『ロング・グッドバイ』(73)(1978.11.13.月曜ロードショー)
ある真夜中、私立探偵フィリップ・マーロウ(エリオット・グールド)のもとに、友人のテリー(ジム・バウトン)がやって来た。彼は夫婦げんかの末に家を飛び出し、これからメキシコへ行くという。マーロウは国境沿いの町まで彼を送っていく。
ところが、帰宅したマーロウは、妻殺しのテリーをかくまった罪で警察に逮捕されてしまう。その後、テリーが自殺したため釈放となるが、何か釈然としない。そこでマーロウはテリーの死の真相を探るため、メキシコに向かう。
ロバート・アルトマン監督が、レイモンド・チャンドラー原作のハードボイルド小説を、オフビートなタッチで映画化。グールド演じるマーロウは無精ひげを生やし、服装もよくいえばカジュアルだがよれよれ、ヘビースモーカーで飼い猫のことを気にするなど、原作はもとより、かつてハンフリー・ボガートが作り上げた硬派のイメージを崩したと賛否両論、というか圧倒的に否の方が多かった。
だが、自分にとってはリアルタイムの70年代初頭の雰囲気を横溢に漂わせたこの映画の方がしっくりきた。アルトマンは「この映画は50年代と70年代に関するコメンタリー(注釈)である。名誉ある男が名誉のない世界に現れたらどうなるか。彼はヒーローに見えるか、ばかにみえるか」と語っている。
キャストも、テリー役に元ニューヨーク・ヤンキースの投手バウトン、アルコール依存症の作家役に実際にアルコール依存症だったスターリング・ヘイドン、事件の鍵を握る彼の妻役にフォーク歌手のニーナ・バン・パラント、チンピラのボス役に映画監督のマーク・ライデル、その子分の一人に無名時代のアーノルド・シュワルツェネッガー(意味もなく裸になるシーンがちゃんとある)、マーロウが刑務所で出会う囚人にデビッド・キャラダインと一筋縄ではいかないくせ者揃い。
映画スター(ジェームズ・スチュワートやウォルター・ブレナン)の物まねをする門番、ジョン・ウィリアムズの変幻自在の音楽、そして、小道具のハモニカが生きる“逆『第三の男』”ともいうべきラストシーン…など、遊び心にも満ちている。で、この映画の脚本を書いたのが、ボギーがマーロウを演じた『三つ数えろ』(46)と同じリー・ブラケットというのも興味深い。
この映画の3年後、ディック・リチャーズ監督が『さらば愛しき女よ』(76)で、ロバート・ミッチャムを使ってオーソドックスなフィリップ・マーロー像を復活させたのも、対照的で面白い。
『ロバート・アルトマン ハリウッドで最も嫌われ、そして愛された男』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/f76299b5f2e2a780b177963da2a89000
『さらば愛しき女よ』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/4f68b2cc9fbd22a3c6465f6c8d9c365c
最近の『インヒアレント・ヴァイス』(14)や『アンダー・ザ・シルバーレイク』(18)に、この映画の影響がうかがえる。
『インヒアレント・ヴァイス』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/7a141eba995e331d06829cb00347cc86
『アンダー・ザ・シルバーレイク』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/5d69c96ce1e8b0fff738c8ff797176ec