謙虚(2023.10.11日作)
天皇家は この国で
長い歴史を持ちながら
現代 一般社会に於ける
成り上がり者達よりも
はるかに謙虚だ
権威を振りかざす事がない
人は常に謙虚であれ
謙虚である事によって
失うものはない
成り上がり者の傲慢不遜
百害あって一利なし
謙虚は人を育てる
高慢 傲慢は人を押し潰す
人も知識も 謙虚には寄り添い
傲慢からは離れてゆく
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いつか来た道 また行く道(32)
男は既に来ていた。
黒っぽいサングラスをかけ、この前見た時と同じような黒っぽい襟無しのシャツと同系統のブルゾンを着て、入口の扉を入ってすぐのロビーで壁際のソファーに掛け、スポーツ新聞に見入っていた。
わたしが男を見分ける為のスポーツ新聞だった。
この新聞を持って行くからーー男は目印の新聞を指定していた。
わたしにしてみれば、そんな目印などが無くても先刻承知の存在だった。
男はわたしが前に立った事にも気付かなかった。熱心に何かに見入っていた。
「今晩わ」
わたしは立ったまま言った。
男は不意を突かれたように顔を上げた。
それでもわたしを見ると、安堵感とも親しみの感情とも取れるような微妙な表情を見せて微かに頷いた。
男はすぐに手にした新聞を畳んでブルゾンのポケットに無造作に押し込んで、
「どうぞ」
と言い、自分の坐っている座席の横を空けた。
わたしは黙って男の隣りに座った。
ハンドバッグから煙草を出して一本を抜き取り、唇に挟むと男にも勧めた。
男は首を左右に振った。
わたしはライターを出して煙草に火を付けた。
最初の一息を大きく吸い込み、吐き出してライターをハンドバグにしまいながら、
「早速、あなたの希望を聞かせて貰うわ」
と、話しを切り出した。
余分な時間など無いのだ !
男への無言の圧力だった。
男は早速の本題に戸惑った様子だったが、すぐに応じた。
「中沢が何処にいるか知りてえんだ」
「あなた、何故、そんなにしつこく中沢の居場所をわたしに聞くの ? わたしはあの人が何処にいるかなんて全く知らないわよ。あの人がいないからって言ったって、あの人にだって用事があって、田舎へ帰ってるかも知れないじゃない。それをわたしに聞いたりしたって分かりっこないわよ」
毅然とした口調でわたしは言った。
何処かもっさりした感じの小太りな男を見下すような気分がわたしにはあった。
男はだが、戸惑う様子も見せずに言った。
「中沢が持ってたネガや写真が奴の部屋から無くなってる。それに奴には田舎なんかねえよ。東京育ちだからね」
腹の底からの、図太さ感じさせる静かな口調だった。
思わぬ男の言葉だった。わたしは心臓をわし掴みにされた思いで氷のような感情が体中を走り抜けるのを意識した。
その動揺を懸命に抑えてわたしは、
「あなた、あの人の部屋へ行ったの ?」
と、長くなった煙草の灰を灰皿に落としながら聞いた。
「何も、今度初めて行ったわけじゃねえからね」
当然の事のように男は言った。
「あなたとあの人はどういう関係だったの ?」
心の動揺を抑えたまま軽い世間話しのように聞いた。
「クスリの売買さ」
「それだけの関係 ?」
「そうだ」
男はそう言うと、ようやく自身も気持ちのゆとりを得て一息入れるかのように、ブルゾンのポケットから煙草を取り出して箱をそのまま口元に運び一本を咥え、別の手で取り出した百円ライターで火を付けた。
ホテルの玄関を入って正面ロビー中央には、大きなクリスマスの飾り付けがあった。
それが人々の絶え間ない行き交いにひと際、年末らしい賑わいを添えていた。
微かに、聞こえるか聞こえないかの音量で<ジングルベル.>が流れていた。
忘年会で集うらしい人達の姿も見られた。
大勢の人の出入りする場所だけにわたしは、顔見知りに会う事を怖れた。
それでも、このホテルを選んでいたのは男との危険な交渉で、少しでも自分が優位な立場に立ちたかった為だった。
このホテルでわたしは、何度も難しい商談を成立させていた。その点で勝手知った場所とも言えたし、この華やぎが少しでも男への圧力になればとも考えての事であった。
わたしは既に短くなった煙草を灰皿の中で押し潰すと、口元に煙草を運ぶ男に向かって言った。
「あなた、クスリ(麻薬)は何処から手に入れるの ?」
男はわたしの言葉を聞いて意外そうな顔をした。それから
「ずいぶんクスリに拘るね。あんたもやってみる ?」
と、打ち解けたような軽い笑みで言った。
「御免だわ、あんなもの !」
わたしは吐き捨てるように言った。
今度の苦境も、結局は中沢栄二の腕に見た注射の跡から始まっている事だった ! そう思うと腹立たしさに胸の煮えたぎる思いだった。
わたしは、次第に募って来る男に対する腹立たしさと共に、男と顔を合わせている事の苦痛に耐えられない気がして来て、一刻も早くこの場から立ち去りたい思いで言っていた。
「結局、あなたは、わたしに何をしろって言いたいの。それをはっきりしてくれなくちゃぁ、いっこうに埒が明かないわ。はっきり、こうだからこうしろって言ってくれる ? わたしにはいつまでもグズグズしている暇はないのよ」
続けてわたしは男の言葉も待たずに激した感情で言っていた。
「実は中沢がいなくなった事なんかあなたには問題ではないんでしょう。結局はお金なんでしょう。わたしからお金を取る事が目的なんでしょう」
以前にも口にした言葉だった。
男はわたしのその言葉を聞いて微かに気色ばんだ。
「そんな事たぁねえよ !」
男もまた、以前と同じように言った。一方的なわたしの見方に対す反感のような響きさえが込められていた。
わたしはその言葉の響きに少なからずの驚きを覚えたが、気持ちはひるまなかった。
「じゃあ、あなたは中沢とは友情で結ばれていたとでも言うの ?」
男を問い詰めるように強い口調で言った。
男は不服そうに黙っていた。
確かに、金だけの問題ではない、と思わせるような何かの感情がその表情からは読み取れた。それがなんであるのかは分からなかった。
わたしは男のその表情を見ながら言った。
「そう。それ程、あなたがあの人の事を心配しているって言うんなら、あの人が居る所へ連れてってあげてもいいわよ」
男は意外そうな顔をした。
「あいつが生きてるってでも言うのか ?」
「当たり前でしょう。一体、あなた、何考えてるの ? わたしがあの人を殺したとでも思ってるの ?」
「そんな事はねえよ。だけど奴が生きてればクスリが無けれりゃぁいられねえはずだからね」
「そのクスリの為にあの人は姿を隠したのよ。わたしにしても、クスリ代が無くなる度に強請られたんじゃ堪らないから、更生するように勧めたの。見返りにそれだけの事はして上げるからって」
「どういう事だ ?」
男は言った。
「それは内緒よ。あなたに教えればまた、薬漬けにされるわ」
「俺が薬漬けにした訳じゃねえよ」
「それこそ、そんな事はどうでもいいわよ。とにかく、あの人はあなたの前から姿を消したの」
「奴が生きてれば大したもんさ」
男は達観したように言った。
「そう、それ程までに言うんなら、あの人の居る所へ連れてってあげてもいいわよ。どう ? 行ってみる ?」
「行ってみたいね。是非、奴に会ってみたいよ」
「いいわ。それなら案内するわ。その代わり、見返りにわたしに何をくれるの ?」
「俺が持ってるもんなら、なんでもいいよ」
「あなたが持ってるって言う写真のネガを含めて全部わたしにくれる ?」
「いいよ。そんな事は簡単だ」
「だけど、それが全部だってどうやって証明するの ?」
「だから言っただろう。奴から預かったのは一本のネガだって。そっで、奴がいねえんで様子を見に行った時には、写真もネガも全部無くなってたって。それを持ってったのは誰か ? って事さ。だから、俺が持ってる物は焼いた写真を入れて全部やるよ。そんな物持ってたって俺にしてみればあんたを脅迫するぐれえしか出来ねえからね」
「だけど、不思議ね。さっき、あなたは中沢の部屋へ入ったって言ったでしょう。中沢が死んでるんなら、部屋へ入る事だって出来ないじゃない」
「不思議な事なんかねえよ。奴は何時も郵便受けに合鍵を入れて置いたんだから。そっで、奴の部屋からネガを持ち出した者もその合い鍵を使って入ったのさ」
「そう言う事だったの。それで話しは分かるけど、一体、何故、あなたはそんなにしっこくわたしにまとわり付いて来るの ? あなたの口振りでは、まるでわたしがあの人を殺したかのように聞こえるわよ」
「そんな事、言ってねえよ」
「だって、あなたはあの人がもう、この世には居ないと思ってるのでしょ。それでわたしにあの人の居場所を聞くなんて、わたしがあの人を殺したって言ってるのと同じ事よ。だけど、わたしは、あの人がクスリをやってるって分かってからは一切、親しい付き合いはしてないのよ。だから、あの人が何処に居て、何をしてるかなんて知らないし、あの人が持ってたネガや写真が無くなってるっていう事もわたしには全く関係ない事よ。第一、わたしはあの人が何処に住んでいたのかも知らないんだから。写真やネガが何処にあるかなんて分かるはずがないでしょう」
「奴の住所を知る事なんて簡単さ。車の運転免許証を見れば分かる事だよ」
「それでは、わたしがあの人を殺して免許証を取ったとでも言うの ?」
「殺したとは言ってねえよ。ただ、あいつの車も無くなってる」
「そんな事、わたしは知らないわよ。いいわ、あなたがそこまでわたしの言う事が信じられないって言うんなら、あの人に会わせてあげるわよ。その代わり、わたしとの約束は必ず守ってくれるわね。それに総て、わたしの言うとおりにしてくれる ? それじゃないと困るから」
「ああ、いいよ。だけっど、奴がいなかったら、その時はどうする ?」
「どうとでもしていいわよ。警察に訴えるとも、マスコミに売り込むとも好きなようにしていいわ」
「口止め料は幾らくれる ?」
「やっぱり、そこが落ち着き場所ね」
わたしは皮肉を交えて言った。
五
宮本俊介から託された店舗購入の件は暮れも押し詰まった二十三日に仮契約を交わした。
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takeziisan様
有難う御座います
小松菜 ネギ 豊富な野菜 さてどうしょうか
羨ましい限りです 食する喜び 収穫の喜び
楽しみと実益を兼ねた なんと贅沢な喜び
幼い頃の田舎暮らしの記憶があるだけに記事を拝見していましても
実感として感じ取る事が出来ます
昔が懐かしく甦り その環境に身を置ける境遇を
羨ましく思っています
山の上の朝食 さぞかし・・・・と思います
いいですね
普段 余計なテレビは見ませんが 自然や地方の人々の暮らしを映した番組は
よく見ます
それだけに自ずと記事の中でも心惹かれます
五時三十分起床 わたくしはその時間に一度眼を覚まし また
一時間程眠り 六時半起床です 五時半 今はまだ暗いですよね
お元気な証拠と思いますが 腰痛 文中からも大変な御様子が伝わって来ます
やはり年齢 ? わたくしも右膝のチクチク痛みが未だに消えません
でも 日々の行動に不便を来す程ではありません
試しに湿布クスリを貼ってみましたが効果は無いようです
結局 年齢による老化現象だと思って地道に自己流治療をしています
どうぞ あまり御無理をなさいません様に
何時も御眼をお通し戴きまして有難う御座います
楽しい記事共々 御礼申し上げます
桂蓮様
有難う御座います
新作 拝見しました
良い言葉が並んでいますね
自信に満ちた人は魅力的に見えます でも
自信過剰は見苦しいです そんな人間に限って
実際の実力は皆無という事が多いですよね
結局 人を裏切らない自信とは謙虚な中に見え隠れする自信という事でしょうかね
謙虚については今回も偶然 冒頭に書いています
自信というものは結果として付いてくるもの
作った自信は透けて見えてしまう
その通りだと思います
今回も面白く拝見させて戴きました
バレー 執着しなくなった
執着心があるうちは本物とは言えません 執着せず
無意識裡に事が運ぶ 本物になった 本当に身に着いたという事ですね
喜ぶべき事ではないでしょうか
おばあ様の思い出 人間の心 本質はどの国の人であれ
変わる事は無いのでは・・・ ただ 習慣 風俗が人の表面的な物を
その国ごと地方ご とに変えてゆくのだと思います
この地球上に居る人間 何処に居る人間でも人間としての感情は
同じだと思います
今回もいろいろ楽しませて戴きました
有難う御座います
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