遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉(519) 小説 <青い館>の女(8) 他 それだけの事

2024-10-13 11:56:57 | 小説
            それだけの事(2024.9.30日作)



 九十歳を過ぎても
 矍鑠(かくしゃく)として生きてる人が居る
 百歳を越えてもなお
 平然としている人が居る
 その姿 姿勢のまぶしさ 輝かしさ
 人間 人の命の限界 百二十五歳だとか
 かつて唱えられた 人生僅か五十年
 今は昔 過去の事
 人の健康 丈夫で生きる
 その基 礎(いしずえ)となるものは ?
 心の持ち方 ?
 堅固な肉体 ?
 八十六年余を生きて来て今 日々
 不都合も無く 時が過ぎて行く
 そして 今日もまた生きている
 生きている 生きている限り
 生きるのだ 元気溌溂
 矍鑠たる九十歳 百歳
 光り輝くその姿を目差して
 今日もまた 生きてゆく
 生きてゆく 生きてる限り生きてゆく 
 明日を見詰め 今日一日を生きる
 元気溌溂 矍鑠として生きる
 それだけの事
 ただ それだけ




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             <青い館>の女(8)




 
 しかし、わたしの心に熱い思いは生まれて来なかった。
 依然として醒めた心の冷え冷えとした意識がわたしの心を捉えていた。
 同時にわたしは、わたしの肉体を抜け出した醒めた心のわたしが総てを投げ出し女に任せて、死体の様にベッドに横たわっているわたし自身を見詰めているのを意識する。
 女はなおも、そんな死体を小さな手の指で撫ぜている。
 女は辛抱強かった。
 まるで諦める事を知らないかの様に、そして、蔑み、嘲笑するのを知らないかの様に様々な行為を繰り返す。
 死体のわたしは死体のままに、それでも女の一途な行為に応える様にその肉体を愛撫する。
 すると間もなく女の肉体が反り返り、波打ち、口から漏れる微かな声が女に自分の行為を忘れさせる。
 やがて女の肉体は激しく波打ち、硬直し、暫(しばし)の後で発する声と共にその緊張が一度に解(ほど)けてゆく。
 わたしは激しく女の裸体を抱き締める。
「いっちゃった」
 女は無邪気な笑顔を見せてわたしを見詰め、少しの恥じらいを込めた口調で言った。
 わたしは黙ったまま頷いて女の笑顔に答える。
 女はまたしてもわたしの肉体に手を延ばして触れて来る。
 しかし、わたしの意識の中では徒労感のみが深かった。
 わたしは女に言った。
「もう、いいよ。初めから分かっていた事なんだ。疲れたろう」
 女に労いの言葉を掛ける。
 女はだが、嫌な顔一つ見せずに、
「ううん、大丈夫ですよぉ」
 と言って、なおも行為を繰り返す。
 わたしはそんな女の手を取って自分の肉体から引き離す。
「御免なさい」
 女は自分の責任でもあるかの様に言った。
 わたしは女に言った。
「ただ、ちょっと頼みがあるんだ」
 女は不思議そうにわたしを見詰めて、
「なんですかぁ」
 と聞いた。
「少し、眠らせて貰いたいんだ」
 わたしには徒労感のみが深かった。
 ただ眠りたいだけだと考える。
 今こうしてわたしの肉体に触れている、この年若い女の存在にもわたしは現実の感覚を抱く事が出来なかった。
 総てが空虚で遠い感覚の中にある。
 今に始まった事ではなかった。
 既に何年にも及ぶ事で、あらゆる事柄に及んでいた。
 自分が抱えた心臓疾患に依る影響なのか、という思いもあったが、そればかりではない、という思いが依然としてわたしの意識の中からは抜け切れなかった。
 そして、此処でもまた、妻の存在が義父の影と共に大きく立ちはだかって来る。
 女はわたしの思いも掛けない突拍子な言葉にも、
「眠るんですかぁ」
 と言って嫌な顔一つ見せなかった。
「うん」
 わたしは力なく言った。
 そんなわたしの気力の抜けた表情を読み取ったかの様に、女はすぐに言葉を続けて、
「構わないですよぉ。此処では全部がお客さんの時間なんでぇ、お客さんの自由にして貰っていいんですよぉ」
 と言った。
「君は随分、優しいんだね」
 何処までも厭味を感じさせない年若い女の心遣いにわたしは、思わずそんな言葉を口にする。
 これは女の若さの所為(せい)なのか ?
 過去に於いて出合った数多くの年増女達の計算高く醒めた感情の垣間見える、取り繕われた表情の数々をわたしは思い浮かべていた。
「でもぉ、お客さんにはぁ高いお金を出して貰ってるのでぇ、此処では他の女の子達のみんながそうですよぉ。それにぃ、こんな小さな街なんでぇ、お客さんの数も限られているからぁ、一度、悪い評判がたってしまうとすぐに誰も来て呉れなくなっちゃうんですよぉ」
 女は飾る事も無く言った。
「此処ではみんなが、それぞれにお客を持ってるの ?」
 興味がある訳では無かったが、話しの接ぎ穂としてのみ聞いてみる。
「そうですよぉ。みんながそれぞれに何人かのお客さんを持ってますよぉ」
 当然の事の様に女は言った。
 わたしには不思議だった。
 こんな店の、こんな営業方法がこの街では許されているのだろうか ?
「警察はうるさくないの ?」
 聞いてみた。
「だからぁ、お店の方でも厳しいんですよぉ。お客さんに厭な思いをさせてぇ、もし、警察に訴えられたりしたら大変だからぁ、厭な思いをさせない様にって毎日、厳しく言われてるんですよぉ」
 女は言った。
 わたしはそれでこの年若い女の、年齢には似合わぬ注意深さと思い遣りに納得したが、それ以上に興味は持てなかった。
 わたしは言った。
「明日の朝は何時まで ?」
「一応、八時半までなんですけどぉ、追加料金を戴ければぁ昼の十二時まではいいんですよぉ」
「そうか。で、朝は起こしてくれるの ?」
「はい。目覚まし時計をお客さんの好きな時間に合わせて掛けて置きます」
 女は言った。
「それなら安心だ」
 わたしは言った。
 明日の朝、この如何わしい店を出る時、人に見られる事をわたしは怖れた。
 少なくとも、人々が動き出す前にこの店を出てしまえばいい。
 今日、祝賀会で顔を合わせた誰彼に見られる事も無くて済むだろう。
 わたしは安堵感と共に言う。
「疲れた。少し眠ろう」
 今日一日がひどく長かった様に思われた。
 心身共の疲労感を覚えていた。
 幸い、大きな脈の乱れが無かった事が何よりの救いだった。
 女に触れている間にもその脈の乱れはなかった。
 わたしには奇跡に思われたが、その満足感に包まれながら静かな気持ちで女に聞いてみる。
「君は、このまま朝まで傍に居てくれるの ?」
「はい、ずっと居ますよぉ」
 女は言った。
「それなら君も寝た方がいい」
「はい、寝ますけどぉ、もしぃ、お客さんが眼を覚ました時にぃわたしが眠っていたらぁすぐに起こしてくれますかぁ。何時でもいいですからぁ」
 女は言った。
「うん。そうするよ」
 わたしは言った。

 翌朝、わたしが眼を覚ました時、時計の針は五時を過ぎたばかりの位置を指していた。




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               takeziisan様


                奥様の退院 予定より早まりそう
               何よりです
               お喜び申し上げます
               普段 身近にある物の無い寂しさ
               それが人という存在であればなおさらの事
               安心感 安堵の思いが想像出来ます
               年齢と共の衰え 誰にも避ける事の出来ない現象で
               受け入れる事しかありませんが まずはおめでとう御座います
               これからもお大事になさって下さい
                ドリス ディ アームストロング スティーブ マックイーン等々
               懐かしさばかりが蘇ります 今でもそれぞれ耳や眼に残っています
                山の景色は何時見ても良いですね 今朝もNHKで放送していましたが
               自然の山々 田園風景 その中で暮らす人々の何気ない日常
                 なんの飾りも無い美しい風景です 
                 郷愁と共に憧れを感じます 
                  夏目漱石 芥川と共にわたくしの中では既に古典の位置を占めています
                   古びませんね やはり人間の真実に迫っているからでしょうか
                   何事に付けても物事の真実を突き詰めた物は永遠の命を獲得するという事でしょうか
                奥様の御退院と共にまた以前の生活への復帰の一日も早い事を願って居ります
                 お忙しい中 お眼をお通し戴き 感謝申し上げます
                有難う御座いました



























































 


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