会社の上層部の人間なんだから、朝礼はしょっちゅうやっていてお手のもんでしょう、と度々言われる。
お手のもん? とんでもない。大の大の大の苦手。やらなくていいのなら、やらない。
だから僕が、もう朝礼は止めようと、ひと言言えば済むもの。だけど、、、、
今日も、ネタがない。
ま、ないことはないのだが、スポーツや事件の話題ばかりじゃ、味気ない気がする。
もう少し気の利いた話題? と構える。すると、なかなか出てこない。
思案に暮れる。時間が迫る。焦ってくる。
机の上には、仕事に関する本や書類そして辞書やら小説やらが立ててある。その端のブックエンドに一枚の封筒が挟まっているのが見えた。
あ。、、、、、そう、これがあった。
封筒を開けた。新聞の社説の部分らしき切抜きが何枚か出てきた。
そのなかで一番適当なのを取り出し、それを活用することにした。
題材は、ヒトES細胞の話。赤鉛筆で丁寧に線が引いてある。
僕のために、利用しやすいようにしてくれたアニキンの心細かい優しさが垣間見える。
「体内では、常にみずみずしい再生作業が繰り返されている。新旧の細胞が常に入れ替わって肉体は絶えず新しくなっている。以前の自分と同じに見えて実は新しい自分なのだ」
ふむ。 なるほどー。 唸る!!!!!
ん? …………………………………………………まてよ!!!
もしかして彼は、この文章の奥深い意味を、老いゆく自分に照らし合わせて、自身を納得させていたのではないか?
そう、それはとてもいいことだ、と思った。
僕も、十五年後には今の彼と同じ歳になる。そのとき初めて、僕は彼と同じ境地になれるのだろう^^