『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』(2022.6.6.オンライン試写)
1年365日、毎日映画を見て過ごし、これまで見た映画は1万6千本以上。監督業のかたわら、映画解説番組の司会や作家としても活躍するスコットランド人のマーク・カズンズ。
この映画は、カズンズ自らがナレーターを務め、過去10年の間に製作された映画を中心に、111本の作品について、その製作背景や内容について語っていくフィルムドキュメンタリーだ。
どちらも“解放”がテーマだという『ジョーカー』(19)と『アナと雪の女王』(13)から始まり、メジャー大作からインディペンデント作品、アート作品まで、古今東西、ジャンルを問わない世界中の映画が縦横無尽に登場する。
第一部「映画言語の拡張」では、映画が持つさまざまなルールを拡張させた映画を紹介し、第二部「われわれは何を探ってきたのか」では、21世紀の映画が、それまでのルールを打ち破った方法とその理由を探っていく。
その中で、引用され、ジャンル分けされた主な映画のタイトルを並べるだけでも、この映画のユニークさが分かる。
例えば、コメディーは、インドの『PK』(14)、ウガンダの『クレイジー・ワールド』(14)、アメリカの『デッドプール』(16)と『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』(19)など。
アクションは、インドの『血の抗争』(12)、アメリカの『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(15)、フランスの『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』(09)など。
ミュージカル&ダンスは、アメリカの『ベイビー・ドライバー』(17)と『レモネード』(16)、インドの『銃弾の饗宴-ラームとリーラ-』(13)など。
ホラーは、アメリカの『イット・フォローズ』(14)、『ミッドサマー』(19)、『アス』(19)など。
スローな映画は、アメリカの『ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択』(16)、中国の『象は静かに座っている』(18)など。
夢についての映画は、ロシアの『神々のたそがれ』(13)、ハンガリーの『心と体と』(17)、タイの『光りの墓』(15)など。
敷居を超えた映画として、レオス・カラックス監督の『ホーリー・モーターズ』(12)、スカーレット・ヨハンソン主演の『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』(13)、ジャン・リュック・ゴダール監督の『さらば、愛の言葉よ』(14)など。
さらに、ドキュメンタリーは、インドネシアの『アクト・オブ・キリング』(12)と『ルック・オブ・サイレンス』(14)、ポルトガルの『コロッサル・ユース』(06)など、といった具合。
また、GoProやスマートフォン、VRといった新世代のカメラを使って撮られた『リヴァイアサン』(12)、『タンジェリン』(15)、モーション・キャプチャーなどの最先端デジタル技術を駆使した『猿の惑星:聖戦記』(17)、『アイリッシュマン』(19)なども登場する。
この2時間40分余りの、壮大な“映画の旅”についてカズンズは、日本の観客へのメッセージとして、「映画館は村の心臓である」というフランスのことわざを引用しながら、「どんな映画も子どものように見てください。子どものように目を見開き、心を開いて、先入観を持たずに見てほしいのです。この映画もそんなふうに見てもらえたらうれしい」と訴え掛ける。
いわば、この映画は究極の映画マニアによる超個性的なガイドブック。紹介された映画をこれから見る人は知的好奇心を、かつて見た人は探求心をかき立てられるに違いない。