『シャイニング』(80)(1980.12.23.丸の内ピカデリー)
ロッキー山上にあるオーバールック・ホテル。小説家志望のジャック・トランス(ジャック・ニコルソン)は、雪深く冬期には閉鎖されるこのホテルの管理人として、妻のウェンディ(シェリー・デュバル)と息子のダニーと共に住み込むことになる。ところがホテルが持つ“怪異”によって、ジャックは徐々に精神を蝕まれていく。
冒頭の、不気味な音楽が流れる中、山間を走る車をカメラが空中からずっと追っていくシーンから、何とも落ち着かない、おかしな気分にさせられる。その後は、まさに緊張の連続だ。
最初はニコルソン演じるジャックの深層心理や自己嫌悪、孤独感やコンプレックス、そして妻子への不満からくるただの妄想なのかと思っていたが、どうやら悪霊のしわざらしいということが段々と分かってくる。
そして、いかにもキューブリックらしい、疲労を感じさせるようなドラマが展開していく。ニコルソンがぞっとするように表情を変えて、段々と気が違っていくさまを、すさまじい演技で見せる。
また、外の迷路を歩く母子。一転、ホテルの中の迷路のミニチュアを2人が歩いていて、夫がそれを凝視しているシーン。あるいはタイプライターで「仕事ばかりしていて遊ばない子は気が狂う」と打たれた紙が延々と重なっているシーンなどに象徴されるように、一体次はどうなるのかという怖さが全編に流れている。
ただ、この映画は、キューブリックにしては珍しく、われわれに身近な題材だったとも言える。つまり、超現実的な出来事の中に、父母子、三者三葉の心の悩みやいら立ち、不満といったものを描ているから、余計に怖さを感じるのである。