田中雄二の「映画の王様」

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ヒルトン、ラモッタ『レイジング・ブル』

2017-09-22 10:20:12 | 名画と野球のコラボ

 1978年、ヤクルト・スワローズ初の日本一に貢献したデーブ・ヒルトンが亡くなったという。独特のクラウチングスタイルから快打を連発し、セカンドの守備や走塁でもたびたびハッスルプレーを見せた。

 ペナントレース優勝時、最後のセカンドゴロを横っ飛びでさばいた姿、阪急との日本シリーズで、シリーズの流れを変えた今井雄太郎から放ったホームランが特に印象に残っている。振り返れば、大活躍したのはこの年だけだったのに、何故か今でもその存在が忘れられない。

 帰国後の様子は、池井優氏の『ハロー、マニエル元気かい プロ野球外人選手列伝2』で読んだが、それは85年のこと。あれからすでに30年余がたってしまった…。



 ヤクルトファンで知られる村上春樹氏が「デイヴ・ヒルトンのシーズン」といういい短文を遺している。氏は開幕戦でヒルトンが放ったツーベースを見て作家になろうと決めたのだという。その文はこう結ばれている。
「さよなら、デイヴ・ヒルトン」。

 元世界ミドル級チャンピオンで“怒れる雄牛”と呼ばれたジェイク・ラモッタも亡くなった。彼の半生を描いた『レイジング・ブル』(80)といういい映画があった。



 初見の際のメモを転載。(1981.2.27.日比谷映画)

 ファーストシーン、ヒョウ柄のガウンを着た男がリング上でシャドーボクシングをしている。画面はモノクロで、リングサイドに漂うたばこの煙がやけに白い…。この映画はこんなスローモーションのシーンから始まる。

 ジェイク・ラモッタという実在の元世界ミドル級チャンピオンの半生を、凝ったカメラワークで描いていくのだが、ラモッタの強烈なリングファイト、女房への異常なまでの執着、栄光、挫折、転落、孤独…などを見せながら、アメリカで生きるイタリア移民の匂いを強烈に漂わせる。

 ラモッタのような、人一倍性欲が強い男に、禁欲生活を強いれば、性格に異常をきたしても不思議ではない。おまけに女房(キャシー・モリアーティ)は飛び切りの美人とくれば、その欲望をどこにぶつけていいのか分からない苛立ちを感じるのも当然だろう。ただ、ラモッタはあまりにも自分の感情をストレートに押し出し過ぎて、見ているこちらが悲しくなってくるほど不器用で、生き方が下手な男だ。

 そんな男を、ロバート・デ・ニーロが恐ろしいまでの怪演を見せながら演じ切っている。特に、前半のボクサーらしい締まった体から一転、後半の醜く太った姿の違いは圧巻だ。

 後半は、落ちぶれて投獄され、牢の中で拳を壁に打ち付けながら泣き叫ぶラモッタ…。場末のキャバレーで受けないジョークを飛ばして生活するラモッタの姿が映る。

 モノクロ故、全体的に暗く陰惨なイメージは拭えないが、そこからボクシングの持つ残酷さや、ラモッタの悲しさが浮かび上がってくる。同じイタリア系のマーティン・スコセッシとデ・ニーロのコンビだからこそ、ラモッタという人物をここまで描けたのではないか、という気がする。それにしても、女房があまりにも美人だと男は不幸になるのか…。

 この映画の製作はアーウィン・ウィンクラーとロバート・チャートフ。そう、あの『ロッキー』(76)を作ったコンビだ。『ロッキー』がボクシングの陽性を描いたとすれば、この『レイジング・ブル』は陰性となるのか。全く対照的な二つのボクシング映画を製作するとはすごい。

【今の一言】今から30数年前、思えばこの頃がデ・ニーロの全盛期だったなあ。

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キャロル(15)

2017-09-22 09:12:03 | 映画いろいろ

目は口ほどに物を言う



 舞台は1950年代のニューヨーク。デパートの女性店員テレーズ(ルーニー・マーラ)と、裕福だが心満たされないマダムのキャロル(ケート・ブランシェット)が出会い、やがて同性愛関係に陥る。

 原作者のパトリシア・ハイスミス、監督のトッド・ヘインズ、脚本のフィリス・ナジーは、皆同性愛者だという。それ故、いわゆる“その道”の人々にしか分からない、心情、言葉遣い、仕草などは、きちんと描き込まれているのだろう。

 特にテレーズとキャロルが交わす目線が印象的。まさに「目は口ほどに物を言う」という感じだ。

 ブランシェットが妖艶なたたずまいを見せ、マーラも不思議な魅力でそれに応える。脇のサラ・ポールソン、カイル・チャンドラーも好演を見せる。

 50年代の華やかなファッション、くすんだ画調が見もの。カーター・バーウェルの音楽も聴きものだ。

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