雑感七題(2020~2021.2月作)
1 技術というものは総て
人間存在に立脚したものでなければならない
人間存在とは
人は生まれて死ぬ という事だ
その存在の中で 如何に人が充ち足りて
豊かな時を過ごせるか 総ての技術は
その点に向けて奉仕されなければならない
人間に苦痛を与えるもの それは技術の名に値しない
単なる遊具にしか過ぎない 悪魔の遊具 悪魔の道具
2 この世の中で至上のものは命 総てのものは
命のために奉仕されなければならない
3 人間に於ける 或いは人生に於ける
唯一絶対的なものは死だ
人間は日々 そこから反射される影を生きている
それだけの存在にしか過ぎない
4 この世は総て仮想である 真実はたった一つ
命は滅び行く という事だ
人はその命を歌い 踊り 喜び 嘆き 悲しみ 怒り 死んでゆく
5 時はまぼろし
現在 自分がここに居る
それのみが真実
未来も過去も 漂う存在
6 人が生きる究極の目的は
幸福を享受する事にある
自分が幸福であり 他人が幸福である事
それが人の生きる唯一 絶対的目的
そのために日々 人の努力が為されている
しかし 現実は余りに辛苦が多すぎる
7 人はただ 実行するしかない
結果が無に帰したとしても
嘆く事はない
死が総てを運び去ってくれるだろう
死後の毀誉褒貶は死んだ人間には分からない
分からない事に気を病むのは愚かな事だ
どのように納得して 今 現在を生きるか
真に大切な事はそれのみ
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蜃気楼(4)
(訂正 前回文章の中 終わりに近い部分
銀座も五丁目近くへ来ると・・・と
ありますのは 「三丁目」の入力ミス
でしたので訂正しました)
朝六時に起きて食事や化粧をしてから、養成所で使う物の点検などをしているうちに一時間という時間は瞬く間に過ぎていった。
その後、アパートを出て会社に着くまでにも一時間と少しを要した。
始業時間は八時半だった。午後五時半に仕事は終わった。それでも、そのまますぐに帰れる訳ではなかった。様々な雑事の整理に終われているうちに確実に三十分程は経過していた。滝川裕子の作品発表会などがあるその準備期間にはさらに遅れて、一時間や二時間が過ぎる事も稀ではなかった。午後七時半から始まる授業に遅れる事もしばしばあった。
柚木正信とはあれからも滝川事務所などで度々、顔を合わせた。無論、仕事上からの事だったが、柚木はそんな時でも、これまでと格別、変わった態度を見せる事もなくて、淡々と仕事をこなしていた。明子に対する時でも以前のままの穏やかな柚木正信だった。のみならず時には、柚木の方から話題の映画や音楽会、演劇などに明子を誘う事もあった。明子もまた、以前の何事もなかった頃の柚木との関係を保てている事で、これ以上、柚木の気分を害したくないという思いも働いて、予定のない限りは柚木の誘いに応じた。そして、そんな関係はいつか、明子の心の内にも微妙な変化をもたらしていた。明子自身は格別自覚する事もないままに、明子に取っては東京へ出て来て以来初めてとなる男性との付き合いに、ボーイフレンドにも似たような感覚を柚木に対して抱くようになっていた。
初めて二人で夜を明かしたのは明子の部屋でだった。その時、明子は自分の方から柚木を誘っていた。
その年の夏、明子は思い掛けなく取れた長い休暇の、十日間の夏休みを下関にある実家に戻って過ごした。格別に誇れる物もない、小さな漁村にある実家では久し振りに、昔の自分に戻って過ごす事が出来たがそんな満足感の裏にある、なんとはない物足りなさを明子はその時、自分の心の内に感じ取っていた。始めはそれがなんであるのかも分からないままに過ごしていたが、数日経つうちに次第にそれが、柚木に会えない事に対する物足りなさだ、と実感するようになっていた。
明子自身、気付いていなかった事だった。東京を離れてみて初めて知る、自分の心の内に占める柚木正信の存在の大きさだった。
明子は東京に帰ると、下関土産を口実に、自分の方から柚木に電話をして翌日、会った。
二人で夜を過ごしたのは、その四日後だった。明子は人気映画の入場券が手に入ったので、と言って柚木を誘った。休日前の夜で、映画館を出た後、日比谷の映画館近くにあるバーに入ったその後、何故とはなしに生じて来る気持ちの昂ぶりと共に、投げ遣り的な気分のままに柚木を誘っていた。
明子の気持ちはその夜を境に急速に柚木正信に傾いていった。柚木と過ごす時間が明子の気持ちの中では次第に大切な物としての大きな比重を占めるようになっていた。ーー半年と少しの間の明子に取っては幸福な期間だった。
年を越した翌年四月、明子はデザイナー養成所の基礎学科を無事終わって、実技の学科へ進む事になった。些かの退屈感が無かったとは言えない基礎学科とは違って、実技の学科には今までにない創作する事の面白さが加わった。
滝川裕子は教室に顔を見せる事はほとんどなかったが、仕事の場で顔を合わせると何時も、
「どう、養成所の方は飽きないで行っている ?」
と、気さくに声を掛けてくれた。
「はい、どうにか」
明子はその度に答えていたが、滝川裕子は
「もう、実技の方に入ったんだって ?」
と、誰に聞いたのか気遣ってくれた。
「はい、四月から」
明子は答えた。
「そう。それは良かった。もし、何か分からない事があったら、言いなさいよ。相談に乗るから」
滝川裕子は言った。その言葉には、明子をいとおしむような響きさえ込められていた。
そんな明子が体調の変化に気付いたのは、五月に入ってからだった。月々のモノが無い事に気付いて、不安を覚えた。翌月に期待を掛けたが、事情はやはり変わらなかった。その時になって初めて、医師の診察を受けなければ、との思いに囚われていた。
柚木正信に打ち明ける事は考えてもみなかった。明子には、ただ、この事が、自分一人だけで引き受けなければならない事のように思えて、相談する気にはなれなかった。
柚木がなんと言うかは分からなかったが、それでも明子は、もし、この事を打ち明ければ、自分の人生が決定的に縛られてしまうという気がして、怯えた。デザイナー養成所で、ようやく物を創り出す事の面白さに目覚めた今となっては、まだ自由でいたい、という思いだけが心の中で強く意識された。
「妊娠ですね」
明子の直感は当っていた。医師は言った。
その日は妊婦が守らなければならない細かな注意だけを聞いて医院を後にした。
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桂蓮様
コメント 有難う御座いいます
風邪を引いたとの事 この時期
どうぞお気を付け下さいませ
わたくしへのお気遣い 心より感謝
御礼申し上げます
今回の「常に在るもの無いもの」
良い御文章ですね 心に響いて来ます
今の時代 純粋な気持ちで生きる事は
なかなか困難な事です あらゆる物が
満ち溢れた世界 心は揺れ動きます 欲望が
刺激されます それを納得した上で 少しでも
人間として 綺麗な心で生きてゆく そう
自分に言い聞かせる それで良いのではないでしょうか
人間 所詮は汚点のない人間など 存在し得ません
秋が来て やがて春が来る 季節が巡るように
人間の心も自然に動いてゆく その動く心を受け入れ
今を精一杯生きる 禅の世界では「有るけど無い 無
いけど有る」と言いますよね
何にもこだわらない「無」の心
総てを有るがままに受け入れ その心に従い
自分なりに自分の心を生きる 純粋な心で生きる事は
なかなか出来なくても せめて人として人の世界に
恥じない生き方が出来れば良いのではないでしょうか
読者数が減った
大した問題ではありません 御立派なものです
去る者は追わず 百人の不完全な読者より
真に自分の文章を理解してくれる十人の読者
その方がはるかに貴重です ただ良い文章を書く
それさえ心掛けていれば良いのではないでしょうか
わたくしは何時も楽しく拝見させて戴いております
ですから再読も可能なのです
有難う御座いました
takeziisan様
有難う御座います
今回もブログ 楽しく拝見させて戴きました
五時間の農作業 お見事です
畑の写真 拝見しているだけで楽しくなります
実際にしている御本人には御苦労な事でしょうが
花の写真 鳥の写真 今回も眼の保養に
特にコジュケイ初めて見ました
名前だけは知っていたのですが 綺麗な鳥です
そうですね 雉を思わせますね
難解書物睡眠薬 仰るとおり
秋もいいですね 気分満載
近寄り難い先生 わたくしの方にも居ました
小柄で やはり眼鏡を掛けた
安曇野 一時 ブームになった事がありますね
わたくしは行った事が無いので
お写真 興味深く拝見させて戴きました
あの何もない自然がいいですね
信州というとちょうど日本の真ん中という感じで
ここを舞台に様々な芸術作品が生まれていますし
わたくしの気持ちの中では憧れにも近いものが
あります
何時もお眼をお通し下さる事に感謝と
御礼を申し上げます
ひやー運命の分かれ道
たまささまは男子の視点で
淡々に書いていますが、
女子で、妊娠ですよと診断されると
それはそれは
今までの人生よサヨナラ
責任の人生が待ち受けている、ような感じですかね。
女子の妊娠は
男子にとって、戦争に軍人として
一生服役しろ、と言われるみたいな感じに似ているのかな。
だけど、キャリアとかに関心がなく
幸せなママになることが夢な女子には
まあ、幸せへの切符みたいな感じに似ているかも、
でも、それらはあくまでも私個人の感じ方、捉え方なので
全く参考にならないかもしれませんね。
でも、未婚の女子に妊娠というのは
この世、サヨナラ感高いです。
産むか、産まないかを決めることは
人間にとって
最も難しい決断ですよね。
まあ、子供を産んでいない私が言える立場ではないのですが、
私は自分の人生や命に未練は無いのですが、
人の命については
畏敬の念で考えています。
最近は、夫の知り合いがコロナで結構死んでいるとの知らせを受けているからか、
死について、外部的に考えさせられます。
生まれた人間に平等に与えられている権利、それは
生きることと死ぬこと、ですよね。
どっちも選べられない、このことが真理ですかね。
私の記事への感想、読んで嬉しくなりました。
たまささまのコメントはいつも
書いてよかった、と思わせますね。