甃のうへ
三好達治
あはれ花びらながれ
をみなごに花びらながれ
をみなごしめやかに語らひあゆみ
うららかの跫音空にながれ
をりふしに瞳をあげて
翳りなきみ寺の春をすぎゆくなり
み寺の甍みどりにうるほひ
庇々に
風鐸のすがたしづかなれば
ひとりなる
我が身の影をあゆまする甃のうへ
たくさんある、春を歌った詩の中で一番口ずさみたくなる詩です。
朗読の勉強にもピッタリの音の美しさ。
春になったら、絶対に皆さんに紹介したいと思っていました。
私たち日本人の持っている繊細な美意識。
しずかさ。うららかさ。ゆるやかさ。しっとりとした落ち着き。
自己を見つめる心。
美しい情景の中に日本の伝統と審美的情操が歌われています。
同じように、甘美な韻律美で愛唱されている達治の詩に雪があります。
雪
太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。
次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。
三好達治は、言葉の音楽性を追究した詩人です。