田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『ウエスタン』

2020-06-19 07:28:27 | 映画いろいろ

 何年ぶりかで『ウエスタン』(68)を再見。



 列車の到着を待つ3人のガンマン(ウッディ・ストロード、ジャック・イーラム、アル・ムロック)。セリフも音楽もなく、凝った映像と音(ハエの羽音、水滴の落下音、からから回る風車)だけで延々と見せる。そして、混血のガンマン、ハモニカ(チャールズ・ブロンソン)が登場し、一瞬にして3人を撃ち殺す。

 名脇役のストロードとイーラムをゲストとして扱った配役が心憎いが、実はこの三人を、『続・夕陽のガンマン』(66)のクリント・イーストウッド、リー・バン・クリーフ、イーライ・ウォラックで、という話もあったらしい。

 けれん味たっぷり、ためにためたスローテンポ、独特の映像美という、まさにセルジオ・レオーネの面目躍如のオープニング。日本のアクション映画や劇画に与えた影響の大きさは計り知れない。と、いつものことながら、ここだけでもう満腹な感じがする。

 この後は、謎の男ハモニカを中心に、鉄道会社に雇われたガンマン、フランク(ヘンリー・フォンダ)=悪党、強盗団のボス、シャイアン(ジェイソン・ロバーズ)=コメディリリーフ、重病に侵されている鉄道会社の重役モートン(ガブリエル・フェルゼッティ)=文明化の権化、ニューオリンズから西部に嫁いできた元高級娼婦のジル(クラウディア・カルディナーレ)=荒野に咲いた一輪の花、を絡めて、西部劇の王道である復讐劇に加え、文明化による西部の黄昏(鉄道の敷設、ビジネスマンの参入)も描いていく。

 で、もちろんいいシーンもたくさんあるのだが、全体的に冗漫な印象を受けるのはレオーネ映画の常。特に、この映画は、レオーネに加え、ベルナルド・ベルトルッチとダリオ・アルジェントが原案を考えたというのだから、まあいつも以上にまとまらないわな。

 ところが、モニュメント・バレーの景観もきっちり入れ込んだトニーノ・デリ・コリの素晴らしいカメラワークと、それぞれのキャラクターのテーマ曲(特にジルのテーマの美しさは絶品)を含めたエンニオ・モリコーネの印象的な音楽が、レオーネの冗漫な演出を忘れさせるから困ったものだ。

 この映画と『夕陽のギャングたち』(71)『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』(84)というレオーネ+モリコーネによる「昔々三部作」はどれもそんな感じで、何度見ても、音楽と映像の美しさに、うまくごまかされてしまう。

 などと思いながら今回も見ていたのだが、突然、レオーネが多用するクローズアップやスローテンポは歌舞伎の見得のようなものかもしれない。役者にとっては見せ場を作ってくれる“いい監督”だったのかもしれないと思い当たった。

 すると、今回は思いのほかすんなりと見ることができ、あろうことか、ラストシーンの鉄道工事を尻目に退場していくハモニカとシャイアンの姿に泣かされた。

 映画の再評価というのはあまり好きではないのだが、何やら自分の中で「セルジオ・レオーネ再評価」が起きてしまったようで気恥ずかしい。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウエスト』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/9b91b9c038a27e59ee557ae376233911

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今夜は『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2』

2020-06-19 07:00:38 | SCREEN スクリーン

 先週に引き続き、今夜、日テレで『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2』(89)が放映される。キャッチコピーは「こんな時こそ明るく楽しめる最高の映画を」だ。

 『SCREEN(スクリーン) 増刊』『バック・トゥ・ザ・フューチャー』メモリアル特集から

『外国映画男優名鑑』『20世紀の映画監督名鑑』から

今夜は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/9f04698d4981023805b54650c76caa32

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『クーデター』

2020-06-18 07:30:00 | 映画いろいろ

『クーデター』(15)(2015.7.9.松竹試写室)



 東南アジアの某国で突如クーデターが発生。政府側の同国人と外国人をターゲットにした大量殺りくが開始される。赴任先で事件に巻き込まれた米国人家族のサバイバルの様子を描く。

 欧米から見た不思議の国、不気味な地域、東南アジアという視点、図らずも紛争に巻き込まれて…という一方的な被害者意識などは、ベトナム戦争物にもよく見られた。

 この映画を見ると、その後、さまざまな変化や失敗を経験したにもかかわらず、欧米のアジアに対する視点や意識はあまり変わっていないのかと思わされる。諸悪の根源はアジアを蹂躙する欧米の企業とする設定も取って付けたような印象を受けた。

 また、アクション映画の基本の一つである“逃げる”という点では頑張ってはいるのだが、周囲の人々が容赦なく大量に殺される中で、一家族だけが生き残っても何のカタルシスも浮かばない。

 おまけにラスト近くの画面揺らしまくりのアクションシーンで映像(手ぶれ)酔いが起きる始末。脇役ピアース・ブロスナンの存在感と、彼の現地の相棒が語るケニー・ロジャースのネタで少し笑えたのが救いだった。

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『老人と海』

2020-06-18 07:09:38 | 映画いろいろ

『老人と海』(58)(1974.8.10.土曜洋画劇場)


 キューバの海辺で暮らす年老いた漁師と巨大なカジキマグロとの格闘を描いたアーネスト・ヘミングウェーの代表作を、ジョン・スタージェス監督が映画化。

 当然、海上での一人芝居になるであろうあの原作を、一体どうやって映画にしているのか興味があったのだが、スタージェスの骨太な演出、ナレーションも担当したスペンサー・トレイシーの名演、撮影監督ジェームズ・ウォン・ハウの見事なカメラワーク、アカデミー賞に輝いたディミトリ・ティオムキンの音楽が相まって、見事に“映画”になっていた。

 同じく海上での一人芝居ものとして、石原裕次郎主演・市川崑監督の『太平洋ひとりぼっち』(63)や、ロバート・レッドフォード主演の『オール・イズ・ロスト ~最後の手紙~』(13)がある。

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『キング・コング』関連本とスピルバーグ映画の作品論

2020-06-17 10:25:06 | ブックレビュー

 先日、久しぶりにオリジナルの『キング・コング』(33)を見たので、家にあった関連本をチラ読みしてみた。

 コング・マニアの筆者による私説アメリカ論『キング・コングは死んだ』(75.石上三登志)

 『キングコング』(77)の公開に合わせて発行された、映画宝庫の初号「われらキング・コングを愛す」(77)

 『不良少年の映画史』(79.筒井康隆)所収「キング・コング」には、昔の"和製コング映画”の話題も。

 『キング・コングのライヴァルたち』(80.マイケル・パリー編)所収の、映画の後日談を創作した「キング・コング墜落のあと」(フィリップ・ホセ・ファーマー)

 序文で特撮マンのレイ・ハリーハウゼンとの交流を綴った『恐竜物語』(84.レイ・ブラッドベリ

 おまけは、コングとは関係ないスピルバーグ映画の作品論『シネマの天才 スティーブン・スピルバーグ』(98.ダグラス・ブロード)

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「妖艶な美女が観てみたい」『ピクニック』『めまい』『媚薬』

2020-06-17 07:12:43 | 名画と野球のコラボ

名画投球術 No.11 いい女シリーズ1「妖艶な美女が観てみたい」キム・ノバク (2004.1.7.)



 おかげさまでこのコラムも連載10回を超えた。というわけで振り返ってみると、なんと女性を主題にした回が一度もない! 偶然とはいえ、とても“男くさい”コラムになっていたことへの反省も込めて?(編集者からの要望もあって…)今回から数回にわたって“いい女シリーズ”と題して女優をクローズアップしていきたいと思う。

 その第1回目は“妖艶な女”=キム・ノバク。もともとモデル出身だから美女には違いないのだが、その原石を宝石に仕立て上げたのは、ほかならぬ“ハリウッド・マジック”の力だ。歯の矯正、ダイエット、彼女専属のスタイリスト、ヘアメイク…、当時のコロムビア映画社がそれこそ総力を結集して創り上げたミューズ=女神。“ミステリアス”と呼ばれた彼女の美しさに酔う3本を紹介する。

月に向かって打て! 『ピクニック(1955・米)』



 アメリカ中西部の小さな町を舞台に、学生時代の友人を頼ってきた流れ者が巻き起こす波紋。9月の一夜、町を挙げてのピクニックで、町一番の美女をめぐって、恋の確執が展開される。町を出たがる彼女の心を射止めるのは果たして誰か?

 閉鎖的な田舎町の人間模様が秀逸な一作。デビュー間もないキムには、まだ初々しさが残っている。とはいえ、早くも、流れ者を演じたはるか年上のウィリアム・ホールデンを虜にするセクシーぶりを発揮し、後に確立される“妖艶な女”のイメージの片鱗を感じさせる。中でもピクニックの夜に名曲「ムーン・グロウ」の調べに乗って、二人が踊るダンスシーンでの彼女は圧巻だ。

トリック・プレー 『めまい(1958・米)』



 高所恐怖症のために刑事を辞めた男(ジェームス・スチュワート)が、友人から自殺願望のある妻の監視を頼まれる。尾行をするうちに、二人の間に恋が芽生えるが、女は教会から投身自殺。傷心の男はある日、彼女と瓜二つの女を見かけるが…。

 アルフレッド・ヒッチコック作品の中でも最もロマンチックで甘美な一作。この作品こそが、キムの魅力を最大限に引き出し、“妖艶な女”のイメージを決定付けたといっても過言ではない。ここで彼女はまさにミステリアスな一人二役を演じ、対照的な髪の色(ブロンドとブルネット)やメイクで観客を魅了する。「彼女がいなかったらこの映画は撮らなかった」とヒッチコックに言わしめたキムは当時まだ25歳! アンビリーバブル!!

マジック・ナンバー? 『媚薬(1958・米)』



 現代のニューヨークで美術店を経営する魔女が、店の上に住む出版社員にほれて、魔術で彼の心を虜にする。だが彼が魔術学者の本を担当することになったため、正体を見抜かれることを恐れた魔女は彼にすべてを告白するが…。

 ジェームス・スチュワートが、先の『めまい』に続いてキムの虜になる。(当時彼は50歳、あー役得)。別に魔術なんかかけなくたって彼女はそのままでも十分魅力的なはずなのだが、そこはロマンチック・コメディーの常套手段である“障害の大きさがかえって恋を熱くする”という設定。魔女という役柄も彼女にピッタリで、その魅惑的なまなざしで観客もいつの間にか彼女の“マジック”の虜になる。そこにシャム猫を思い浮かべたのは筆者だけか。

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『ハートブレイク・リッジ/勝利の戦場』

2020-06-16 18:23:15 | 映画いろいろ

『ハートブレイク・リッジ/勝利の戦場』(86)(1988.11.8.月曜ロードショー)

 クリント・イーストウッド、56歳の時の監督・主演作。歴戦の勇士で頑固者のベテラン軍曹ハイウェイ(イーストウッド)が、落ちこぼれの兵士たちを鍛え上げていく姿を、ユーモアを交えながら描く。

 公開時は、同じく兵士を鍛えるシーンが話題になったスタンリー・キューブリックの『フルメタル・ジャケット』(87)に比べると緊張感に欠けると思ったが、今となってはこの映画ののどかな雰囲気の方がよく見えたりする。何より、イーストウッドがまだ若くてかっこいいし、元妻役のマーシャ・メイスンもいいと感じた。

 

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『ジオディザスター』

2020-06-15 19:23:12 | 映画いろいろ

『ジオディザスター』(17)

 宇宙から飛来した暗黒物質“ダークマター”が地球を貫通。世界各地が大地震・火山噴火・大津波・巨大ツイスターが連鎖的に発生するジオディザスターに襲われる。そんな中、危機に直面したメイソン一家が、壊滅したロサンゼルスで必死に生き延びようとするサバイバルの様子を描く。

 全てがチャチなSFパニック映画。何でも、この手の映画を量産しているアサイラム社が製作した『ジオストーム』(15)のパチモン映画なんだとか。

 この映画の、自分たちだけが助ければいいという、メイソン一家のご都合主義を見ながら、大地震と津波による未曾有の災害の中、レスキュー隊員のドウェイン・ジョンソンが妻と娘を救うために公私混同、職権乱用を駆使するミーイズム映画『カリフォルニア・ダウン』(17)を思い出した。こういうアメリカ映画は始末が悪い。

【ほぼ週刊映画コラム】『ジオストーム』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/e9fb8a0b48c9cc249e51f97872ab5c89

『カリフォルニア・ダウン』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/7523742acc975c16a31935c981074416

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『ワイルドガン』

2020-06-15 08:12:40 | 映画いろいろ

『ワイルドガン』(15)

 キーファー&ドナルド・サザーランドが親子役で共演した劇場未公開の西部劇。監督はテレビシリーズ「24」でキーファーと組んだジョー・カサー。

 銃を捨てたガンマンの葛藤の中に、神の存在や南北戦争の傷といったテーマを描き込む。悪の親玉にブライアン・コックス、紳士的な敵役のガンマンにマイケル・ウィンコット、元恋人役のデミ・ムーア。なかなか真面目に作った平均的な西部劇という印象だが、画面、テーマともに暗いのが難点。

 散々痛めつけられた挙句、堪忍袋の緒が切れて…というのは、西部劇の王道であると同時に、日本の任侠映画のような感じもした。

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『病院坂の首縊りの家』

2020-06-15 07:16:54 | 映画いろいろ

『病院坂の首縊りの家』(79)(1990.2.6.)

 廃屋となった屋敷で、美しい娘の婚礼写真を撮影したという写真屋の依頼で、金田一耕助(石坂浩二)は現場に赴くが、そこで発見したのは男の生首だった。金田一は、事件の背後にある、病院の持ち主だった法眼家の複雑な人間関係と悲劇を知っていく。

 先日、『女王蜂』(78)を再見した際に、市川崑の金田一耕助に対する収拾の付け方が気になった。そして、シリーズ最終作となったこの映画のラストで、特別出演の原作者・横溝正史に「古いものは壊れ、その中から新しいものが生まれる」と言わせているのだから、これは明らかに市川の金田一シリーズへの決別宣言だろう。

 ところで、横溝原作に共通する、複雑怪奇な人間関係、猟奇的な連続殺人、その一つも阻止できない金田一、犯人の哀れ、といった整理不能とも思える題材を、2時間余りにそれなりにまとめ、そこにユーモアすら交えて見せてしまう市川の手腕は並大抵のものではないと思う。

 そして、このシリーズを撮りながら、実はさまざまな実験を試み、それを糧として、その後のジャンルを問わない映画作りに生かしていったところは、さすがにしたたかである。

 『つる -鶴-』(88)以来、新作がないが、ここ数年、いかに市川崑といえども、撮り過ぎた感はあったので、ここは一休みして、また新作を撮ってもらいたいと思う。

 ところで、このシリーズの魅力の一つに、ジャズ畑の作曲家たちの存在がある。『犬神家の一族』(76)の大野雄二、『悪魔の手毬唄』(77)の村井邦彦、そして『獄門島』(77)からこの映画までの田辺信一という布陣。

 一見、不釣り合いにも思える懐古的な映像とこれらの音楽が見事な相乗効果を生み出していた。このあたりにも市川崑のセンスの良さがうかがえるのだ。

市川崑は文芸映画の監督でもあった
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/1c70eff55ee456f1dbeebf39ec5e6913

『犬神家の一族』(06)
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/3033ad2cec53eb56caddd62e47b2c6fc

『悪魔の手毬唄』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/ec9fb83472c55e021cdef8deab2dde79

『獄門島』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/eb3c5f7a42c20f26773af1eda96edeb7

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