『ブラック・フォン』(2022.6.24.東宝東和試写室)
『ゲット・アウト』(17)『透明人間』(20)など、スリラーの話題作を送り出しているジェイソン・ブラムが製作し、『ドクター・ストレンジ』(16)のスコット・デリクソンが監督したサイコスリラー。原作はジョー・ヒルの『20世紀の幽霊たち』所収の短編「黒電話」。
1978年、米コロラド州デンバー北部のとある町で、子どもの連続失踪事件が起きていた。そんな中、気の弱い少年フィニー(メイソン・テムズ)は、学校の帰り道に、マジシャンだという男(イーサン・ホーク)に「手品を見せてあげる」と声を掛けられ、そのまま誘拐されてしまう。
気が付くとフィニーは地下室に閉じ込められていて、そこには鍵のかかった扉と鉄格子のある窓、そして断線した黒電話があった。ところが、断線しているはずの黒電話のベルが突然鳴り響く。一方、行方不明になった兄フィニーを捜す妹のグウェン(マデリーン・マックグロー)は、不思議な夢を見る。
陰湿ないじめ、暴力、誘拐…。70年代後半のアメリカの郊外の暗部を再現。『悪魔のいけにえ』(74)と『燃えよドラゴン』(73)が象徴的な映画として語られるシーンもある。
撮影監督のブレット・ユーキービッチは、70年代当時の映画のライティングを参考にし、アナモフィックレンズ(ワイドスクリーンを撮影・再生するための特殊なレンズ)を使用したのだという。
グラバーと呼ばれる謎の男に殺された少年たちの亡霊が、断線した黒電話を介してフィニーに脱出へのアドバイスを送るというアイデアが面白い。大人たちが全く役に立たず、兄妹と亡霊が頑張る、ホラーの中での成長物語という側面もある。フィニーがピッチャーをやっている冒頭の野球の描写が、腕力という点でラストで回収される。いずれにせよ、原作の短編をよくここまで映画にしたと思った。
フィニーがテレビで見た映画のことが気になったので調べてみたら、ウィリアム・キャッスルの『ティングラー 背すじに潜む恐怖』(日本未公開・59)だった。