになった。
4月になった。自分の収入の土台として、ある雑誌社で働いている。主に有名人の私生活に張り付き、それを扇情的に書き立てて売上につなげるようなタイプのものだ。それを人生最大の目的として働いている訳でもなく、なにかのステップに役立てれば良いと考えていた。
その頃には、明日香もきちんとした定期的なドラマに出るようになっていた。その所為もあって、二人の会う時間は自然と減っていった。それは互いの望むことが実現した結果でもあった。それでも、休日があえば、誰よりもぼくらは楽しく過ごすことが出来た。
ぼくは通勤の途中に本を読む。熱心に読んでいたが、たまには中吊り広告が視線のはしに入る。自分のいる部署はそれらの全面を扱っている。売れ行きが良いこともあれば、それなりの時もあった。だが、自分のこころが満足して充足した気持ちになるということは少なかった。まったくなければ、転職のことも念頭に浮かぶが、文章に関わっていれば、そこそこには楽しくなれた。しかし、自分の表現したいものは別にあった。だが、そのスペースを与えられるのは、ほんの一握りの人間だけだろう。
22歳の自分は大したことを経験しているわけでもなかった。急激な天変地異にあって、それを通過したこともなかった。ただ、普通の繁栄した国の片隅にうまれ、普通の経験をしただけだということにも、自分自身で気づいていた。
それでも、そう厭世した気持ちでいられ続けるほど年老いてもいなかった。まだ、若かったし横には美しい女性がいた。
彼女は、髪型をすこし替えた。洋服の着方も洗練されていった。もちろん、交有関係も広がった。基本的に自分の領土を広げたがらない自分は、ときおり彼女を遠く感じはじめるときもあった。しかし、それで直ぐ関係がいびつになるということも今のところはなかった。
自分の仕事は受け取った写真に、状況を付け足し肉付けしていくようなものだった。何度も書き直しては、なんども修正された。だが、ほんとにその文章を求めている人間など地上には誰もいなかった。ただ、注意をひく写真を見たいだけの不特定多数の存在を感じるだけだった。
学生時代にシナリオを書いて渡していた人間とは縁が切れた。彼が、その後どうなったかまでは知らない。そして、どうでもよい垂れ流しの内容が後世に残ることも考えづらかった。
だが、自分はどうにかものになる人間になれてもよさそうな感じがこころのどこかに残っていた。それを、いつ捨てるかのタイミングも考えないといけない。捨てきれないで、一生、その思いと付き合うことも怖いと感じていた。
普段は、そんなことを素振りにも出さなかった自分だが、明日香は、ぼくが楽しそうもない顔をすると、自分のことのように、
「好きなことをして生きた方が良い」と言った。
堅実な面の多い彼女から、このような言葉をきくと不思議な気もしたが、一方では、その考え方は当然でまっとうなことでもあると納得した。
家に帰ってまで文章を求める作業はしなくなっていた。ある日、片思いの気持ちがなくなってしまったように、ぼくからするりとそれは抜けた。ただ、一時のことだとは思っていたが、本当はそうでもなかったようだ。自分のあるべき才能の耐用年度は、意外にも短かった。そのことに気付くのは、もう少し後のことだったが。
能力が消えてしまえば、あとは自分の糧を求めたり、追い越したり、追い付いたり作業に生きることのみが残った。それを自分はそこそこにやっているだけだった。
しかし、会社の仕事とは別に、以前に知り合った男性からタレントのゴーストライターを頼まれた。金銭に困っていたわけではないが、一冊ぐらいは、その作業にも手を染めてもよいかと深く考えずにのってしまった。ある現金が手に入り、自分は名乗る権利を失う。
そのような状況であったので、ぼくの口座にはその年代からすると、いくらか多い残高があった。なんのために増えているのか分からないまま、ぼくの日常は過ぎていくことになった。