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リマインドと想起の不一致(8)

2016年02月21日 | リマインドと想起の不一致
リマインドと想起の不一致(8)

 本ものの勇気や恥かしさを知り、何かを好きになるという深さへの到達が次第に計れるようになった。プラモデルを作るという行為も好きから発生したものの一つだ。だが、そこには、ぼくの作業工程という能動さだけが問題であり、その完成による報いや示した愛情が意志的になんらかを返してくれることはない。一方通行の頼りなさがある。

 いまは違う。愛は相互に行き交った。発火や発電というスタートに無頓着なまま、電流があらゆる感情に導いた。停電もない。ロスもない。公害も皆無だ。そう、ぼくは社会の授業を受けている。あるいは理科かもしれない。テストの点数は、この二分野が劣っている。

 テストの期間だけ会う時間が減った、ぼくはそれを騎士道精神の表明のように考えていた。結果が出ると、ぼくらは共に少しだけ点数があがったことを知った。ぼくはうつつを抜かしているという両親の叱責をしっかりと払拭する。彼女の家族間の関係や立場をぼくはそれほど把握していない。それほどというのも言い過ぎだろう。ほとんどといっていいくらいに知らないのが事実だ。

 あと数カ月で中学生でいられる時期も終わる。体格は大人になりつつあるが、役割は子どもに近かった。そのことに不満もあり、同時に充足もあった。

 テストが終わった後の日曜に外出する約束をする。小さな町。目立たない路線の小さな場所。ぼくはここで生活して、となり駅のそのとなり辺りではまったくの無名だ。

 ひじりはぼくと出会い、ぼくの一部を知る。すべてを知るまでにどれぐらいの時間を要するのだろうか。親や兄弟以上にぼくを知っているという瞬間がある日、訪れるのかもしれない。その到達地もぼくにとってよろこびでもあり、ある種の優越感による気恥かしさもあるのだろう。

 ぼくは誰よりも、ひじりのことを知っているのだろうか。友人のさなえより彼女の内面に同調できているのだろうか。

 今度の日曜にそのチャンスが増すことを望んでいた。